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深掘り

証券代行業務の現場から見えたこと

企業統治指針で株主総会は? 生保など機関投資家の議決権行使に変化

依馬 直義(えま・なおよし)

2015年6月の株主総会を振り返って
 ~ 機関投資家の議決権行使の動向とコーポレートガバナンス・コードの影響 ~

  

三井住友信託銀行株式会社
証券代行コンサルティング部
IR・SRチーム
チーム長 依馬直義

 ○はじめに

依馬直義拡大依馬 直義(えま・なおよし)
 三井住友信託銀行株式会社 証券代行部 証券代行コンサルティング部 IR・SRチーム チーム長。
 1991年中央大学法学部卒、中央信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社。信用格付機関の出向等を経て、IRコンサルティング業務に携わり、2012年4月より現職。
 日本の「コーポレートガバナンス元年」と呼ばれる2015年の株主総会について、機関投資家の議決権行使の観点から振り返ってみたい。

 安倍政権が推進する「日本再興戦略」において、日本企業のコーポレートガバナンスを強化し、持続的な企業価値向上を目指すことは最重要課題の一つである。2014年に「日本版スチュワードシップ・コード(責任ある機関投資家の諸原則)」が制定され、本年5月末までに191の機関投資家等(信託銀行等7、投信・投資顧問会社等133、生命保険会社17、損害保険会社4、年金基金等23、その他7)が受け入れを表明した。一方、5月1日に施行された改正会社法では、上場企業は「社外取締役を置くことが相当でない理由」を開示しなければならなくなり、事実上、社外取締役を設置せざるをえない状況になった。また、6月1日に適用開始となった「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」には、「独立社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきである」との原則が盛り込まれたことから、上場企業は「原則を実施するか、実施しない場合には、その理由を説明すること」(コンプライ・オア・エクスプレイン)が求められるようになった。

 こうした環境の変化を背景に、本年6月総会では上場企業によるコーポレートガバナンスに対する取り組みや、機関投資家による議決権行使の動向に一層の注目が集まった。

 ○議決権行使基準の主な変更点

 本年6月総会シーズンを迎えるにあたって、主要な機関投資家に対し議決権行使基準についてヒアリング調査を行ったところ、3つの変更点が確認できた。

 1つ目は、監査役設置会社の取締役選任議案において、社外取締役の選任を必須とする基準を新たに導入する国内の機関投資家(信託銀行および投信・投資顧問会社)が増えたことが挙げられる。これまで信託銀行および投信・投資顧問会社の多くは、社外取締役の選任を必須としていなかったが、少なくとも1名選任しない場合には、経営トップである取締役に反対する基準に変更した。ちなみに、海外の機関投資家に大きな影響力を持つ米大手議決権行使助言会社のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)は、2013年に監査役設置会社の取締役選任議案において「社外取締役が1名もいない場合には、経営トップである取締役に反対を推奨する」というガイドラインを定めており、2016年2月からはさらにハードルを引き上げ、「社外取締役が複数名いない場合」に変更する予定である。米大手議決権行使助言会社のグラスルイスは2009年に、「グラスルイスの独立性の基準を満たす社外取締役が2名以上いなければ、経営トップの再任に反対を推奨する」としており、海外の機関投資家の考え方によれば社外取締役がもはや1名では満足しない傾向が強まっているため、今後国内の機関投資家にも影響を及ぼす可能性がある。

 2つ目は、ISSが取締役選任議案においてROE基準を新たに導入したことである。ISSは、「過去5期平均の自己資本利益率(ROE)が5%を下回り、かつ改善傾向にない場合、経営トップである取締役に反対を推奨する」とのガイドラインを定めたことから、ROEが継続的に低迷する企業の経営トップに対して反対が増えた。これまでも信託銀行および投信・投資顧問会社の多くは業績基準を採用しており、ROEの水準をチェックしていたが、過去5期平均5%という客観的な目線が示されたことによって、数値基準を見直す動きもみられた。経済産業省より発表された伊藤レポートの中では、日本企業のROEについて欧米企業との比較のうえ最低ラインとして8%を超える水準が示されているが、機関投資家の議決権行使基準としてはミニマムレベルを採用する傾向がみられる。

