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深掘り

株主の権利弁護団から

多重株主代表訴訟を制度化する会社法改正への意見

「会社法制の見直しに関する要綱案」における多重株主代表訴訟について

弁護士 富 田 智 和
弁護士 岡 本 仁 志

拡大富田 智和(とみた・ともかず)
 弁護士、神戸そよかぜ法律事務所所属。
 2000年3月、関西学院大学法学部政治学科卒業、2004年3月、関西学院大学大学院法学研究科博士課程前期修了(法学修士)。
 2003年11月、司法試験合格。2005年10月、兵庫県弁護士会に登録。
 現在、株主の権利弁護団に所属し、株主の視点から商事訴訟・株主代表訴訟に多く取り組んでいる。

拡大岡本 仁志(おかもと・まさし)
 由良・塚田法律事務所(大阪弁護士会)所属 弁護士。
 大阪大学法学部卒業。2005年(平成17年)11月、司法試験合格。2006年(平成18年)4月、司法修習生(60期)。2007年10月、大阪弁護士会に弁護士登録。現在、大阪弁護士会消費者保護委員会委員及び裁判員本部委員、刑事弁護委員会委員。大阪大学法曹会幹事。

 第1 はじめに

 平成23年12月、法務省民事局参事官室より「会社法制の見直しに関する中間試案」(注1 、以下「中間試案」という)が明らかにされ、その中で、会社法の懸案であった「多重株主代表訴訟」導入についての議論がなされた。これはその後、パブリックコメントを経た上で、平成24年8月1日に開催された法務省の法制審議会会社法制部会第24回会議において、「会社法制の見直しに関する要綱案」(以下、「要綱案」という。注2 )として取りまとめられた。

 筆者岡本は、本ウェブサイトの平成23年4月2日付の拙稿「 多重株主代表訴訟とは? 親会社株主が子会社役員を提訴するには 」において、多重株主代表訴訟の概説とその必要性等について述べ、また、筆者らも所属して活動している株主の権利弁護団では、中間試案に対し、平成24年1月31日付けにて、いわゆるパブリックコメントとしての意見書(以下「当弁護団パブコメ」という。注3)を提出し、その意見を述べてきた。

 そこで本稿においては、従前の拙稿及び当弁護団パブコメを前提にして、上記要綱案についての考えを述べる。

 第2 中間試案及び当弁護団パブコメの意見

 1 中間試案

 以下は、中間試案の多重株主代表訴訟の項の抜粋である(各注については省略した)。

 【A案】 株式会社の親会社の株主が当該株式会社の取締役等の責任を追及する訴え(多重代表訴訟)を提起することを認める制度を、次のとおり創設するものとする。

 [1] 株式会社の親会社(株式会社であるものに限る。)の株主は、当該株式会社に対し、発起人、設立時取締役、設立時監査役、取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人又は清算人(以下「取締役等」という。)の責任を追及する訴えの提起を請求することができるものとする。ただし、次に掲げる場合は、この限りでないものとする。
 ア 当該訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合
 イ 当該訴えに係る請求の原因である事実によって当該親会社に損害が生じていない場合

 [2] [1]の親会社は、[1]による請求の日において、[1]の株式会社の完全親会社であって、完全親会社(株式会社であるものに限る。)を有しないもの(以下「最終完全親会社」という。)に限るものとする。

 [3] [1]の親会社が公開会社である場合にあっては、[1]による請求をすることができる当該親会社の株主は、6か月前から引き続き当該親会社の株式を有するものに限るものとする。
 ア [1]による請求をすることができる親会社の株主は、当該親会社の総株主の議決権の100分の1以上を有するものに限るものとする。
 イ [1]の訴えが当該株式会社の株主の共同の利益とならないことが明らかであると認められる場合には、当該株式会社の親会社の株主は、[1]による請求をすることができないものとする。

 [4] 株式会社の取締役等の責任は、その原因である事実が生じた日において、[1]の親会社が有する当該株式会社の株式の帳簿価額が当該親会社の総資産額の5分の1を超える場合に限り、[1]による請求の対象とすることができるものとする。

 [5] 株式会社が[1]による請求の日から60日以内に[1]の訴えを提起しないときは、当該請求をしたその親会社の株主は、当該株式会社のために、[1]の訴えを提起することができるものとする。

 [6]株式会社に最終完全親会社がある場合には、当該株式会社の取締役等の責任([1]による請求の対象とすることができるものに限る。)は、当該最終完全親会社の総株主の同意がなければ、免除することができないものとする。

