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深掘り

株主の権利弁護団から

シャルレ株主代表訴訟でMBO内部資料の提出命令を大阪高裁も維持

加藤 昌利(かとう・まさとし)

シャルレ株主代表訴訟における文書提出命令抗告審決定

 

弁護士 加藤昌利

 1 はじめに

加藤 昌利(かとう・まさとし) 神戸そよかぜ法律事務所弁護士拡大加藤 昌利(かとう・まさとし)
 神戸そよかぜ法律事務所 弁護士。2003年(平成15年)11月、司法試験合格。2004年3月、大阪大学法学部法学科卒業。2005(平成17年)10月、司法修習修了(第58期)。同月、大阪弁護士会に弁護士登録し、弁護士業務を開始。2010年(平成22年)4月、兵庫県弁護士会に登録替えし、現事務所設立。現在、兵庫県弁護士会消費者保護委員会委員。

 当弁護団が行っているシャルレMBO事件の株主代表訴訟に関して、株価算定の基礎となる利益計画の試算経過を記載した書面、役員ミーティング関連資料、被告取締役が受発信したメール等の内部文書の開示を命じた文書提出命令については、このたび、大阪高裁でも原決定を維持する決定(12月7日の大阪高裁の決定の全文)がされましたので、ご報告させていただきます(大阪高裁平成24年(ラ)第684号事件・平成24年12月7日付決定)。

 

 2 シャルレMBO事件とは

 平成20年9月、シャルレに対するMBO(経営者による自社買収)が発表され、シャルレも当該MBOについて賛同意見を表明していました。

 しかし、当該MBOにおいては、その手続過程において、買付側である創業家取締役が、買付価格の算定に不当に介入するという利益相反行為があり、当時の社外取締役も、かかる利益相反行為を阻止せず、賛同意見表明を行ったとされています。

 このため、当該MBOについて、違法・不公正な行為が行われているとの内部通報が多数寄せられるに至り、シャルレも賛同意見表明から一転して、不賛同意見を表明するに至り、当該MBOは頓挫しました。

 当弁護団では、上記取締役らの行為は、善管注意義務違反に該当し、これによりシャルレが被った損害の賠償を求めて、神戸地裁において株主代表訴訟を提起しています。

 一般論としてMBOには経済的意義もあるでしょうが、他方で、利益相反的構造や情報偏在という問題点を有しています。このようなMBOの病理的側面が顕在化した本件について、株主代表訴訟を提起することを通じて、MBOの問題点に警鐘を鳴らすのが、本訴訟の目的です。

 なお、事件の詳細については、当弁護団のホームページ(http://kabunushinokenri.com/)をご参照ください。

 3 文書提出命令の申立

 株主代表訴訟においては、会社側に情報が極めて偏在しており、密室で行われた取締役らの善管注意義務違反を具体的に特定するには、会社の内部資料の入手が不可欠です。

 本件では、MBOを検証する第三者委員会においても利益相反行為が指摘されており、取締役側・会社側から、利益相反行為を示す内部資料について、株主側に開示して積極的に事実経過を説明すべき責務があるはずですが、十分な資料開示もなされなかったため、株主側は、シャルレに対し、文書提出命令を申し立てるに至りました。

 申立対象となった文書は、[1]取締役の善管注意義務違反を裏付ける資料として、買付側が作成させた株式価値算定書、シャルレ側が作成させた株主資本価値評価報告書、株価算定の基礎となる利益計画の試算経過を記載した書面、役員ミーティング関連資料、被告取締役が受発信したメール、本件MBOに関する関東財務局への報告文書等、[2]シャルレが被った損害額を明らかにする資料として、MBOに関する諸経費の支出額を示す出金伝票や契約書等です。

 4 原決定(神戸地裁平成24年5月8日決定)

 シャルレ側は、当方が提出を求めた文書について、職業の秘密文書(民訴法220条4号ハ)、自己利用文書(民訴法220条4号ニ)に該当し、証拠としての必要性もないと全面的に争う姿勢を示しました。

