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深掘り

証券代行業務の現場から見えたこと

今年6月の株主総会:機関投資家が会社提案に反対するとき

依馬 直義(えま・なおよし)

2012年6月株主総会を振り返って
 ~機関投資家の議決権行使の状況について

 

 

三井住友信託銀行株式会社
証券代行コンサルティング部
IRチーム チーム長
依馬 直義

拡大依馬 直義(えま・なおよし)
 三井住友信託銀行株式会社 証券代行部 証券代行コンサルティング部 IRチーム チーム長
 1991年中央大学法学部卒、中央信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社。信用格付機関への出向などを経て、IRコンサルティング業務に携わり、2012年4月より現職。主な論文に「米国株主総会シーズンの特徴と議決権行使の状況について」(会社法務A2Z、2012年2月号)、「機関投資家に対する議決権行使促進の留意点」(旬刊経理情報1312号、2012年)など。

 ○はじめに

 本稿では、2012年6月に開かれた上場企業各社の株主総会における国内外の機関投資家の議決権行使の状況について、振り返ってみたい。

 2010年より、日本の上場会社は、議決権行使結果等の開示が義務付けられ、財務局に提出する臨時報告書で開示している。また、機関投資家と呼ばれる信託銀行および投資顧問会社は、信託協会や日本証券投資顧問業協会ならびに投資信託協会といった業界ごとの自主ルールに基づき、毎年8月をめどに議決権行使結果を議案別に公表するようになった(その結果については、各社のホームページなどで確認できる)。ちなみに、米国では制度上、上場会社も機関投資家(ミューチュアル・ファンド)も議決権行使結果(記録)について、SEC(米国証券取引委員会)に届け出なければならない(SECの“Form8-K”および“N-PX” Filings)。

 本年の特徴としては、全般的に機関投資家の議決権行使ガイドライン自体に大きな変更はなかったものの、法務省法制審議会会社法制部会による社外取締役の義務付けの議論もあったことから、役員選任議案に対する注目が一層高まった。特に、社外役員の独立性については、議決権行使にあたって厳しくチェックする傾向がみられた。また、国内の機関投資家の中には、形式的なガバナンス面ばかりでなく、ROE(株主資本利益率)や株価パフォーマンスといった業績面も考慮して判断するケースも多くみられた。一方、海外の機関投資家に大きな影響力を有する米大手議決権行使助言会社のISSは、「2013年から監査役設置会社に社外取締役が1名もいない場合、経営トップである取締役に原則反対を推奨する」とのガイドラインに変更したため、来年を待たずに社外取締役を新たに選任する企業もみられた。

 以下、主要な議案に対する機関投資家の議決権行使の傾向や特徴について解説する。

 ○剰余金処分・配当関連議案

 全体としては反対行使が少ない議案であったが、一部には積極的に反対を行使する国内の機関投資家もみられた。主な反対理由としては、業績基準等に抵触したことが挙げられる。

 例えば、[1] 潤沢な資金を有している(いわゆるキャッシュリッチ)企業にもかかわらず、株主への還元が十分でない場合、[2] 株主資本利益率(ROE)と配当性向の水準が低位である場合、[3] 株価パフォーマンス基準(ベンチマークに比べて一定水準以上のアンダーパフォーム)や株価純資産倍率(PBR)といった定量的な指標等に該当する場合に反対行使があった。

 一方、ISSは、配当性向の水準が15~100%の範囲内であれば、原則賛成の方針であることから、海外の機関投資家による反対行使はほとんどみられなかった。

 ○役員選任議案

 ◇取締役選任

 取締役選任議案への賛否は、機関投資家が経営について意思表示を行うことができる数少ない機会である。このため、議決権行使にあたって取締役会の構成やメンバーの属性以外にも、業績面やコンプライアンス面も含めた様々な判断要素が考慮される。

 本年の総会においては、国内の機関投資家を中心に「独立性がない社外取締役」に対する反対がみられた。機関投資家の考える「独立性」欠如の判断基準は、会社法や証券取引所の定義とは異なり、[1] 大株主あるいは親会社、[2] メインバンクあるいは主要な借入先、[3] 取引関係がある先、[4] 顧問契約のある法律事務所・会計事務所・コンサルティング会社等、[5] 親族関係等が挙げられる。こうした判断基準のレベルは、機関投資家によってそれぞれ異なるため、統一的なガイドラインは存在しない。本年は、ISSのガイドライン変更(注1)の影響もあり、特に“主要な取引先”がクローズアップされた。

