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深掘り

オピニオン

原発事故の際のテレビ会議公開の制度化を平時に

福島第一原発事故の教訓を生かし、最善の事故対処のために

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 原子力発電所で事故が発生した際に当事者や関係者たちの間で開かれるテレビ会議は、報道記者や報道機関にとって一刻も早く直接取材したい貴重な資料である。原発で何が起こっているのか。当事者はそれにどう対処しようとしているのか。何がはっきり分かっていて何が不明確なのか。テレビ会議の映像は、記者会見での説明や種々の報告よりも信頼性が高く、また、リアルタイムに視聴できるのであれば、迅速性も高い。しかし、その取材には障害がある。その一つが「個人情報」「プライバシー」を盾にした制約である。本稿では、東京電力福島第一原発事故をめぐるテレビ会議の取材の結果とそこから導かれた教訓を報告し、将来起こるかもしれない原発事故の際のテレビ会議の取材について提言したい。

▽筆者: 奥山俊宏

▽この記事は月刊誌『新聞研究』2014年5月号(No.754)に「報道機関へのテレビ会議開示の重要性──『プライバシー』がもたらす原発事故報道での懸念」と題して掲載された原稿をもとにしたものです。

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 ■テレビ会議なしの情報共有に限界

 2011年3月13日午前4時22分、テレビ会議システムを通じて、東京電力本店から福島第一原発(1F)の吉田昌郎所長に呼びかけがあった(注1)

 本店●●「官邸にそれで●●さんがいるので、サイトのしかるべき人ととにかく直接いま至急話がしたいので、電話をくれと」

 吉田所長「これね、電話、いつも官邸、つながらないんだ、何とかできない?」

 本店●●「電話がつながらないので、官邸じゃなくて官邸に行っている●●さんっていう人がいるんだけど、その携帯」

 吉田所長「何番?」

 本店●●「いまから言います。▲▲▲―▲▲▲▲―▲▲▲▲。そこに電話すると●●さんって人が出るから、そうするとすぐ分かります。お願いします」

 のちに東電が公開したテレビ会議映像では(注2)、「官邸に行っている●●さん」の名前は「ピー」音で聞こえなくされている。その電話番号を吉田所長に伝える場面では16秒間にわたって「ピー」音が続く。本店の「●●」は、その声音からすると、当時の原子力運営管理部長だと思われるが、東電自身がテレビ会議での発言内容を文字に起こして視聴室で記者に閲覧させている「視聴時補助資料」では「●●」と名前が伏せられている。

拡大福島第一原発の免震重要棟2階にある対策本部の様子。円卓を囲んで各班から報告を受けて情報を共有し、意思決定をしている=2011年4月1日撮影、東京電力提供
 当時、東京電力本店2階の非常災害対策室と、福島第一原発の免震重要棟2階の緊急時対策室は、テレビ会議でつなぎっぱなしにされていた。テレビカメラとモニター画面を通じて常にお互いの室内の様子を目で見ることができ、マイクを通じて呼びかければ、即座に話をすることができた。

拡大福島第一原発免震重要棟の緊急時対策室にあるカメラ
 そこでの会話や映像は拡声機やモニターを通じてそれぞれの室内に流れるだけでなく、福島第二原発や柏崎刈羽原発、そして、福島県大熊町にあった政府のオフサイトセンターの中にある東電のブースでも視聴することができた。オフサイトセンターに派遣された福島県や政府の職員が東電のブースに集まり、テレビ会議から情報を得ることがあったという。

 一方、東京の首相官邸や原子力安全・保安院は当初、そうしたテレビ会議が開かれていることを知らなかった。そのためなのか、東京の政府スタッフは電話やファクスを使って東電から情報を得ようと試みた。しかし、それはうまくいかなかった。それだけではなく、福島第一の吉田所長らに電話への応答の負担を強いて、そのぶん、事故対応に向けられるべき現場の注意力をそぐ結果になった。