 3つ目は、改正会社法施行に伴う関連議案である。5月の会社法改正により、「監査等委員会設置会社制度の創設」、および「責任限定契約締結範囲の拡大」(非業務執行取締役および社外でない監査役への適用)が可能となったが、機関投資家のほとんどが原則賛成の方針を示している。ただし、ISSは指名委員会等設置会社から監査等委員会設置会社に移行する場合は、個別に判断するとしている。

 ○生命保険会社の新たな動き

 日本版スチュワードシップ・コードの受け入れを表明した生命保険会社の中にも、本年度より議決権行使基準を見直す動きがみられた。

 第一生命は、個別精査を経ずに反対する議案として、①社外役員(社外取締役・社外監査役)の再任に関する「出席率基準」、②独立社外役員の選任に関する「独立性基準」を新設した。①の「出席率基準」は直近1年の出席率が半分に満たない場合、②の独立役員として届出されている者の「独立性基準」として、3親等以内の親族あるいは大株主(保有比率33.3%超)に所属、もしくは退職後3年が経過していない場合、一律的に反対することにした。

 また、日本生命は6月1日より、①取締役選任において(a)社外取締役を設置しない場合、(b)取締役会への出席率が不十分な社外取締役の改選、(c)ROEが一定水準を下回る場合、②監査役選任において(a)取締役会または監査役会への出席率が不十分な社外監査役の改選、(b)監査役会の独立性に問題があると判断される場合の社外監査役選任については、精査対象とすることにした。

 生命保険会社は、信託銀行の分別管理(政策保有目的は銀行勘定、純投資目的は信託勘定)と異なり、政策保有目的の株式と純投資目的の株式が一つの勘定で管理されていることから、営業面の配慮もあり形式的な判断によって単純に議案に反対できない事情もあると言われてきたが、第一生命の場合、生命保険会社特有の相互会社でなく上場企業である点を考慮しても、全ての上場企業を対象に外形的な基準を導入したことは日本版スチュワードシップ・コードの受け入れによる変化があったためといえよう。一般的には生命保険会社の場合、運用方針として中長期的な株式投資を行っているため、スクリーニング基準にて対象企業を抽出したうえで、精査対象となった個別議案について必要に応じて企業との対話を行い、議案に対する考え方・スタンスや課題意識を伝えることで企業に改善を促すといったエンゲージメント活動という手段を重視する傾向がみられる。

 ○議案別トピックス

 ◇剰余金処分議案

 一般的には反対が少ない議案であるが、国内の機関投資家の一部から、「自己資本比率の高い企業、あるいは潤沢な資金を保有し、さらなる内部留保の必要がない(キャッシュリッチ)企業にもかかわらず、株主還元(配当および自己株取得)が十分でない」と判断する場合には、反対するケースもみられた。 また、国内機関投資家の中には、業績や株価が継続的に低迷している、あるいは配当性向が低い水準である場合に、反対する事例もあった。

 他方、海外の機関投資家も反対するケースはあまりみられないが、ISSは通常の場合、「配当性向が15~100%の範囲内」であれば、原則として賛成を推奨している。

 ◇取締役選任議案

 社外取締役を選任する東証1部上場企業の割合は前年の74%から92%(2015年6月現在)に増えたため、社外取締役がいないことを理由に経営トップに反対する事例は少なくなった。背景には、2013年にISSが「監査役設置会社の取締役会に少なくとも1名の社外取締役が選任されない場合、経営トップに反対を推奨する(ただし社外取締役の独立性は問わない)」としたことに加え、2015年5月の改正会社法の施行に伴い、上場企業は「社外取締役を置くことが相当でない理由」を開示しなければならなくなり、さらに6月に適用開始となったコーポレートガバナンス・コードに「独立社外取締役を少なくとも2名選任すべき」との原則が盛り込まれたことがある。

