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深掘り

株主の権利弁護団から

特別支配株主による少数株主締め出し制度化の問題点

矢吹 保博(やぶき・やすひろ)

「特別支配株主の株式等売渡請求」制度を創設する会社法制見直しの問題点

 

弁護士 矢吹 保博

 第1 はじめに(本稿の趣旨)

拡大矢吹 保博(やぶき やすひろ)
 弁護士。木村・浦川・片山法律事務所所属。
 京都大学法学部卒業。2007年11月に司法試験を合格し、2009年9月に大阪弁護士会登録。現在、大阪弁護士会消費者保護委員会に所属。

 法制審議会は、平成24年9月7日、「会社法制の見直しに関する要綱」(以下「要綱」という。)を法務大臣に答申した。

 要綱では、キャッシュ・アウト、すなわち現金を対価とする少数株主の締出しを行うための制度として、「特別支配株主の株式等売渡請求」制度を創設するとされている。

 この制度については、中間試案に対するパブリック・コメントにおいて、当弁護団から導入に反対する意見を出している(詳細については、当弁護団ホームページ「会社法制の見直しに関する中間試案に対する意見書」を参照)ところではあるが、本稿では、本制度の具体的内容を概観しつつ、法制審議会での議論を踏まえながら、少数株主の観点から検討を加えてみることとする。

 なお、以下で引用する要綱の内容については、一部省略記載している部分がある。

 第2 具体的検討

 1 本制度の内容に関して

 (1)株式等売渡請求の内容

 要綱では、本制度の内容について、以下のとおり定められている(第2の1(1))。

 ① 株式会社の特別支配株主は、当該株式会社の株主(当該株式会社及び当該特別支配株主を除く。)の全員に対し、その有する当該株式会社の株式の全部を当該特別支配株主に売り渡すことを請求することができるものとする。

 (注)本要綱において、「特別支配株主」とは、ある株式会社の総株主の議決権の10分の9(これを上回る割合を当該株式会社の定款で定めた場合にあっては、その割合)以上をある者及び当該者が発行済株式の全部を有する株式会社その他これに準ずるものとして法務省令で定める法人(以下「特別支配株主完全子法人」という。)が有している場合における当該者をいうものとする。

 

 ② 特別支配株主は、①による請求(以下「株式売渡請求」という。)をするときは、併せて、①の株式会社(以下「対象会社」という。)の新株予約権の新株予約権者(対象会社及び当該特別支配株主を除く。)の全員に対し、その有する対象会社の新株予約権の全部を当該特別支配株主に売り渡すことを請求することができるものとする。

 

 ③ 特別支配株主は、新株予約権付社債に付された新株予約権について新株予約権売渡請求(②による請求をいう。以下同じ。)をするときは、併せて、新株予約権付社債についての社債の全部を当該特別支配株主に売り渡すことを請求しなければならないものとする。ただし、当該新株予約権付社債に付された新株予約権について別段の定めがある場合は、この限りではないものとする。

 (注略)

 (2)現行法制度におけるキャッシュ・アウトと本制度の必要性

 上場会社において、少数株主を排除して経営判断の迅速化を図るべく、キャッシュ・アウトを行う必要性は否定できない。

 現状の会社法において、キャッシュ・アウトを実行するためには、

 (ⅰ)金銭を対象とする株式交換等の組織再編行為を行う

 (ⅱ)全部取得条項付種類株式の取得をした上で、少数株主の有する株式をいったん端株株式にした後、端株の処理により当該端株株式の売却代金を少数株主に交付する

 という手法が考えられる。

 このうち(ⅰ)の手法は、対象会社に対して時価評価課税が行われるなど税制上不利であるとして、あまり用いられていない。

 そこで、キャッシュ・アウトを行う場合には、(ⅱ)の手法を用いることが多い。しかし、この手法によると、株主総会の特別決議が必要である(会社法171条1項、309条2項3号)上に、全部取得条項付種類株式の取得に先立ち、事実上、特別決議の要件を満たすために株式公開買付け(TOB)を行う必要があるなど、迅速なキャッシュ・アウトが実行できないとされる。他方、少数株主にとっても、買付け完了後キャッシュ・アウトが行われるまでに長期間を要する場合には、その間、公開買付けに応募しない株主が不安定な立場に置かれることから、公開買付けの強圧性が高まるのではないか、という指摘がある(「会社法制の見直しに関する中間試案の補足説明」)。

