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深掘り

株主の権利弁護団から

株主代表訴訟提訴を前に 提訴請求と不提訴理由通知書の論点

代表訴訟提起前の手続の充実のために

 

弁護士 杉村元章

拡大杉村 元章(すぎむらもとあき)
 弁護士。杉村・堤法律事務所所属。東京大学法学部卒。2007年11月司法試験合格、2009年10月弁護士登録(大阪弁護士会)。現在、株主の権利弁護団で活動中。
 株式会社の株主が会社の役員等を相手取って代表訴訟を提起するためには、会社に対する提訴請求を行い、会社が60日間提訴しないことが必要である。提訴請求は会社自身が役員等への責任追及を行う機会を付与する等の目的で行われるものであるが、その現実的な機能については疑問なしとしない。

 本稿では、手続上の順序とは逆になるが、問題点について述べるための便宜上、まず、会社法の制定によって新たに導入された不提訴理由通知書に関する問題点について述べ、次いで提訴請求に関する問題点について述べる。

 第1 不提訴理由通知書

 1 内容

 株主から提訴請求を受けた後、60日の考慮期間中に会社が訴えを提起しないと判断した場合、株主または取締役等の当事者からの請求があったときは、会社は、提訴しない理由を書面または電磁的方法により遅滞なく通知しなければならない(会社法847条4項(以下、断りのない場合は会社法の条文)、会社法施行規則218条)。この不提訴理由通知書制度は、旧商法下には存在せず、会社法によってはじめて規定されたものである。

 2 役割

 (1) 導入時の意図

 国会提出時の会社法案では、責任追及等の訴えによって会社の正当な利益が著しく害される等の事態が相当の確実さをもって予測される場合、当該責任追及の訴えは原告適格を欠く旨記載されていた(国会提出時会社法案847条1項2号)。そして、この原告適格の制限に該当するかどうかの判断資料として不提訴理由通知書を用いることが期待されていたようである。これに従うと、例えば、不提訴理由通知書に「取締役の責任追及は会社の信用を害する」、あるいは「責任追及等により役員等を破産させ、結果として役員等の地位を維持できなくするよりも地位を継続させた方が会社の将来の利益が大きい」といった理由を記載して通知すると、裁判所は役員等の責任の有無を判断する前に「会社の正当な利益」の有無を検討することになる。

 そうすると、裁判所としても経営陣の意向を尊重する面もあると考えられ、裁量的な判断に基づき請求を却下する可能性も生じかねなかった。しかし、結局、代表訴訟を不当に委縮しかねないとして国会提出時会社法案847条1項2号は削除された。

 (2) 現会社法下における趣旨

 このような経緯にもかかわらず不提訴理由通知書制度は現会社法下においても維持されているが、法案847条1項2号が削除された以上、同制度の趣旨は上記導入時の意図と異なるものになったといわねばならない。

 そして現在の会社法下における不提訴理由通知の趣旨は、提訴請求株主等が株式会社に対し調査の結果やそれを前提に訴えを提起しないこととした株式会社の判断プロセスの開示を請求することを認めることにより、役員間のなれ合いで提訴しないような事態が生じないように牽制するとともに、株主等が代表訴訟を遂行するうえで必要な訴訟資料を収集することを可能にするものと説明される。

 前述の導入時の意図を維持できず、また、60日の考慮期間が被告取締役に防訴のための十分な準備を与えるものでもない以上、このように提訴請求株主等との関係で制度に実効性を持たせる理解は正当というべきであろう。

 もっとも、このような趣旨が実現されるためには次に述べるような問題点が残されている。

 (3) 問題点

 ア 調査主体

 まず、充実した内部調査を行う調査主体の問題がある。

 取締役の責任追及について会社を代表するのは監査役であるが、監査役の人事権が事実上取締役会、ひいては社長に掌握されている会社が少なからず存在するのというのが実情ではないかと思われる。そうすると、監査役による取締役の責任追及は十分に機能しないのではないかとの疑念が生じる。

 このような疑念を拭い去るためには、調査体制の中立性を確保する必要がある。具体的には、調査を弁護士や公認会計士、学者ら専門家や有識者に委ねること等が考えられる。当弁護団が共同訴訟参加しているオリンパス事件においても元最高裁判事らを含む第三者委員会が設置され、その調査結果が高く評価されたことは記憶に新しいところである。このような第三者による調査は積極的に活用されるべきであろう。

