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深掘り

株主の権利弁護団から

西武鉄道の有価証券報告書虚偽記載事件で最高裁判決を受けて

西武鉄道有価証券報告書虚偽記載事件最高裁判決を受けて
個人投資家代理人の視点から

弁護士 古川 拓

拡大古川 拓(ふるかわ・たく)
 らくさい法律事務所所属。京都大学経済学部卒業。司法修習を経て2004年に弁護士登録(大阪弁護士会)。08年に京都弁護士会に登録替えの上、現事務所設立。過労死問題をはじめとする労働事件や民事・家事事件のほか、JR福知山線事故被害者弁護団で活動している。西武鉄道事件において、個人投資家集団訴訟(原告)弁護団の事務局長を務めるほか、株主の権利弁護団に所属し、株主代表訴訟等にも取り組んでいる。

 1.はじめに

 平成23年9月13日、最高裁第三小法廷は、平成16年の10月の公表に端を発した西武鉄道有価証券報告書虚偽記載事件を巡る一連の損害賠償請求事件について、個人投資家集団訴訟及び機関投資家による訴訟について判断を示した。

 同判断によって、有価証券報告書による不実開示がなされた場合の損害論の枠組みの方向性が示されたと言えるが、同事件に個人投資家集団訴訟の投資家(原告)代理人として関与してきた立場から、個人投資家の視点に立ち、本判決の意義及び同判決が今後の同種訴訟に与える影響等について検討してみたい。

 なお、同日の判決自体は、同一期日に判決のあった4件の事件に対してそれぞれなされているが、判断の枠組みは基本的に同様である。従って、本稿では、同日期日になされた判決を総称して「本件最高裁判決」と表記する。

 2.事案の概要と下級審判決の動向

 (1)事案の概要

 東京証券取引所に株式を上場させていた西武鉄道が、長期にわたり、有価証券報告書等(以下「有報等」という。)に、親会社であるコクド(当時。現プリンスホテル)の積極的関与の下、コクドの所有する自社株式の数を過小記載していた(以下「本件虚偽記載」という。)が、本件虚偽記載公表後、株式は上場廃止となった。

 これにより損害を被ったとして、当該株式を取得・保有していた一般投資家である株主290名ら(うち1名は途中で訴え取り下げ)が、西武鉄道、コクド、西武・コクドの代表取締役であったA、西武鉄道の代表取締役であったB及びCに対して、損害賠償を請求した事案である。

 また、機関投資家による同種の損害賠償請求も続けて提訴され、東京地方・高等裁判所の複数の部において審理・判決がなされた。

 なお、本事案では、旧証券取引法(現金融商品取引法(金商法))に発行会社の責任及び損害の推定規定が規定された平成16年改正法の適用を受けないことから、いずれも不法行為の一般規定である民法709条を根拠として、(i)流通市場における有報等の虚偽記載について提出会社の責任が問えるか、(ii)虚偽記載のある有報等提出時の代表取締役が責任を負う範囲(時期)はどこまでか、に加え、最大の争点として、(iii)本件において投資家が被った損害をどのようにとらえるかが、それぞれ問題となった。

 (2)下級審判決の動向

  ア 発行会社及び役員の責任論について

 平成19年~22年にかけて出された東京地方・高等裁判所の下級審判決では、上記(i)について概ねこれを肯定した。

 また、上記(ii)については、代表取締役就任直後に虚偽記載を知ったCに対し、就任後最初の有報等の提出日以降の責任を認める一方で、平成16年に代表取締役を退任したBについて、退任後、新たに有報等が提出された日以降の責任を認めなかった。

  イ 損害論・損害額について

 本事案の損害のとらえ方(iii)については、投資家(原告)側からさまざまな損害論の主張・立証が展開され、これに応じる形で下級審の判断は大きく分かれた。

  (ア)投資家(原告)側の主張は、虚偽記載がなければ株式取得がなかったとして、いわゆる取得自体損害説を主位的主張とし、予備的主張として取得価格と想定価格の差額とする取得時差額説や虚偽記載の公表によって生じた株式の市場価格の下落が損害であるとする市場下落説などが主張された。

  (イ)これに対し、下級審で認定された損害額は、概ね以下のとおり4つに分類される(10、11)

 A 虚偽記載公表時の市場価額から処分価額を控除した数額とするもの(3、4)
 B 株式取得価額から処分価額を控除した数額とするもの(5、8)
 C 株式取得価額に、下落額の(虚偽記載公表翌日から最終取引日までの終値の平均価額との差額)公表時の市場価額に占める比率(下落率)を乗じた数額とするもの(9)
 D 民訴法248条を適用し、虚偽記載公表時の市場価額の15%に相当する数額とするもの(6、7)

  ウ 保有株主の請求について

 なお、これに対し、現在も株式を保有している投資家(以下「保有株主」という)については、株式の現在の価額が虚偽記載公表時の市場価額を上回っているとは認められないとして、いずれも請求を認めなかった(1、2、3、6)

