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深掘り

株主の権利弁護団から

楽天vs.TBS事件の最高裁決定で株主側の負担は増?

矢吹 保博(やぶき・やすひろ)

株式買取価格決定申立てにおける株主側の負担
 (楽天対TBS事件最高裁決定を受けて)

弁護士 矢吹 保博

第1 はじめに

拡大矢吹 保博(やぶき やすひろ)
 弁護士。木村・浦川・片山法律事務所所属。
 京都大学法学部卒業。2007年11月に司法試験を合格し、2009年9月に大阪弁護士会登録。現在、大阪弁護士会消費者保護委員会に所属。

 楽天株式会社が、保有していた株式会社東京放送ホールディングス(TBS)の株式買取価格の決定を東京地裁に申立てていた事件について、平成22年3月5日東京地裁決定、平成22年7月7日東京高裁決定を経て、平成23年4月19日、最高裁第三小法廷決定(以下「本決定」という)が出た。

 本稿は、この本決定を受けて、株式買取価格決定を申し立てる際における株主の負担(手続きの負担および疎明の負担)を検討するものである。

 なお、以下の検討においては、楽天対TBS事件が吸収分割をめぐって争われていたことから、便宜上、吸収分割に関する手続きを念頭に検討する。

第2 株式買取価格決定申立手続きについて

1 株式買取請求権制度

 会社が他の会社との吸収分割等の企業再編を行う場合、当該会社の基礎には大きな変更が生じ、株主の権利関係に大きな影響が生じることとなる。この場合、当該企業再編に賛成している株主であれば問題ないが、これに反対している株主からすれば、投下資本を回収する手段が必要となってくる。この反対株主に対して、会社法は、株式買取請求権制度という手続きを設けている。株式買取請求権とは、会社に対して、「公正な価格」をもって株式を買い取るように請求することができるという、少数株主権の一つである(会社法785条等)。

 ただ、会社法は、買取価格について「公正な価格」としか規定しておらず、しばしば、会社側と買取請求を行う株主側とで、いかなる価格が「公正な価格」なのか争いになる。そして、会社と株主との間で買取価格についての協議が調わなかった場合に、株主および会社は、裁判所に対して、買取価格の決定を申立てることができるようになっており、この申立てが、株式買取価格決定申立てである。

2 反対株主がなすべき手続(注1)

 (1) 反対の議決権行使

 吸収分割などの企業再編の承認決議を行う株主総会において議決権を行使できる株主は、承認決議を行う株主総会に先立ち、当該決議に反対する旨の意思表示を通知したうえで、かつ、承認決議を行う株主総会において当該決議に反対しなければならない(注2)

 (2) 買取請求

 そして、吸収分割の効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、株式買取請求に係る株式数を明らかにして、買取請求を行う。

 (3) 個別株主通知

 ところで、2009年(平成21)年1月より、株券が電子化された。これにより、株主は、株主が少数株主権を行使する場合には、個別株主通知という手続きをとることが必要となった(注3)。なお、株主は、個別株主通知がなされてから4週間以内に権利行使しなければならないので、通知を行う時期については注意が必要である。

3 買取価格に関する会社との協議

 株主が買取請求を行った場合、株主と会社は、承認決議を行った合併や株式交換などの効力発生日から30日以内に、買取価格に関する協議を行う。

4 裁判所に対する買取価格決定の申立て

 この協議がまとまらない場合には、協議期間満了の日後30日以内に、裁判所に対して価格決定の申立てを行うことができる(会社法786条2項等)。

第3 本決定のポイント(総論)

1 株式買取価格決定申立事件における裁判所の裁量

 株式買取価格決定申立てがなされた場合、裁判所は、客観的に定まっている過去の株価の確認をするわけではなく、新たに「公正な価格」を形成することになる。そして、「公正な価格」を決定するにあたって考慮されるべき要素は複雑多岐にわたることなどから、買取価格の決定については、裁判所の合理的な裁量に委ねられているとされている(最高裁第一小法廷昭和48年3月1日決定)。

2 楽天対TBS事件最高裁決定の判断

 本件決定は、上記昭和48年3月1日最高裁決定を引用したうえで、次の論点に対して最高裁の判断を示したところにポイントがある。

[1] 株式買取請求権制度の趣旨

[2] 「公正な価格」として求めるのは、いつの時点における株価か(いわゆる「基準日」をいつの時点とするか)

