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深掘り

株主の権利弁護団から

企業不祥事における第三者委員会と株主代表訴訟

企業不祥事における第三者委員会と株主代表訴訟

弁護士 由 良 尚 文

由良尚文弁護士拡大由良 尚文(ゆら・なおふみ)
 由良・塚田法律事務所 弁護士。1999年4月弁護士登録(51期)。2002年10月、宮津ひまわり基金法律事務所へ赴任。2005年10月,大阪弁護士会登録。「株主の権利弁護団」事務局長,「電話リース被害大阪弁護団」事務局次長。

 1 はじめに

 2011年は、九州電力のやらせメール事件、大王製紙元会長による巨額不正融資事件、オリンパスの飛ばしや企業買収に絡んだ不正経理事件などの企業不祥事が相次いだ。社会的耳目を集めたこれらの企業不祥事においては、いずれも外部の弁護士等による第三者委員会が設置され、比較的短期間に集中した調査を行い、その調査報告書を公表するという手法が採用された(注1)

 従来、このような企業不祥事が発生した場合、当該企業の経営者等が担当役員や従業員に対して内部調査を命じるのが主流であった。しかし、このような内部調査はどうしても保身的・萎縮的になりがちであり、仮に十分な内部調査を実施していたとしても、外部からは隠蔽された事実があるのではないか、経営陣に有利にゆがめられているのではないかなどの憶測や不信感が払拭できず、企業が完全な信用回復をすることは難しかった。

 2008年の五洋建設の談合に関する株主代表訴訟での和解、2009年の大林組の複数の談合に関する株主代表訴訟での和解、2009年から2010年にかけての橋梁談合株主代表訴訟などで成立した和解では、会社が設置する「談合防止コンプライアンス検証・提言委員会」(仮称)に株主側推薦外部委員を関与させる和解条項が盛り込まれ、2009年3月から2011年12月にかけて順次調査報告や提言が公表された(注2)。ただ、これらの委員会のほとんどが企業の担当役員、顧問弁護士らをメンバーとする委員会に株主側選出の外部委員を入れたものであり、従来型の内部調査からは一歩前進ではあるものの内部調査委員会の域を出ていないと評価されるものであった(注3)

 これに対し、2011年の一連の企業不祥事のうち、九州電力やらせメール事件とオリンパス事件では、企業等から独立した委員のみをもって構成される第三者委員会による調査が行われた。これは日弁連が2010年7月に策定した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(2010年12月改訂。以下「日弁連ガイドライン」という。(注4))が参考にされている。

 企業から独立した第三者委員会が調査を行い、調査結果を公表することで説明責任を果たしていくという手法は、企業の信頼回復にとっては有効な手段の一つであり、事案の推移を注視する株主、投資家、取引先などのステークホルダーにとっても注目される方法である。今後も、同様の企業不祥事に採用されることは増えると思われる。本稿では、この第三者委員会による調査が株主代表訴訟に与える影響について検討をする。

 2 日弁連ガイドラインの概要

 (1)定義

 日弁連ガイドラインは、第三者委員会を「企業等において不祥事が発生した場合及び発生が疑われる場合において、企業等から独立した委員のみをもって構成され、徹底した調査を実施した上で、専門家としての知見と経験に基づいて原因を分析し、必要に応じて具体的な再発防止策等を提言するタイプの委員会」と定義している。

 「企業等から独立した委員のみをもって構成」される点が大きな特徴である。日弁連ガイドラインでは、企業と「利害関係を有する者」は委員に就任できないこととされており、企業の顧問弁護士は「利害関係を有する者」とされる。企業の業務を受任したことがある弁護士や社外役員は直ちに「利害関係を有する者」には該当しないとされる。

 (2)目的(誰のために調査するのか)

 第三者委員会の目的は、経営者自身のためではなく、すべてのステークホルダーのために調査を実施し、それを対外公表することで、最終的には企業等の信頼と持続可能性を回復することにあるとしている。つまり、不祥事を起こした企業が企業の社会的責任(以下「CSR」という。)の観点から、ステークホルダーに対する説明責任を果たすことが目的であるとする。

