メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

深掘り

東電原発事故テレビ会議映像詳録

水位計に惑わされて幻の「核燃料冠水」を発表

(3) 3月12日午後11時58分から3月13日午前3時52分まで

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 福島第一原子力発電所(1F)が2011年3月11日に地震と津波に襲われたときから、東京電力は東京の本店と福島第一原発の緊急時対策室を専用回線で結んで、テレビ会議を開いてきている。その録音・録画の一部が東電本店で記者に限定公開されている。その内容をここに連載で紹介していく。その第3回。

  ▽筆者:奥山俊宏

  ▽注:一部の音声が東電において「ピー」音で聴取不能とされており、また、「ピー音」がなくてもよく聞き取れない言葉があり、それらについては適宜「●●」や「○○」「peee」「piiii」などの表現で示しました。

  ▽注:下線はAJ編集部において引きました。

  ▽関連記事: 東京電力に関連する記事

  ▽関連記事: 水漏れを疑いながら「満水」を報告 東電が福島第一原発1号機で

  ▽この連載の1回目の記事: 3月12日午後10時59分から午後11時13分まで 「『イラ菅』はとにかくよく怒るんだ」と武黒フェロー

  ▽この連載の2回目の記事: 3月12日午後11時13分から11時57分まで 震災翌日深夜「免震重要棟内で毎時70μSvの被曝」

 

本店●●:1F吉田さん。●●ですけど、聞こえますか?

 3月12日午後11時58分、福島第一原発の吉田昌郎所長に本店が呼びかける。背もたれに身体を預けていた吉田所長が、いすに座りなおし、マイクに向かう。

 

1F吉田所長:はい、聞こえます。

本店●●官邸から、――今の情報をお伝えしたんですが――、「それで現時点で海水注入、注水が何時ごろに終わるだろうかってなんて見積もられますか」って話がきてるんですけど。

1F吉田所長:えっとですねぇ、海水なんで、あれ、量がはっきり測れてないよなあ? あのさ、タンクから入れてんだったらワンタンク40トンってぱっと出るけど、だいたい今までのあれからいって1トンパーミニッツという時間で見てるだけなんで。まだせいぜい6、70トンぐらいかな。1時間半。90トンぐらいかな? やっぱり、もう、あと2時間ぐらい……

本店●●:2時間ぐらいはかかりそう?

1F吉田所長:うーん……。

本店●●:オーダーだとそんなとこね。

1F吉田所長:うん……ざっくりね。

本店●●:ざっくりでいいです。

1F吉田所長:うーん…

本店●●:じゃあ、2、3時間くらいの感じですか。

1F吉田所長:そうですねぇ。

 1号機の圧力容器の容積は約280立方メートル(注1)。1トンの水がほぼ1立方メートルだから、1トンパーミニッツ、すなわち、1分間に1トンずつのペースで水を入れていけば、280分、つまり、4時間40分ほどで、もともとが空だったとしても、水でいっぱいになる、と計算することができる。東京電力の当時の対外的な説明によれば、海水注入を始めたのは12日午後8時20分だとされており、この会話の時点で3時間40分ほどが経過している。実際には午後8時20分ではなく、午後7時4分に海水注入は始まっていたが、この時点ではそれは隠されていた。いずれにせよ注水が始まってから数時間が経過しているのに、水位計の計測値は午後8時8分にマイナス1700ミリ、午後11時にマイナス1750ミリと、ほとんど変化がない。マイナス1700ミリというのは、燃料棒が上端から1.7メートルほどにわたって気中に露出していることを意味する。水位計が壊れて動かなくなってしまっているのか、それとも、水が溜まることなく漏れているから水位が上がってこないのか、判然としない。吉田所長の「うーん」「そうですねぇ」という言葉には自信なさそうな迷いのトーンが混じっている。しかし、12日午後11時59分、本店側は断定的にそれを引き取る。

 

本店●●:了解。ありがとうございました。

 午後11時59分、吉田所長は再び身体をいすにもたれかけさせ、黒っぽい色のズボンをはいた左足を机の上に載せる。その左足の上に右足を重ねて置く。30秒後、ワイシャツ姿の小森常務が本店の画面の左側から現れ、自席の椅子にかけていた上着をはおり、また、左側に消える。

 13日午前零時11分、オフサイトセンターの画面が真っ黒になる。

 午前零時25分、沈黙が破られる。

 

本店●●:1Fさん、本店●●ですけど、聞こえますか?

 机の上に載せられていた吉田所長の足が引っ込む。吉田所長の上体が机に向かう。別の所員が本店の呼びかけに「はい」と答える。

 

1F:1F、聞こえます。

本店●●:いまちょっと本店から「教えてほしい」って言ってるんですけど、1F3、いま、HPCIで炉水位を確保してますよね?

1F吉田所長:はい。

本店●●:で、あれ、ずっとCSTから送ってます? なんか「サプチャンの水位がいま高くなりすぎてないかな」っていま言ってたんですけど。

 本店の画面の構図が正面から移動していく。左手前にいる男性を映し出す。原子力運営管理部のトップとよく似た風貌の男が右手でマイクを手に話をしている。ワイシャツの上にネクタイと上着を着込んでいて、さらにその上に黄色いビブスをはおっている。黄色地に白文字のビブスは「官庁連絡班」である。

 「HPCI」というのは高圧注水系のこと。ECCS(非常用炉心冷却システム)の一つだ。3号機は11日に津波に襲われて全交流電源を失った後も、1号機や2号機と異なり、バッテリーの直流電源が生き残っており、12日午後零時35分、「原子炉水位低」を検知して高圧注水系が自動的に起動していた。「CST」というのは復水貯蔵タンクのこと。高圧注水系は、原子炉蒸気を駆動源にしてポンプを動かし、復水貯蔵タンク内の水を原子炉に入れ続けている。「サプチャン」というのは格納容器の下のほうにある圧力抑制プール(サプレッションチャンバー)のことで、ここにも水があり、その水を原子炉に入れるように切り替えることができる。

 

1F吉田所長:ちょっと確認します。

本店●●:はい。お願いします。

 13日午前零時26分、官庁連絡班の男は、右ひじを机の上に置き、右手で口の周りを触っている。

 午前零時28分、福島第一から返答がある。

 

1F●●:すいません、3号機はですね、やっぱりそのHPCI、あのCSTからかな? ずっとやってるんで。ちょっとサプチャンに水源切り替えしようかなって話をいましてます。ちょっといま2号確認中です。

本店:本店了解しました。ありがとうございました。

1F●●:あ、ごめんなさい。2号はもう切り替えました。

本店:はい、了解しました。

 2号機では、3月11日の津波来襲の前から、隔離時冷却系(RCIC)によって復水貯蔵タンク(CST)の水を原子炉に注入していた。しかし、12日午前4時20分、復水貯蔵タンクの水の枯渇を避け、かつ、圧力抑制プール(サプチャン)の水位上昇を避けるために、復水貯蔵タンクではなく、圧力抑制プールの水を使うこととし、午前5時までに切り替えを完了していた。