 そこで、キャッシュ・アウトを行うために必要な時間的・手続的コストを低減するとともに、キャッシュ・アウトに係る一連の手続きにおいて、少数株主に交付される対価の適正さを確保する観点から、本制度を創設するものとされている。

 また、そもそも全部取得条項付種類株式の制度をキャッシュ・アウトのために用いることは、「目的外使用」であるから制限すべき、との議論もあるところである。

 (3)新株予約権売渡請求

 新株予約権の全部を特別支配株主に売り渡すことを請求することができるという制度も合わせて創設される(②)。特別支配株主が株式の全部を取得した後に、新株予約権者が新株予約権を行使して株主となっては、キャッシュ・アウトの意義が失われてしまうことから、かかる事態を防止するためである。

 (4)全員に対する売渡請求であること

 なお、「当該株式会社の株主の全員」に対して売渡請求をしなければならないので、一部の株主に対して売渡請求をすることはできないとされる。したがって、特定の株主を排除するという目的のために本制度を利用することはできない。

 (5)本制度そのものの問題点

 上記のとおり、当弁護団は、本制度の導入そのものに対し、反対の意見を有している。

 上場会社であればともかく、親族間や知人間などで設立した中小企業などでは、株式を保有しているという状態は、単に出資の結果という物的側面のみならず、特別な人的関係が形成されているケースが多い。このような場合に、少数株主は、「特別支配株主に10分の9の議決権を持たれている以上、事実上経営権を有しないのであるからやむを得ない」という理屈で、株主の地位を奪われてしまうことには納得できないのではないかと思われる。

 かかる観点からすると、法制審議会でも議論されているとおり、少なくとも、本制度の対象をたとえば上場会社に限るなどの制限を加えるべきではないか。

 2 本制度の手続きに関して

 (1)次に、株式等売渡請求を行う手続きとして、要綱では以下のとおり定められている(第2の1(2))。

 ① 株式売渡請求は、次に掲げる事項を明らかにしてしなければならないものとする。

 ア 特別支配株主完全子法人に対して株式売渡請求をしないこととするときは、その旨及び当該特別支配株主完全子法人の名称

 イ 対象会社の株主(対象会社、特別支配株主及びアの特別支配株主完全子法人を除く。以下「売渡株主」という。)に対して、その有する対象会社の株式(以下「売渡株式」という。)に代えて交付する金銭の額又はその算定方法

 ウ 売渡株主に対するイの金銭の割当てに関する事項

 エ (略)

 オ 特別支配株主が売渡株式及び売渡新株予約権を取得する日(「取得日」)

 カ アからオまでに掲げるもののほか、法務省令で定める事項

 (注略)

 

 ② 特別支配株主は、株式等売渡請求をしようとするときは、対象会社に対し、その旨及び①アからカまでに掲げる事項を通知し、対象会社の承認を受けなければならないものとする。

 (注1略)

 (注2)取締役会設置会社が②の承認をするか否かの決定をするには、取締役会の決議によらなければならないものとする。

 (注3略)

 

 ③ 対象会社は、②の承認をしたときは、取得日の20日前までに、次のア及びイに掲げる者に対し、当該ア及びイに定める事項を通知しなければならないものとする。

 ア 売渡株主及び売渡新株予約権者(以下「売渡株主等」という。) 当該承認をした旨、特別支配株主の氏名又は名称及び住所、①アからオまでに掲げる事項その他法務省令で定める事項

 イ 売渡株式の登録株式質権者及び売渡新株予約権の登録新株予約権質権者 当該承認をした旨

 (注1)③による通知(売渡株主に対してするものは除く。)は、公告をもってこれに代えることができるものとする。

 (注2)振替株式を発行している対象会社は、振替株式である売渡株式の株主又はその登録株式質権者に対する③による通知に代えて、当該通知をすべき事項を公告しなければならないものとする(社債、株式等の振替に関する法律第161条第2項参照)。