 (3)活動

 第三者委員会の活動は、不祥事に関連する事実の調査、認定、評価である。調査対象とする事実(調査スコープ)は、不祥事を構成する事実関係にとどまらず、経緯、動機、背景、類似案件の存否、内部統制、コンプライアンス、ガバナンス上の問題、企業風土にも及ぶものとされている。また、事実認定の権限は、第三者委員会のみに属し、証拠に基づいた客観的な事実認定を行い、不祥事の実態を明らかにするために、法律上の証明による厳格な事実認定に止まらず、疑いの程度を明示した灰色認定や疫学的認定を行うことも可能とされている。さらに、事実の評価と原因分析は、法的責任の観点に限定されず、自主規制、CSR、企業倫理等の観点から行うものとされる。

 (4)説明責任

 第三者委員会の調査報告書は原則として遅滞なく開示されるべきこと、企業が調査報告書の全部又は一部を開示しない場合は、企業がその理由を開示すべきことなどが必要である。

 (5)提言

 第三者委員会は、調査結果に基づいて再発防止策等の提言を行う。提言は、企業が実行する具体的な施策の骨格となる「基本的な考え方」を示す。

 (6)独立性・中立性

 調査は、企業から独立した立場でステークホルダーのために中立公正に行うものとされ、起案権は第三者委員会に専属すること、経営陣に不利な内容でも記載すること、調査報告書提出前に企業に事前開示はしないこと、企業と利害関係を有する者は委員とならないことなどを指針としている。

 (7)企業等の協力

 第三者委員会の調査は、法的な強制力を持たない任意調査であるため、企業の全面的な協力が不可欠である。そのため、第三者委員会は、企業に対し、調査に対する全面的な協力を求めるものとし、企業は全面的に協力するものとされている。この企業の協力についての指針では、企業に対する要求事項として、[1]所有するあらゆる資料、情報、社員へのアクセスを保障すること、[2]従業員に対して第三者委員会による調査に対する優先的な協力を業務として命令すること、[3]第三者委員会の調査を補助するために適切な人数の従業員を事務局として設置し、事務局担当者と企業との間で厳格な情報障壁を設けることが挙げられている。また、企業による十分な協力が得られなかった場合、調査に対する妨害行為があった場合、その状況を調査報告書に記載することができるとされる。

 (8)その他

 委員の人数は3名以上とし、企業組織論に精通した者であること、調査手法として各種の手法(社内リーニエンシーも挙げる)を用いるべきこと、報酬はタイムチャージを原則とすることなど。

 (9)内部調査委員会との使い分け

 日弁連ガイドラインの解説(注5)においては、第三者委員会を設置するかどうかについて、まず初動調査(内部調査)を行わせることが必要であるとしている。この内部調査による調査結果に対して、客観性や中立性に疑問を投げかけるおそれが少ない事案(役職員による横領行為などその影響が企業内部で完結している事案や、製品に関する不正など)は、引き続き内部調査や派生型内部調査でよいとする。これに対し、企業が組織的に行った不祥事(不正融資・粉飾決算、製品に関する偽装・事故隠し)、企業の幹部の判断がなければ類型的に行うことが困難と考えられるような不祥事については第三者委員会の設置を検討するべきとしている。

 ただし、筆者の経験上、企業が組織的に行ったと思われる独占禁止法違反事件などの企業不祥事については、あえて第三者委員会の形式をとらずに内部調査委員会の形式をとって、会社側委員の意見対立を少数意見や補足意見という形で、提言書に盛り込む手法をとれば、価値観の違いもはっきりし、再発防止策を考えるという観点からすれば有益なケースもあった。

 3 日弁連ガイドラインの評価と疑問点

 (1)評価できる点

 九州電力やらせメール事件やオリンパス事件において、第三者委員会の調査によって、従来は外部からは窺い知ることが難しかった実態が比較的早期に公表された点は評価でき、この調査結果の公表によってステークホルダーに対する一定の説明責任は履行されたといえる。特にオリンパス事件での第三者委員会の設置は、日弁連ガイドラインに沿って行われることがあらかじめ公表されており、問題となる点もほとんどを含むケースだったので、今後、企業不祥事に対する第三者委員会スキームのモデルケースになると思われる。

