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深掘り

コンプライアンス春秋  日本経営倫理士協会から

激動する社会に、企業はどうかかわっていくか

シンポジウム「東日本大震災後の“CSR最前線”」

 日本経営倫理士協会(ACBEE)の連携組織である経営倫理実践研究センター(BERC、鳥原光憲理事長=東京ガス取締役会長)主催の「経営倫理シンポジウム・2011」が11月9日、東京・国際文化会館で開かれた。テーマは「東日本大震災後の“CSR(企業の社会的責任)最前線”~本業に生かす戦略的CSR」。企業と地域社会、企業と社員、社会貢献、大型危機への対応などについて熱心な議論が展開された。同シンポジウムでの議論を紹介する。

日本経営倫理士協会専務理事
千賀 瑛一

 ■大震災後の取り組みでは、まず対策本部を設置し、情報を集約

 第1部では、ヤマト運輸経営戦略部長・岡村正氏が「企業の復興支援~持続可能な支援を目指して 『ヤマト運輸の震災復興とCSR』」と題して講演した。

拡大岡村正氏

 岡村氏は次のように述べた。「3月11日に、ヤマト運輸では対策本部を立ち上げた。一番大切なのは情報の一元化である。『阪神大震災を経験した』などと社員が個々の立場で現場に連絡を取りたがる場面もあった。今回は、対策本部に情報を集約し、本部を通して情報を流すことにした。大災害発生から4日目、4名の先遣隊が出発、救援物資の調達と輸送を開始。施設の被災状況もあらまし確認された。7日目以降、客から1日も早く荷物を届けてほしいと言われた。また、被災地の生活は一応安定してきたが、サプライチェーンが壊れて物資が入ってこない、というような客の声が聞こえ始めた。そこで青森、秋田、山形3県の102店舗で荷受け引渡しからスタート、11日目には太平洋側の岩手、宮城、福島3県の荷受け引渡しを123店舗でスタートした」

 岡村氏は現場のリアルな状況を丁寧に説明した。「現場では、司令官なしに個々に自律的な行動をとっていたが、これは会社として地域貢献の面もあるので、しっかりやろうと本格的な取り組みを始めた。我々は物を運ぶプロであるから、その面で社会にお手伝いし貢献しようとした」

 岡村氏によると、13日目に会社として「救援物資輸送協力隊」が設立された。規模は車両200台、人員は400~500名を送り込んだという。既存の組織や行政と連絡を取りながら、物資輸送活動を開始した。15日目には被災3県全域の集配を再開した。

 ■企業の社会的責任をどう果たすか、という問題に直面

 「今回の救援物資輸送協力隊による宅急便事業では、企業としての責任をどう果たすかというテーマが浮上した。滞留したり、届かない救援物資を目の当たりにして、当社の現地社員が行政機関とかけあって『俺たちに運ばせてくれ』と呼びかけた。中越沖地震のときも起きているが、素早い危機対応は行政ではまだ完全ではないようだ。我々が早期に入手した情報を生かして、企業の社会的役割を果たそうと心掛けた」

 岡村氏によると、同社では「宅急便ひとつに、希望ひとつ入れて」と顧客に呼びかけ、1年間、宅急便1個につき10円の寄付をする活動も始めた。運賃に乗せるのだろうと言われたこともあるが、自社の利益の中から拠出した。10月までに80億円くらいになった、という。

 同社の社内教育では「判断に迷ったときには、サービスを優先しろ」と教えている。今回の大災害被災地域での事業では、時には一人ひとりが判断できないケースもあった。どのような判断を優先したらいいのか…ということが起きた。同社では「迷ったらサービスを考えろ。利益は二の次でいい」と指示している。岡村氏は「利益のことを考えるのは経営者であるから、第一線はまずお客のことを考えて行動した。我々の仕事は、毎日同じことの繰り返しである。世の中で何らかの形で役に立ちたいと思っても、一人ではなかなかできないが、所属している会社の事業を通して社会に役立っているということが伝わればよい。社会に理解され、応援してもらえるような企業になるための活動を今後も続けていかなければ」とCSR活動の重要性を強調していた。