 13日午前零時39分、本店から福島第一に問い合わせがある。

 

本店●●:1Fサイトさん。本店●●ですけども。

1F:はいはい。

本店●●:いまちょっと質問が役所から来ているみたいなんだけれども、注水をずっと1号継続してタフクリアして注水してったときですね。で、ずっと注水してって、例えば、SR弁とかどっかで多分バイパスしてるので、格納容器と均圧になってると思うんですが、そっから格納容器に溢れさせて、どんどん格納容器にも注水するってとこまで考えてらっしゃるかどうか。

 「SR弁」というのは、原子炉主蒸気逃がし安全弁(Safety Relief Valve)のこと。圧力容器の上のほうからタービンに向かう主蒸気管に取り付けられており、格納容器の圧力抑制プールに圧力容器内の気体を適宜導いて逃がす役割を負っている。「SR弁でバイパスしてる」というのは、SR弁が何らかの故障で、たとえば、閉まらなくなって開きっぱなしになってしまい、圧力容器内の気体が格納容器に抜け続けるような状態を指していると思われる。圧力容器内の圧力は当時、ゲージ圧で0.368メガパスカル、絶対圧で469キロパスカル前後を推移しており、一方、格納容器(ドライウェル)の圧力は12日午後3時35分ごろの時点で540キロパスカルだった。誤差を考えると、圧力容器と格納容器の圧力はほぼ同等で、それを指して「均圧」と言っていると思われる。これはすなわち、圧力容器の閉じ込めの機能が喪失したことを意味する。

 「タフ」というのは、有効燃料頂部(Top of Active Fuel)の頭文字「TAF」から、そう呼ばれている。燃料棒の上端の高さを指す。圧力容器に注水を続けると、水位が上がって、タフを上回り、やがて、SR弁がある高さに達して、そこから水があふれて、格納容器に水が出ていき、格納容器に水が溜まるようになる、という見通しがここでは語られている。実際には、12日未明までに圧力容器の底部が溶融燃料で破られて格納容器と圧力容器が均圧になったのだとみられ、この当時、圧力容器に入った水はその底からどんどん格納容器に抜けていた可能性が高い。格納容器は「Primary Containment Vessel」の頭文字をとって「PCV」と呼ばれる。

 本店の画面の構図が再び左に移動し、官庁連絡班の男を映し出す。右手でマイクを持っている。

 

1F●●:格納容器の水位と格納容器の圧力が分からなくって、適正な制御がいまできない気がしていまして、計器が生きるまでは、PCVで水没させようと思ってます。

本店●●:計器が生きるまではとにかくPCVに……水……

1F●●:ええ。満水に、どんどん……はいはいはい。

本店●●:PCVも満水な?

1F●●:満水を考えてます。それで途中でサプチャンの水位がもし生きれば、ベント管まで没水(ぼっすい)させる必要はないので。

本店●●:ないので、サプチャンの水位までで終わると。

1F●●:そうです、そうです、ええ、ええ。それもベッセルの水位とドライウェルの圧力とサプチャンの水位とコントロールできる状態、見れる状態だったらもうちょっと考えますけど、でなければ全部……。

本店●●:でなければ格納容器満水まで持ってくと……。

1F●●:はい。

本店●●:了解。

 午前零時40分、本店の男は「了解」と言って納得する。格納容器(PCV)は、上のほうにあるドライウェルと、下のほうにある圧力抑制プール(サプチャン)とで構成される。「ベッセル」というのは容器のことで、ここでは圧力容器を指しているとみられる。それぞれの水位や圧力を把握できない状態であるため、とにかく入れられるだけ水を入れて、圧力容器だけでなく、格納容器にまで水をあふれさせる結果になってもかまわないと現場では考えている。

 このやりとりについて、東電の広報部は記者の問い合わせに対して2012年10月4日、以下のように回答した。

 

 ご指摘のように、13日0時39分頃の本店と1Fの会話は、原子炉圧力と格納容器圧力がほぼ均圧状態であることから、どこかでつながっているものと考えてのやりとりであるが、「例えば」と発言しており、その箇所について特定しているものではない。

 また、会話の趣旨は、原子炉へ注水を継続した場合、いずれつながっている箇所から水が格納容器側へ流入することとなるが、どのようなレベルまで注水を行うのか議論したものである。

 

 圧力容器の底部が破られたことをまったく認識しない前提のやりとりとなっていることについては、東電広報部は以下のように答えた。

 

 ここでの本店と1Fとのやり取りは、原子炉圧力と格納容器圧力がほぼ均圧になったことで、その箇所は特定できていないがどこかで通じていることを認識したうえで、原子炉への注水がやがて格納容器に流れ込むことから格納容器のどのレベルまで注水を行うのかを議論したものである。

 

 圧力容器の閉じ込め機能が喪失したことについては、当時、発表されてはいなかったが、東電広報部はこれについては次のように説明した。

 

 当時、均圧になった原因のひとつとして原子炉冷却材圧力バウンダリの損傷の可能性も考えられていたが、それを断定できるまでの確実な情報を持ち合わせていなかったことから、公表に至らなかったものである。

 

 2011年3月13日午前零時41分、福島第一の保安班が放射線量の情報の読み上げを始めようとする。

 

1F保安班●●:保安班から環境モニタリング結果の情報を共有いたします。peee

 保安班の声が途切れる。「すぐ行ってくれって。だれいます?」という声が聞こえる。

 

1F保安班●●:モニタリングポスト8番付近24時で5マイクロシーベルト/hour、正門におきまして24時で3.16マイクロシーベルト/hour、モニタリングポスト4番におきまして、45マイクロシーベルト/hourとなってございます。全体的に見まして、大きくふれるようなことはなく、高値安定というようなところもございます。以上です。

 午前零時42分、本店の画面には官庁連絡班の男が映っているが、別の男がマイクに向かって話し始める。

 

本店●:ちょっとすいません、本店ですけど割り込ませてください。いまほどpeee「圧力容器、満水まで持ってきますよ」の「圧力容器満水」って、時間的なイメージとして、「今夜中にいくよ」っていうイメージなんですか? 何時頃までのイメージでしょう?

