メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

深掘り

オピニオン

都心に感じる治安悪化 なぜ違法行為が取り締まられないのか

Stephen Givens(スティーブン・ギブンズ)

街の治安維持は迷惑行為の厳格な取り締まりから始まる

 

外国法事務弁護士・米NY州弁護士
スティーブン・ギブンズ(Stephen Givens)

拡大Stephen Givens(スティーブン・ギブンズ)
 外国法事務弁護士、米ニューヨーク州弁護士。ギブンズ外国法事務弁護士事務所(東京都港区赤坂)所属。
 東京育ちで、1987年以降は東京を拠点として活動している。京都大学法学部大学院留学後、ハーバード・ロースクール修了。
 日本企業に関わる国際間取引の組成や交渉に長年従事している。

 

 3月に亡くなったハーバード大学政治学名誉教授James Q. Wilsonは1982年に”Broken Windows”という有名なエッセイを発表した。

 窓ガラスが数か所割れたビルを考えよう。窓が割れたまま修理しないと、犯人たちはどんどん窓を壊そうとする傾向がある。そのうち犯人は強盗までエスカレートするかもしれない。場合によって不法に住み着いてしまったり、ビルの中で焚火を起こしたりすることもある。歩道も同じだ。ゴミがだんだんと溜まると、そのうち誰もが平気で生ゴミをポイ捨てするようになる。次第に、その周辺に止まっている車を荒らすようになる。

 

 小さい迷惑を許せば、迷惑行為が本格的な犯罪へと発展していく。街の治安維持は小さい犯罪、――落書き、ポイ捨て、あるいは、大音量を出すラジオカセットプレーヤーを肩に載せて道を歩く等――の厳格な取り締まりから始まるというのがWilsonの説だった。1990年代のニューヨーク市長Rudolph Giulianiはこの学説の影響を受け、いわゆるZero Tolerance(ゼロ許容)政策を発動した。ニューヨーク市の警察は小さな違法行為でも厳格に取り締まるようになって、その結果、大きい犯罪の数が減り、街の治安がいきなりよくなった。

 東京の中心部で生活している者として、私はこの数年、小さな違法行為の頻度と悪さが増してきていると感じている。同時に、警察の取り締まりが非常に緩いという印象も強く、どこかで線を引かないと街の治安が深刻に悪化するだろうと懸念している。

 具体例から始めよう:騒音公害。
 石焼き芋屋の売り声、豆腐屋の笛の音、「火の用心」、5時のチャイム等々――、公の場で大きな音量で情報を放送する日本の伝統は長い。狭い日本において近所のうるさい工事現場、交通のがたがた、踏切の警報音、隣のテレビや夫婦喧嘩などの騒音公害はある程度しょうがない、お互いさまの世界だ。
 しかし電気拡声機による暴騒音は50年前に比べて大きく増え、問題を決定的に悪化させている。石焼き芋屋の売り声はもはや本人の生の肉声ではなく、あらかじめ機械で録音したアナウンスの声が大音量でスピーカーから流れるようになった。街宣車、選挙運動者、廃品回収車もスピーカーを使って大音量で近所を撹乱する。
 騒音公害の最先端は週末の渋谷や新宿で目撃できる。交差点、センター街の複数の街頭スクリーンから流れる宣伝やJポップス、そして最近では、大音量を発する巨大な広告宣伝車、アルバム宣伝車が交通の流れをも妨げている。

 その他の具体例:公の道路・道端の占拠に類する違法・迷惑行為、迷惑駐車。公の歩道に勝手に設置された店舗の看板、コインパーキングの標識、コーン、電柱に張られた売り物件の宣伝。地下鉄の床、公園の地面に誰かが忘れた缶コーヒーの空き缶。早朝に都の回収車より先に来るリサイクルゴミの不法回収者。
 客観的に証明できないが、この類の迷惑も増えているように感じる。

 これらの迷惑行為のほとんどは法律で禁じられている。大音量は東京都の「拡声機による暴騒音の規制に関する条例」で禁じられている。廃品回収事業は特別な免許が必要だが、許可を受けていない違法業者が多く、無料回収をうたって料金を要求する、 有料で回収したものを不法投棄するなどの問題が発生している。公有地にもの、看板、標識を設置することももちろん違法。しかし、警察がこの行為を取り締まらない結果、違法行為が実質的に合法になる。

 お互いさまの世界であれば、迷惑行為は許しやすい。宅配便トラックの違法駐車は確かに迷惑だが、自分自身が毎日宅配便の配達を受けていることを考えると、まぁいいかと思う。隣の家の工事はうるさいが、そのうち我が家の増築の日もくるかもしれない。しかし、現在増えている迷惑行為の大多数はギブ・アンド・テークという類ではなく一方的な犯人の利益・都合のために公の資源・空間を私物化する反社会的な行為だ。村社会の我慢、自分の権利を主張しないことになれ過ぎている日本人は意外に双方的な迷惑と「皆」の財産の一方的な収用の区別を認識していないように感じる。

 騒音、道端の邪魔ものは勿論不愉快だが、それよりも安寧秩序を乱す、正義に対する冒涜が気になる。明確に違法なのに、警察はなぜ取り締まらないのか? 多くの犯人(街宣車、廃品回収など)が闇の社会との関係を持っている疑いは強い。警察がこのような怪しいものに対して法律を堅実に執行しないと、非常に不安になる。噂の警察と闇の社会の共存関係はやはり本当なのか? 警察が勝手にどの法律を誰に対して執行するのかを決めていいのか?

 小さいことが一つ一つ蓄積する。日本の優れた秩序と治安は世界で尊敬されているが、その腐敗が道端に目で見えるようになってきた。

 

 ▼ギブンズ氏の記事
 ▽二足のわらじをはいたオリンパス株主
 ▽フォルクスワーゲンにケンカを売ったスズキの側の法律作戦は大丈夫?
 ▽「ステークホルダーの皆様」は経営と収益性の弱さの言い訳か?
 ▽モノ言う株主の再来、日本はどう返事するか?
 ▽村上と堀江に思う 「気をつけないと『やられちゃう』よ」
 ▽本当にカンニングは懲役3年の犯罪なのか?
 ▽米国人弁護士が疑問に思う在日外国人の地震パニック
 ▽地震は日米同盟の基礎まで余震のように揺さぶるだろう

 

 Stephen Givens(スティーブン・ギブンズ)
 外国法事務弁護士、米ニューヨーク州弁護士。ギブンズ外国法事務弁護士事務所(東京都港区赤坂)所属。
 東京育ちで、1987年以

この記事の続きをお読みいただくためには、法と経済のジャーナルのご購読手続きが必要です。

朝日新聞デジタル購読者(フルプラン)の方なら手続き不要

法と経済のジャーナル Asahi Judiciaryは朝日新聞デジタルの一部です。
有料(フルプラン)購読中の方は、ログインするだけでお読みいただけます。

朝日新聞デジタルのお申し込みはこちら

Stephen Givens(スティーブン・ギブンズ)

 外国法事務弁護士、米ニューヨーク州弁護士。ギブンズ外国法事務弁護士事務所(東京都港区赤坂)所属。
 東京育ちで、1987年以降は東京を拠点として活動している。1976年から77年にかけて京都大学大学院に留学した後、1982年にハーバード大学ロースクール修了。現在、上智大学法学部教授。日本企業に関わる国際間取引の組成や交渉に長年従事している。国際間M&Aから、コーポレート・ガバナンス問題、民間・公的融資、戦略的提携、合弁事業などに経験を持つ。

Facebookでコメントする

ご感想・ご意見などをお待ちしています。