 東京の政府スタッフが東電本店2階に乗り込んで東電テレビ会議の視聴を始めたのは、事故発生から4日弱を経た3月15日未明。保安院に東電テレビ会議システムの端末が設置されたのは事故発生から20日を経た3月31日。首相官邸に追設されたのは1カ月半も後の4月26日だった。

拡大福島第一原発の免震重要棟2階の対策本部にあるテレビ会議のモニター画面=今年3月12日
 「急速進展する事象への対応では、各種の情報をリアルタイムで共有していくことが不可欠である」「東電のシステムを、政府のテレビ会議システムに加えて使うことで、特に初動時の情報共有がリアルタイムで進んだ可能性がある」と国会事故調はのちに指摘した(注3)。この指摘はまさにその通りで、その教訓は政府機関だけでなく、報道機関にもあてはまる。

 私たち報道記者は事故発生当初、東電本店1階の会議室に24時間態勢で詰め、断続的に開かれる記者会見や、報道対応のために現れる東電の技術者への取材で情報を得ようと努めた。永田町の首相官邸や霞が関の保安院よりも、東電本店にいたほうが、情報源により接近でき、東電の認識をより的確に把握することができた。しかし、それには限界があった。情報が伝わるのが遅かったのだ。振り返ってみれば、テレビ会議をリアルタイムで視聴したほうが、はるかに早く、はるかに的確に、東電の認識を把握でき、報道できた、といえる。

 ■「満水」の誤発表はなぜ起きたか

 現在、東京電力の本店で、私たち報道記者は、事前に予約しさえすれば、2011年3月11日から同年4月11日までの1カ月間の東電テレビ会議の映像を視聴することができる。「ピー」音で一部の音声が聞こえなくされているとはいえ、詳細にそれを視聴し、分析していけば、さまざまなことが分かる。そのうちの一つがテレビ会議の情報の共有の重要性である。

 たとえば、首相官邸の枝野幸男官房長官は3月13日午前8時すぎからの記者会見で次のように発表している。

 「海水を炉に、圧力容器の中に注入する作業が進んでおります。現時点では、いわゆる圧力容器の内側、いわゆる炉の部分のところについては海水で満たされて、少なくとも燃料の部分のところは水で覆われている状態になっていると合理的に判断される状況になっているところでございます」

 政府は前夜、1号機原子炉に海水の注入を始めたと発表していた。枝野長官の発表は、海水注入を続けた結果、原子炉が満水になった、つまり、核燃料はきちんと冷却されるようになった、ということを意味していた。しかし、これは事実ではなかった。事実に反していたというだけでなく、福島第一原発の吉田所長の当時の認識とも違っていた。振り返って検証した結果によれば、これは、情報共有に失敗した末の誤発表だった。

拡大2011年3月13日午前零時54分ごろの東電テレビ会議=東京電力が2013年3月29日に公開したビデオ「本2-1」から
 枝野長官の発表に先立つこと7~8時間前、2011年3月13日未明、東電本店はテレビ会議を通して繰り返し、「海水注入が何時ごろに終わるか」「圧力容器が満水になるのは何時ごろか?」と福島第一に問い合わせた。本店側はその際、そうした質問をもともと発した人の所属について「官邸から」「保安院から」などと前置きしたり、「官房だか官邸だかのほうの報道発表で、『1時に圧力容器満水になります』としゃべってしまいそうな勢いらしい」「大臣、官邸とかで満水になるのを皆待ってる」と、せかしたりした。

 これに対する福島第一の側の受け答えによれば、吉田所長は、圧力容器(ベッセル)から外部の格納容器(ドライウェル)に水が漏れる「バイパスライン」ができていると疑っていた。満水になり得ることそのものに懐疑的だった。

 吉田所長「さっきから言ってるように流量計も信じられないし、いま●●さんが言っているみたいに、ベッセルにどこかバイパスラインが出てると、水が全部ドライウェルにあふれちゃうから、ベッセルは満水にならない可能性もあるわけですね」