1F●●:ちょっとそこまで計算してないですけど、いま入れているのが1立米パーミニッツぐらいで入れてますから、そんなにすぐに満水にならないと思うので、なのでちょっと水位をその間に早く生かせて、生き返らせて、と思ってますんで、そこまでまだ計算していません。計算しておきます。技術班で。

本店●:そうだね。時間が何時ってあんまりイメージしてないみたいですね。

 本店で福島第一に質問を発した男は、その質問の一方で、電話でどこかに報告をしているようだ。電話の相手の声が小さく聞こえるが、内容は聞き取れない。

 

1F●●: そう、最初のときにはですね、もともと連続注入できなかったんで、ポンプに積んでるだけ入れてしかも地震が起きたら退避してってことをやってたんで。3分注水して15分、次のまた給水に行ってみたいなことだったのでそういう時間管理してませんでした。時間管理っていうか、何時ぐらいにこうなるっていうのが……。

 本店の画面の構図がやや左に移る。官庁連絡班の男の隣で電話をしているワイシャツ姿の長髪の男を映し出す。原子力復旧班の緑色のビブスをつけ、メガネをかけている。

 

本店●:じゃあちょっと目安はまだあんまり計算してないけど、この調子でいけばいつぐらいっていうのは評価すればだいたい何時(いつ)かっていうのは分かるっていう。

1F●●:と思います。

 午前零時44分、音声が途切れる。緑色のビブスの男は引き続き電話で話をしている。

 前夜、午後8時50分から総理大臣官邸で開かれた記者会見で、枝野幸男官房長官は「原子炉容器を海水で満たす措置に20時20分に着手した」と発表していた。その際の質疑応答で、毎日新聞の記者が「完了見込みの時間は何時でしょうか」と満水の見通しを質問したのに対して、枝野長官は「ポンプの稼働の状況等々によって正確にあらかじめ決めることができるわけではありませんが、ま、おおむね5時間からプラスアルファ数時間という範囲内ではないだろうかというふうに考えております」と答えていた。さらに住民避難と「満水」との関係を問われた枝野長官は「5時間プラスアルファ、ま、5から10くらいの間と想定していただければと思いますが、その段階でいったん様子を見ます。それで放射線の量等のモニタリングをしっかりいたします。その状況等を踏まえてその時点で判断していきたいと思っています」とも述べていた。避難していた住民が元に戻るための検討のスタートが「満水」であり、それが見込まれるのが「5時間プラスアルファ」だった。午後8時20分を起算点とすれば、午前1時20分、「5時間」は経過する。それが目前に迫っている。

 午前零時45分、音声が復活する(注2)

 

本店●:あ、了解、あ。●●さん、●●さん。えっと、よろしいですか? 聞こえてますか?

1F●●:はい、聞こえてます。

 原子力復旧班の緑色のビブスの男は左手に電話を持ったまま、マイクに向かっている。

 

拡大3月13日午前零時45分ごろの東電テレビ会議の場面=東京電力が2012年10月5日に公開した映像「本01-2」(tv002)から

本店●●:なんかね、官房だか官邸だかのほうで、のプレス発表で、もともと「1時ごろに目標までいくよ」というふうに聞いてたもんで、「1時頃までに終わるよ」って言っちゃいそうなんだけど、いまの話だと、このくらいまでかかります、かかって満水にしますってことだから、その数字をエイヤで計算してこんなもんって言ってあげないと何となくこのままだと「1時に圧力容器満水になります」っていうふうにプレスでしゃべってしまいそうな勢いらしいんです。正しい数字は……

1F●●:逆に、助けてほしいんですけども。1時っていうのはどっから?……たぶんうちから出ているんですよね?

本店●●:1時っていうのはたぶん官邸の中でいろいろ武黒さんが話をしている中で出てきた目安みたいな数字なんだと思います。

 「プレス」は報道を指す。「プレス発表」は報道発表を意味する。「武黒さん」というのは、原子力部門を率いる副社長を務めた経験のある東電首脳の一人、武黒一郎フェローのことで、当時は、東電を代表して総理大臣官邸に詰めている。

 官庁連絡班の黄色いビブスの男が左隣から「『満水』って言ってたのかな? タフのつもりじゃ」と言葉をはさむと、原子力復旧班の緑色のビブスの男は「タフのつもりで言っていたのかもしれない」とそれに同意し、黄色いビブスの男の「タフかもしれないね」という声がそれに重なる。「タフ」というのは、核燃料が水没する高さの水位を指す。

 しかし、緑色のビブスの男は電話を耳にあてて、4秒後、「あ、『満水』って言ってたんだって」と付け加える。黄色いビブスの男は「ああそうなの。じゃあ、違うな」と言う。

 緑色のビブスの男は笑顔で電話でのやりとりを続けつつ、それを紹介していく。

 

本店●●:「満水が1時くらいじゃないか」と話してたのが頭に残ってるらしい。peeeあ、ええ、そうすると、満水何時頃とか分かります? あ、もしもし?

1F●●: 先ほども言ったように、どっちでいくかっていうのも明確にはまだ水位計が生きてないから決めきれてなくて……ただあの、ルール上というか、約束事としては、ベント操作が必要とされるようなときはこうしろとかCCSとかシャットダウンクーリングの復旧の見込みがない場合は……

本店●●:あ、もしもし?

 「CCS」というのは格納容器冷却系のことだとみられる。本店の原子炉復旧班の男は電話に向かって話をしているが、福島第一の所員は、自分を相手に話をしていると思い込んでいるようだ。

 

1F●●:……えっとー満水にするとか。

本店●●:はい、はい。

本店●●:あ、もしもし?

 それまで電話に向かって話をしていた本店の男が福島第一との会話に戻る。

 

本店●●:正確に決めるのが難しいんだったら、釜を満水にするのに必要な容量に対していま1立米ぐらいで入れているから所要時間何時間で何日とかそのぐらいの感じでいいんですけど……
ああ、はい、なるほど、了解、了解。
満水になるのを皆待ってんだって。あの、官房とか大臣、官房、官邸とかで
ええ、ちょっと待って下さい。
だからエイヤとこんなもんですって……

 午前零時48分、吉田所長が会話に加わる。水位計による計測の結果では、水位は、燃料棒の上端であるタフよりも170センチ低いところにあることになっている。

 

1F吉田所長:あの、いまも言ってるけど、いまの水位が完璧にいくらか分からないから何時というのは言えないんですよ。だから、いまのやつがマイナス170を前提として何トンで満水かということをざっくり出して60トンパーアワー? で割るというのをちょっと出してみますから。

本店●●:ええ、そういう前提でいいと思います。じゃぁ(注3)、ちょっとお待ちしてます。

 13日午前零時49分、原子力復旧班の緑色のビブスの男が電話を耳にあてて、電話でのやりとりを再開する。

 

本店●●: あ、もしもし、いまの水位計で見えてるところから差分を容量で入れていくと、このぐらいの時間っていうので、ざっくり出してみますということだそうですので。出してくれます。いまこれからささっと計算をしますから。ちょっと計算するあいだ待ってください。

