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深掘り

東京電力株主総会一問一答詳録

東電株主総会の議場をひそかに制したのは日本生命と第一生命

勝俣会長「はっきりとした見える希望はない」

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

  福島第一原子力発電所の事故が収束することなく続くなか、東京電力の株主総会が6月28日に開かれた。6時間9分にわたって続いたその模様の詳細を6回に分けて報告する。その第5回。総会には延べ9309人の株主が出席したが、そのうち2人の大株主の議決権が残り9307人のそれを大きく上回っており、その2人の代理人の手の上げ下げによって、動議の可決・否決を決めているという事情が議長の勝俣恒久会長の口から明らかにされた。東電はその2人の名を明かさなかったが、取材の結果、第一生命と日本生命だったことが分かった。

 

 ■昼休み休憩の動議も否決

 総会が始まってから3時間半が経過し、男性株主から3つの動議が出された。勝俣会長が「まず一つは議長不信任の動議でございます」と、これを取り上げる。

 勝俣会長:私としましては、公正な議事進行を心がけておりますので、このまま議長を続けさせて頂きたいと考えております。で、ただいまの動議についてお諮りいたします。議長不信任、この動議に賛成の方は挙手願います。

 

 4秒の間を置いて、勝俣会長は「はい」と、納得したように言う。そして、「反対の方は挙手願います」と呼びかける。3秒後、勝俣会長は「反対多数と認めます」と宣言する。「よってただいまの動議は否決されました」

 勝俣会長:もう一点の動議、休憩時間を設けよ、と動議が提出されました。私といたしましては、このまま議事を続行させていただきたいと考えております。この点につきまして……

 

 勝俣会長はここで「ちょっと待って下さい」と言った後、脇に控えるスタッフに「諮る?」と相談する。モニター画面の音声が途切れる。勝俣会長の話し声が聞こえない。10秒後、会場の音声が復活し、勝俣会長の「えー」という声が聞こえる。そのさらに4秒後、勝俣会長が会場に呼びかける。

 勝俣会長:休憩時間を設けよという動議につきましては、このまま議事を続行させていただきますので、えー、お諮り申し上げます。私といたしましては、このまま議事を続行させていただきたいと考えておりますが、念のためお諮(はか)りいたします。休憩時間を設けよという動議に賛成の方は挙手願います。

 

 4秒の間を空けて、勝俣会長は「反対の方は挙手願います」と言う。ここではわずか2秒の間で、勝俣会長は「反対多数と認めます」と述べる。「よってただいまの動議は否決されました」

 勝俣会長:もう一点、すべての質問に回答するまで議案を上程しないことを動議として提出するという動議が出されました。ただいま、すべての質問に回答するまで議案を上程しないという動議でございますが、会場の株主の皆さまが報告事項の内容をご理解いただけるに足りるご説明ならびに質疑応答は尽くされたものと思われますので……

 

 拍手と叫び声が交錯する。勝俣会長が「はいはい、わかりました、席に戻ってください」とマイクに向かう。それまでとつとつと穏やかにしゃべっていた勝俣会長がここでは慌てたように早口で呼びかける。

 勝俣会長:はいはいはい、席に戻って、はい、はい、で、どうぞ、席に戻って審議に移りますので。はいはい、えー、それではあとお一人だけご質問をお受けいたしたいと思います。それではどうぞ。ご質問どうぞ。

 

 「発言を認めろ」という怒鳴り声が聞こえる。

 男性株主:私一人で最後ということではない。私はもちろん質問させてもらうけども、あくまでも、この総会では(株主には)報告に関わることは何でも質問する権利があるんですよ、株主は。その確認を皆さんとともにしたうえで私は質問したいと思います。

 まず最初に、福島の事故ではメルトダウンからメルトスルーまでいったんです。私が心配するのは、現状において、水素爆発はだいぶ遠のいたと思っています。どういう条件で水素爆発が起こらないのかどうなのか。はっきりと明言する必要がある。