 イ 会社の動機付け

 次に、会社には不提訴理由通知書に充実した記載を行う動機が存在するのか、という問題がある。

 前述のとおり、不提訴理由通知制度の趣旨には、「株主等が代表訴訟を遂行するうえで必要な訴訟資料を収集することを可能にする」ことも含まれている。視点を変えると、不提訴理由通知書は、代表訴訟を提起すべきかどうかの判断資料を株主に提供するという、原告株主と被告取締役との情報の非対称性を是正する機能も有している。

 しかしながら、不提訴理由通知書が裁判上どのような効果をもたらすのかについては明文もなく不明確であり、記載内容が充実していないとの理由で会社が不利益を受けることは想定し難い。反対に会社からすると、調査内容について踏み込んだ記載をした場合、その後の訴訟展開等によっては株主に口実を与えるという不利益すら生じかねない。また、内部調査の懈怠が後日明らかになった場合でも、監査役の善管注意義務違反に基づいて法的な責任追及が行われることは現実的ではないだろう。加えて、前述のとおり調査主体の中立性にも疑問なしとしない。

 このような状況では、会社に不提訴理由通知書の内容を充実させる動機は存在しないというべきであろう。

 3 充実した不提訴理由通知書制度の実現のために

 とはいえ、前述の趣旨に沿った運用がなされるのであれば、不提訴理由通知書制度は株主に充実した判断材料を提供する優れた制度と考えられる。

 そのための手段として、調査・記載内容が疎かな場合に監査役や会社に対する責任追及の制度を用意することも考えられないではないが、株主に有益な資料を提供するために調査自体の中立性・公平性を高める方を優先させるべきであろう。

 そうすると、前述のように調査主体を第三者とするか、少なくとも調査結果を第三者が精査するような制度が必要なのではないかと考える。

 第2 提訴請求

 1 提訴請求の意義

 責任追及等の訴えを提起しようとする株主は、会社に対して当該責任追及の訴えを提起するよう請求し、その請求後60日が経過しても株式会社が当該責任追及の訴えを提起しない場合に初めて責任追及の訴えを提起できる(847条1項、3項)。

 この提訴請求には訴訟法上の意義と実体法上の意義があるとされる。

 訴訟法上の意義というのは、民事訴訟法において二重起訴が禁止されている(民事訴訴方法142条)ことから、株主が責任追及訴訟を提起すると会社が当該訴訟物に関する当事者適格を失うため、会社に提訴の機会を保障する必要がある、ということである。

 また、実体法上の意義というのは、会社において内部調査を実施し、義務違反等の有無を確認するとともに、訴訟以外の方法による損害回復を行う機会や、対象者の解雇・降格といった内部的制裁を含めた自浄行動をとる機会を会社に与えることを指す。

 しかしながら、株主による責任追及の訴えの提起によって会社が当事者適格を失うとしても、会社法は会社が共同訴訟参加人として訴訟参加することを認めており(849条1項)、訴訟法上の意義はかなり薄れているといえよう。反面、実体法上の意義については、60日の考慮期間における会社の内部調査の実効性が高ければ重要視すべきものといえようが、実効性が確保されていると言い難い現状においては意義が薄れてしまっているというべきであろう。そうすると、現状、提訴請求の必要性を強調すべきではないと思われる。

 2 60日の経過に関する問題

 代表訴訟提起のために提訴請求実施後60日の経過が要求されている点については、期間の経過により会社に回復することができない損害が生じるおそれがある場合には同期間の経過を待つ必要なしとする明文の例外(847条5項本文)がある。このほかに、解釈上、60日経過前に代表訴訟を提起した場合に請求が却下されるか否かという問題がある。

 この問題に関する裁判例は分かれており、60日経過後は却下できないとするもの(大阪地判平16・12・22判時1892号108頁、大阪高判平18・6・9判タ1214号115頁、大阪地中間判決昭57・5・25判タ487号173頁)と却下できるとするもの(東京地判平4・2・13判時1427号137頁、大阪地判昭41・12・16下民17巻11=12号1237頁)があるが、上のように提訴請求の必要性を強調すべきではないと解すると、却下すべきでないということになろう。