 3.本件最高裁判決の要旨

 (1)責任論について

 本件最高裁判決は、[1] 本件虚偽記載につき、提出会社である西武鉄道に民法709条に基づく責任を認める一方で、[2] 代表取締役の責任については、前述した下級審判決の変更を認めなかった(上告不受理)。従って、今後、代表取締役の退任後、新たな有報等が提出された後に同社株式を取得した投資家に対して当該代表取締役の責任が認められるためには、当該代表取締役が責任を負うべき特段の事情が必要となるものと思われる。

 (2)損害論について

 本件最高裁判決は、

「一般投資家であり,Y1株(西武鉄道株。筆者注。以下同じ。)を取引所市場で取得した上告人ら(投資家)においては,本件虚偽記載がなければ,取引所市場の内外を問わず,Y1株を取得することはできず,あるいはその取得を避けたことは確実であって,これを取得するという結果自体が生じなかったとみることが相当である。」

とした上で、

「有価証券報告書等に虚偽の記載がされている上場株式を取引所市場において取得した投資者が,当該虚偽記載がなければこれを取得することはなかったとみるべき場合,当該虚偽記載により上記投資者に生じた損害の額,すなわち当該虚偽記載と相当因果関係のある損害の額は,上記投資者が,当該虚偽記載の公表後,上記株式を取引所市場において処分したときはその取得価額と処分価額との差額を,また,上記株式を保有し続けているときはその取得価額と事実審の口頭弁論終結時の上記株式の市場価額(上場が廃止された場合にはその非上場株式としての評価額。以下同じ。)との差額をそれぞれ基礎とし,経済情勢,市場動向,当該会社の業績等当該虚偽記載に起因しない市場価額の下落分を上記差額から控除して,これを算定すべきものと解される。」

と判示している。

 すなわち、本件最高裁判決は、まず、損害のとらえ方については、前述した取得自体損害説に立った上で、損害額の認定については、相当因果関係の問題として検討すべきであるとした。

 そして、具体的な損害額は、処分株主については取得価額と処分価額との、保有株主については取得価額と事実審の口頭弁論終結時の株式の価額との、それぞれ差額を基礎として、虚偽記載に起因しない市場価格の下落分を差し引く、という立場に立つことを判示したのである。

 また、これに加えて本件最高裁判決は、

「虚偽記載が公表された後の市場価額の変動のうち,いわゆるろうばい売りが集中することによる過剰な下落は,有価証券報告書等に虚偽の記載がされ,それが判明することによって通常生ずることが予想される事態であって,これを当該虚偽記載とは無関係な要因に基づく市場価額の変動であるということはできず,当該虚偽記載と相当因果関係のない損害として上記差額から控除することはできないというべきである。」

と判示し、「虚偽記載に起因しない市場価額の下落分」に、虚偽記載公表後の「ろうばい売り」による過剰な下落は含まれない、としている。

 その上で、本件では、虚偽記載公表前にコクドが他人名義の西武鉄道株を大量に売却していたことを指摘し、その頃に本件虚偽記載と因果関係のある株価下落が生じていた可能性があり、その点についてさらに審理を尽くす必要があると判示した(この点についての立証が困難である場合は、民訴法248条により相当な損害額を認定すべきであるとも判示している。)。

 また、第一審、第二審とも請求が棄却されていた保有株主の損害についても、事実審口頭弁論終結時の西武鉄道株の価額を算定する必要があり、これについて審理を尽くす必要があるとして、高等裁判所に差し戻している。

 4.本件最高裁判決の意義及び今後に与える影響

 有報等の虚偽記載に関する民事責任の損害論については議論百出の感があったが、本件最高裁判決が損害論についての枠組みを判示したことで、今後の議論は、個別事案における当該枠組みへのあてはめ等が主な争点となってくるものと思われる。

 そこで、それらの争点や本件最高裁判決の意義について、現時点で考えられる範囲で私見を述べたい。

 (1)上場株式の金融商品としての本質を正当に評価したこと

 まず、本件最高裁判決は、上場株式の金融商品としての本質を正しく評価したものであるといえる。

 すなわち、本件最高裁判決は、民法709条を根拠として株式発行会社に対する株主の損害賠償請求を認めているが、本来、上場株式の株式会社持分権としての側面ばかりを強調すると、株主が当該株式を保有している(いた)ことに基づいて当該株式会社に損害賠償請求を行うのは資本維持原則に反し認められない、などという結論が導かれかねない。現実に本件でも被告側は雪印事件東京高裁判決(12)を引用し、本件訴訟が不適法な請求である旨主張していた。しかし、上場株式は、一旦株式市場に流通すれば会社持分権よりも金融商品としての側面がむしろ本質的になり、投資家もその点に着目して株式取得しているのが通常である。

 本件最高裁判決が、当該会社であっても当該株式の瑕疵に加担(虚偽記載)した以上、不法行為責任としてこれによって生じた損害を賠償する責任があることを明示したことは、虚偽記載についての当該会社の賠償責任が法定(金商法21条の2)されている現行法下でも、なお特筆して良いことのように思われる。