 本店●●「そうですね」

 吉田所長「だけど、とりあえずいまあの(略)どんどんと水を入れていきますと。あと2時間ぐらいは連続して入れたいと、こういうことだと思うんです」

 本店●●「そうするとあと2時間ぐらいで満水っていうイメージでいいってことですね。そういうことか」

 吉田所長「あんまりね、『満水、満水』って言うと、いまのその『バイパスラインがある』っていう話とのバランスが分かんなくなっちゃうから、そこだけは気をつけてほしいんだよ」

 本店●●「なるほど。分かりました。そうするとあれですね。今回の作業の一区切りっていうのは、あと2時間ぐらいじゃないかと思っているっていう、そういうことか」

 1F●●「はい。それでお願いします」

 3月13日午前1時前、このようなやりとりが福島第一原発(1F)と東電本店の間で交わされ(注4)、これをもとに「午前3時に満水」というストーリーがつくられた。さらに本店の求めに応じて、吉田所長は「13日3時くらいに満水となると考える」との文書を作らされ、原子力安全・保安院にファクスさせられた。この報告を根拠に13日朝の官房長官発表は行われた。

 今から振り返れば、吉田所長は、自分の本当の認識を政府に伝えることにこだわるべきだったし、読み手をミスリードするような文書の作成は拒否するべきだった、といえる。しかし、当時、吉田所長は40時間以上にわたって、まとまった睡眠をとれていなかった。そこに本店の「●●」は、浅はかな思い込みを押しつけ、吉田所長の言質を取ろうと繰り返し迫った。一刻も早く事態を収束させなければならない現場責任者の筆頭だからこそ、吉田所長は、吉報を聞きたいと願う人たちに迎合的になってしまったように見える。

 テレビ会議を視聴すれば、そうしたすれ違いの微妙な陰影を把握できる。

 ■誤った対応への異論の契機にも

 2011年3月17日午前7時35分、東電本店の非常災害対策室で電話に向かって話す男の声がテレビ会議システムのマイクに拾われ、その映像に記録されている(注5)

 本店●●「おはようございます。●●ですけれども。いま話、できっかなぁ?(略)えっと2号が確かにドライウェル圧力が上がってるっつったんだけど。下がっちゃったんです。(略)しかも全体に圧が下がってるんで(略)格納容器にちっちゃい穴開いてるかもしれない。2号。うんうん。全体のバランス見ないと分かんないけどね。それで? えっと給水量を減らしたんでしょ? 半分にしようって。うん、うん、うん、うん、絞る必要はあまりないと思うんだけど。(略)だからなんで? 誰かれが言ってんの? ●●な。うん。ああ、ああ。ああ。その当の●●がいねぇし、●●もときどき訳のわからんこと言い出すからさ。うん。うん。そういうことね。はいはい、わかりました。はいはい、どうも」

 当時、東電は、2号機格納容器(ドライウェル)の圧力上昇を恐れ、原子炉への注水の量を絞ろうとしていた。それへの異論が本店内部にあったことが、テレビ会議のマイクがたまたま拾った電話の話し声からうかがえる。

 実際には格納容器の圧力は上昇するどころか、大気圧と同等まで下がっており、その気密性は失われていた。したがって、注水量を絞る必要性はまったくなく、また、冷却徹底のためには注水量を絞るべきではなく、異論のほうが正解だった。

 午前9時16分には柏崎刈羽原発の横村忠幸所長がテレビ会議を通じて公然と注水の絞り込みに反対する異論を唱えた(注6)

 横村所長「こっちでずうっとみてると、まず格納容器の健全性については、私は、形は維持してるけれども、気密性の機能は維持してないと思います。(略)いくら水を注水しても、思ったほど水位があがってきてないというふうに考えるべきで。かけた水はですね、海水はほとんどスプレー状態で蒸発して(略)全て大気に放出されている。だから(略)満水状態に近づいてるなんていうのは夢の夢物語。全て蒸発しているというふうに見るべきです。ですから、私は(略)水位を絞ることには反対です」

 本店の「●●」はこれに対して「検討して万全を期したい」と応じたものの、その後、昼にかけて、横村所長の意見とは逆に注水量はさらに絞られた。これは、今から振り返ると、誤った対応だった。横村所長の意見のほうが正しかった。注水量が増やされたのはその日の夕方以降のことだった。