 第2点は、今回、東電が放出した死の灰、核分裂生成物、この量はベクレルでいって、広島型原爆何発分に相当するものを今まで出したのか、皆さん方はデータを持っているはずですよ。福島県でばらまかれた「死の灰」ですよ。死の灰が何発分に相当するものを出したのか。政府も東電もまだ明確にしてないんですよ。これは日本に住む人々、世界の人々に明確に言うべきです。

 私には5歳になる孫がいます。あるいは妊娠中の次女がいます。この孫や彼女たちがどういう空間線量の下で生存が可能なのか。現に放射線管理区域は何マイクロシーベルト/アワーでマークをつけるんですか? 0.6マイクロシーベルト/アワーでしょうが。違いますか? ところが福島で適用されているのは3.8マイクロシーベルト/アワーなんですよ。福島や東京のいろんなところで、放射線管理区域を指定して、そこから人々が立ち入らないようにしなければならないレベルなんですよ。あれは1F(福島第一原発)や2F(福島第二原発)で当然、放射線管理区域のマークがついてるでしょう。あれは何マイクロシーベルト/アワーからつけなきゃいけないんですか。私の知っている限り、0.6マイクロシーベルト/アワーを超えたら、放射線管理区域として、みだりに人が立ち入ってはならないはずです。ならば福島、東京でも、放射線管理区域に指定しなければならない場所が多々あるはずですよ。これについて東京電力は福島や柏崎でそういうマークをつけているところ、いっぱいあるでしょう。それは何マイクロシーベルト/アワーでつけているのか、それを明確にしてください。福島の原発のせいでありとあらゆるところが放射線管理区域になってるんですよ。株主としてはどうしてもそれを知らなければいけないんですよ。

 

 ここで勝俣会長が「できる限り短くしてください」と割り込む。

 男性株主:次に報告書の43ページに関して質問したいと思います。その中の「追加情報」です。追加情報の[2]によれば、1号機ないし4号機の廃止に関する費用についてはおよそ45億円の金額が見込まれています。しかし、[3] 第一発電所の5号機、6号機、第二発電所の冷温停止を維持するために必要な資金として2018億円が見込まれています。福島1号機の問題に関してはわずか45億円で、ところが5号機、6号機、および第二発電所に関して2118億円が計上されています。これは少なくとも値が違うでしょう。どう見ても、5号機、6号機、および第二発電所にかかる費用に比べて、1号機から4号機の費用見積もりがあまりに少なすぎるじゃないですか。これは一体どういう考え方に基づいているのか。さらに。

 

 勝俣会長が「あのう、すみません」と割り込んで、「できる限り短く」と言うが、男性はかまわず質問を続ける。

 男性株主:「ゴーイングコンサーン」の前提に関する重要な計算書類に反映しない。これはきょうの総会でも大きな問題になっています。一方で、今期は明らかに損失を計上しております。元来ならば利益が出たときには利益処分案をつくりますよね。ならば、損失が出たときには、損失金処理案をこの株主総会に提示すべきでしょう。どういうお金でこの損失を埋めるのか。今回の株主総会ではこれがまったく提起されていない。そういう意味では議案書そのものに欠陥がある。このことを取締役会は何と考えているのか。さらに……


 勝俣会長:時間がかなり過ぎているので、えー、質問は……


 男性株主:さらに、この報告書では、先ほど言った、先ほどこういう答弁があった。「何とか努力したい」という答弁があった。この中で、現在の東京電力の改善策というのは、実は、ありとあらゆる原子力発電を廃止するしかないはずです。それが唯一の改善策であることは取締役諸君もよく知っているはずです。

 

 演説調から絶叫調へと、声のトーンがだんだんと上がっていく。

 男性株主:現に、これは天災ではなく人災であった。なぜならば、いろいろな裁判や、あるいは2006年の衆院の委員会の中でも吉井英勝議員が外部電源の問題も、あるいは……


 勝俣会長:すみません、かなり長く時間をかけて過ぎておりますので……


 男性株主:すべての、すべての、電源が喪失されることを、それを、それを……


 勝俣会長:質問はここまでとさせていただきたいんですが……

 