 (2)安易な投資家自己責任論に依拠しなかったこと

 従来より、株式市場における投資家の損失はすべからく自己責任であるという固定観念が存在し、この種の訴訟においては必ず被告側から主張されてきた。この論調は、本件東京高裁判決(6、7)の損害論にも色濃く表れており、投資家(原告)の損害を認めないか制限する方向に用いられてきたと言えよう。

 この点、本件最高裁判決は、本件の損害額算定における理論上の基準となる価格を、投資家が株式取得を決定する時点の価格、すなわち株式取得価額に置くことを判示したほか、虚偽記載公表後の「ろうばい売り」による株価下落については「通常生ずることが予想される事態」として損害額から控除できないことを明示した。

 このことは、最高裁が、有報虚偽記載の場合には、株式投資の判断の根拠となる当該会社の基本的情報が正しく示されていないため投資家・株主の自己責任を問うことはできないという方向性を打ち出したものとして評価できる。

 (3)保有株主についても救済の途を開いたこと

 保有株主については、下級審が悉く請求を棄却してきたが、最高裁はこれに対する上告を受理し、損害額の認定について再度の審理を行うべきだと判示した。

 もともと、保有株主と処分株主の違いは、本件虚偽記載公表後上場廃止までに西武鉄道株式を株式市場で売却したか否かの違いに過ぎない。

 そして、処分株主は(不十分とはいえ)売却価格相当の現金を手にしている一方、保有株主は、市場での売却が事実上不可能な(相対取引でしか売却できない)株券が手元に残されたのみで、本券虚偽記載公表後から7年近くが経過している。

 このような状況下で、処分株主には損害を認め保有株主には損害を認めない、ということになれば、虚偽記載公表がなされれば当該株式を売却するのが正しい選択であるということを裁判所が示唆したことにもなりかねず、結局虚偽記載公表前の損害が公表後の事由によって左右されることになり、投資家・株主に過剰な責任を負わせることになるため妥当でない。

 その点からも、本件最高裁判決が、保有株主の上告を受理し、損害についての再審理を求めたことは、極めて妥当な結論であったと評価できる。

 もとより、保有株主の具体的損害額については差戻審で審理されることになるが、控訴審においても、上記点を十分に考慮した審理・判断がなされるべきである。

 (4)「虚偽記載に起因しない市場価額の下落分」を巡る争いについて

 本件最高裁判決において示された損害のとらえ方は、田原睦夫裁判官が補足意見において示した以下の算式に要約されている(傍点筆者)。

 損害額={取得価額-処分価額(又は、事実審口頭弁論終結時評価額)}
     -取得時から虚偽記載公表直前までの虚偽記載に起因しない下落額

 もっとも、本件最高裁判決及びこれに対する田原補足意見からは、虚偽記載公表後の価格下落は相当因果関係ある損害としてとらえる一方で、虚偽記載公表前の価格下落については、株式の売却など、当該会社や関連会社などによる市場価格形成に直接影響を及ぼす行動(会社業績とは別)がない限り、相当因果関係を認めない方向性を示唆しているともとれる。

 このように最高裁の枠組みを突き詰めていくと、本件の損害額算定における事実上の基準となる価格は「虚偽記載公表直前の市場価額」となるものと思われ、

 損害額 = 虚偽記載公表直前の市場価額
     - 処分価額(又は、事実審口頭弁論終結時評価額)

 が、裁判所において事実上推定される(言い換えれば議論のスタートラインとなる)損害額となるものと思われる。その上で、投資家・原告側が公表前の虚偽記載に起因する下落要因とその数額を、当該会社など被告側が公表後の虚偽記載に起因しない下落要因とその数額を、それぞれ主張・立証していくのが今後同種事件の攻防の枠組みになっていくものと思われる(その上で最後は裁判所が民訴法248条に基づく認定を行うことになろう。)。

 上記の損害論の枠組みについては、損害推定規定を有する現行金商法下においても基本的に妥当することになるものと思われる。

 5.最後に

 本件最高裁判決は、全体として、投資家保護と株式市場における企業情報開示の公正を重視した判決であったと評価できる。

 そして、本件が機関投資家だけではなく多数の個人投資家によって訴求されたことこそが、最高裁が本件を金融商品による消費者被害事件としてとらえ、その視点及び問題意識に基づいた判断をする方向付けに大きく寄与したのではないかと考える次第である。

 

 古川 拓(ふるかわ・たく)
 らくさい法律事務所所属。京都大学経済学部卒業。司法修習を経て04年に弁護士登録(大阪弁護士会)。08年に京都弁護士会に登録替えの上、京都府西部の郊外に現事務所を設立。地域で生じる様々な事件に幅広く取り組む一方,過労死・過労自殺問題やJR福知山線事故被害者弁護団で活動するなど、人のいのちと健康の問題に継続的に取り組んでいる。西武鉄道事件において、個人投資家集団訴訟の原告弁護団(西武鉄道株主弁護団)の事務局長を務めるほか、株主の権利弁護団に所属し、株主代表訴訟等にも取り組んでいる。
 AJに掲載された論考に「投資家・株主の視点から考える有価証券報告書虚偽記載による民事賠償」。

 

1)東京地判平成19年8月28日(判例タイムズ12

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