 【B案】多重代表訴訟の制度は、創設しないものとする。

 2 当弁護団パブコメの意見

 多重代表訴訟の導入が必要であるため、中間試案のA案に基本的に賛成する。しかし、A案の以下の部分について反対する(なお、当弁護団以外のパブコメの概要についても法務省ウェブサイトから閲覧することができる。法務省「会社法制の見直しに関する中間試案」に対して寄せられた意見の概要。注4 。当弁護団のパブコメは「株権弁」のパブコメとして紹介されている。)。

 (1)「A案[1]イ」について

 取締役等の責任を追及する訴えに係る請求原因事実によって親会社に損害が生じていない場合、当該訴えが提起できないものとするべきではない。

 (2)「A案[2]」について

 多重代表訴訟の原告適格が認められる者を「(最終)完全親会社の株主」に限るべきではなく、子会社と親会社が実質上、経済的・財産的に一体関係にある場合には、親会社の株主に原告適格を認めるべきである。

 第3 「会社法制の見直しに関する要綱案」

 以上の議論を受けて、平成24年8月1日に取りまとめられたのが上記要綱案である。

 多重代表訴訟に関する具体的な要綱案の内容は以下のとおりである。

 【要綱案の内容】

 [1] 株式会社の最終完全親会社の総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は当該最終完全親会社の発行済株式の100分の1以上の数の株式を有する株主は、当該株式会社に対し、発起人、設立時取締役、設立時監査役、取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人又は清算人(以下「取締役等」という。)の責任を追及する訴えの提起を請求することができるものとする。ただし、次に掲げる場合は、この限りでないものとする。
 ア 当該訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社若しくは当該最終完全親会社に損害を加えることを目的とする場合
 イ 当該訴えに係る責任の原因となった事実によって当該最終完全親会社に損害が生じていない場合

 [2]  [1]の最終完全親会社とは、株式会社の完全親法人である株式会社であって、その完全親法人(株式会社であるものに限る。)がないものをいうものとする。
 (注)完全親法人には、株式会社の発行済株式の全部を直接有する法人のみならず、これを間接的に有する法人も含まれるものとする。

 [3] 最終完全親会社が公開会社である場合に、[1]による請求をすることができる当該最終完全親会社の株主は、6か月前から引き続き[1]に定める割合以上の当該最終完全親会社の議決権又は株式を有するものに限るものとする。

 [4] 株式会社の取締役等の責任は、その原因となった事実が生じた日において、当該株式会社の最終完全親会社が有する当該株式会社の株式の帳簿価額(当該最終完全親会社の完全子法人が有する当該株式会社の株式の帳簿価額を含む。)が当該最終完全親会社の総資産額の5分の1を超える場合に限り、[1]による請求の対象とすることができるものとする。
 (注)完全子法人には、最終完全親会社がその株式又は持分の全部を直接有する法人のみならず、これを間接的に有する法人も含まれるものとする。

 [5] 株式会社が[1]による請求の日から60日以内に[1]の訴えを提起しないときは、当該請求をしたその最終完全親会社の株主は、当該株式会社のために、[1]の訴えを提起することができるものとする。

 [6] 株式会社に最終完全親会社がある場合には、当該株式会社の取締役等の責任([1]による請求の対象とすることができるものに限る。)は、当該最終完全親会社の総株主の同意がなければ、免除することができないものとする。
 (注)株式会社に最終完全親会社がある場合における当該株式会社の取締役等の責任([1]による請求の対象とすることができるものに限る。)の一部免除に関する規律(第425条等参照)についても、所要の規定を整備するものとする。

 [7] 株式会社に最終完全親会社がある場合には、当該株式会社又はその株主のほか、当該最終完全親会社の株主は、共同訴訟人として、又は当事者の一方を補助するため、[1]の訴えに係る訴訟に参加することができるものとし、また、当該最終完全親会社は、当事者の一方を補助するため、当該訴訟に参加することができるものとする。また、その機会を確保するため、次のような仕組みを設けるものとする。
 ア 株式会社の最終完全親会社の株主は、[1]の訴えを提起したときは、遅滞なく、当該株式会社に対し、訴訟告知をしなければならないものとする。
 イ 株式会社は、[1]の訴えを提起したとき、又はアの訴訟告知を受けたときは、遅滞なく、その旨をその最終完全親会社に通知しなければならないものとする。
 ウ イによる通知を受けた最終完全親会社は、遅滞なく、その旨を公告し、又は当該最終完全親会社の株主に通知しなければならないものとする。
 (注)上記のほか、不提訴理由通知、担保提供、和解、費用の請求、再審の訴え等の訴訟手続等に係る事項について、所要の規定を整備するものとする。
 (1の後注) 株式会社の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制(第362条第4項第6号等)の内容に、当該株式会社及びその子会社から成る企業集団における業務の適正を確保するための体制が含まれる旨を会社法に定めるものとする。