 男性は無視して、発言を続ける。しかも、さらにゆっくりと、文節ごとに、念を押すように言葉を繰り返す。

 男性株主:国会で指摘されていたはずです。そういう重要な指摘が国会でもあったにもかかわらず、東京電力はそのことを無視した。そういう意味で言えば、これは明らかに人災ではないか。そこで、そこで、東京電力はそういう指摘を知らなかったのか知っていたのか。知っていたとすれば、今回の事故は明らかに人災といわざるを得ない。


 勝俣会長:はい。


 男性株主:そのことが……


 勝俣会長:株主様……


 男性株主:福島の人々や……


 勝俣会長:あのう……


 男性株主:日本に住む人々に、あるいは世界に住む人々に、この生存について、危機に落ち込んだ、とりわけ……


 勝俣会長:おひとりの質問時間を大幅に超過しておりますので、お席にお戻りください。お答えいたしますので、お席にお戻りください。もう、あのう、おひとりの時間としては非常に超過しておりますので。では。じゃ、最後、簡単にお願いします。簡単にお願いします。


 男性株主:じゃ、もう、残念ながら最後だということなんですが、電気事業便覧をつぶさに読ませていただきました。1951年5月1日にこんにちの9電力体制ができましたよね。違いますか?


 勝俣会長:はい、その通り。


 男性株主:きょうはそういうわけで還暦の周年ですよね。9電力体制ができて。


 勝俣会長:はい。


 男性株主:9電力体制ができて。


 勝俣会長:はい、それでご質問は何でしょうか? 簡単に。


 男性株主:そこで実は、電気事業便覧を見る限り、水力、火力、原子力以外の電源開発について、東京電力は風力発電の500キロワットしかないでしょう。つまり、今まで電力についていろいろなことが言われてきた。にもかかわらず、東京電力は新エネルギーについて500キロワットしか開発してこなかったのはどういうわけですか?


 勝俣会長:はい、はい。ありがとうございました。ご質問ありがとうございました。

 

 男性はさらに発言を続ける勢いだったが、勝俣会長がそれを引き取って、「えー、それではまず水素爆発の可能性について武藤副社長からお答えいたします」と言う。

 武藤副社長:水素爆発の可能性についてのご質問でございます。水素爆発は、水素濃度がある値を超え、酸素とともに存在する場合に起きる可能性がございますが、さまざまなプラントの状況を見ますと、現時点ではその可能性は小さいと思っております。ただ、水素爆発を防ぐために格納容器の中に窒素を封入することを行い、あるいは、これから行おうとしているところでございます。

 放射能の放出量でございますけれども、国の安全委員会あるいは保安院による評価がなされておりますけれども、ヨウ素で10の17乗ベクレル、セシウムで10の16乗ベクレル程度というふうに評価されております。原爆については様々な数字があると認識しておりますが、私どもとしましては、確かな数字は把握しておりません。

 被曝についてのご質問ですが、放射線管理区域の設定ですが、法令に基づきまして3カ月で1.3ミリシーベルトを超える場合は管理区域に設定するということになっております。

 

 3カ月で1.3ミリシーベルトということは、平均して、1時間あたりでは0.6マイクロシーベルトということになる。

 決算については武井副社長、代替エネルギーについては藤本副社長が答える。

 武井副社長:災害特別損失の主な内訳としまして、第一の1から4の廃止の費用として2040億、見積もりとして少ないのではないかというご指摘ですが、廃止措置引当金というのがございますが、こちらのほうにすでに1400億円の引き当てを終えております。今回はその不足分の485億円を引き当てたということで、トータルで8100億円くらいというふうに現時点では見積もりいたしております。


 藤本副社長:現在、我々が保有しております風力は500キロワットしかございませんが、今、東伊豆に1万8千キロ相当の風力の建設を計画しております。加えまして、太陽光といたしまして、メガソーラー3カ所で3万キロ、水力につきましても、3カ所で調査を進め、建設を進めているところです。