 しかし、原決定は、実際に裁判官が文書を見るという「インカメラ手続」を経た上で、当方が提出を求めた文書の大部分について、職業の秘密文書性、自己利用文書性を否定し、提出を命じました。

 開示が認められた文書は、買付側が作成させた株式価値算定書、シャルレ側が作成させた株主資本価値評価報告書のみならず、株価算定の基礎となる利益計画の試算経過を記載した書面、役員ミーティング関連資料、被告取締役が受発信したメールなど、取締役間の情報交換に用いられる、内部文書そのものといえる文書も含まれています。

 通常、このような内部文書が株主に開示されることはあり得ず、その意味で、画期的な文書提出命令であるといえます。

 原決定は、このような内部文書の開示を命じることにつき、「MBOは、株式会社の経営陣等が株式を買い取って株式会社の経営権を把握する手法であり、売る側(株主)と買付側(経営陣等)とは、本質的に利益相反の関係にある上、情報格差も大きいことが一般的である。そのため、MBOにあっては、手続過程の透明性、合理性を確保する必要があるとされている(中略)。そうすると、その手続過程の透明性を確保するためには、将来、当該MBOが適正にされたか否かの検証を行うことができる態勢が必要であり、当該MBOの手続過程における意見を含めた資料等が将来の検証の資料とされることが求められる。もっとも、その結果として、当該MBOの手続過程における意見が開示され、自由な意見交換や意見表明等に心理的な制約が生ずることとなるが、このような制約は、MBOの上記特質に照らして一定程度受忍されなければならない」と述べており、MBOの問題点を正面から指摘した上で、株主による検証の重要性を説いています。

 なお、原決定については、当弁護団の白井啓太郎弁護士が投稿した「法と経済のジャーナル」2012年6月1日付の記事も参考にしていただければと思います。

 5 抗告審決定(大阪高裁平成24年12月7日決定)

 (1) シャルレは、原決定に対して、不服申立をしましたが、このたび抗告棄却の決定がされ、原審の決定が維持されました。なお、高裁においても、インカメラ手続が行われています。

 (2) シャルレ側は、内部文書そのものといえる、株価算定の基礎となる利益計画の試算経過を記載した書面、役員ミーティング関連資料、被告取締役が受発信したメールなどが開示されることに強く異議を唱えましたが、抗告審決定は、「本件記録によれば、[1]抗告人が本件第三者委員会による調査結果及び本件社内調査結果等に基づき、本件公開買付けに賛同できない旨の最終意見を表明したため、本件MBOが頓挫したこと、[2]役員ミーティング関連資料等を調査資料とする調査の結果、被告Aらが本件MBOに係る抗告人の意思形成過程において不適切な介入をした事実が指摘されるに至ったこと、[3]上記[2]の不適切な介入に関する事実は、本件最終意見書及び本件改善報告書により公表されていること、[4]上記[3]の調査結果等の公表後、被告Aらは、抗告人内部において、本件MBOが頓挫したことについての経営責任を追及された結果、抗告人の取締役を辞任し、被告社外取締役らも抗告人の社外取締役を退任したこと、[5]本件MBOが頓挫してから約4年が経過し、抗告人の経営体制や経営状態が変化していることが認められる。これらの事実によれば、現時点においては、本件内部文書が開示されることにより、抗告人において、自由な意見の表明に支障を来し、その自由な意思形成が阻害されるとは考えられない。また、本件内部文書に記載されている株価の算定方法、利益計画の作成、買付者側との交渉状況、本件MBOの実施方針、本件MBO実施後の経営方針等の情報は、本件MBOが検討されていた平成20年当時のものであって、現時点のものでないことも伴せると、本件内部文書が開示されることにより他社との競争上不利益を被るなど抗告人の事業の遂行に支障が生じるとは考えられない。そうすると、本件内部文書が開示されても、その所持者である抗告人に看過し難い不利益が生じるおそれはなく、本件内部文書が民訴法220条4号ニ所定の文書に該当するとはいえない特段の事情があるということができる。また、このような結論を採ることにより、作成時には専ら内部の利用に供する目的で作成されていた内部文書が、株主代表訴訟が提起されたときには、開示される可能性があることを危ぐして、文書による自由な意見の表明を控えたり、自由な意見形成が阻害されたりするおそれがないか、という点が問題となりうるが、本件においては、上記[1]ないし[4]のようにMBOの手続過程の適正性を疑わせる相当な理由がある状況のもとに株主代表訴訟が提起され、文書の開示が必要とされるに至ったのであって、株主代表訴訟の提起によって常に開示される可能性があることまで危ぐする理由はなく、本件のように特段の事情がある場合に限り開示される可能性があるにすぎないから、そのような極めて限定された開示の可能性が危ぐされることによる影響は、上記の結論を左右するに足りる程のものとは考えられない。」と述べ、これら内部文書の提出命令を維持しました。