 ■「いい会社」「いい人生」で「いい社会」づくりに貢献

 第2部のパネル・ディスカッションでは、富士ゼロックス常務執行役員・日比谷武氏、昭和電工取締役常務執行役員、最高リスク管理責任者・村田安通氏、ローソン、コンプライアンス・リスク統括室部長・吉田浩一氏の3人が、自社の取り組み体験を踏まえて発言した。駿河大学教授、BERC上席研究員・水尾順一氏がファシリテーターを務めた。

拡大経営倫理実践研究センター主催の経営倫理シンポジウム2011「東日本大震災後の“CSR最前線”~本業に生かす戦略的CSR」の会場=国際文化センターで

 まず富士ゼロックスの日比谷氏が次のように語った。「7月4日から8日まで、新入社員ボランティア研修として、被災地に221名派遣した。このような新入社員研修は初めてで、当初は『行きたくない』『向こうの物は食べたくない』とか、海外の社員の中からは『怖い』などという発言もあったが、最終的には全員が参加した。宮城県気仙沼からフェリーで20分くらいの気仙沼大島で研修した。NGOの協力も受け、浜辺の清掃作業をしたほか、大島に関していろいろな調査をしたりした。通常の新人教育とは大きく違ったもので、津波の心配もあったが、逃げる体制などを事前確認して実行した。スタッフ含めると270人という大部隊で、海岸清掃などでは威力を発揮した。周辺は見る見るうちにきれいになった。新入社員らは、現場で本当に一生懸命やっていた。現地の人々にも感謝され、地域に尽くす喜びを感じたと思う。今も被災地に社員のボランティアが1週間交代で行っており、会社も支援している。東日本大震災だけでなく、日本の企業社会は激変しており、大きな転機が来ている。人の面でも改革を進めるリーダーをどのように育成していくかが重要だ。企業はCSR経営を実践しなければならない。社会的存在を力強いものにするため『いい会社』『いい人生』、そして『いい社会』を進めていきたい」と話した。

 昭和電工の村田氏は次のように述べた。「メーカーとして消費者と直接、関わりが少ない企業では、CSRがなかなか見えにくいという課題があった。しかし東日本大震災では、改めて社会とのかかわりを強く認識する機会となった。例えば当社では、次亜塩素酸ソーダという製品がある。水道水の浄水工程や下水の消臭に使われているもの。これを生産する工場は関東以北に7つあるが、津波でやられるなどして、当社の工場ひとつだけが使用できる状況だった。政府や東北各県から緊急供給の強い要請があり、関東以北の全部の水道用消毒剤を当社から供給することになった。ライフライン優先という基本方針を出していたので、この方針に沿って東北地方の要請に応えた。またアンモニアは火力発電所の窒素酸化物除去剤で、輸送要請もあり対応した。物流基地の代替施設確保が緊急課題だった。さらに、ガソリン不足でタンクローリーがあっても運べない、物流が寸断されて輸送困難などもあったが、物流会社や代理店の協力でかなりうまくいった。普段あまり見えないが、自分たちが作っている製品が社会にとって必要なモノであり、安定的に供給することがいかに大事かを感じた」

 最後にローソンの吉田氏が語った。「日頃、各種の災害を振り返りながら、コツコツとマニュアルを充実させている。当社では、大災害発生後すぐに災害本部を設置し、社員、従業員、オーナーなどの安否確認を最優先した。通信手段はNTTの協力で直通の非常用電話も持っている。災害時には直通電話が現場と通じたので、これを切らずにそのまま使用し続けた。同時に、テレビ会議のシステムを立ち上げた。テレビ会議は、訓練で誰でも接続できるようにしているので、スムーズに立ち上がった。一番困ったのは商品だ。関東の弁当工場が液状化による被害を受けた。さらに計画停電で、関東圏以北で弁当供給が難しい状況に陥った。仙台に商品を送るため、玉つき操業を開始した、九州から中国、中国から中部、中部から関東、関東から東北へ運び込んだ。一方、北海道からも南下する形で商品を送った。配送センターは人海戦術ではどうにもならない部分がある。停電になると自動仕分け装置が稼働しない。配送センターの復旧をいかに早くするかが、当社の課題だった。緊急対応として関東に代替センターを作り直して自動仕分けを始めた。仮設住宅の周辺には、買い物に行けるところがないし車もないので、日常必要品を買い物することができない。出店要請が強かったので、建築資材を急きょ調達して、仮設住宅周辺に4店舗作った。上水道、下水という規制もクリアして開設、宅急便や郵便サービスも利用できるようになり、大変喜ばれた」