 ただ、大王製紙事件の特別調査委員会では、会社からの円滑な情報提供などを理由として、委員の独立性に疑問を持たれる常務取締役や社外監査役を委員としたが、報道によれば、調査過程において委員内部で対立が生じ、ヒヤリングが拒否されたなどの問題が生じたとも報じられており、ガバナンスの正常機能や自浄作用にマイナス印象を与えているようである。日弁連ガイドラインの示すとおり、最初から「企業等から独立した委員のみをもって構成」される委員会を設置していれば、このような展開は回避できたかもしれない。

 (2)疑問点

 日弁連ガイドラインは、すべてのステークホルダーへの説明責任の履行が企業の信頼と持続可能性を回復させることができるとの前提で策定されているようだが、株主側で企業不祥事を見つめる弁護士側の視点で見れば、この考え方にはいささか疑問を抱かざるを得ない。つまり、不祥事を起こす企業について深く調査し、調査結果を公表すればするほど、企業への不信感を強めるケースはあり、最終的には株主代表訴訟を提起して役員らの責任追及をする必要があるのではないかと考える。実際に、オリンパス事件がまさにそのような展開をたどった。オリンパス事件の第三者委員会は、2011年11月1日設置されたが、当初は企業買収やフィナンシャルアドバイザーに対する報酬に不正や不適切な点があったかどうかが調査スコープとされていた。ところが、第三者委員会の調査が始まるや、森副社長らが飛ばしの実態について語り始め、11月8日、オリンパスが損失隠しを認めるに至り、オリンパス事件は有価証券報告書虚偽記載問題へと大きく発展していった。そのため、第三者委員会の調査は、これらの違法行為を見逃し、違法行為を指摘しようとした社長ウッドフォードを一方的に解任した役員や監査法人らの損害賠償責任を追及する問題となってしまった。第三者委員会としても、ステークホルダーに対する説明責任と役員らに対する法的責任についての言及については悩ましい問題を抱えたはずであり、オリンパスの役員にとっても、過年度の重要な訂正報告書の提出を求められ、法令上の提出期限までに提出ができなければ監理銘柄に指定され、さらに1ヶ月以内に提出できなければ上場廃止となるおそれも出てきたので、第三者委員会の調査を急ぐ必要がある一方、場合によっては自身の法的責任に直結する調査だけに協力の可否についても悩ましい対応を余儀なくされたことは想像に難くない。

 このような場合、ステークホルダーに対する説明責任の履行と役員らの法的責任追及に対する防禦権又は会社の受ける不利益をどのように調整するのかについて、日弁連ガイドラインやその解説を見ても、今一つはっきりしない。日弁連ガイドラインは、第三者委員会の業務が「裁判を中心に据えた伝統的な弁護、代理業務と異なり、各種のステーク・ホルダーの期待に応えるという新しいタイプの仕事」と位置付けるが、「新しいタイプの仕事」であるがゆえに、このような利益対立をどのように考えるべきかについては、何らかのガイドラインを検討するべきなのではないだろうか。

 4 株主代表訴訟に与える影響

 (1)原告株主にとって調査報告書による立証が可能になること

 従来の企業不祥事に関する株主代表訴訟は、新聞記事や公正取引委員会等の発表などを根拠に訴訟提起せざるを得ないことが多かった。そして、訴訟提起後に文書提出命令等により会社の内部調査報告書を提出させたり、公取委から資料を取り寄せたり、さらに取締役会議事録等を開示請求したりして立証努力をするのが一般的であり、株主代表訴訟は、証拠偏在型訴訟の代表的存在でもあった。

 ところが、第三者委員会による調査報告書が公表されると、株主としてもあらかじめ企業不祥事の実態を知ることができ、これに基づき訴訟提起を行うことが可能になる。これまでのような訴訟偏在型の株主代表訴訟の進行を変化させる可能性がある。