 第4 筆者らの意見とその解説

 1 多重株主代表訴訟の必要性について

 多重株主代表訴訟の必要性については、既に従前の拙稿で述べているとおりであるが、今後もますます親子会社、特に持株会社の創設が増加すると考えられ、そのような事態において株主権の充実を図りまた会社経営の適正化を図る意味においても、多重株主代表訴訟の制度自体は必須のものと考えられる。すなわち、株式会社設立が容易になり、また、持ち株会社、親子会社等の企業間結合が促進されている現行法においては、子会社経営の適法性の確保は極めて重要な問題となる。株式会社が親会社の子会社となった時点で、当該子会社取締役の責任追及が全て親会社取締役の意向により決せられるとすれば、問題は大きい。多数部門を持ち多角経営を行っている単一の株式会社については、各部門の経営責任について、当該担当取締役の責任を追及しうるが、それが一度、持ち株会社制度を導入し、当該部門が完全子会社として独立した途端にその取締役の責任を追及できないとするのでは、株式会社の適正な経営確保の要請が図れなくなる。まさに、持ち株会社制度または子会社を悪用しての不適切な企業経営の横行を防止できなくなる。そのような会社法の目的たる会社経営の適正確保の要請からしても、やはり多重株主代表訴訟は認められなければならない。

 その意味において、多重代表訴訟を導入しないとするB案に賛成するパブリックコメントも経済界から多く出されるなかで、あえて要綱案において、多重株主代表訴訟制度の導入を肯定した案が提示されたことは、極めて意義深いものである。

 今後益々議論が深められ、正式に法律として成立することを強く望むものである。

 2 多重株主代表訴訟に対する制限について

 多重株主代表訴訟については、その社会的な必要性から早急なる法定が求められるところではあるが、他方で、同制度については一定の歯止めも必要である。

 株主代表訴訟が濫訴として利用されれば、対象となった取締役に過度の負担がかかり結局会社経営の適正化が阻害されることは容易に想像できる。

 しかしながら、その歯止めが過度の制限となれば、同制度自体に利用価値や利用機会の無くなることもまた明白である。

 そこで、双方の要請の調整が極めて重要となるものである。

 3 要綱案における制限について筆者らの考え

 要綱案においては、各種制限がなされているが、そのうち筆者らが検討対象とした「株主の主観的要件」、「親会社の損害の要件」、「最終完全親会社の要件」、及び多重代表訴訟が少数株主権とされていることについての考えを明らかにする。

  (1) 株主の主観的要件

 要綱案は「当該訴えが当該株主若しくは第三者の不正な利益を図り又は当該株式会社に損害を加えることを目的とする場合」については、多重株主代表訴訟を許さないとしている。

 これは、当該株主の主観についての要件であるが、適切に適用運用がなされる限りにおいて妥当な制限であると考えられる。

 すなわち、当然であるが、第三者の不正な利益や会社への加害を目的とした訴訟提起が株式会社経営の適正化を図るものでないことは明白であり、同時にそのような提起は株主権の適切な行使とは認められないものであるから、そのような主観による訴訟を認める理由がない。

 ただし、上記要件はまさに「主観的要件」であり、詳細を法定することができず、個別具体的な事案について裁判所の判断に委ねられるものであるため、株主の権利が不当に制限されないように適用運用がなされなければならない。多重株主代表訴訟の法定・定着後に判例・裁判例の集積により詳細が具体化されるべきものである。

 そのため、筆者らとしては、同要件については賛成をするものである。

  (2) 親会社の損害の要件

 要綱案は「当該訴えに係る請求の原因である事実によって当該親会社に損害が生じていない場合」には、多重株主代表訴訟の提起を許さないとする。

 同要件の法定については、問題があり、認められないと考える。

 同要件の問題点は、「請求の原因である事実によって当該親会社に損害が生じていない場合」という場合の「損害」の意義及びその内容である。

 「損害」という文言自体が何を指すのかこの時点では不明確である。仮に株式会社の金銭的な損害を指すと解釈した場合においても、その算定等によっては不明確となることは容易に想定できる。加えて、金銭的な損害に限定した場合、その損害を子会社の会計または関連会社の会計等に止めておいた場合、直ちに親会社の損害としては計上されないのであるから、子会社が含み損を有するが親会社には計算上損害がないことから親会社株主は多重株主代表訴訟を提起できないということも十分に想定できる。