 (注3略)

 

 ④ 対象会社が③の通知又は公告をしたときは、特別支配株主から売渡株主等に対し、株式等売渡請求がされたものとみなすものとする。

 

 ⑤ 対象会社は、③の通知(売渡株主等に対するものに限る。)又は公告の日のいずれか早い日から取得日後6か月(対象会社が公開会社でない場合にあっては、取得日後1年)を経過する日までの間、次に掲げる事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録をその本店に備え置かなければならないものとする。売渡株主等は、対象会社に対して、その営業時間内は、いつでも、当該書面等の閲覧等の請求をすることができるものとする。

 ア ②の承認をした旨

 イ 特別支配株主の氏名又は名称及び住所

 ウ ①アからカに掲げる事項

 エ アからウまでに掲げるもののほか、法務省令で定める事項

 

 ⑥ 特別支配株主は、②の承認を受けた後は、取得日の前日までに対象会社の承諾を得た場合に限り、株式等売渡請求を撤回することができるものとする。

 (注1~3略)

 

 ⑦ 株式等売渡請求をした特別支配株主は、取得日に、売渡株式等の全部を取得するものとする。

 

 ⑧ 対象会社は、取得日後遅滞なく、株式等売渡請求により特別支配株主が取得した売渡株式等の数その他の株式等売渡請求による売渡株式等の取得に関する事項として法務省令で定める事項を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を作成し、取得日から6か月間(対象会社が公開会社でない場合にあっては、取得日から1年間)、当該書面等をその本店に備え置かなければならないものとする。取得日に売渡株主等であった者は、対象会社に対して、その営業時間内は、いつでも、当該書面等の閲覧等の請求をすることができるものとする。

 (注略)

 

 ⑨ (略)

 (2)対象会社の関与

 要綱によれば、特別支配株主は、株式等売渡請求をする場合、対象会社に対して①の事項を明らかにして通知を行い、その承認を得なければならない(②)。そして、対象会社は、その承認した場合は、取得日の20日前までに、③ア、イの事項をそれぞれ、売渡株主等に通知しなければならない。

 この点、②の規定は、本来株主間の取引であるにすぎない本制度について、対象会社の関与を定める規定である。特別支配株主が提示する一方的な売渡条件について、「対象会社の承認」による関与を求めることで、少数株主の利益を保護することを目的とするものであるから、対象会社には、承認をするにあたり、特別支配株主の提示する条件が客観的に適正かどうかを判断することが期待される。

 (3)「対象会社による承認」の問題点

 ところが、要綱によると、対象会社が取締役会設置会社の場合、「対象会社の承認」は取締役会決議によらなければならないとされている。しかし、少数株主の側からすると、この規定に少数株主保護の機能を期待することは難しい。そもそも特別支配株主の存在する会社では、取締役は、特別支配株主の意向を強く受けざるを得ないのであり、その影響力から離れてあくまでも中立に適正な条件を判断できるのか、疑問であろう。この点については、法制審議会でも議論されており、たとえば第三者の関与を義務づけるべきとの意見なども挙がっている。

 (4)通知に代えて公告によることの問題点

 また、③の対象会社からの通知について、振替株式を発行している対象会社は、通知に代えて公告を行うものとされている。これによれば、公告を確認していなかった株主は、気付いたときには株主の地位を失っているということになってしまいかねず、少数株主の保護としては不十分なのではないかと言わざるを得ない。株式等売渡請求を行う場合には、10分の9の議決権要件が必要であることから、事前に株式公開買付けが行われることが想定されていると考えられる。そのため、実際上は、株式等売渡請求が行われることを全く知らないまま取得日を迎えるという事態はそれほど多くはならないと思われる。とはいえ、事前の株式公開買付けが義務づけられているわけではないのであるから、やはり公告という手続きだけでは不十分であろう。また、後記のとおり、売渡株主等は、売買価格に不服がある場合、取得日の前日までに、裁判所に対して、売買価格の決定の申立てをすることができるとされている。事前の通知は、かかる申立てを行うかどうかについて検討する機会を与える意味でも重要である。

