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深掘り

株主の権利弁護団から

オリンパス株主代表訴訟「自浄作用の腐敗」を追及

株主の権利弁護団の現在の活動 (1)

株主の権利弁護団の現在の活動(1)

弁護士 谷川 直人

拡大谷川 直人(たにがわ・なおと)
弁護士。大阪共同法律事務所所属。神戸大学法学部卒。2009年11月司法試験合格。2011年9月弁護士登録(大阪弁護士会)

 1 株主の権利弁護団とは

 (1)活動目的・方針

 株主の権利弁護団は、現在常任弁護士25名、公認会計士2名で構成されている。

 その活動目的は、株主の権利の実現・株主の被害の救済・株主権利の啓蒙と教育等にある。

 具体的には、

 株主の権利の実現の為の立法・政策・運用の提言を行う

 株主の被害の相談、アドバイス・必要な場合は株主の依頼により会社、所管庁、証券取引所などへの要請、申告、裁判・告訴・告発などを行う

  株主の権利などについての講演会、セミナーなどを行う

といった活動を通じて、上記目的を実現していく。

 (2)株主の権利弁護団の成り立ち

 株主の権利弁護団の原点は、株主オンブズマンにある。

 株主オンブズマンから橋梁弁護団が派生し、現在の株主の権利弁護団へとつながる。

 橋梁弁護団とは、国土交通省・旧道路公団の橋梁工事の発注に関して、三菱重工ら47社が官僚の天下りを受けいれ、40年にわたって官製談合を繰り返していた事件について、株主代表訴訟を通じ経営者のコンプライアンスを追及した弁護団である。

 株主代表訴訟を起こした企業のうち、日立造船(大阪地裁)、神戸製鋼(神戸地裁)、住友金属(大阪地裁)、三菱重工(東京地裁)、IHI(東京地裁)では和解が成立した。 この間に橋梁弁護団では、大林組の土木建築工事等に関する談合事件についても、経営者らの責任を追及する株主代表訴訟を大阪地裁に提訴し、和解した。 同じころ、弁護団内部にMBO研究会が発足し、MBOに関する研究会を行ってきた。その後、同研究会のメンバーが中心となって、シャルレのMBOに関して株主代表訴訟を起こした。この訴訟は、現在神戸地裁で係争中である。

 さらに、MBO関連では、吉本興業の株主総会取消訴訟も提訴している。

 東京地裁で三井造船、住友重機についての訴訟が係争中であるが、関西の橋梁弁護団の仕事は一応終了したことから、橋梁弁護団を発展的に解消し、広く株主の権利実現等を目的として活動を行う『株主の権利弁護団』を設立した。

 弁護団には橋梁弁護団だけでなく、西部鉄道による虚偽記載事件に関する損害賠償請求弁護団の一部の弁護士も参加している。

 2 最近の活動

 (1) オリンパス事件

  ア 事件の概要

 オリンパス株式会社は、バブル崩壊等によって抱え込んだ巨額の含み損のある金融商品を、海外ファンドに買い取らせるといったいわゆる「飛ばし」という手法によって隠蔽し、後に、海外企業買収の際の高額なコンサルティング料の支払や実態とかけ離れた不当に高い価額でのM&Aによる会計処理等の手段を用いて上記「飛ばし」によって隠蔽されていた損失を解消するという不正会計を行っていた。

 2011年8月ころ、雑誌「月刊FACTA」の記事によって、不正会計の可能性があることを知った当時の同社社長マイケル・ウッドフォード氏が、元社長であり当時の会長であった菊川剛らに対して説明を求め、引責辞任を促したところ、逆にウッドフォード氏が解任されることとなった。 不当な解任を受けたウッドフォード氏は、これらの経緯を報道機関を通じて公表したにもかかわらず、オリンパス社は解任の理由を「(ウッドフォード氏と)他の経営陣の間にて、経営の方向性・手法に関して大きな乖離が生じ、経営の意思決定に支障をきたす状況になったことにあり」、不正の疑いがあると指摘されているM&A等に関して「取引自体に不正・違法行為は認められず、取締役の善管注意義務違反および手続的瑕疵は認められない」としてウッドフォード氏の主張を否定した。