 また、そもそも同要件は極めて不合理な要件である。すなわち、同要件を合理的に解釈すれば「子会社に対する多重株主代表訴訟を提起できるのは、親会社に損害が発生した場合に限る」ということとなる。しかしながら、このような場合、親会社の株主は「親会社取締役」に対し株主代表訴訟を提起できることとなり、その親会社に対して生じた損害の親会社取締役の責任を追及できるのであり、その意味において子会社取締役に対する多重株主代表訴訟を提起する実益は極めて薄いといえる。

 多重株主代表訴訟の最も重要な意義は、子会社に損害が発生するも親会社に損害が発生しない場合において、親会社株主が子会社取締役の責任を追及することにあるのであり、親会社の損害発生を要件とすることは本末転倒な議論である。

 したがって、損害の発生の有無は子会社について見るべきであるし、損害発生は損害賠償請求の本来的な要件であるので、殊更に強調して要件とするものではない。

 株主代表訴訟は、親会社の損害を回復するにとどまらず、取締役等の任務懈怠を抑止する機能を果たしており、親会社と子会社の人的結びつきによる提訴懈怠の可能性を考えれば、多重株主代表訴訟においては後者の機能を重視すべきである。親会社に損害が発生していないことを理由に子会社取締役の違法行為を放置することは、多重株主代表訴訟導入のそもそもの動機と矛盾するものと言わざるを得ない。

 濫訴の防止は損害要件によってではなく、A案[1]アのような主観的要件によって図るべきである。

 以上の理由により、同要件の法定には反対である。

  (3) 最終完全親会社の要件

 要綱案は「[1]の最終完全親会社とは、株式会社の完全親法人である株式会社であって、その完全親法人(株式会社であるものに限る。)がないものをいうものとする。」と規定するが、同要件の法定にも反対である。

 上記の最終完全親会社とは、親会社が当該子会社の100%の株主であって、その親会社にはその親会社を支配する親会社が存在しない会社をいうものである。

 このように多重株主代表訴訟を提起できる株主を最終完全親会社の株主に限定すれば、権利関係は明白である。

 すなわち、従前の拙稿でも問題としたが、親子会社は50%の株式の支配でも成立するところ、仮に親会社が50%の株式しか有していない場合にも無条件に親会社株主が子会社取締役に対する責任追及の訴えを提起できるとするのであれば、他の株主の意向を無視することともなる。そのような弊害を除外するためにも、最終完全親会社との要件は一応の合理性は存在する。

 しかしながら、最終完全親会社との要件が法定されれば、多重株主代表訴訟を提起する機会が大幅に減少することも明白である。すなわち、最終完全親会社でなくなれば、多重株主代表訴訟を提起されることがなくなるのであるから、子会社支配に際し、親会社は自身で100%の株式を保有せず、グループ外企業等に株式の一部を保有させるという手法が考えられる。このような手法がとられれば、会社支配への弊害は極めて少ない一方で、多重株主代表訴訟の制度を骨抜きにすることができ、多重株主代表訴訟制度自体が機能しなくなることは明らかである。

 そこで、最終完全親会社との要件の法定には反対である。

 なお、ではいかなる条件において多重株主代表訴訟を認めるかについてはさらなる議論が必要であると考える。会社支配についての株式の保有比率を無視することはできないが、そのような数値を前提に、親子会社が経済的・財産的に一体関係にあるかという実質的基準によるべきである。

  (4)多重代表訴訟が少数株主権とされている点について  

 次に、要綱案においては多重代表訴訟を提起できる株主について「株式会社の最終完全親会社の総議決権の100分の1以上の議決権又は当該最終完全親会社の発行済株式の100分の1以上の数の株式を有する株主」に限定されている(以下ではこの要件を指して「1%要件」という。)

 筆者らとしてはかかる1%要件は設けるべきではないと考える。

 すなわち、この1%要件が導入された場合、上場企業ではこの要件を充たす株主は、一部の機関投資家等に限られるといわれている。これでは一般株主は多重代表訴訟を提起することができず、多重代表訴訟の適用場面が不当に制約されてしまう。その一方で非上場の中小企業ではこの条件を比較的満たしやすいことから逆に中小企業で相続問題等をめぐって親族間で争いになれば多重代表訴訟が多発するのではないかともいわれており、制度新設の趣旨にそぐわないのではないかという指摘もある(日本経済新聞平成24年12月3日朝刊)。

 また、親会社の役員の責任を追及するには1株を有しているだけで可能であり株式数による制限がないのに、子会社の役員の責任追及においてだけ1%要件による制限が課されるのも不均衡といわざるを得ない。この点については上記パブコメにおいても第一東京弁護士会や獨協大学などが「現行の株主代表訴訟提起権が単独株主権とされていることとの整合性を確保する必要がある。」と述べているとおりであり、筆者らとしてもかかる意見に賛成である。