 ■会場から、今後の課題などについて質問も

拡大熱心な議論が続いたパネル・ディスカッション

 パネリスト3氏の発表の後、会場から「日頃の非常時対策は役に立ったのか」などの質問が出た。村田氏は「非常時対策としての各プラントの訓練は役に立った」と答えた。「やっていなければ、安全にプラントの停止などできなかった。経験者が本社のスタッフにもいたので、対策本部の立ち上げもスムーズで、情報収集も機能した」。日比谷氏は「津波の問題に加えて、計画停電は予想外だった」と述べた。「今回の大震災の対応をドキュメントに残そうという社員の提案で、冊子を作った。机上の訓練でなく、実際に訓練しておかないと役に立たないと感じた」

 「メンタルケアについて課題はあるのか」という質問には、日比谷氏は「家族を亡くした人、惨状を見てショックを受けた人、そして福島の問題がある」と述べ、次のように続けた。「家族を亡くした人には職場でケアをし、そのマネージャーを支えるのは我々の役割で、なるべく現地に入るようにしている。また、産業医らも継続的に現地に行っている。放射能に関しては、本社内だけでなく関連会社にいる放射能専門家が現地に行って、知識の共有をしている」。吉田氏は「加盟店のケアと従業員のケアがある」と前置きし、次のように答えた。「従業員は東北2県についてはコミュニケーションを図っているが、福島だけは別で、定例ミーティングをし、人事担当者が要望を聞きながらケースバイケースで対応している」

 ■大きく変わっていく社会に、企業がどうかかわっていくのか…

 今後の対応について3氏は次のようにまとめた。日比谷氏は「グローバル化、デジタル化などで社会が大きく変わる中、人と人との価値を作るのが大事という気づきがあった。その中で新しい働き方、コミュニケーションのあり方を、我が社の事業とどうかかわっていくかを考えている」。村田氏は「各事業部門で対策を検討している。津波の検討と大型地震について、もし東京で起きたらどうするか、もう一度考え直さなければ」。吉田氏は「大型危機は、我々一企業だけでは対応できない。関連業界団体、関係省庁との関係も重要である。物流の拠点、スムーズな輸送の流れなど考えなければならない」。

 最後にまとめとして、ファシリテーターの水尾氏が、今回の大震災後の、企業と地域社会、企業と社員、NPO・NGOとの連携などについて、意見を述べた。特に現場での絆、繋がり、お互いを思う姿勢が、今回、特に強く出てきたと指摘し、これが戦略的なCSRに繋がっていくと話した。

 〈経営倫理士とは〉
 NPO法人日本経営倫理士協会が主催する資格講座(年間コース)を受講し、所定の試験、論文審査、面接の結果、取得できる。企業不祥事から会社を守るスペシャリストを目指し、経営倫理、コンプライアンス、CSRなど理論から実践研究など幅広く、専門的知識を身につける。これまでの15期(15年間)で、415人の経営倫理士が誕生、各企業で活躍している。
 現在、経営倫理士(16期)取得講座の申込みを次の通り受け付けている。
 受講スケジュール:2012年5月15日から12月4日まで14回開講。時間はいずれも午後2時から午後4時40分まで。
 会場:青山ダイヤモンドビル9F(JR渋谷駅から徒歩8分)
 内容:経営倫理、CSR、コンプライアンス等について専門講師から14講座18テーマを学ぶ。
 資格取得:期間中2回の論文提出、全講座修了後の筆記テスト、面接試験を受け合格した受講者に経営倫理士資格を授与。
 受講料:185,000円(全講座1名、視察バス代、資料代含む、消費税別途)
 問い合わせは03-5212-4133へ。E-Mailはinfo@acbee-jp.org

 千賀 瑛一(せんが・えいいち)
 東京都出身。1959年

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