1F●●:すみません。いま待っている間お時間いただいてもよろしいでしょうか。

本店●●:はい。結構です。

1F●●:私、放射線管理班の●●と申しますが、きょう、自衛隊のかたが発電所に応援に来ていただきました。オフサイトセンターに戻りましたら4ベクレル以上の身体汚染を確認しているそうです。同事象が柏崎のメンバーにおいても、さくじつ手伝いにきてくれたかたが柏崎に戻った際に4ベクレル以上の身体汚染等を含んで、まだ柏崎の発電所にいらっしゃいます。この原因としてはいっさくじつの1号機の粉砕された、こまい粒子状放射性物質が満べんなく発電所内に飛散したものと思われます。で、どのへんまで汚染しているのか、バックグラウンドが高くていまのところは確認出来ません。もしあす以降ですね、多方面から応援に来ていただくかたが汚染させずに出すのであるならば、ある外側からの距離をもった、極端でございますがオフサイトセンターから出る際に、タイベック、プラス、チャコールマスク、プラス、靴、手袋等の厳重装備をした上で、汚染してもかまわないトラックで入ってきて、そのトラックについては1Fから出さないというような形になるかも分かりません。このようにしない限りは、せっかく手伝いに来ていただいているかたの放射線防護上、汚染という形を守るということは難しいかなと思ってます。線量については各自peee

1F●●:●●さん、本店の安全グループさんって周りにいますか? 安全関係のかたって。

 午前零時51分、原子力復旧班の緑色のビブスの男は電話を耳から離し、立ち上がって席から離れ、5秒後、また戻ってきて、マイクに向かう。

 

本店●●:●●さんがいます。

1F●●:●●さん、●●ですけれども、本来であれば注水してサプチャンの水位をベント管が埋没しない程度のレベルで、要は、ベント機能を残した状態で、コントロールしながら注水するというのがいいと思うんですけれども、いまRPVとPCVの間に水が流れるラインが形成されている可能性が高いのと、サプチャンの水位が見えていないので、当面はPCVの中でRPVごと没水させて冷やすということを考えているんですけど、そうすると最終的には熱の逃(に)がし場が無くなるんじゃないのという懸念をいま言われていて、それってどうなんですか。

 「RPV」というのは「Reactor Pressure Vessel」の頭文字で、原子炉圧力容器のことを指す。その外側に格納容器(PCV)がある。圧力容器から格納容器に水が漏れ出るルートができてしまっている可能性が指摘されている。そのため、格納容器を水で満たして中の圧力容器をまるごと水没させる方策が思案されている。ただし、格納容器の水位を上げ過ぎると、内部の高圧の気体を外部に抜く「ベント」のための配管の入り口が水没してしまい、ベントの機能が失われてしまう。

 本店の画面の構図が左に流れていく。緑色の地に「原子力復旧班」の文字が白抜きで表示されているゼッケンのようなビブスをまとった男が座っているのが映し出される。福島第一の所員の話をうなづきながら聞いている。原子力設備管理部の原子炉安全技術グループの責任者だとみられる。

 

本店 原子炉安全技術グループ○○:あの……、実はそれってほとんど想像したことが無いやつでですね。普通だとやっぱりウェットウェルを残しておいて炉注に回してっていうことをやるんだと思うんですけど、だけど、いつか必ずサプチャン埋まっちゃうので、そのときはしょうがないんでドライウェルベントを併用していくっていう形になって、だけど、それでもやっぱりどんどん水位が上がっていくので、いつかは埋没するんですよね。ヒートシンクが無くなるっていうことに関していうと、ここから先、私、確認したことないですけど、ドライウェルの上部でどっか抜けるパスが無いのかということなんですけどね。

 原子炉安全技術グループの男は左手で首を触りながらマイクに向かっている。ウェットウェルというのは、圧力抑制プール(サプチャン)のことで、そこには、外界へと向かうパイプに通じるウェットベント用の通気口がある。炉内の熱によって水が水蒸気となり、外界に換気されることで、炉内の熱は除かれる。これがベントである。ヒートシンク(heat sink)というのは、炉内の熱を最終的に持っていく熱の捨て場というような意味である。圧力抑制プールが水でいっぱいになれば、通気口が水没してしまい、ウェットベントができなくなってしまう。さらに水位が上がれば、格納容器の上部のドライウェルの腹にあたる部分にあるドライベント用の通気口も水没してドライベントもできなくなってしまう。そういう事態を恐れている。

 

1F●●:はい。

本店 原子炉安全技術グループ○○:無い?

1F●●:えーと、ドライウェルベント? サプチャン側じゃなくて。

本店 原子炉安全技術グループ○○:ドライウェルベントまでは、一応ありえると思っていて。

1F●●:はい。そう思います。

本店 原子炉安全技術グループ○○:ただドライウェルベントも、ちょっとエレベーション忘れましたけど、必ずしもそんな上のほうじゃなかったんじゃないかと。

1F●●:そうすると、MSラインみたいなところから抜くことを考えるか、いまの……

 ウェットベントができない場合は、次善の策としてドライベントを考えざるを得ない。しかし、そのドライベント用の通気口のエレベーション、すなわち、高さもそんなにあるわけではないから、水位を上げていけば、いつかはベント用の通気口がすべて水没してしまう恐れがあると考えられた。

 13日午前零時54分、吉田所長が口をはさむ。

 

1F吉田所長:あのね、ごめんごめん。いまの話をゆっくりすればいいんだけど、官邸がさ、満杯になるとりあえず目安の議論をしているから、その計算だけ先にしといてよ。

1F●●:そうすると、ドライウェルの空間ボリュームは3000トンで、それを60トン/hourで割ると、大体……

1F吉田所長:違う違う違う。ドライウェルまでいくんじゃなくて、要するに通水しているか分かんないけど、単純にベッセル満水、ツーツーになってないとしてベッセル満水までのボリュームに対していまはどのぐらいなんですかっていう質問だと俺は思ってるんだけどいまの質問は。違うの?

本店●●:イエス。それでいいです。

1F●●:であれば120トンがベッセルの内包水なんで、そうすると60トン/hourだと2時間で……

1F吉田所長:もう本当は入っているはずなんだよな。

1F●●:はい。水位がそんな水位になっていなくて、まだタフぐらいなので。

拡大3月13日午前零時54分ごろの東電テレビ会議=東京電力が2013年3月29日に公開したビデオ「本2-1」から

本店 原子炉安全技術グループ○○:すみません、その件はですね。はっきりしてないんですけど、もともと、きょうの昼過ぎあたりから消防車で注水を始めたころに水位が上がらなかったじゃないですか。

1F●●:はい。

本店 原子炉安全技術グループ○○:あれで変だなぁと思って、あれをいろいろ考えたんですけど、いくつかその可能性があって、ひとつは水位計がおかしいんじゃないかって思ったんですけどね、もうひとつあるのは、あのレベルでどこかにその穴があいているかもしれない。ベッセルに。ベッセルか、あるいは、そのPLRか

 「PLR」というのは原子炉再循環系(Primary Loop Recirculation system)のことで、「原子炉内の冷却水を原子炉圧力容器から取り出し、ポンプで昇圧し原子炉に戻す強制循環系統」である(注4)。頑丈な圧力容器に穴があって、そこから外に原子炉再循環系の配管が引き出されており、そのつなぎ目はほかより脆弱だとみられる。そこから水が漏れ、だから水位がある一定の値で止まり、いくら水を入れても上がってこないのではないか、という推測である。