 もっとも、任意調査が原則の第三者委員会の調査能力には限界があり、裁判所が第三者委員会の調査報告書に関してどの程度の信用性や証拠価値を認めるかは今後の裁判例の集積をみるほかない。ただ、オリンパス事件の第三者委員会委員長には元最高裁判事である弁護士が就任されて陣頭指揮をとられたこともあり、日弁連ガイドラインに基づく第三者委員会の調査報告書には一定の証明力が認められ、これに反する事実の主張責任は被告たる役員側に生じるものと思われる。

 (2)株主が会社が提訴した訴訟に訴訟参加するタイプの訴訟が増加する可能性があること

 不祥事発覚後、株主から役員らに対する責任追及の訴えの請求がなされると、会社が60日以内に訴訟提起をしなければ株主代表訴訟が可能となる(会社法847条1項)。不祥事が発覚して比較的早い段階で、株主が会社に対して提訴通知をすると、会社は60日期限を設定されることになるから、会社役員らは株主から株主代表訴訟を提起され、第三者委員会の調査結果を前提とする立証により応訴を強いられることを嫌って、むしろ会社側から役員等に対する訴訟提起に踏み切る可能性が高くなる。

 実際にオリンパス事件では、2011年11月初めには株主から提訴通知や追加提訴通知が送付され、取締役らに対する提訴期限が2012年1月9日、監査役らに対する提訴期限が同月18日と設定されていた。オリンパス第三者委員会は11月1日に設置されて12月6日に調査報告書を公表したが、オリンパスは、12月7日には取締役責任調査委員会・監査役等責任調査委員会を設置し、前者については2012年1月8日に調査報告書を受領して1月10日に会社が役員に対して損害賠償請求訴訟を提起し、後者については1月16日に調査報告書を受領して1月17日に損害賠償請求訴訟を提起した。いずれも同日までに提訴しなければ、株主代表訴訟が提起されてしまうことを念頭においた対応であると推認される。

 このような訴訟には馴れ合い訴訟のおそれや取締役に不当に有利な訴訟上の和解や訴え取下げなどがなされる危険があるため、会社法上、会社が提起した役員等の責任追及の訴訟には株主が原告側に共同訴訟人として参加することが認められている(会社法849条1項)。

 オリンパス事件では、第三者委員会からも「経営の中枢が腐っていた」との厳しい指摘がなされている。2012年4月20日の臨時株主総会では、笹宏行社長ら取締役11名の新役員も選任されたが、このような役員人事には批判も相次いでおり、今後、会社による元役員らに対する損害賠償請求訴訟も適切に行われるかの保証はない。

 今後も、企業不祥事が発生して行われた第三者委員会の調査を踏まえて、会社による役員に対する訴訟提起がなされ、これに株主が共同訴訟参加するケースは増加していくものと考えられる。

 5 まとめ

 日弁連ガイドラインは、企業法務で名を馳せておられる我が国有数の実力ある弁護士らによって、企業統治(コーポレートガバナンス)向上を目指して策定されたものである。第三者委員会に関して経験豊富でガイドライン策定にもかかわった弁護士の経験談を見ても、「第三者委員会に100のエネルギーを投じるとしても60は経営陣を説き伏せることに使わなければならない」とのことであり(注7)、経営陣は、経営責任、内部統制、取締役会の機能などが調査対象となると、強い抵抗を示すことは想像に難くない。さらに、その調査結果が公表されることにより、株主代表訴訟が提起されて自らの忠実義務違反・善管注意義務違反が問題とされるリスクがあるのであればなおさらである。

 ディスクロージャーに関しては「太陽は最良の消毒剤である」との言葉がある(注8)。筆者は、企業不祥事については第三者委員会による説明では十分ではなく、やはり裁判所の公開法廷において役員の責任を明らかにし、企業不祥事を許さない裁判例を確立することこそが真のコンプライアンスに資するのではないかという考え方にくみするものである。現在、広がりつつある第三者委員会による調査結果を、どのように会社から役員に対する損害賠償請求訴訟や株主代表訴訟に利用でき、裁判所がこれらの調査報告書にどの程度の証拠価値を見出すかについては、今後の訴訟や裁判例に注目をしたい。

 ▽注1: これらの企業不祥事の調査報告書は,以下のU

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