[3] 上場会社株式の「公正な価格」の算定方法

 

以下、これらの論点について検討する。

第4 本決定のポイント(各論)

1 株式買取請求権の趣旨

(1) 本決定の判断

 本決定は、反対株主に対して株式買取請求権が与えられている趣旨について、「吸収合併等という会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可能とする反面、それに反対する株主に会社からの退出の機会を与えるとともに、退出を選択した株主には、吸収合併等がされなかったとした場合と経済的に同等の状況を確保し、さらに、吸収合併等によりシナジーその他の企業価値の増加が生ずる場合には、上記株主に対してもこれを適切に分配し得るものとすることにより、上記株主の利益を一定の範囲で保障することにある。」と判示している。

 要するに、本決定は、株式買取請求権の趣旨について、

[1] 吸収合併等の企業再編がなされなかった場合の経済状況を、反対株主に保障する機能(以下「[1]機能」という)

[2] 吸収合併等の企業再編によって生じるシナジーを、反対株主に適正に配分する機能(以下「[2]機能」という)

 

という2つの機能を持たせた上で、反対株主に対して投下資本を回収する機会を与えるという点にあると判示したのである。

(2) 旧商法と会社法

 旧商法では、株式買取請求権について「…決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格…」と規定されていた(旧商法374条ノ3第1項等参照)。そのため、旧商法のもとでは、[1]機能を保障するのみであると解されていた。これに対し、現行会社法では、単に「公正な価格」(会社法785条第1項等参照)とのみ規定されている。

 この変更により、株式買取価格の決定にあたっては、[2]機能を持たせることも可能にするためであると一般的に解されている(注4、注5)

 本決定が出る以前での下級審裁判例では、2つの機能の観点から株価を算定・比較して買取価格を決定するもの(注6)や、企業価値や企業価値の毀損があるかどうかを検討し、毀損がある場合には[1]機能を保障し、毀損がない場合には[2]機能を保障するという手法を取るもの(注7)があった。

 本決定は、会社法改正を受けて、最高裁が株式買取請求権に上記[1][2]両方の機能があることを確認したところにポイントがある。

(3) [1]機能によって保障される経済価値

 ところで、吸収合併等の企業再編が行われた場合、(i)客観的な企業価値自体が毀損される場合と(ii)企業価値は毀損されないものの、株主価値が毀損される場合が考えられる。株主買取請求権制度が、企業再編に反対する株主に対して投下資本の回収機会を与えようとするものである以上、上記[1]機能は、この両方を保障するものと解される。なお、この点については、本決定では特段触れられていない。ただ、原審では、株式買取請求権制度の趣旨について「…組織再編等により当事会社の基礎に変更が生じ企業価値が毀損されたり、または分割条件等が当事会社の株主にとって不利であるために株主価値が毀損されたり…」(下線筆者)と判示しており、(i)と(ii)を区別したうえで、その両方を保護する趣旨と解しているものと思われる。

2 「公正な価格」として求めるのは、いつの時点における株価か(いつを「基準日」とするか)

 (1) 「基準日」とは

 「公正な価格」を算定するとしても、株式価値は日々変動するものである。そこで、株式が一体いつの時点で有していたであろう株式価値が「公正な価格」と評価できるのか、その時的基準が問題となる。この時的基準を、「基準日」という(なお、「基準時」という表現が用いられる場合もある。理論的に言えば、1日のうちでも、株式価値は時々刻々と変動するものであると言えるので、「基準時」と表現するのが正確であると思われる。ただ、本決定が「基準日」という表現を用いているため、本稿も「基準日」という表現による。)。