 しかし、その後もオリンパス社に対する疑いの目は消えず、結局同社は弁護士と公認会計士から構成される第三者委員会を設置して調査を行うこととなり、上記の不正会計が明らかになった。 これらの一連の騒動によって、同社の株価は、一時期の半値になるほどに急落した。

  イ 弁護団の活動

 弁護団は、株主からの委任を受け、オリンパス社に対して、取締役らの責任を追及するよう提訴請求を行い、さらに監査役及び会計監査人らに対しても責任追及の訴えを提訴するよう提訴請求書を追加した。 オリンパス社は、同社「取締役責任調査委員会」の調査結果をもとに、平成24年1月8日、東京地方裁判所に現旧取締役ら19名に対する損害賠償請求訴訟を提起した(第1訴訟)。

 弁護団は、同月17日、上記オリンパス社による訴訟とは別途、ウッドフォード氏解任に関する取締役らの責任について、株主代表訴訟を提起した(第2訴訟)。

 さらにオリンパス社は、同社「監査役等責任調査委員会」による調査結果をもとに、同月16日、現旧監査役ら5人に対して責任を追及する訴訟を提起した(第3訴訟)。

 弁護団は第1訴訟及び第3訴訟に共同訴訟参加している。

  ウ 今後の展望

 オリンパス社が、自ら取締役ら及び監査役らの責任を追及する損害賠償請求訴訟を起こした点については、一見すると同社のコンプライアンス意識の改善があったかにも思える。

 しかし、同社が起こした訴訟は、ウッドフォード氏解任時の取締役14名のうち11名の責任について不問にしている点及び被告となっている取締役に対しても、第三者委員会設置費用など多額の支出を余儀なくされた点について十分な責任追及を行っていない点について、取締役らに対する責任追及としては不十分であり、同社の自浄作用が健全に働いているとは言い難い。

 弁護団としては、会社の起こした訴訟にオリンパス社の共同訴訟人として関与することで、会社と役員らとの間での安易な和解などで、役員らに対する責任追及が馴れあいとならないよう監視しつつ、ウッドフォード氏の指摘による真実究明の機会を自ら放棄したという、まさに自浄作用の腐敗と言える点について厳しく責任追及を行い、同社におけるガバナンスの抜本的改革を問うていくことになる。

(3) シャルレのMBOに関する株主代表訴訟

  ア 事件の概要

 平成20年9月、シャルレ社は、創業家によるMBOを発表した。

 しかし、大阪証券取引所等に創業家の利益相反行為に関する内部通報が相次ぎ、同年12月、同社によるMBOは頓挫するに至った。

 上記内部通報を契機に設置されたシャルレ第三者委員会による調査の結果、買付側役員(創業家)が、株式買付価格の算定に不当な干渉を行っていたという利益相反行為の存在が事実上認定され、シャルレ社も、社内調査の結果として、MBOの手続過程において買付側の代表取締役による重大な利益相反行為が介在していた事実を認めるに至った。

  イ 弁護団の活動

 株主の権利弁護団は、株主の委任を受け、シャルレ社に対して、MBOにおける取締役らの利益相反行為が善管注意義務違反にあたるとして、取締役らに対して損害賠償請求訴訟を提起するよう提訴請求を行った。

 しかし、シャルレ社は株主に対して、取締役らに対する責任追及を行わない旨の不提訴理由通知書を交付してきた。

 これを受けて、平成21年10月30日、弁護団が、取締役らに対して、上記買付価格の算定への不当な介入行為及びかかる行為を行った取締役に対する監督義務を怠ったこと等の責任を追及する株主代表訴訟を起こした。

 代表訴訟において、弁護団はシャルレ社の保有するMBOに関する資料について文書提出命令の申立を行った。この申立について、平成24年5月8日付で、弁護団が提出を求めた資料の大半につき、シャルレ社に対して提出を命じる決定が出ている。

 かかる文書提出命令は、一般的には内部文書そのものであり民事訴訟法第220条4号ハの「職業の秘密文書」や同号ニの「自己利用文書」に該当するとして提出義務が認められない場合が多い文書についても、広くその提出を命じたものである。