 この筋書きは、PLRの配管の出入り口がタフから1,700ミリほど低い場所にあるのならば、辻褄が合う。しかし、実際には、PLRの配管はそれよりも2,000ミリ以上も低い場所にあった。東電によると、1号機の場合、PLRの入り口(ノズル中心)の高さは原子炉圧力容器底部から4,597ミリ。PLR出口(ノズル中心)の高さは圧力容器底部から3,150ミリ。タフは圧力容器底部から8,790ミリの高さで、燃料棒の長さは4メートル弱だから、PLRは燃料棒の下端より低い場所にあった。しかし、テレビ会議でのやりとりではそこまで話が及ばない。

 

1F●●:はい、はい。

本店 原子炉安全技術グループ○○:そういう状態だと、それ以上、水位が上がらないっていうことになるので、だからマイナス1700でしたっけ。peeeその位置に何かリークするような箇所があるかもしれないっていうふうに思っているんですよ。つまり、いくら水入れてもそれ以上水位が上がらないのは、みんなドライウェルに落ちてるんじゃないかと。

1F●●:それはわかるんですけども、いま質問をいただいているのは、もしベッセルが埋没するのはいつなのという問いに対しては、120トンに対して60トン/hourだから2時間ですと。ただし、2時間経っても水位が明確に回復していないので、もう少し満水操作を続けますと。じゃそれはどのぐらいなのと言われると……

 午前零時56分、本店の別の男が口をはさむ。

 

本店●●:すみません、なんかもうニュースで言っちゃったそうです。「1時に圧力容器満水になりました」って。

1F吉田所長:それはそうじゃない。

本店●●:で、現実に満水になるのは何時頃ってことにしましょうか。あと2~3時間って言ってたのはタフですよね。

1F吉田所長:いまの話で言っているように、容量そのものはそんなに多くないからね。いまの60トン入ってるかどうかっていうのもちょっと若干その流量計が無いから分かんないところもあるんだけど、2時間だったら本当は満水になっているはずが、なっていないというところなんです。それでだから今までだからちょっとあれで動かしてたつもりなんだけど、なんだ、あの、津波で現場を離れてたんで、これからそのぶんを取り返すんで、あと2時間程度まずやってみると、それくらいだと思うんだけどな。

本店●●:なるほど。そういうことですね。えっと実際満水になると分かるんでしたっけ。今回満水までやって。

1F吉田所長:いえ、だからさっきから言っているように流量計も信じられないし、いま●●さんが言っているみたいに、ベッセルにどこかバイパスラインが出てると、水が全部ドライウェルに溢れちゃうから、ベッセルは満水にならない可能性もあるわけですね。

本店●●:そうですね。

1F吉田所長:だけど、とりあえずいまあの、あれが、水位計がおかしいのじゃないかという前提で、もうあのどんどんと水を入れていきますと。あと2時間ぐらいは連続して入れたいと、こういう事だと思うんです。

本店●●:そうするとあと2時間ぐらいで満水っていうイメージでいいって事ですね。そういう事か。

1F吉田所長あんまりね、満水満水っていうと、いまのその「バイパスラインがある」っていう話とのバランスが分かんなくなっちゃうから、そこだけは気を付けてほしいんだよ。

本店●●:なるほど。分かりました。そうするとあれですね。今回の作業の一区切りっていうのは、あと2時間ぐらいじゃないかと思っているっていう、そういう事か。

1F●●:はい。それでお願いします。

本店●●:とりあえず、はい。

 午前零時59分、官庁連絡班の男が話し始める。

 

本店●●: 1Fさん、本店●●ですけども、官邸から、福島第一2号機、3号機のベントは許可になりました。

1F●●:はい、ありがとうございます。

本店●●:はい、ただし、ベントをするにあたっては、2号から先にやるか3号から先にやるか同時にやるのか、それを教えてくれ、それからベントと言ってますので、いま1Fさんは最後1弁残してラプチャだけにはしないと聞いてますので、まだ実際ベントする時期は未定ということなので、そういうふうに回答しておいていいですか?

1F●●:はい、お願いします。

本店●●:はい、了解。

 本店で「安全関係のかた」と呼ばれていた黒縁メガネをつけた男が話し始める。

 

本店 原子炉安全技術グループ○○:すいません、1F3なんですけど、サプチャンの水位のトレンド見たんですが、そのトレンド当然そのまま延長していくと、サプチャンがですね、きょうのお昼ぐらいに満水になっちゃうんですよ。その原因は何かというと、CSTが第一水源で、サプチャン水位高(すいい・こう)で第二水源のサプチャンに変わるはずのところをたぶん電源が無くて変わってないと思うんです。

1F●●:3号機でいいですか?

本店 原子炉安全技術グループ○○:3号です。

1F●●:はい、はい。

本店 原子炉安全技術グループ○○:なんで、切り替えを早めにやるべくやったほうがいいんじゃないかと。

1F●●:はい、切り換えやる予定でいます。いまこれ質問されてるわけじゃないですよね?

本店 原子炉安全技術グループ○○:質問じゃなくて、そういうふうに気がついて動いているのかどうか見えなかったので。

1F●●:はい、サプチャンの温度が分かんないんでまだ切りかえてませんけれども、そうなる前に切りかえます。

本店 原子炉安全技術グループ○○:温度じゃなくて水位ね。

1F●●:分かってます、分かってます。

1F●●:すみません。1Fサイト放射線管理班のほうから連絡します。国のほうから質問がありまして、地震以降に被曝した人数について要求されております。答えといたしまして、3月の11日から12日の2日間で、320人のかたが被曝していることになります。0(ゼロ)の人は含まれておりません。被曝した人だけ入れました。しかしある人が、4回APDを借りて0.01ずつ4回被曝しても、回数としては4回となります。これで集約しましたので、本店のほうに送りたいと思います。

 「0の人」というのは、「測定で値が出なかった人」を意味する。

 しばらく無音が続く。原子力復旧班の緑色のビブスをつけた長髪の男が笑顔で電話に向かっている様子が無音の画面に映っている。午前1時3分、電話が終わると、あくびをしながら、背伸びをする。両手を後頭部の後ろで組んだまま身体をいすにもたれかけさせる。

 午前1時6分、本店が福島第一に問い合わせる。

 

本店:1Fさん。●●ですけど。海水の注水再開してるかどうかなんて分かります?