 

 ■取締役選任の第1号議案を審議

 午後2時5分、勝俣会長が改めて「議案の審議に移りたいと思いますが、いかがでしょうか?」と言う。「ご賛同いただけますでしょうか?」と念を押した上で、「議事進行に賛成の方、挙手をお願いします」と呼びかける。3秒の間を空けて、「反対の方、挙手をお願いします」とも呼びかける。3秒後、勝俣会長は「賛成多数ということで、議案の審議に移らさせていただきます」と言う。

 勝俣会長:はじめに会社提案であります第1号議案、おしずかに席にお座りください。取締役17名選任の件を上程いたします。本議案は本総会終結のときをもって取締役全員の任期が満了いたしますので、取締役17名を一括して選任することをお願いするものであります。今回選任をお願いします17名の候補者につきましては、開催ご通知の株主総会参考書類3ページから7ページに記載のとおりでございます。以上でございますが、本議案につきましてご質問はございませんか。はい、それでは修正動議等が出ていますので、どうぞ。


 男性株主:修正動議として、私は1号議案、2号議案、3号議案にも修正動議を出します。それでですね、私はあなたたちのところに30年前に来て、「原子力反対」とは言わなかったんです。そして「安全に」と言って妥協したんです。そうすると、あなた方は大喜びしたんです。この間に設備投資がおろそかになったために問題を起こしてるんです。清水さん、からだを悪くしたんだろ。分かってるんだったら考えることだよ。前にも言ったんです。役員が多すぎる。1号議案に対しては、責任ある役員とはみなせないので、それを選ぶわけにはいかない。認める必要性はない。

 

 具体的な修正の提案はなく、勝俣会長は「それでは会社提案であります第1号議案の採決に移らさせて頂きます」と前置きして「本議案に賛成の方は挙手を願います」と呼びかける。6秒後、勝俣会長は「はい、それじゃぁ、どうぞ。簡潔にお願いします」と言う。

 女性株主:動議です。先ほどから手を挙げて何度も「動議」と言っておりますけれども、会長は全然、私のことを無視しておりますけれども、ようやく(指名されました)。提案株主への賛同数を公表して、私たちの脱原発の議案に対して、審議に入る前に賛同株数を公表して、会場での賛否をきちんと数えるように求める動議を提出いたします。先ほどから何度も、第5会場まで、また、廊下まで、いっぱい一般の株主が皆さんの動きを注目して集まっているにもかかわらず、勝俣会長のすぐ近くにいる動員株主の顔だけ見て、拍手と数で、多いと少ないと判断するのは横暴です。きちんと、すべての会場と、廊下に集まっている株主の数をきちんと数えてください。


 勝俣会長:ただいま、3号議案に対する、言ってみれば、議案別の賛否内容を明らかにしてほしいという動議が出ました。これにつきましては、賛成の方、挙手願います。

 

 手を挙げる人はあまりおらず、6秒後、勝俣会長は「反対の方は挙手願います」と言う。「反対多数と認めます」と勝俣会長。「議案別の賛否内容の動議は否決されました」

 午後2時18分、勝俣会長が「はい、ほかにご質問の方」と呼びかける。「真ん中の席の右側の立って紙を掲げている方」を指名する。

 男性株主:1号議案でちょっと心配していることがありまして、ちょっと質問させていただきます。今回の事故は現場で起きている。それを役員会に反映させるためには、現場できちっとやってきた人をぜひ入れていただきたい。原発の所長であるとか、現場には原発一筋の神様みたいな人が絶対いるんです。そういう人をボードのメンバーに入れていただきたい。それは東電をいい会社にするのに絶対に必要なんです。政府の言うことを聞いていたらろくなことが起こらない。ちゃんと自分たちで頭の中で考えてそれで設計できるような若い人を育てなきゃいけないんです。それが東電にとってもっとも重要なことです。今の役員の皆さんは政府のほうに向かって思考停止しているんです。若い人が同じように思考停止したら困るんです。将来がないんです。現場の人間をボードのメンバーに入れて頂きたい。ボードに入る人がみんなビジネスマンになったら、これじゃぁ、ダメです。現場をよく知っている現場一筋の人を入れて下さい。