 しかし、文書提出命令に対してシャルレ社から即時抗告がなされており、この結論が出るまでの間は本訴の進行は止まった状態にある。

  ウ 今後の展望

 裁判所が、文書提出義務を認めた理由の中で「MBOは、株式会社の経営陣等が株式を買い取って株式会社の経営権を把握する手法であり、売る側(株主)と買付側(経営陣等)とは、本質的利益相反の関係にある上、情報格差も大きいことが一般的である」というMBOの本質的構造を指摘した上で、その手続過程が適正であったか否かの検証を重視して文書提出義務の有無を判断した点で非常に画期的であり、これは、MBOの適正性を株主代表訴訟の場で検証するうえでも重要な意義をもつ。

 シャルレ社による即時抗告が認められず、原決定が認めたとおりの文書が提出されることになれば、圧倒的な情報格差の中で役員らの責任追及に挑む株主側にとって大きな前進となる。

 (4)吉本興業MBO控訴事件

  ア 事件の概要

 平成21年9月、クオンタム・エンターテイメント株式会社による(旧)吉本興業株式会社(クオンタム社と合併後解散。クオンタム社は合併後商号を吉本興業株式会社に変更。)の株式の公開買付(TOB)が行われることが発表され、(旧)吉本興行もこのTOBに賛同する旨の意見表明を行った。

 その結果、クオンタム社は、吉本興業の自己株式を除く約88.52パーセントの株式を保有することになった。

 これは、株式数でいうと、クオンタム社は3318万余株、残りの一般株主は430万余株を保有することになった。

 (旧)吉本興業は、平成22年1月28日の臨時株主総会で、それまでの株式について、吉本興業が全部を取得できることとする「全部取得条項」を付け、それまでの株式1株につき、新たに発行する「A種類株式」という株式の500万分の1を割り当てるという決議を行った。

 この決議によって、クオンタム社以外の一般株主は、1株未満の株式(端株)しか保有しないこととなった。

 さらに、(旧)吉本興業は、裁判所の許可を得て、端株をクオンタム社に売却した。

 以上の一連の行為によって、クオンタム社以外の一般株主は、完全に吉本興業の経営から排除されるに至った。

  イ 弁護団の活動

 弁護団は、上記の行為によって経営から排除されるに至った一般株主から委任を受け、違法行為差止等請求訴訟(甲事件)及び株主総会決議無効確認等請求訴訟(乙事件)を提起した。

 この訴訟においては、[1]本件株主総会決議の無効確認及び取消の各訴えの利益があるか、[2]本件株主総会決議に瑕疵があったか、[3]本件株主総会決議に関し不法行為が成立するかが主として争われた。

 [2]については、弁護団は、i 会社法108条1項7号の立法経緯や反対株主の保護に鑑み、全部取得条項付種類株式は正当理由がある場合に限って許されると解すべきであること、ii 本件株主総会決議は、クオンタム社とその他の一般株主との間で著しい不平等が発生するため株主平等原則に反すること等を主張した。

 しかし、大阪地方裁判所は、本件株主総会決議の無効確認及び取消の各訴えには訴えの利益がないとして乙事件を却下し、本件株主総会決議には瑕疵はなく、また株主たる地位に留まりたいという希望は法的保護に値しないとして甲事件を却下した。

 現在、弁護団は、控訴して争っている。

  ウ 今後の展望

 第1審判決は、本件株主総会決議に瑕疵がないことについて、「全部取得条項付種類株式制度の利用が濫用にわたるような場合には本件株主総会決議の瑕疵の問題が生じることはありうるけれども、本件では、そのような事情は見い出し難い」と判示している。

 本件は、(旧)吉本興業が、子会社について高割合かつ多額ののれんを計上し、かつ上場後極めて短期間での完全子会社化・上場廃止を行ったことについて、一般株主らによる追及をおそれた同社が、一般株主を排除するために、別の子会社であるクオンタム社による公開買付、その後の全部取得条項付株式の採用を行ったという指摘もある。

 仮にこのような、極めて恣意的な株主の排除のための全部取得条項付株式制度の利用が明らかになった場合、これを制度の濫用と言わずして、何をもって濫用と言うのであろうか。

 弁護団は、控訴審において厳しく争う姿勢である。

 その他の取扱い事件については、株主の権利弁護団の現在の活動(2)に譲ることとする。

 谷川 直人(たにがわ・なおと)
 弁護士。大阪共同法律事務所所属。神戸大学法学部卒。2009年11月司法試験合格。2011年9月弁護士登録(大阪弁護士会)

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