 (3) シャルレ側は、上記(2)の内部文書以外の文書についても、職業の秘密文書(民訴法220条4号ハ)、自己利用文書(民訴法220条4号ニ)への該当性を争いましたが、抗告審決定は、既にMBOが頓挫し、約4年が経過していることなどを指摘し、そもそもこれらへの該当性を否定し、文書提出を命じました。

 日々経営環境が変化する中で、数年前の頓挫したMBOについて職業の秘密や自己利用文書に該当しないというのは当然の決定と言えますが、原審・抗告審の流れからすると、MBOに関する基礎資料については、いずれは必ず開示が求められると考えるべきで、MBOにおける、株主側への積極的な情報開示を後押しする決定といえます(内部文書そのものといえる文書についても、上記(2)のごとく、「特段の事情」を個別判断した上で、開示が求められることになるといえます)。

 (4) 抗告審決定も、手続過程の適正性に問題があるような不当なMBOについては、内部文書を開示されないという会社側の利益よりも、株主による検証を優先するという判断を明確に示しており、原決定の姿勢と共通しています。

 原決定も抗告審決定も、MBOの病理的側面に鑑み、株主によるMBOプロセスの検証の重要性を正面から認めたものと評価できます。

 6 まとめ

 MBOについての取締役責任が追及される訴訟において、株価算定の基礎となる利益計画の試算経過を記載した書面、役員ミーティング関連資料、被告取締役が受発信したメールなどの内部資料の開示を命じる画期的文書提出命令が、地裁のみならず、高裁レベルでも発せられた意義は、極めて大きいといえます。

 証拠偏在型訴訟の典型である株主代表訴訟において、会社内部での取締役の議論過程を示す内部文書の開示がされることは、極めて稀であり、今回の文書提出命令は、MBOの適正性を検証しようとする株主にとって、極めて大きな武器になります。

 地裁、高裁とも、手続の適正性に疑念のあるMBOについては、たとえ内部文書であっても、株主による検証にさらされるべきであるという姿勢を打ち出しており、MBOの問題点を踏まえた妥当な決定です。

 本件のごとき不公正なMBOを実施すれば、MBOのプロセスについての内部資料の開示を通じて、株主によるチェックを受け、違法・不当な行為があれば、それが白日の下にさらされることになるのですから、MBO実務に与える影響も大きいと思われます。

 今回の文書提出命令が、不当なMBOへの牽制となり、今後のMBOの公正・健全な発展に資することになればと思います。

 ※補足
 今回の大阪高裁決定に対しては、シャルレ側から特別抗告、許可抗告の申立がされました。

 加藤 昌利(かとう・まさとし)
 神戸そよかぜ法律

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加藤 昌利(かとう・まさとし)

 神戸そよかぜ法律事務所 弁護士。
 2003年(平成15年)11月、司法試験合格。2004年3月 大阪大学法学部法学科卒業。2005(平成17年)10月、司法修習修了(第58期)。同月、大阪弁護士会に弁護士登録し、弁護士業務を開始。2010年(平成22年)4月、兵庫県弁護士会に登録替えし、現事務所設立。現在、兵庫県弁護士会消費者保護委員会委員。

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