 (2) 本決定の判断

 本決定は、吸収分割等によりシナジーその他の企業価値の増加が生じない(注8)場合における基準日は、原則として、株式買取請求を行った日であると判示した。

 その理由として本決定は、

[1] 企業再編によりシナジーその他の企業価値の増加が生じない場合には、増加した企業価値の適切な分配を考慮する余地はない

[2] したがって、その場合における「公正な価格」は、企業再編を承認する株主総会決議がなければその株式が有したであろう価格(「ナカリセバ価格」)である

[3] そして、株式買取請求をすれば、消滅株式会社等の承諾を要することなく、法律上当然に反対株主と消滅株式会社等との間に売買契約が成立したのと同様の法律関係が生じ、消滅株式会社等には、その株式を「公正な価格」で買い取るべき義務が生ずる反面(最高裁昭和48年3月1日第一小法廷決定参照)、反対株主は、消滅株式会社等の承諾を得なければ、その株式買取請求を撤回することができないことになる(会社法785条6項)

[4] よって、売買契約が成立したのと同様の法律関係が生じる時点であり、かつ、株主が会社から退出する意思を明示した時点=株式買取請求権を行使した日をもって基準日とするのが合理的である

 

と判断している。

 さらに、本決定は、

[5] 株式買取請求権行使時よりも後の日を基準日とすると、株主は原則として買取請求権を撤回できないにもかからず、その間の市場株価変動リスク株主が負担しなければならなくなること

[6] 企業再編に対する株主総会承認決議時を基準日とすると、当該決議日以降に生じる株価変動リスクを株主が負担しないこととなること

 

という点も摘示している。

 このように、株式買取請求権における基準日が株式買取請求権を行使した日であると判示した点に、本決定の2つめのポイントがある。

 (3) これまでの下級審裁判例、学説

 いつをもって基準日とするかについては、従前からいろいろな考え方があった。例えば、(i)吸収合併等の企業再編計画を発表した時、(ii)企業再編の承認決議時(注9)、(iii)株式買取請求権の行使時(注10)、(iv)買取請求期間の満了時(注11)、(v)企業再編の効力発生時(注12)、などである。

 このうち、本決定は、(iii)を採ったものである。

3 上場株式会社の「公正な価格」の算出方法

 (1) 会社の株価とは

 そもそも株式とは、均一的な細分化された当該株式会社の持分権である。したがって、最も理論的に考えれば、株価は、まず当該株式会社の客観的な企業価値を算出し、これを発行済み株式総数で除することによって算出されることとなる。

 (2) 上場企業の場合

 ただ、当該株式会社が上場企業の場合、市場が当該株式会社の企業価値を評価し、その評価にもとづいて株価が形成されているといえる。そのため、上場会社株式の「公正な価格」を算出するにあたっては、市場株価を参考にすることが合理的である。

 (3) 本決定の判断

 本決定は、株式が上場されている場合、「ナカリセバ価格」を算定するに当たっては、市場株価が企業の客観的価値を反映していないことをうかがわせる事情が特段の事情がない限り、基礎資料として市場株価を用いることが合理的である旨判示した。

 (4) いつの時点ないし時期における現実の株価を資料とするか

 もっとも、現実の市場株価を資料とするとしても、どの時点ないし時期における現実の株価を参考とするべきか(注13)、が問題となる。

 この点、本決定は、「公正な価格」を算定するに当たり、特定の時点ないし時期における市場株価を参照することや、市場の一般的な価格変動要因による株価変動ついて補正を加えるなどの算定方法を採用することも排除しておらず、実際にどのような手法を採用するかについては、裁判所の合理的な裁量による、とも判示している(注14)

 ただ、本決定では、結論的に、一定期間の市場株価を参照すること無く、株式買取請求権行使時の市場株価をもって、「公正な価格」であると認定した。これは、本件吸収合併が企業価値ないし株主価値の増加も毀損も生じさせないということを前提に、株式買取請求権行使時における市場株価には本件吸収合併の影響が無い、すなわち、当時の市場価格=「ナカリセバ価格」である、と判断されたためである。

第5 「基準日」についての検討

1 本決定について

 上記のとおり、本決定は、株式買取請求権行使時を基準日であると判示した。

 思うに、企業再編に反対議決権を行使した株主であっても、強制的に株式を買い上げられてしまうわけではなく、株式買取請求権を行使するかどうかは、あくまで株主の意思に委ねられている。とすると、株式買取請求権を行使した時点において、当該株主の会社退出の意思が客観的に明確になったものであるといえる。上記のとおり、株式買取請求権制度は、企業再編等に反対する株主に対して投下資本を回収させるものであるから、投下資本を回収する意思を明確にした時点、すなわち、株式買取請求権を行使した時点において、当該株式が本来有していたであろう価値を保障することが、制度の趣旨に合致し、また、株主の意思にも適うといえるのではなかろうか。特に、企業再編によって企業価値の毀損が生じないとされた本件の場合、株主に不当な投機の機会を与えないようにしつつ、会社からの退出を認めれば足りる。したがって、本決定の言うとおり、売買契約類似の関係が生じた時点すなわち株式買取請求権行使時をもって、基準日とすることは妥当であったといえる。

