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深掘り

株主の権利弁護団から

株主代表訴訟、文書提出命令で役員不正の証拠を会社に出させる

株主代表訴訟における文書提出命令の申立について

弁護士 金 啓彦

 1 はじめに

拡大金 啓彦(きん・よしひこ)
 弁護士。弁護士法人マーキュリー・ジェネラル所属。大阪大学法学部卒。平成20年4月、司法研修所入所(62期)。平成21年9月、弁護士登録(大阪弁護士会)。平成22年12月より株主の権利弁護団にて活動中。

 会社の役員等が違法な行為を行った場合に、役員間の馴れ合いにより、会社から役員等への責任追及が適切になされないおそれがあるため、会社法は個々の株主が一定の要件の下、会社に代わって役員等の責任を追及する訴訟(代表訴訟)を提起することを認めている(会社法847条3項)。

 代表訴訟は、通常、一般株主が会社に代わって訴えを提起することになるため、原告である株主が、役員等の違法行為を裏づける証拠となる社内文書を所持していることは考えにくい。また、代表訴訟の提起にあたり、一般株主が会社に対して社内文書の開示を求めたとしても、会社側が任意に開示することは期待できないことが多い。

 そこで、株主は、会社の有する文書を収集するべく文書提出命令の申立を利用することになる。このように、代表訴訟を提起する株主にとって、文書提出命令の申立は重要な証拠収集手段である。

 本稿では、代表訴訟において文書提出命令の申立がなされる場合における問題点について述べることとする。

 2 文書提出義務の対象となる文書

 現行法は、文書提出義務を一般義務としており(民訴法220条4号)、文書提出義務が免除されるのは、民訴法220条4号イないしホに規定する場合に限定されている。したがって、企業の所持する文書は、原則として文書提出義務の対象となる。すなわち、文書提出命令によって、原則として会社は対象文書を提出しなければならない(注1)

 3 文書提出命令申立における株主と会社の争い

 会社の所持する文書に原則として文書提出義務があるとしても、代表訴訟の被告である役員等は、当該文書が提出されることで自己に不利な事実が明らかになるおそれがあるから、役員等が会社の文書提出義務を否定しようとするのは当然である。

 一方で、文書提出命令の名宛人となる会社にとっては、文書を提出することによって社内文書が外部に流出することになるから、通常、文書の開示に積極的に応じることには抵抗があると思われる。役員等との関係を考えれば、会社として、役員等に不利な事実の証拠を開示することに心理的に抵抗を感じる場合もあろう。

 このように、文書提出命令申立をする株主は、被告である役員等だけでなく、文書の所持者である会社とも対立関係にあるため(注2)、文書提出命令義務の有無をめぐり、会社との関係で争いが生じることも少なくない。

 そして、会社の所持する文書の文書提出義務の存否をめぐって問題となるのは、主に民訴法220条4号ハの「技術・職業上の秘密に関する事項が記載された文書」(職業秘密文書)及び同号ニの「自己利用文書」に関してである。

 4 手続上の問題点~文書の存在(注3)

 文書提出命令の審理において、株主側と会社の関係で争いが生じる場合として、文書の所持者である会社から、「対象文書が存在しない」との回答がなされた場合がある。これは、民訴法220条に定める文書提出義務の範囲に関わるものでないため、手続上の問題である。

 もっとも、「対象文書が存在しない」という回答がなされるのは、実際にその文書が存在しないことのほか、会社側の調査不足や故意の隠匿が原因である可能性も否定できない。

 また、当該文書が存在しないと判断された場合には、文書提出命令は発令されず、原告である株主の立証活動が相当制限されることとなる。

 そして、文書の存在についての立証責任は、申立人である株主側が負担するから、「対象文書が存在しない」との回答がなされた場合、申立人である株主としては、文書が存在することについて主張・立証を行う必要がある。ただし、会社側が過去に文書を所持していたことを認めながら、紛失や滅失を主張する場合には、文書の性質、その管理状況等から経験則上文書の存在が事実上推認されることもあろう(注4)

 5 文書提出義務の例外I~職業秘密文書

 民訴法220条4号ハ、同197条1項3号は、「技術・職業上の秘密に関する事項が記載された文書」(職業秘密文書)について、文書提出義務の対象から除外しているため、対象文書を所持する会社としては、「当該文書は職業秘密文書に該当する」として、対象文書の提出を拒むことが考えられる。

 ただ、「職業秘密文書」に該当するためには、単に会社内で当該文書が「社外秘」とされていれば足りるというものではない。

 最高裁は、「職業秘密文書」として提出を拒絶できるのは、「対象文書に記載された職業の秘密が保護に値する秘密に該当する場合に限られ」るとし、「当該情報が保護に値する秘密かどうかは、その情報の内容、性質、その情報が開示されることにより所持者に与える不利益の内容、程度等と、当該民事事件の内容、性質、当該民事事件の証拠として当該文書を必要とする程度等の諸事情を比較衡量して決すべきものである」と判示している(注5)

 すなわち、最高裁は、「職業秘密文書」であるとして会社が提出を拒んだ文書に記載された情報が保護に値する秘密に該当することを前提として、保護に値する秘密に該当するとしても、それだけでは提出義務を免れることはなく、個別具体的な事案において、開示することによる不利益と当該情報の証拠としての価値とを比較衡量することを要求しているのである(注6)

 したがって、実際に会社側から「当該文書は職業秘密文書に該当する」と主張された場合には、申立人である株主は、当該情報が保護に値する秘密でない、あるいは、開示することにより生じる不利益よりも当該情報の証拠として価値が優越するとの評価を根拠づける事実を主張・立証することになる。