 ISSは、本年2月から新たにROE基準を導入し、「資本生産性が低く(過去5期平均の自己資本利益率が5%を下回り)かつ改善傾向(直近期のROEが5%以上)にない場合、経営トップである取締役に反対推奨する」としたことから、低ROE企業の経営トップに反対する海外機関投資家が増えた。なお、国内の機関投資家は、従来から業績や株価パフォーマンス基準を導入済であり、直近決算期あるいは過去2~3期のROEまたは利益水準、配当性向、株価水準等をみて、再任候補者に反対するケースもあった。

 ISSのガイドラインでは現状、社外取締役に独立性を求めていないことから社外取締役を選任してさえすれば反対を推奨していないが、2016年2月から「複数名の社外取締役がいない企業の経営トップに反対推奨」を予定しており、独立性も求められる可能性がある。なお、ISSの各社助言レポートの中では、大株主・取引先・主要な借入先等の出身者の属性について「関係のある社外者」(Affiliated Outsider)として分類されており、「独立性がない」という事実を海外機関投資家に伝えていることから、独自の判断に基づき反対を行使する海外機関投資家もみられた。

 一方、国内の機関投資家の大半が、本年から「社外取締役の選任を必須」とするガイドラインを設けている。また、社外取締役を選任している場合、その独立性を必ず精査しており、「独立性基準」は機関投資家によってそれぞれ異なるものの、主なチェックポイントとして、①親会社・大株主、②取引先、③主要な借入先、④顧問契約のある弁護士事務所あるいは会計事務所、⑤コンサルティング契約のある企業、⑥株式の持合いがある先、⑦役員を相互に派遣している先、⑧親族等に該当しないかどうかをみて判断している。 さらに、国内機関投資家の一部には、取締役会全体の構成をみて判断するケースもあり、①独立性がある社外取締役が1名もいない、②員数が一定規模以上(15名超)、③合理的説明なき増員の場合には、候補者全員に反対する事例もみられた。 その他、法令違反・不祥事等があった企業について、代表権のある取締役や関与した担当役員に対する反対もみられた。

 ◇監査役選任議案

 監査役選任議案では、「社外監査役の独立性」が最も注目されるポイントである。 社外監査役の独立性については、国内の機関投資家も海外の機関投資家も問わず、非常に重視していることから、より厳格に判断されるケースが増えた。特に、大株主・借入先・取引先・顧問契約のある弁護士事務所または会計監査人等の出身者に対し反対を行使する事例が多くみられた。

 ISSは現状、監査役設置会社において社外取締役の独立性を問わないため、社外取締役を選任してさえすれば特段問題としていないが、社外監査役の場合には必ず独立性をチェックするため、反対を推奨するケースが多い。独立性の基準として、①大株主や親会社、②メインバンクや主要な借入先、③主幹事証券、④主要な取引先、⑤監査法人、⑥コンサルティング契約や顧問契約などの重要な取引関係のある先、⑦親族等に該当する場合、否定的に判断している。 なお、ISSは、クーリングオフ・ピリオド(いわゆる退職後の経過期間)を採用していないため、過去にこうした先での勤務経験があれば独立性がないと判断される可能性が高いが、グラスルイスは採用しているため、退職後一定以上の期間が経過していることが開示されていれていれば独立性があると判断される。また、ISSは、賛否推奨の判断にあたって情報ソースとして招集通知ばかりでなく、有価証券報告書や独立役員届出書といった開示情報も参考にしており、当該企業と出身先との取引規模が具体的に開示されていない場合、当該候補者の独立性がないと判断し、反対を推奨するケースもみられた。

 一方、グラスルイスは、監査役会全体の構成をみて独立性を判断していることから、改選後の監査役会メンバーに独立性があると判断される社外監査役が過半数いない場合には、社内監査役あるいは独立性がない社外監査役候補者に対し反対を推奨している。