1F●●:いま消防車のポンプで注水してますが、そのポンプを止めておりませんので、ずっと注水しっぱなしだと思ってます。それを今現場に確認に行ってます。

本店●●:確認に行ってるね。まだ現場には着いてないのね。

1F●●:もう行ってますが、まだ連絡ありませんので。

本店●●:連絡無いね。じゃあ連絡きたら教えてください。

1F:分かりました。

 2分40秒ほど無音が続いた後の午前1時9分、福島第一の保安班が放射線量の読み上げを始める。

 

1F●●:保安班から連絡いたします。モニタリングポストのサーベイデータを共有したいと思います。零時30分現在、モニタリングポスト4番近傍で44μSv/hourです。また正門におきましては零時30分で3.14、MP8付近におきましては零時30分で4.5となっております。

 約13分間の静寂の後の午前1時22分、唐突に福島第一原発の音声が復活し、「……23分」という語尾のみが聞こえる。福島第一の所員が「本店さーん、1Fです。本店さーん?」と呼びかける。が、だれも返答しない。30秒後、今度は「本店●●、本店●●」と呼びかける。

 

本店: 本店呼んでます。すみません。本店呼んでます。

本店:はい、本店です。

1F●●:1F●●ですけれども。さっき●●から、役所から聞かれている「1F1の注水は継続しているのか、それを確認したのはいつか」と。で、継続しています。それを確認したのは先ほど連絡入りましたので、1時23分に、回っていることを確認してます。

本店:了解しました。これは地震があったときには、一度、そのときはもう動かしたままの状態でそれで地震があったので一回退避したと、そういうことでよろしいでしょうか。

1F:それで結構です。

本店:はい、承知しました。

1F●●:すみません、お願いします。

本店:はい、ありがとうございます。

 1号機の原子炉注水のために消防車のポンプを動かし続けたままであることが福島第一から本店に報告されると、13日午前1時24分、テレビ会議の音声はなくなる。

 オフサイトセンターでは、青い作業服を着た東電社員たちの全員が動きを止めている。ある人は机の上に顔を載せて、別のある人は椅子に座ったまま頭を下に向けて。本店では、モニター画面の正面の席に座っている人はおらず、ホワイトボードの手前や裏でビブスを身につけた男がうろうろしている。福島第一も福島第二も人の動きは少なく、また、緩慢となっている。

 1時間26分間にわたって無音状態が続いだ後の13日午前2時50分、本店側が「1Fさーん、聞こえますか?」と呼びかける(注5)

 

本店●●:1Fさーん、聞こえますか? 1Fさーん?

1F吉田所長:はい。1F聞こえます。

 原子力運営管理部のトップとよく似た声の男が午前2時50分(注6)、福島第一に呼びかける。吉田所長が、うんざりしたというような調子の声でそれに答える。

 

本店●●:本店●●だけど、さっき役所に言ってた、タフまであと2時間くらいだとか、そんな話をしてたのが、いま現状はどんなぐらいになってますかっていう話なんだけど。

1F吉田所長:えーとですね。炉水位は全く、炉水位の指示値は変わってません。

本店●●:変化なしね。

1F吉田所長:なし。

 午前2時50分、本店の男が「ということはどうなんだ?」と自問するように言う。吉田所長が話を続ける。

 

1F吉田所長:ただし。ただし、あ。ずっといま注入し続けている。

 吉田所長は「注入はし続けている」の「いる」を特に区切って強調するように話す。

 

本店●●:注入は続いてる?

1F吉田所長:うん。
●●さん、「いまも続いてる」でいいね?

 吉田所長が福島第一の同僚に確認を求める。テレビ会議の録画ではその返答は聞き取れないが、午前2時50分(注7)、吉田所長が「はい」と答えるのが録音されている。

 

1F吉田所長:で、考えられるのは炉水位計が不調で、水が既に入っているのにもかかわらず、それを示していないということが一つ。もう一つは、その、どっかのレベルでベッセルと格納容器の間にバイパスラインができてて、それ以上、ベッセルに入っていかないという、この二つのケースが考えられます

本店●●:はい。

 本店の男は「はい」と返事をしたきり、約3秒、考え込むように黙った後、午前2時51分、話し始める。

 

本店●●:ということは、いずれにせよ、だからずっと続けるだけだよね。基本的には。

1F吉田所長:はい。これからも続けます。

本店●●:はい。分かりました。

 午前2時52分(注8)、話が終わると、無音に戻る。

 午前2時59分(注9)、ざわめきの声が突然、聞こえてくる。原子力運営管理部のトップによく似た声の男が「はい」と言うのが聞こえる。

 

本店●●:1Fさん、聞こえますか?

1F吉田所長:はい。聞こえます。

本店●●:いま、状態、わかったんですけど、注入量としてはだいたいどれぐらいを想定してんだっけ? 毎秒何トンとか、毎分何トンとかという意味では。

1F吉田所長:毎分1トンが今までの定格だし、真水を入れてたときはね、だいたい、なんだ? あそこの貯槽量が何分でなくなるかっていうのを計るとだいたいそんなもんかって思ったんだけど、流量計が無いから。

本店●●:だいたい、目の子で毎分1トンくらいでいいんですか? 想定してたのは。

1F吉田所長:と思ってますけど、それが現行で、その下の値になってるかはわからないということね。

本店●●:わかりました。はい。了解です。

 午前3時(注10)、話が終わる。20秒余後、吉田所長が部下に指示を出す声がマイクに拾われて聞こえてくる。

 

1F吉田所長:ベッセルのさ、●●君、圧力容器のさ、ノズルのエレベーション……と燃料の位置な。

 話の詳細は聞き取れないが、おそらく、圧力容器内のPLRなど配管の出入り口の高さと燃料棒の高さの関係を部下に確認させているのだとみられる。圧力容器(ベッセル)から格納容器に水が漏れ出る「バイパスライン」を推定しようとしているのだとみられる。午前3時1分(注11)、吉田所長の話が終わる。その後も、福島第一の対策室のざわめきがくぐもったように続く。1分半ほど後(注12)、完全に無音になる。

 15分ほど後、音声が入る。原子力運営管理部のトップとよく似た声で「1Fさん、聞こえますか」という呼びかけが繰り返される。

 

本店●●:1Fさん、聞こえますか?

1F●●:はい、聞こえます。

本店●●:いま、1号の炉水位が、炉水位計の指示が変わらないって話なんですけど、いつから変わらなくなったって言えばいいですかね?

1F●●:ちょっといま、あたって折り返しすぐ電話します。

本店●●:お願いします。待ってます。

 原子力運営管理部のトップとよく似た声が「はい、はいはいはい」と言っている。おそらく電話の相手い相づちをうっているのだと思われる。「待ってます」と言ってから1分余が過ぎた午前3時29分(注13)、男が「はーい」と答える声が突然、福島第一から聞こえてくる。

 

1F●●:えっとですねぇ、いったん、1号機の炉水位指示計、ダウンスケールして、ダウンスケールしたあとにきょうの18時で、あ、ごめんなさい、逆だ、きょうの20時に見えだしました。20時08分にマイナス170センチメートルというのが見えだして、今は…。

本店●●:ダウンスケールっていうのはマイナス1700より低い指示なの?