 ■テレビ会議の重要性が認識される

拡大テレビ会議システムを設置した原子力規制委員会の「緊急時対応センター」=2013年6月20日午前9時42分、東京・六本木
 このようにテレビ会議を視聴すれば、あやふやな情報、矛盾した情報を前に、どう事実を認識すべきか悩んでいる当事者の姿が見える。揺れ動く当事者たちの心の機微を感じ取ることができる。当事者たちにさほどの悪意がなくても、伝言ゲームの中で情報がゆがめられることがあると理解できる。

 また、冷静に事態を観察・分析することが可能な外部の第三者、たとえば、柏崎刈羽原発の横村所長のような人がテレビ会議を視聴することで、当事者たちの誤った認識や判断を是正できる可能性があったこともわかる。混乱の中で見落とされた情報が、現場の人よりもむしろ外部の人によって、よりはっきりと了解され、建設的な提案につながる可能性があったこともわかる。

拡大報道陣に初公開された原子力規制委員会の「緊急時対応センター」。大飯オフサイトセンター、関西電力、福井県庁などとつなぎ、テレビ会議が実演された=2013年6月20日午前9時38分、東京・六本木
 政府も同様に感じたのだろう。将来起こり得る原子力災害への対処にあたって、現在、テレビ会議は2011年以前よりもはるかに重要な役割を与えられている。東日本大震災の教訓を踏まえて2012年9月6日に国の防災基本計画が修正され、「警戒事象が発生した場合、直ちに官邸(内閣官房)、緊急時対応センター(原子力規制庁)、対策拠点施設、原子力施設事態即応センター(原子力事業者本店等)及び緊急時対策所を結ぶテレビ会議システムを起動するものとする」との定めが新設された(注7)。翌10月に改訂された政府の新しい原子力災害対策マニュアルは(注8)「情報共有については、可能な限りテレビ会議を通じてリアルタイムで行うものとする」(注9)、「特に重要な情報については、テレビ会議システム等を通じ、官邸幹部に対して、説明を行う」(注10)と、テレビ会議の利用が強調されている。

 昨年10月、東日本大震災後に初めて行われた国の原子力総合防災訓練では、首相官邸、原子力規制庁、九州電力の即応センターなどを結んでテレビ会議が開かれ、その模様の一部は一般に公開された(注11)。また、規制庁によると、同庁の緊急時対応センターの室内の様子をテレビ会議の模様も含めてカメラで映し、同庁の記者室でそれをリアルタイムで視聴できるようにした。そのようにしたのは、訓練の推移を記者に把握してもらう情報共有が目的だったという。

 訓練だけでなく、実際の原子力災害にあっても、記者がテレビ会議を視聴し、報道機関が政府や電力会社の情報をリアルタイムで把握することの重要性は、ここまで述べてきた福島第一原発事故の教訓を踏まえれば、いくら強調しても強調し過ぎることはない。

 ■東電の「プライバシー」主張

 ところが、現状、これには壁がある。

 その一つが、テレビ会議に登場する人たちの「プライバシー」に関する主張である。

 2012年8月から2013年1月にかけて、東電は順次、震災発生当初1カ月の東電テレビ会議のビデオを記者に視聴させ始めた。その際、部長クラス以下の社員の名前や役職など個人を特定できる音声について「ピー」音で聞こえなくする処理をほどこした。また、ビデオの一部はホームページなどで一般にも公開したが、その際、同様に個人の特定を不可能にするため、映像に部分的にぼかしを入れた。東電によると、こうした加工をするために3600万円の費用がかかったという。

 東電はこれについて次のように説明している(注12)

 「映像に映っている社員は、事故直後の厳しい環境の中で事故復旧に当たった方々であり、その多くは現在も発電所の安定化のために働いております。その方々の中からは、今回、生の映像や音声を公開することについて、個人的な非難や家族への悪影響を心配・不安に思う声も上がっており、それらに最大限配慮することも会社の責任だと考えております」