 

 勝俣会長が「小森のように発電所長を務めた人間もおりますが、なおいっそう充実したいと考えておりますので、よろしくご理解のほどをお願いします」と、これに答える。小森常務は福島第一原発の所長を務めていた。

 別の株主が質問に立つ。

 男性株主:先ほどから報酬や企業倫理について、株主や福島県民の人たちが聞きたいのはそういうことじゃないんです。新しい取締役の中には、今回の原発震災を引き起こした責任のある方がいらっしゃいます。その責任を踏まえた上で、今後、報酬や企業年金を受け取る資格がご自身にあるかどうか、それを答えていただきたい。

 

 勝俣会長が「それでは山崎副社長からお答えいたします」と言う。

 山崎副社長:企業年金を受けるか受けないかというのはそれぞれ個人の方の判断によるんじゃないでしょうか、と私は思っております。そのように考えるべきじゃないかと思います。

 

 それまでの東電の役員たちのオブラートにくるんだような慎重答弁に比べると、山崎副社長の答弁は、異質と思えるほどに、ざっくばらんな強気の口調である。株主の質問は「ご自身」の考え方を尋ねる内容だったが、それへの答弁はない。

 新潟県から来たという株主は「原発の責任者、所長になぜ常務以上の人は張り付けないのか」と尋ねる。

 勝俣会長:決して、しないということを申し上げているわけではございませんが、現時点で出ていないことも事実でございます。なにぶんにも役員が不足しているというのが今の状況でございます。

 

 柏崎刈羽原発の防潮堤に関する質問には武藤副社長が答える。

 武藤副社長:建屋にもしも津波が来たときに建屋の中に水が入らないようにするということが当然重要なわけでして、3月11日以降、防潮壁の設置、止水板の設置を検討してきたところです。経済産業大臣からも指示文書を頂きまして必要な措置を検討しているところでございます。止水板につきましては、建屋への浸水の防止については十分な機能があると思っておりますけれども、建屋の扉を開け閉めするときにクレーンが必要ということもありまして、さらに改善が必要だと思っておりまして、最終的にどのようにするか、現在、検討しているところでございます。

 

 午後2時27分、勝俣会長が「はい、どうぞ、動議をお願いします」と言う。男性株主が「勝俣さん、あんたの議事進行はおかしい」と言う。

 男性株主:ルールに則ってない。さっきから声が枯れるほど、動議をしてるでしょう。きちんと質問に対して答えなさいと言ってるんでしょう。

 修正動議をかけます。第1号議案はこの総会で一番大事なところです。一括ではなく、(取締役候補者の)一人ひとり(について審議・採決を)やらなければいけないんです。どういう考えがあるかについて。(その答弁がなくて)どうして賛成できるんですか?

 事故が起こって事故が拡散しているのは東電的体質があるからです。これを変えなかったらダメなんです。取締役の人たちが一人ひとりがどう考えているのかきちんと答えてほしい。その上で判断したいと思いますので、よろしくお願いします。一人ひとりについて、この事故についてどう考えているのか聞かないと、一括では審議できないでしょう。

 

 拍手が起こる。勝俣会長が「ただいま、取締役の選任を個別に採決せよとの動議が提出されました」と言う。

 勝俣会長:私としましては、議事を円滑に進行するために、一括して採決させていただきたいと考えております。

 ただいまの動議についてお諮りいたします。この動議に賛成の方は挙手願います。

 

 4秒後、勝俣会長が「反対の方は挙手願いします」と言う。会場を見たところ、賛成に挙手した株主のほうが多かったように見える。しかし、3秒後、「反対多数と認めます」と勝俣会長が言う。