 (5)通知すべき事項

 対象会社が売渡株主等に通知(又は公告)しなければならない事項は、③アに定める事項である。少数株主にとって最も関心を持つ事項は、特別支配株主が設定した売買価格であり、また、その算定根拠である。株式公開買付けを行う場合、第三者から株価の算定評価書を取り付けるなどして、客観的に公正な買付け価格が算定されている。本制度においても、同様に第三者による算定評価書をもとに売買価格が決定されるのではないかと思われる。少数株主にとっても、当該算定評価書の内容に関心を持つことは当然であり、特別支配株主の提示する売買価格が適正かどうかを判断する重要な資料となる。そこで、第三者の算定評価書を事前に開示しなければならないものとしてはどうか。売買価格の決定の申立てが行われる場合、当該算定評価書の開示を求める(文書提出命令など)ケースが多くなることも予想される。無用な争点の発生を防止して少しでも審理期間を短縮するという観点からも、事前の開示が望ましい。

 3 差止請求等の救済手段について

 (1)本制度では、売渡株主等に不服がある場合に、以下のとおり、その救済手段も設けられている(第2の1(3))。

 ① 次に掲げる場合において、売渡株主が不利益を受けるおそれがあるときは、売渡株主は、特別支配株主に対し、株式等売渡請求による売渡株式等の全部の取得をやめることを請求することができるものとする。

 ア 株式売渡請求が法令に違反する場合

 イ 対象会社が(2)③(売渡株主に対する通知に係る部分に限る。)又は同⑤に違反した場合

 ウ (2)①イ又はウに掲げる事項が対象会社の財産の状況その他の事情に照らして著しく不当である場合

 (注記略)

 

 ② 株式等売渡請求があった場合には、売渡株主等は、取得日の20日前の日から取得日の前日までの間に、裁判所に対し、その有する売渡株式等(括弧書き略)の売買価格の決定の申立てをすることができるものとする。

 

 ③ 株式等売渡請求による売渡株式等の全部の取得の無効は、取得日から6か月以内(対象会社が公開会社でない場合にあっては、取得日から1年以内)に、訴えをもってのみ主張することができるものとする。

 (注記略)

 

 ④ ③の訴え(以下「売渡株式等の取得の無効の訴え」という。)は、次に掲げる者に限り、提起することができるものとする。

 ア 取得日において売渡株主又は売渡新株予約権者であった者

 イ 取得日において対象会社の取締役、監査役若しくは執行役であった者又は対象会社の取締役、監査役、執行役若しくは精算人

 

 ⑤ 売渡株式等の取得の無効の訴えについては、特別支配株主を被告とするものとする。

 

 ⑥ 売渡株式等の取得の無効の訴えは、対象会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所の管轄に専属するものとする。

 

 ⑦ 売渡株式等の取得の無効の訴えに係る請求を認容する判決が確定したときは、株式等売渡請求による売渡株式等の全部の取得は、将来に向かってその効力を失うものとする。当該判決は、第三者に対してもその効力を有するものとする。

 (注記略)

 (2)価格決定の申立て期間について

 このように、要綱では、売渡株主等は、売渡請求に対する対抗手段として、事前の差止め(①)、売買価格決定の申立て(②)、無効の訴え(③)を行うことができるとされている。

 この点、上記のとおり、振替株式を発行している対象会社については、売渡株主等への通知は公告によって行われることからすると、売買価格決定の申立て期間がわずか20日間であるというのは、少数株主保護には十分とは言い難く、取得日以後一定期間においても申立てが可能であるとすべきではないか。

 4 最後に

 以上のとおり、少数株主側からすると本制度はややその利益保護という点において不十分なところがあるものと言わざるを得ない。

矢吹 保博(やぶき・やすひろ)

 弁護士。木村・浦川・片山法律事務所所属。京都大学法学部卒業。2007年11月に司法試験を合格し、2009年9月に大阪弁護士会登録。現在、大阪弁護士会消費者保護委員会に所属。

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