 この点、かかる1%要件の趣旨としては「濫訴を防ぐため」との説明がなされている。しかし、我が国における株主代表訴訟の新規提訴件数は年間約200件前後とされており、これは我が国の上場企業の数と比較して著しく少ないといわざるを得ない。そのため、我が国では「濫訴」による弊害を考えなければならないほど株主代表訴訟が多発している訳ではない。この点については上記パブコメにおいて東京弁護士会等が「濫訴の実態に関する立法事実は何ら示されていない。」と述べるとおりであり、筆者らとしてもかかる意見に賛成である。また「濫訴」を防ぐための要件としては、上述した株主の主観的要件等が存在するのであり、かかる主観的要件で「濫訴」を防止することは可能である。

 したがって、1%要件は設けるべきではないと筆者らとしては考える。

 第5 結語

 株主代表訴訟は、株主が株式会社の取締役の責任追及の訴訟を提起することにより株式会社の損害を回復するものである。しかし、その意義はそれだけにとどまらず、そのような責任追及の手段が存在することから、取締役は職務遂行の適正をより意識することとなり、会社経営の適正化の重要な手段となっている。これは、株主の権利ではなく、株式会社の利益にも繋がるものである。

 親子についても同様のことが当てはまる。子会社経営の適正化を図るためには、取締役の自律だけではなく、株主による監視が必要であり、抑止手段として多重株主代表訴訟制度は極めて重要である。

 報道による限りでは多重代表訴訟創設などを盛り込んだ会社法改正案は今通常国会での提案は見送られる見通しとのことである。筆者らとしては、上記の多重代表訴訟の持つ意義に鑑み、早急に今後の会社法改正において、多重株主代表訴訟が法定され、またその場合には不当ないし過度の制限のない株主権に十分に配慮のなされた制度の制定を求めるものである。

 富田 智和(とみた・ともかず)
 弁護士、神戸そよかぜ法律事務所所属。 
 2000年3月関西学院大学法学部政治学科卒業、2004年3月関西学院大学大学院法学研究科博士課程前期修了(法学修士)。 
 2003年11月司法試験合格、2005年10月兵庫県弁護士会に登録、2010年4月神戸そよかぜ法律事務所設立。 
 現在、株主の権利弁護団に所属し、株主の視点から商事訴訟・株主代表訴訟に多く取り組んでいる。 
 これまでにAJに掲載された論考に「 会社法改正パブリックコメント 」、「 談合防止のための内部統制システム 」がある。

 岡本 仁志(おかもと・まさし)
 由良・塚田法律事務所(大阪弁護士会)所属 弁護士。
 大阪大学法学部卒業。2005年(平成17年)11月、司法試験合格。2006年(平成18年)4月、司法修習生(60期)。2007年10月、大阪弁護士会に弁護士登録。現在、大阪弁護士会消費者保護委員会委員及び裁判員本部委員、刑事弁護委員会委員。大阪大学法曹会幹事。 AJにこれまでに掲載された論考に「 親会社株主から見た多重株主代表訴訟 」がある。

  株主の権利弁護団
 橋梁談合事件で会社経営者の責任を株主代表訴訟で追及した弁護士らが中心となって今年6月に発足した。顔ぶれの中には、株主オンブズマンで活躍した弁護士や公認会計士も。若手も多い。「株主の権利の実現・株主の被害の救済・株主権利の啓蒙・教育など」を目的とし、「株主の権利の実現の為の立法・政策・運用の提言」「株主の被害の相談・アドバイス・必要な場合は株主の依頼により会社・所管庁・証券取引所などへの要請・申告、裁判・告訴・告発など」「株主の権利などについての講演会、セミナーなど」を行うという。これまでに日立造船橋梁談合株主代表訴訟、大林組土木建築工事談合株主代表訴訟、住友金属橋梁談合・使途秘匿金・ステンレス鋼板カルテル株主代表訴訟、神戸製鋼所橋梁談合株主代表訴訟、シャルレのMBOに関する株主代表訴訟、吉本興業事件、住友電工光ケーブルカルテル株主代表訴訟,オリンパス株主代表訴訟などを手がけている。 ホームページはこちら

 ▽注1:http://www.moj.go.jp/content/000082647.pdf
 ▽注2:http://www.moj.go.jp/content/000100819.pdf
 ▽注3:http://kabunushinokenri.com/modules/contents/content0023.html
 ▽注4:http://www.moj.go.jp/content/000095492.pdf

 

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