 福島第一で本店と話している男に横から小声でささやくように「はじめてからは、もう要は、指示計が見え始めてからほとんど変化がない、そういうことです」と説明する声が聞こえる。「きょうの20時」というのは実際は前日、12日の午後8時だとみられる。所員らは徹夜しているので、きょうと昨日を区別しそこなったのだとみられる。

 のちに公表されたパラメーター集によれば、燃料域の原子炉水位計はAとBの2つあったが、12日午後6時から同日午後8時8分までの間はいずれも計測が途切れている。午後8時8分にBのみ計測が復活したが、その前後を通じて計測値はマイナス1700ミリ、すなわち、マイナス170センチでほとんど変動していない。

 午前3時(注14)、福島第一の男は「あっ、えっと、すみません」と説明を再開する。

 

1F●●:20時20分に消火水ラインを使った海水の注入を開始して、ほぼ同時期に水位計が見えだしてそのときがマイナス170で、それからはずっと一定でマイナス170近辺をずっとふらついて、いまもいるという状態です。

本店●●:ダウンスケールというのは1700よりも低い状態で、値が無い状態なんだ?

1F●●:これの一番下はですね、マイナス300センチメートル。が、ボト…、見えないダウンスケールのところです。ただし、そこまで落ちているのか、それとも電源の復旧なのかっていうのがちょっと今よく分からないところがあって、20時20分に注水した付近で生きてきたと。「生きてきた」というのは、計測がまた再開されたと。

 福島第一の男の横で「300です」とか「センチ」とかささやく声が小さく聞こえる。「20時20分に海水の注入を開始して」と言っているが、これはウソで、実際には19時4分に海水の注入は開始されていた。

 

本店●●:それから変わってないということね。

1F●●:ええ、ええ。

本店●●:水位がずっと……、20時20分くらいからだ、ずっとね。

1F●●:はい。

本店●●:はい、了解です、はい。

 10秒余の間が空いた後(注15)、本店の男が再び質問を始める。本店の男はおそらく政府の人間と電話で話をしながら福島第一に質問を投げているのだと思われる。

 

本店●●:ああ、それからねぇ、タフまで行ってるかどうかわからねぇかって言ってんだけど、わかんないよね?

1F●●:いまのマイナス170センチメートルっていうのは燃料頂部からの位置で、頂部からマイナス1700なんで、だいたい1.7メーターなんで、タフはうん…、見た目上はタフより下がってます。ただ、実水位がどこなのかっていうのはよくわからんところがあります。

本店●●:そうとしか言えないねぇ。

1F●●:ええ。

本店●●:どうかわかる方法はねえかっつーんだけど、言ってきても「ちょっとわかりません」としか言いようがないよね。

1F●●:はい。

本店●●:わかった。とりあえずご苦労様でした。

 7秒ほど間が空いた後の13日午前3時23分(注16)、福島第一の所員が話を再開する。

 

1F●●:やっと炉圧とかが見えだしたぐらいなので、ちょっと「これです」というのが回答できないので計装さんとちょっと、ほかにあるかどうか当たります。
うん、うん。
そこをいま、「回復してください」といってお願いしてまだ実現できていないところです。

 22秒ほどの間が空いた後、本店が福島第一に呼びかける。水位計の話が続く。

 

本店●●:1Fさん。

1F●●:はい。

本店●●:20時20分の前って両方ともダウンスケールだったんだっけ?

1F●●:ちょっと待ってください。
両方ともダウンスケールです。

本店●●:で、それが両方とも動き出したんだ?

1F●●:片方だけです。

本店●●:あ。片方はずっとダウンスケールか。そうだね。了解。ありがとう。分かりました。はいはい。

 午前3時34分から無音の状態が続くが、1分40秒ほど後(注17)、本店の音が入る。「ドライウェルがベント管込みで3410…」と言っている。原子力運営管理部のトップによく似た声が「うん、でも、建屋の中、入れないからね」と言っている。再び無音が続くが、午前3時36分(注18)、「3450」という声が聞こえる。

 

本店●●:1Fさん。本部●●です。1Fさん。

1F●●:はい。

本店●●:今、中操自体は、かなり、盤はブラックアウト状態なんだっけ? 

1F●●:ほとんどブラックアウト状態で、見えているのは原子炉の水位とRPVの圧力が見えてます。

本店●●:RPVの圧力…、それが見えてるのね。はい、了解です。

1F●●:はい。

 「中操」というのは「中央操作室」の略語で、中央制御室のことを指す。11日に津波に襲われて以降、1号機と2号機の制御盤は直流電源を含む全電源を失ってほぼ真っ暗な状態となっている。所内の資機材の中から集めたバッテリーや発電機をつないで、かろうじて圧力容器(RPV)の水位や圧力を表示させている。

 8分30秒ほど無音状態が続いた後の午前3時35分(注19)、本店から福島第一に呼びかけがある。それまではしばらく、原子力運営管理部長と似た声の男が福島第一と話をしていたが、このときは、別の男が福島第一と話そうとしている。

 

本店●:1Fさん、よろしいでしょうか?

1F●●:1F聞こえてます。

本店●保安院からなんですが、保安院がプレスするにあたって、いまは、毎時定時のプラントパラメーターのデータを出していただいているのですが、1号の「その他」でもいいですけれど、そこに「海水の注入流量からすると、原子炉を満水にする相当の水が入ったと思われる」とかなんか、そういうような文言を入れてほしいということが、役所から要求がきておりますが、入れられますでしょうか?

1F●●:すみません、ちょっと待ってくださいね。

 東電は事故発生直後から、「福島第一原子力発電所 プラント関連パラメータ」というタイトルの表を定期的に政府の原子力安全・保安院にファクスしている。そこには各号機ごとに「注水状況」「原子炉圧力」「原子炉水位」などの欄があり、データが書き込まれている。それらの欄の一番下に「その他情報」という欄があり、たとえば、13日午前2時現在のその欄には「20:20 消火系ラインを使った海水注入開始し、注入中」と書いてある。

 福島第一の男が同僚に指示を出す。

 

1F●●:今の定時報の「その他」のところに注記してくれ、と言ってるから、ちょっと一冊、持ってきて。

1F●●:んで、例えば、ずっと「注水始めました」とかっていうのは「その他」項目に入れていって、何時に炉水が満水になるであろう流量を入れましたっていう時期を入れてくれっていうことですね。

本店●:はいそうです。

1F●●:その意図は、さっきのきょうの1時2時ぐらいに話をしていた「満水になるであろうっていうのは何時くらいだっていうのをつかみで言ってくれ」と言われたのを文言に落とせっていうことと同じ……?

本店●:はい、そうです。3時半現在とかで追加で臨時に出していただけますでしょうか?

1F●●:これから出すのに……

本店●:4時現在だと間に合わないので、今の3時半現在という、3時半でなくてもいいんですけど、今の時点でのパラメーターの情報に、「その他」の情報のところにそれを追加したものをいただけますでしょうか?

1F●●:はい、はい。了解。書くのはかまわないけれど、それはかなり誤差というか推定みたいなものがあって、じゃあ、あとで細かく見てくと、もうちょっと前の時間で3時半じゃなくてその前に満水になるべく、流量が入っていたっていうようなズレが出る可能性があるけど、それ、かまわないですか?