 これに加えて、東電は2012年夏、初めてのビデオ視聴にあたって、以下のような条件を記者に突き付け、書面による同意を求めた。

 「役員等を除き、個人名による報道は行わないでください」

 「従っていただけない場合は、今後の当社会見への参加をお断りさせていただく場合もあります」

拡大テレビ会議の映像を記者たちに視聴させる直前に東電が開いた説明会で会場脇の席から発言する寺島秀昭弁護士(左端)と牧野英之弁護士(右)=2012年8月6日午後1時44分、東京都千代田区内幸町の東電本店3階で
 ビデオ視聴の初日、東電は、記者たちを対象に事前説明会を開き、弁護士を同席させ、「個人が特定された場合の本人や家族への影響」を理由にこうした制限を妥当とする見解を表明させた。その弁護士は、その主張の法的根拠として「プライバシー」「憲法13条」「個人情報保護法」を挙げた。

 テレビ会議の映像は、個人のプライバシーが確保された空間をとらえたものではなく、社外の人も出入りする職場をとらえたものであり、しかも、オフサイトセンターでは政府などの職員も視聴できた。にもかかわらず、プライバシーを盾に報道を将来にわたって縛りかねない条件への書面同意を記者に求め、ビデオ視聴と引き換えの条件とするのは、社会通念を逸脱している。そうした指摘を受けても、東電の弁護士は見解を撤回せず、「テレビ会議の映像は本来公開を前提に録画したものではございませんので、録画に出てくる社員やその他の関係者の方々のプライバシー、こういう面から考えて妥当だというように判断しております」と繰り返し、東電の対応を擁護した(注13)

 記者たちの視聴に先立って、日本新聞協会は東電にビデオの全面公開と取材・報道の制限の撤回を申し入れた。私は同意書を東電に出すにあたって、「特定の個人を誹謗中傷するのではなく、報道の原則に従って適正に報道しているといえる場合」を適用除外とする趣旨を書き加えた。最終的には入室を許され、ビデオを視聴することができた。

 2012年11月以降の視聴では、東電はこの同意書の提出をビデオ視聴の条件とする運用をとりやめた。が、今も、部長クラス以下の社員をあくまで匿名にしようとする東電の姿勢は変わっていない。その結果、本稿でも、重要な登場人物について「●●」とせざるを得なくなっている。

 そして、こうした東電の姿勢は、次に起こるかもしれない原子力災害の際に記者がリアルタイムでテレビ会議を視聴しようとする際の障害になる恐れがある。音声に「ピー」音を入れたり、映像にぼかしを入れたりする作業をリアルタイムで行うことが不可能だからだ。

 ■原子力規制庁「記者には見せない」

拡大原子力総合防災訓練では、原子力規制庁や九電即応センターなどをテレビでつなぎ、情報を共有する訓練が行われた=2013年10月11日午前10時32分、鹿児島県薩摩川内市
 昨年10月の原子力総合防災訓練で、原子力規制庁が「情報共有のため」としてテレビ会議の映像を記者たちにも把握できるようにしたことは前述した。実は、同庁の広報室はこれについて、今般の私の問い合わせに対し、「訓練の様子はこういうものですよ、ということで(記者室に映像を)流したのであって、実際もそういうことをやるということでやったのではない。そこは分けて考えていただきたい」と説明した。広報室の担当官は「訓練は訓練」と強弁し、現実の原子力災害の際には、テレビ会議を記者たちに視聴させる運用にはならないだろうと述べた。

 たしかに、現行の原子力災害対策マニュアルは、報道機関や記者室を明示的にはテレビ会議システムの接続先に挙げていない。しかし、記者の視聴を妨げる趣旨の規定も見あたらない。原子力災害対策マニュアルの2012年10月の改訂にあたって、そもそも記者の視聴の是非が検討されたり議論されたりした形跡はなく、今後、改正の余地はあると思われる。原子力災害対策マニュアルはまた、関係地方公共団体や関係指定公共機関をテレビ会議の接続先に入れている。市町村の役場や県庁の中には事実上、記者が対策本部を傍聴取材することができ、テレビ会議の端末を視聴できる状態になっているところもあると思われる。ある地方自治体の担当者は取材に対し、原子力規制庁広報室の見解について「訓練のときはオープンにしたし、私どもは、オープンでやるだろうと思っていたが、原子力規制庁はそう言っているんですか……」と困惑を隠さなかった。