 6 文書提出義務の例外II~自己利用文書

 また、民訴法220条4号ニは、いわゆる「自己利用文書」について文書提出義務の対象から除外しており、対象文書が「自己利用文書」に該当するのであれば、会社は文書の提出を拒むことができる。

 ただ、「自己利用文書」の該当性につき、最高裁は、「ある文書が、その作成目的、記載内容、これらを現在の所持者が所持するに至るまでの経緯、その他の事情から判断して、専ら内部のものの利用に供する目的で作成され、外部の者に開示されることが予定されていない文書であって、開示されると個人のプライバシーが侵害されたり個人ないし団体の自由な意思形成が阻害されたりするなど、開示によって所持者の側に看過し難い不利益が生ずるおそれがあると認められる場合には、特段の事情がない限り」自己利用文書に該当すると判示した(注7)。すなわち、最高裁の判示したところによれば、自己利用文書に該当するための要件は、[1] 「専ら内部のものの利用に供する目的で作成され、外部の者に開示されることが予定されていない文書」であること(内部文書性)、[2] 「開示によって所持者の側に看過しがたい不利益が生ずるおそれがあると認められる」こと(不利益性)、[3] 特段の事情の不存在ということになり、これらの要件を充足しない限り、会社は当該文書の提出を拒むことができないことになる。

[1] 内部文書性について(注8、注9)

 「内部文書性」に関しては、最高裁判例によって、以下の準則が導かれるとされている。

 まず、内部文書性の判断の基準となるのは、物理的な文書自体ではなく、その文書の中身となる情報である。すなわち、文書自体が外部への開示を予定していなくても、記載されている情報が外部への開示を予定されているのであれば、内部文書には該当しないということである。

 また、対象文書につき、法令上の作成義務がある場合またはそれに準じる場合は、内部文書性は否定される。もっとも、法令上の作成義務が無いことだけで、内部文書性が肯定されるわけではない。

 さらに内部利用を目的としている文書については、それが外部調査等の資料になることがあったとしても、それが直接の作成目的になっていなければ内部文書性が肯定されるが、外部での利用が作成目的に含まれていれば、主観的に内部利用を目的としていても、内部文書性は否定される。

 その他にも、文書作成目的の公益性は内部文書性を否定するファクターとされ、さらに、開示の対象者が守秘義務を負う場合であっても、内部文書性は肯定されないものとされている。

 そして、以上の準則に従い、内部文書性が否定される場合には、会社は当該文書の提出を拒むことはできない。

[2] 不利益性

 判例上、不利益の具体的内容として挙げられているのは、法人内部の自由な意見表明の阻害、それによる自由な意思形成の阻害、個人のプライバシーの侵害、営業秘密の侵害である(注10)

 もっとも、「文書の性質」を重視して、具体的な対象文書の記載内容に言及しないことから、文書の種類に応じた類型的な判断が基本とされている。ただし、文書の内容に応じた取り扱いも否定するものではなく、イン・カメラ手続による個別的な判断も否定されるものではない(注11)

[3] 特段の事情の不存在について

 「特段の事情の不存在」は、文書の類型的性質から[1] 内部文書性と[2] 不利益性の要件が認められる場合であっても、なお例外的に文書提出義務を肯定する必要が認められる場合に問題となるものである。

 もっとも、[1] 内部文書性と[2] 不利益性の要件の判断において、イン・カメラ手続を利用し、文書の内容に応じた取り扱いをすることによっても、この要件と同様の役割を果たしうると思われる。

 また、[3] 「特段の事情の不存在」の要件について参考となるものとして、大阪高決平成21年3月26日(日立造船橋梁談合事件(注12)に伴う文書提出命令申立却下決定に対する抗告事件)がある。同決定では、「談合下で作成された本件各文書は、他の談合企業との調整の中で違法に作成されたと評価すべき特殊なものであり、これが開示されることになるとしても、相手方において自由な意思形成が阻害されるおそれがあるものとは考えられない」として、自己利用文書に当たるとはいえない「特段の事情がある」と判示した。すなわち、同決定は、文書作成過程における違法性に着目し、例外的に[2] 不利益性の要件を否定したものである(注13)

 談合等の違法行為に関与した役員等の責任を問う代表訴訟においては、当該違法行為の過程で作成された文書の提出をめぐって、当事者間で激しい争いが生じることからすると、上記決定は、同様の代表訴訟における証拠の収集活動に大きな影響を与えるものといえる。

 7 任意の開示

 株主にとっては、文書提出命令の申立をしたとしても、会社の判断で任意に開示するのであれば、あえて文書提出命令の発令を受ける必要はない。

 そこで、実務においては、文書提出命令の申立がされた場合であっても、会社から任意に対象文書の開示がなされる場合も多い(注14)

 もっとも、任意の開示にあたっては、当事者が協議の上、文書の一部のマスキングをして開示することとしたり、開示する人的範囲を限定する旨の誓約書を提出することを条件として開示することとしたりする場合もある。

 そして、上記のように文書提出義務が否定される可能性もあることを考えれば、株主としては、あえて文書提出命令にこだわることなく、柔軟な取り扱いをすることで、会社に任意の開示を促すということが賢明な場合もある。

 8 最後に

 代表訴訟を提起する株主の立場からすれば、文書提出命令をさらに利用しやすい制度として運用していくことが望ましい。具体的には、イン・カメラ手続の利用による個別的判断の機会を増やしたり、訴訟類型により差異を設けたりすることが考えられるだろう。

 ▽注1: 代表訴訟において、会社が文書提出命令に従わない場合

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