 法務省法制審議会会社法制部会による社外取締役の義務付けは、本年8月に公表された「会社法制の見直しに関する要綱案」において既に見送りとなっており、国内の機関投資家の中に「社外取締役の選任を必須」とする動きはみられなかった。ただし、一定の要件に該当する企業に対しては「独立性のある社外取締役」の選任を求める機関投資家もあった。例えば、[1] 業績基準に抵触するケース(赤字・無配等)、[2] 株主の権利を保護するために一定の議決権を保有する大株主が存在するケース、[3] 本来は株主総会決議とすべき事項を取締役会決議に授権するケース、[4] 不祥事が発生したケース――等では、独立性のある社外取締役がいなければ、経営トップや取締役候補者の再任に反対する機関投資家もあった。

 また、国内の機関投資家の一部には、株価パフォーマンスや業績基準(業界比較あるいは数値基準)等に基づき、再任の取締役候補者全員に対して反対する事例もみられた。その他に、社内取締役の増員については、合理的な理由や説明がない場合、増員された新任候補者あるいは再任候補者全員に反対する事例もあった。なお、社外取締役の増員については、経営のチェック機能が強化されるという理由から、概ね肯定的に判断している。

 一方、海外の機関投資家に目を向けると、前述の通り、ISSは2013年から「監査役設置会社では、株主総会後の取締役会に社外取締役が1名もいない場合、経営トップである取締役に原則反対を推奨する」とのガイドラインに変更した。この影響を受け、来年の変更を見越して、新たに社外取締役を選任する企業もみられた。しかしながら、本年は従来通り「社外取締役に独立性がないことだけを理由とする反対を推奨しなかった」ことから、海外の機関投資家に与える影響は限定的であった。なお、現時点で、ISSは社外取締役の独立性までは問わないとしていることから、会社法の要件を満たす社外取締役が選任されていれば(注2)、原則賛成との立場である。

 他方、米大手議決権行使助言会社のグラスルイスは、2009年より「取締役会のメンバーにグラスルイスの独立性の基準を満たす社外取締役が2名以上いなければ、経営トップの再任に反対を推奨する」方針に変更しているものの、ISSほどの影響力はないため、本年も目立った動きはみられなかった。

 ◇監査役選任

 監査役会設置会社に関しては、国内の機関投資家が社外取締役に対して用いる独立性の判断基準と社外監査役に対して用いる独立性の判断基準に違いはないが、海外の機関投資家はISSの影響を受けて、社外監査役の独立性については必ずチェックするため、社外取締役よりも社外監査役に対して反対が多くみられた。一般的な独立性の判断基準としては、前述の社外取締役と同じであるが、本年は海外の機関投資家が“主要な取引関係”や“顧問契約またはコンサルティング契約がある”弁護士あるいは会計士事務所の出身者をより厳しくチェックする傾向がみられた。特に、顧問契約またはコンサルティング契約がある場合、経営陣との距離が近いとみなされ、独立性がないと判断されるケースが多かった。

 また、機関投資家の一部には、社内監査役に対しても反対するケースがみられた。社内監査役に対しては、その独立性自体が問題となることはないが、改選後の監査役会メンバーに独立性のある社外監査役が半数以上いない等の理由から、改選期のタイミングで社内監査役を対象として意思表示があったものである。

 ○役員報酬関連議案

 役員報酬関連議案の中で反対が最も多くみられた事例としては、支給対象者に社外役員が含まれる退職慰労金の支給議案であった。社外役員が1名でも含まれていれば、原則反対とする機関投資家が国内も海外も大勢を占めた。また、監査役への退職慰労金支給に対しては、社内あるいは社外を問わず、反対する国内の機関投資家が増えた。ただし、国内の機関投資家の中には、打ち切り支給に限り賛成するケースもみられた。

 ISSは昨年から、退職慰労金の支給総額の開示を求めるガ

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依馬 直義(えま・なおよし)

 三井住友信託銀行株式会社 証券代行コンサルティング部 IR・SRチーム チーム長。
 1991年中央大学法学部卒、中央信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社。信用格付機関の出向等を経て、IRコンサルティング業務に携わり、2012年4月より現職。
 主な論文に「機関投資家による議決権行使の状況」(旬刊商事法務2116号、2016年)、「米国の株主総会のトレンド」(会社法務A2Z、2016年3月号)、「ISS・グラスルイス 議決権行使助言基準の改定のポイント」(ビジネス法務、2017年3月号)、「機関投資家による議決権行使の状況」(旬刊商事法務2053号、2014年)、「機関投資家による議決権行使の状況」(旬刊商事法務2019号、2013年)、「米国株主総会シーズンの特徴と議決権行使の状況について」(会社法務A2Z、2012年2月号)、「機関投資家に対する議決権行使促進の留意点」(旬刊経理情報1312号、2012年)など。

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