 もっとも、提訴請求の必要性を強調すべきでないとした前提には、提訴請求後60日間における内部調査の実効性を期待できないことがある。充実した内部調査が行われるのであれば、その分提訴請求の必要性も高くなるのは当然といえよう。

 このような観点からすると、60日経過後における却下の可否の判断において、不提訴理由通知書の記載内容ないし内部調査の充実ぶりを考慮要素とすることも検討されていいのではないかと考える。そうすることで、会社に対し、少しでも不提訴理由通知書の記載を充実させる動機を与えることができるように思われる。

 3 提訴請求の記載事項に関する問題

 (1) 記載事項

 提訴請求は、書面その他の法務省令で定める方法により(以下「書面等」という)行う必要がある(847条1項)。書面等に記載する事項は、被告となるべき者(会社法施行規則217条1号)及び請求の趣旨及び請求を特定するのに必要な事実(同条2項)である。

 (2) 請求を特定するのに必要な事実に関する問題

 このうち、請求を特定するのに必要な事実については、請求原因事実が漏れなく記載されている必要はなく、事案の内容や会社が認識している事実等を考慮し、いかなる事実・事項について責任追及が求められているのかを会社が判断できる程度に特定されていれば足りる(東京地裁平成8年6月20日、判時1572号72頁)と考えられている。取締役と株主との情報の非対称性に照らすと、詳細な特定を求めることは現実的でなく、上の程度で足りるとするのは適切であろう。

 (3) 被告となるべき者に関する問題

 被告となるべき者として提訴請求の際に記載しなかった者を責任追及等の訴えの被告とすることができるのか、という問題も生じ得るように思われる。

 情報に乏しい株主としては、責任原因となる事実が発生した時期等に鑑みて被告となるべき者を記載せざるを得ないのが通常である。その場合、訴訟で被告となる候補者の遺漏が生じないよう留意するとしても、後日資料の開示を受ける等した結果、提訴請求に記載のない者にも責任があるとの疑いが生じた場合、その者を訴訟における被告としてよいか、という問題である。

 このような事態が生じた場合、提訴請求の際に記載しなかった者に関しては原則として訴訟要件を充足するものとして扱うべきものと考える。

 その理由は、会社に内部調査や自浄作用の機会を与えるという提訴請求の実体法上の意義に照らし、会社としては責任追及を求められている社会的事実が判断できれば足りるためである。

 なお、被告となるべき者として記載されていない場合でも、被告の利益を欠くことにはならない。前述のとおり60日の考慮期間が被告取締役に防訴のための十分な準備を与える趣旨で設けられたものでない以上、提訴請求の記載にその名がなくとも被告に不利益は生じないからである。

 とはいえ、被告となるべき者に記載されていない者を無制限に代表訴訟上の被告とすることを認めると、会社に責任追及の機会を与えるという提訴請求の意義を没却することになりかねない。

 そのような場合には被告に対する請求も却下されるべきものと考えるが、却下か否かの判断に当たっては会社が調査した内容の検討を要し、そのための資料として調査内容が記載された不提訴理由通知書や調査報告書等の精査も必要と解するべきであろう。このような扱いがなされることで、会社に対して少しでも不提訴理由通知書の記載を充実させる動機を与えられるのではないかと考えられる。

 第3 結語

 以上述べたとおり、提訴請求及び不提訴理由通知書の制度は、その趣旨が実現されれば優れた制度であるが、会社が行う内部調査の実効性によってその機能は大きく左右される。

 不提訴理由通知書作成における中立性を確保すべき要請のほかに、不提訴理由通知書の記載内容の充実度と提訴請求に関する訴訟要件充足性の判断をリンクさせる等、会社において不提訴理由通知書の記載を充実させる動機を与えるような制度設計や運用が望ましいものと考える。

 杉村 元章(すぎむらもとあき)
 弁護士。杉村・堤法律事務所所属。
 東京大学法学部卒。2007年11月司法試験合格、2009年10月弁護士登録(大阪弁護士会)。現在、株主の権利弁護団で活動中。これまでにAJに掲載された論考に「株主代表訴訟における和解について」がある。

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