2 いわゆる二段階買収型の場合について

 ただ、企業再編の前段階としてTOBなどが行われるようないわゆる二段階買収型の場合、通常、市場における株価も当該TOBの買付価格近辺に張り付くこととなる場合が多い。とすると、買付価格が市場株価よりも低めに設定された場合には、市場株価もそれに影響されて低くなる。このような場合は、まさに当該企業再編の影響により株価が低下しているのであるから、その影響を排した「ナカリセバ価格」を算定する必要がある。確かに、TOBが行われる場合、一般的に、第三者算定機関に企業価値および株式価値の算定を依頼し、当該第三者算定機関が数種の算定手法を用いて企業価値および株式価値の算定を行い、また、法律事務所等からリーガル・オピニオンを受領するなどの手続きを経た上で、買付価格を決定している。したがって、このような手続きを経て設定された買付価格は、概ね、当該企業の客観的価値を反映しているものとも考えられる。ただ、第三者算定機関における株式価値の評価は、ある程度の幅をもって示されることが多い。そのような幅のある評価のうち、特定の価格を選択し、買付価格に設定するのは、会社側である。とするならば、会社側に、幅のある評価のうち、なぜその特定の価格を買付価格として選択したのか、説明義務があると言うべきであろう。市場価格を下回る価格を買付価格とした場合などはなおさらである。さらに、反対株主が当該企業再編自体に反対していたとすると、当該企業再編計画発表時に直ちに投下資本の回収を図りたいと考える場合もあるであろうが、一旦買付価格近辺に張り付いた市場株価で売却しても、実質的には投下資本回収を図れないことにもなりかねない。

 確かに、このような場合、本決定でも言及するように、基準日を株式買取請求権行使時と解したうえで、当該企業再編の影響を受ける以前の市場株価等を参照することにより、「ナカリセバ価格」を算出することは可能かもしれない。

 しかしながら、市場価格は基本的に当該企業の客観的価値を反映しているとする本決定の理解からすると、株主側は、単に「買付価格に引きずられる形で市場価格が下落した」ということを疎明するだけでは足りず、会社側が設定した買付価格の不当性等をも疎明する必要があることになろう。しかし、会社側は、TOBに関する情報公開の時期や内容をコントロールできる上に、一定程度の裁量をもって買付価格を設定し、TOBを実行に移すことができることからすると、この疎明の負担はやや公正性に欠けるのではなかろうか。このような場合においても、基準日を株式買取請求権行使時とすることには、株主に対して過重な負担を課すことにならないか(注15、注16)

 本決定多数意見は、「会社法782条1項所定の吸収合併等によりシナジーその他の企業価値の増加が生じない場合に、同項所定消滅株式会社等の反対株主がした株式買取請求に係る『公正な価格』は、原則として、当該株式買取請求がされた日におけるナカリセバ価格をいうものと解するのが相当である。」としている。ただ、上記のとおり多数意見は、基準日を買取請求権行使時よりも後の日にする見解と前の日にする見解の不都合性をも併せて述べている(注17)。さらに、田原補足意見も、基準日に関して、上記(ii)企業再編の承認決議時説、(iv)買取請求期間の満了時説、(v)企業再編の効力発生時説の不都合性を摘示したうえで、株式買取請求権行使時説の優位性を説いている。このため、今後本件とは異なり、企業再編により企業価値ないし株主価値の毀損が生じているような案件の場合においても、基準日が株式買取請求権行使時とされる可能性が高くなることが懸念される。