本店●:ええ、例えばですね、60トンパーアワーということであれば20時20分に開始して、途中10分止まっていた時間があるということですので、20時半として、計算上は22時30分に満水相当の水が入ったということになるかと思いますけれど、例えばそういうふうに書けるかどうかですね。「22時30分にRPVの容積と同容量の海水を注水したものと想定される」とかそういう文言は入れられますでしょうか。

1F●:えっと…

 午前3時38分(注20)、吉田所長が口をはさむ。

 

1F吉田所長:単純にね、単純に、ベッセルの内容量が何トンだ、ですよっていうのを書いておいて、海水ポンプの吐出(としゅつ)量、これ、60トンマキシマムなんだけど、本当に60トン出てるかどうか分かんないから、まぁ、60トンから、要するに少ないんだと20トンから60トンの幅があるとみたほうが僕はいいと思うんだけども……。そうするとベッセルの体積だといくらだっけ? 200ぐらいだっけ?

1F●●:120トンです。

1F吉田所長:120でしょ。120で例えば定格で60トン出てるとすると、例えば2時間なんだけど、20トンぐらい……これ、流量を測ってないから流量が分からない。海水の場合ね。ということで、20トンの場合だと例えば8時間かかるわけだよねぇ。あ、違う、6時間かかるわけだよねぇ。そういう幅の中で、8時20分から注入していま大体3時40分だからさ……大体7時間ぐらい?

1F●●:そうです。

1F吉田所長:だからということで、一番小さくみた場合20トンだとして、にひち140トンぐらいになっているはずだよね、と。そういう書き方しかできないと思うんだけど、それでいいかな?

本店●:はい。それしか書けないと思いますので、それで結構です。

1F●●:はい。

本店●:すみません。じゃあちょっと、いま時点の数字でいただけますでしょうか?

1F●●:はい。分かりました。

本店●:お願いいたします。

 8分余ほど無音が続いた後の午前3時48分(注21)、本店の男が福島第一に呼びかける。

 

本店●:すみません。1Fさん、よろしいでしょうか?

1F吉田所長:はい。1Fです。

本店●:先ほどのプラント関連パラメーターの件なんですが、保安院のほうが4時にプレスをするので、ちょっとできれば早くほしいということなのですが、できますでしょうか?

1F吉田所長:●●が作っているのか、さっきの……1号の追記したやつ。

1F●●:いま書いているので、そっちに送るのに3分から5分、そのぐらいいいです?

本店●:はい。承知しました。お願いします。

 無音が3分ほど続いた後の午前3時51分(注22)、福島第一の男が本店に呼びかける。

 

1F:●●さん、いま、3時38分のデータということでSドライブのほうに保存しましたので、ご確認ください。

1F吉田所長:本店さん、本店? 本店?

本店●●:はい。本店です。

1F吉田所長:いま、紙、プラントパラメーター、……どこに入れたんだっけ?

1F:Sドライブのいつもの定例フォルダに入れましたので、そちらからピックアップ可能ですか?

本店●●:はい。確認します。

1F:はい、お願いいたします。

 13日午前3時52分(注23)、1号機の水位の指示値と給水量、圧力容器満水の関係に関する議論が終わる。

 保安院にファクスで送られた13日午前3時58分現在の「福島第一原子力発電所 プラント関連パラメータ」というタイトルの表の「その他情報」欄には次のように書き込まれている(注24)

 

 1号機原子炉圧力容器の容量は約120トンであり、現在海水系は、20~60トン/H(流量計がついていないため、正確な数字はわからない。)で注入されていることから、3月13日3時くらいに満水となると考える。しかし、水位が満水であることを確認できないことから、引き続き注水を継続する。

 

 この議論に関連して、首相官邸の枝野幸男官房長官は13日午前8時すぎからの記者会見で次のように述べている(注25、26)

 

 昨日ご報告申しましたとおり、海水を炉に、圧力容器の中に注入する作業が進んでおります。なおこれは地震の影響等によって水位計の数値が必ずしも信頼できるものではないものの、海水の供給がポンプの能力どおりに実施されていることが確認をされております。現時点では、いわゆる圧力容器の内側、いわゆる炉の部分のところについては海水で満たされて、少なくとも燃料の部分のところは水で覆われている状態になっていると合理的に判断される状況になっているところでございます。今後も海水が継続的に供給されることが重要であると思っておりますので、これを確認する体制を強化することといたしております。

 これは昨日申し上げましたが、圧力容器、炉の部分のところの注入が終わりましても、その外側の、格納容器の中まで海水で満たすということにしたいと思っておりますので。

 これは圧力容器の中に水を供給し続ければ、もし、そこがあふれているようなら、そこから外に出るということになりますので。継続的に海水を供給し続けるということになります。

 

 実際には、圧力容器の底部は12日未明までに既に破損しており、圧力容器の内部は、満水ではなく、「かけ流し」の状態だったとみられる。

 枝野氏の回想によれば(注27)、当時、水が圧力容器から漏れているという認識はまったくなかったという。水位計の値が上がらず、マイナス1700ミリでほぼ一定となっていたことについては、枝野氏は周りの技術者から「水が入っているのは間違いないのに、水位計が変化せず、まったく反応しない。したがって、この水位計は間違っていて、あてにならない」との説明を受けたという。

 読売新聞はこの日の特別夕刊に 「1号機では、爆発事故が起きた12日の夜から圧力容器に注入し始めた海水の量が13日未明までに想定した必要量に到達した。原子炉の水位計は低い値を示したままだが、漏えいなどが起きている可能性は低いとしている」と書き、NHKは 原子力安全・保安院の記者会見での説明として「1号機は12日夜から原子炉の海水を流し込む作業を続けており、13日午前5時半までに作業を終えました。このまま海水の注入を続け、満水の状態を続ければ、安全を確保できるとしています」と報じた(注28)。朝日新聞はこの日の特別号外の一面で保安院の記者会見の内容として「海水を注入する作業を続けている」と報じたが、「満水」には触れなかった。

 1号機原子炉の水位に関する的外れな議論が続いている間に、3号機では致命的な事態が進行していた。(次回につづく

 

▽注1: 東電資料「窒素

この記事の続きをお読みいただくためには、法と経済のジャーナルのご購読手続きが必要です。

朝日新聞デジタル購読者(フルプラン)の方なら手続き不要

法と経済のジャーナル Asahi Judiciaryは朝日新聞デジタルの一部です。
有料(フルプラン)購読中の方は、ログインするだけでお読みいただけます。

朝日新聞デジタルのお申し込みはこちら

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書に『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)。共著に『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)など。
 ツイッターはhttps://twitter.com/okuyamatoshi
 ご連絡は okuyamatoshihiro@gmail.comに。メールの内容を暗号化する場合はPGPで。パブリックキーのIDは7D2BAD43550EAD96

Facebookでコメントする

ご感想・ご意見などをお待ちしています。