 勝俣会長:ただいまの動議は否決されました。

 なお、当社株主の皆さまの議決権行使の参考となるように法令に基づき各取締役候補者の略歴等を開催ご通知の株主総会参考書類に記載しております。当社といたしましては、各候補者はいずれも、人格、経験、見識、能力がすぐれ、当社の経営を任せるに足る人物であると考えております。なにとぞご了解いただきたいと存じます。

 それでは、会社提案である第一号議案の採決に移らさせて頂きます。

 本議案に賛成の方は挙手願います。

 

 会場の前のほうにいる株主を中心に手が上がる。3秒後、勝俣会長が「反対の方は挙手願います」と呼びかける。会場の後ろのほうを含めると、「賛成」を上回る数の人が手を上げているように見える。2秒の間をおいて、勝俣会長は「書面等による賛成を含めまして賛成が過半数と認めます」と宣言する。「本議案は原案の通り承認・可決されました」

 午後2時33分、17人の取締役を選任する議案が可決される。

 勝俣会長:それでは続けまして、会社提案である第2号議案である監査役2名選任の件を上程いたします。本議案についてご質問はございませんか? はい、真ん中の2のところで杖を上げている方、お願いします。


 男性株主:動議の賛否を何度かとっていますが、ほかの会場での賛否については勝俣会長はどのように(数えているのか?) この総会は異常な議事運営ですね、このような会、これは大きく注目されている東京電力の株主総会ですよ、大丈夫ですか、これで。たいへん非常に疑問に思います。まず、賛否について、どういうふうに議決しているのか説明してください。以上。


 勝俣会長:えー、動議の可決の判断でございますが、本日の総会におきましては、事前に2名の株主様から委任状を頂いており、その議決権の数は当会場にご出席の株主の議決権の数の過半数を大きく上回っております。

 

 なぜかここで会場から拍手が上がる。

 勝俣会長:したがいまして、委任状に基づく行使を行う代理人の挙手により動議の可決・否決が決するものであります。具体的には、本日13時30分現在、当会場にご出席の株主数は9282名、その議決権の数は130万6633個であり、そのうち委任状の議決権の数は107万8015個でございます。

 

 ■第一生命と日本生命の代理人が

 たった2人で107万8015個もの議決権を持つ大株主というのはいったいだれなのか? 

 東京電力の有価証券報告書によると、同社の大株主の状況は次の通りとなっている(今年3月31日現在、議決権の数に換算)。

1位:日本トラスティ・サービス信託銀行(信託口) 57万9630個

2位:第一生命保険 55万10個

3位:日本生命保険 52万8千個

4位:日本マスタートラスト信託銀行(信託口) 47万9490個

5位:東京都 42万6760個

 

 ただし、この数字、実は1の位は切り捨てられている。たとえば、東京都の議決権の数は42万6767個だが、有価証券報告書の記載では1の位は切り捨てられて42万6760個とされている。そして、1の位が切り捨てられていることを前提にすれば、東電の第2位株主である第一生命の持つ議決権55万個余と、第3位株主の日本生命の持つ議決権52万8千個を合わせると、ほぼ「2人で107万8015個」に見合う。

 また、第1位の株主となっている日本トラスティ・サービス信託銀行や第4位の日本マスタートラスト信託銀行、第5位の東京都によると、3者はいずれも6月28日の株主総会の会場に代理人を派遣していないという。つまり、東電の株主総会の議場で、議長である勝俣会長の意に沿う形で挙手した「2人」は第一生命の代理人と日本生命の代理人だったことになる。

 第一生命の広報部は取材に対し、次のように回答した。

 個別企業に対する具体的な議決権行使の内容及び行使の方法についてはコメントを差し控えさせていただきますが、東京電力の株主総会議案に係る議決権行使につきましては、当社策定の議決権行使ガイドラインに則り個別議案を全件精査した上で、適切に対応させていただきました。

 

 日本生命の広報室は取材に対し、東電の株主総会の当日に、委任状を持った同社代理人が総会に出席したことについては、事実と認めた。しかし、「議事進

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奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書に『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)。共著に『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)など。
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