 この点、那須弘平判事による意見が指摘するように、事実審が合理的な裁量をもって各事案に応じて最も適切な時点を基準日とすることが望まれる。

第6 疎明の負担

 最後に、本決定多数意見を前提にして、株主側の疎明の負担を検討してみる。

1 シナジー等について

 上記のとおり、本決定も、株式買取請求権制度の趣旨には、企業再編によって生じたシナジー等の適正な分配([2]機能)も含まれると判断している。

 したがって、買取価格の決定を求める株主としては、企業再編によって生じるシナジー等を疎明する必要がある。

 ただ、一般的に、企業再編を行うにあたっても、第三者算定機関に企業価値および株式価値の算定を依頼するなどの手続きを経た上で、吸収分割の対価の決定や合併比率の決定などを行っている。

 とすると、上場会社の市場株価には当該会社の客観的価値が市場の評価を通して反映されているという本決定の論理からすると、上記のような手続きを経たうえで企業再編が発表されれば、発表以後の市場株価は、原則として企業再編によって生じるシナジー等をも反映しているものと理解されよう。

 そのため、株主としては、単に、企業再編によって何らかのシナジー等が生じていると疎明するだけでは足りず、市場株価がそのシナジー等を適正に配分しているとはいえない特段の事情を疎明する必要がある。

 なお、本件吸収合併は、完全親会社が完全子会社を吸収するというものであり、何らのシナジー等も生じないと認定されているが、完全親会社が完全子会社を吸収する場合全てにおいて、何らのシナジー等が生じないとはいえないことは当然である。この点については、原々審(注18)の「…他の組織再編行為や組織上の行為と連動して行われ、それによって、当事会社の株式の実質的な価値が変動する可能性がある場合には、それらの連動して行われる行為による影響も考慮に入れて、反対株主による株式買取請求に係る『公正な価格』を算定するのが相当である」という判示が参考になるだろう。

2 市場株価と「公正な価格」との関係について

 本決定は、上場会社の市場株価には、一般的に当該企業の客観的価値が投資家の評価を通して反映されているとして、「公正な価格」算定にあたって市場株価を用いることは合理的であるとしている。

 ただ、上記のとおり、企業再編に先立ってTOBなどが行われると、市場株価は買付価格近辺に張り付くことが多いことからすると、本決定のいうように当該企業の客観的価値が反映されているといえるか、疑問なしとしない。また、MBO案件の場合や、親会社が子会社を完全子会社化する案件などでは、収益予測などの情報の開示内容や開示時期をコントロールし(注19)、市場価格が割安になっている場合を狙って企業再編を行うような事態もあり得るところである。

 とはいえ、多くの上場企業の場合、企業再編を行うのと同様、第三者算定機関による企業価値ないし株式価値の算定などの手続きを経た上で、買付価格を設定しているのが現状である。このような場合、市場株価から大きく外れた価格をTOB買付価格に設定することはそれほど多くないと思われる。とすると、企業再編に先立つTOBによって市場株価が影響を受けていたとしても、直ちにその市場株価が当該企業の客観的価値を反映したものではないという評価に直結するわけではない。むしろ、第三者算定機関によって算出された企業価値ないし株式価値を会社が発表することによって、投機的な要因から異常に高騰していた株価が、客観的に適正な株価に落ち着くということも考えられる。

 したがって、企業再編に先立ってTOBが行われ、市場株価がTOB買付価格近辺に留まっていることを主張するだけでは足りず、当該TOB買付価格の算出方法や市場株価からの乖離の程度およびTOBに至る経緯などから、TOB買付価格が市場株価に影響を与えており、その影響が不当であることを疎明しなければならない。

 また、当該企業による業績予想発表なども、当該企業の市場株価に影響を与える要因であるから、業績予想発表の内容や時期などから不自然な点があり、それが市場株価に影響を与えていることなども株主が疎明すべき事項となるであろう。

 以上、本決定を前提にすると、株主側の負担が大きくなることが予想されるところである。

注1:  株式買取請求権を行使するにあたっての細かな論点等については、「反対株主による株式買取請求権〔上〕(十市崇、館大輔)」(商事法務

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矢吹 保博(やぶき・やすひろ)

 弁護士。木村・浦川・片山法律事務所所属。京都大学法学部卒業。2007年11月に司法試験を合格し、2009年9月に大阪弁護士会登録。現在、大阪弁護士会消費者保護委員会に所属。

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