 ◇定款変更議案

 本年5月1日に施行された会社法改正に伴い、非業務執行取締役および社外でない監査役に対する「責任限定契約締結範囲の拡大」が可能となったことから、例年以上に多くの定款変更議案の上程があったが、国内外の機関投資家は原則賛成であった。

 ◇役員賞与支給議案

 日本企業の場合、賞与支給金額が過大と判断して反対する機関投資家はほとんどみられないが、業績・株価パフォーマンスの低迷や不祥事の発生等を考慮して反対するケースがみられた。また、キャッシュリッチ企業の場合で、剰余金処分が不十分と判断されるケースでも反対がみられた。なお、グラスルイスは、2013年から社外取締役および監査役(社内外を問わず)に支給する場合、反対を推奨しているが、国内機関投資家の中にも同様の基準を持つケースもみられた。

 ◇買収防衛策議案

 買収防衛策は通常3年ごとに更新されるケースが多くみられるが、海外ばかりでなく国内の機関投資家も見方が厳しくなっていることから、本年も廃止する企業が増えた。また、前年の株主総会で初めて否決される事例があったが、本年総会で再度チャレンジし可決に至る事例もあった。ちなみに、議決権行使助言会社によれば、本年総会の賛成推奨事例はISSもグラスルイスもそれぞれ1社ずつとなった。

 ○今後の課題

 日本の株式市場における外国人持株比率は、2015年3月末時点で31.7%と過去最高を更新し、信託銀行名義の株主(国内機関投資家)も18.0%と3年ぶりに上昇しており、国内外の機関投資家による持株比率は市場全体の5割に至っている。安倍政権が推進する「日本再興戦略」の中で、日本経済の成長戦略としてのコーポレートガバナンス強化への取り組みは非常に重要なテーマであり、海外の機関投資家からの注目も高まっている。日本企業には、資本効率(ROE)の向上や社外取締役の選任をはじめとするコーポレートガバナンスの強化等が求められており、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図るため、本年6月に適用開始となった「コーポレートガバナンス・コード」への対応が喫緊の課題となっている。

 コーポレートガバナンス・コードの補充原則1-1①によれば、「株主総会で相当数の反対票が投じられた会社提案議案があった場合、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主との対話その他対応の要否について検討を行うべき」と定められていることから、上場企業にとって機関投資家による議決権行使の実態把握がますます重要になっている。一方で、機関投資家は、日本版スチュワードシップ・コード受け入れ表明により、議決権行使基準の厳格化や企業とのエンゲージメント活動を重視していることから、企業としては株主総会に向けて想定される議案に対する議決権行使基準や考え方について対話を通じて把握し、上程する議案内容について慎重に議論を重ねておく必要があろう。

 ▽注: 本稿における意見などは、あくまでも個人的な見解であり、筆者の所属する会社および組織を代表するものではありません。

依馬 直義(えま・なおよし)

 三井住友信託銀行株式会社 証券代行コンサルティング部 IR・SRチーム チーム長。
 1991年中央大学法学部卒、中央信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社。信用格付機関の出向等を経て、IRコンサルティング業務に携わり、2012年4月より現職。
 主な論文に「機関投資家による議決権行使の状況」(旬刊商事法務2116号、2016年)、「米国の株主総会のトレンド」(会社法務A2Z、2016年3月号)、「ISS・グラスルイス 議決権行使助言基準の改定のポイント」(ビジネス法務、2017年3月号)、「機関投資家による議決権行使の状況」(旬刊商事法務2053号、2014年)、「機関投資家による議決権行使の状況」(旬刊商事法務2019号、2013年)、「米国株主総会シーズンの特徴と議決権行使の状況について」(会社法務A2Z、2012年2月号)、「機関投資家に対する議決権行使促進の留意点」(旬刊経理情報1312号、2012年)など。

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