 原子力規制庁広報室の担当官は取材に対し、「テレビ会議をそのままリアルタイムで流すことでいろいろなマイナスの部分がありうる。そこはいろいろ考えなきゃいけない」と話し、記者の視聴に後ろ向きな姿勢を示す。その担当官によれば、「決定されていない情報、本当にそれが事実かどうかも分からないような情報を含めて、すべての情報がそこに出てきてしまい、それを国民の人たちが見て、本当でない事実を見て行動してしまう」との懸念があるという。東電の主張するような「プライバシー」の懸念についても、「ふだんは顔がさらされていない職員とか、そういうところもあると思う」として、検討の必要な論点に挙げる。

 もし、原発事故がきょう起こったら記者たちはテレビ会議を視聴できるのか。「たぶん難しいと思う」と担当官は言う。そうなのだとすれば、福島第一原発の事故の際と同じように、時機に遅れた隔靴搔痒の記者会見が繰り返される恐れがある。それは、「情報共有」の輪から報道機関や国民を外して、事実を隠す、ということにほかならない。

 ■教訓を生かすための提言を

 原発事故に関するテレビ会議の映像は、年月を経た後に事故を検証し、教訓をくみ取り、また、歴史に事実を刻み込もうとする際に有用であるのはもちろんだが、事故のリアルタイムの報道にもとても有用であることを見落としてはならない。事故が進展しつつあるときに、当事者間のテレビ会議を報道に役立てる態勢を整えておくことは、平時に、できれば原発再稼働の前に、もっと真剣に検討されるべきで、新聞協会などがその点を原子力規制庁や内閣府に申し入れることがあってもいいと私は思う。事故が発生してからでは遅い。

 記者がリアルタイムでテレビ会議を視聴し、そこでのやりとりをもとに、事態をかみくだいて広く世の中に伝えることは、個々の事情に応じたきめ細かな住民防護のためにも、衆知を集めた最善の事故対処のためにも、もちろん、真相に最も近い事実の報道のためにも、とても大切で、ほとんど必須だといえる。それは東電福島第一原発事故の貴重な教訓である。

 ▽注1: http://judiciary.asahi.com/fukabori/2013031000004.html#0422

 ▽注2: 東電が2012年10月5日に一般公開したビデオ「tv007.wmv」にこの場面が収録されている。http://photo.tepco.co.jp/date/2012/201210-j/121005-01j.html

 ▽注3: 国会事故調報告書298~299頁。http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/3856371/naiic.go.jp/blog/reports/main-report/reserved/3rd-2/#toc-3-2-4

 ▽注4: 東電が2012年10月5日に一般公開したビデオ「tv003.wmv」にこの場面が収録されている。

 ▽注5: http://judiciary.asahi.com/fukabori/2013060400016.html

 ▽注6: http://judiciary.asahi.com/fukabori/2013060900001.html。東電が2013年3月6日に一般公開したビデオ「56-9.wmv」にこの場面は収録されている。http://photo.tepco.co.jp/date/2013/201303-j/130306-01j.html

 ▽注7: http://www.bousai.go.jp/kaigirep/chuobou/31/index.html

 ▽注8: http://www.kantei.go.jp/jp/singi/genshiryoku_bousai/dai01/siryou.html

 ▽注9: 原子力災害対策マニュアル31頁。http://www.kantei.go.jp/jp/singi/genshiryoku_bousai/dai01/siryou3-2.pdf#25

 ▽注10: 同上78頁など。http://www.kantei.go.jp/jp/singi/genshiryoku_bousai/dai01/siryou3-2.pdf#64

 ▽注11: http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg8626.html

 ▽注12: http://www.tepco.co.jp/nu/fukushima-np/info/12090601-j.html

 ▽注13: http://judiciary.asahi.com/articles/2012080900003.html

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書に『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、 『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)。共著に『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)など。
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