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オピニオン

原発再稼働、完全に安全を確認? 安全神話を復活させるのか?

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 原子力発電所の再稼働が本格的に始まった。それを見て私は安倍晋三首相の米国でのある約束を思い出す。

▽筆者: 奥山俊宏

▽この記事は2015年9月17日の朝日新聞オピニオン欄に掲載された原稿に加筆したものです。

▽関連記事: 東京電力の原発事故・危機対応

 

 原発再稼働について、安倍首相は昨年9月22日、ニューヨークのコロンビア大学で、修士課程の学生の質問に答え、こう語った(注1)

 我々は過酷な事故を経験をいたしましたから、完全に安全を確認しない限り原子力発電所は動かさないということにしておりまして、世界で最も厳しい基準によって、独立した原子力規制委員会が安全と判断したものについてのみ稼働をしていくという考えであります。

 心地よく耳に響く断定口調だった。「完全に安全を確認」のくだりは「safety is restored 100 percent」と訳され(注2)、ロイター通信によって「原発再稼働、100%安全確保されない限り行わず」と世界に報じられた(注3)

 あれから1年たち、九州電力川内原発1号機を先頭にして原発が動き始めた。同原発2号機が15日に再稼働し、近い将来、四国電力伊方原発3号機がそれに続くと見込まれている。だから今、私は安倍首相の言葉に疑問を抱かざるを得ない。

 第1に、原子力規制委は本当に「安全」と判断したのか。田中俊一委員長は昨年7月の記者会見で「基準の適合性は見ていますけれども、安全だということは私は申し上げません」と述べている(注4)。「安全審査ではなくて、基準の適合性を審査したということです」

 第2に、本当に「完全に」安全を確認したのか。経済産業省や九州電力に川内原発1号機再稼働の際に問い合わせたが、「イエス」の返答はもらえなかった。当然だろう。誠実な技術者であれば、「完全に」なんてことを言えるはずがない。

拡大福島第一原発1~4号機=2015年3月3日、朝日新聞社ヘリから
 福島第一原発事故の主因の一つは、原子力関係者が「絶対安全」の言葉にとらわれて「安全神話」の自縄自縛に陥り、日本だけが世界の趨勢に乗り遅れ、安全対策を見送ったことにあった。

 国際原子力機関(IAEA)は8月31日、福島第一原発事故に関する事務総長報告書とその付録の技術解説書5冊を公表した(注5)。それによれば(注6)、フランスでは、1999年12月にルブレイエ原発が洪水のために電源を失ったことを受け、国内19の原発について洪水被害の危険性の再評価を行い、それに基づき水密扉の導入、開口部、貫通部の密封などの改修をした。もし仮に東京電力がフランスの原発に採用されたのと同様の対策を実行していたら、福島第一原発事故の結果に影響を与えただろう、とIAEAの報告書は指摘している。

 米国では、2011年9月11日に同時多発テロ攻撃に見舞われたことを受けて、全電源喪失を想定した対策をすべての原発に義務づけた。それはのちに「B5b」との通称で呼ばれるようになった(注7)。東京電力は、福島第一原発事故の際の自身の対応とこのB5bを比較して「極めて類似したものだった」と指摘した(注8)。もし仮に2011年3月11日より前にB5bが日本で採り入れられていれば、「今回の事故進展防止にも寄与した可能性が考えられる」と東電は悔やまざるを得なかった。

 日本政府の当局者は、ルブレイエについても、B5bについても、検討はした。しかし、それらの対策をいずれも実行には移さなかった。その結果、福島第一原発事故はあのような事故になってしまった。その経緯は日本の原子力関係者にとって悔やんでも悔やみきれない痛恨事となった。

 だからこそ、再び原発を動かすのであれば、政府、電力会社、そして私たちは、安全性確認の不完全さと不確実さをともに謙虚に認め、それを直視しなければならない。他山の石から学ばなければならない。「絶対安全です」など、まやかしの言葉で自縄自縛に陥る愚を繰り返してはならない。

 こうした考えを持つのは、決して私だけではない。関係者の間ではいわば常識と言ってもいいようなことがらだ。

 政府の福島原発事故調査・検証委員会をとり仕切った畑村洋太郎・東大名誉教授は今年1月の原子力委員会で「安全性の確認はできないんです」と力説した(注9)

 「大事なのは、事故はこれからも必ず起こるというのを、きちんとみんなが認めるということです」

 日本原子力研究所の安全性試験研究センター長や原子力安全・保安院の審議官を歴任し、今は原子力規制庁の技術参与を務める阿部清治氏も3月に出版した「原子力のリスクと安全規制」(第一法規)にこう書いた(注10)

 「万全を図っても、どこでか、いつか、どんなかはわからないが、事故は起きる。あるいは、万全を図ったつもりであっても、実際は万全でないことがある」

 安倍首相自身、国会では「絶対安全というものはない(注11)」「100%の安全やゼロリスクということはない(注12)」とも述べている。

 なのに、なぜ、安倍首相は「完全に安全を確認しない限り原子力発電所は動かさない」と言いつつ原発を再稼働させたのか。これではまるで、安倍首相がみずから「安全神話」の自縄自縛を復活させようとしているように見えてしまう。これではまるで、日本という国は、福島の原発事故の教訓から肝心のことを学ばずに原発を再稼働させたと見えてしまう。やがてその言葉によって再び自縄自縛に陥ってしまう、というようなことだけはあってほしくない。

 川内原発1号機の安全を完全に確認したのですか、という質問とともに、こうした疑問を盛り込んだ手紙を、議員会館の安倍氏の事務所と総理大臣官邸の報道室に送った。しかし、返答はなかった。

 「完全に安全を確認」はない。原子力安全に責任を負う政府のトップならばそれを認めるべきだ。それこそが、日本が「安全神話」と決別して再出発するための第一歩だ。

 ▽注1:http://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg10523.html?nt=1。エネルギーに関する質問が出たのはビデオが始まって19分が経過したころ。
 ▽注2:https://www.youtube.com/watch?v=Eu7DDUCB1ag#t=24m48shttp://www.worldleaders.columbia.edu/events/his-excellency-shinzo-abe-prime-minister-japan
 ▽注3:http://jp.reuters.com/article/2014/09/24/abe-idJPKCN0HJ0AT20140924http://www.reuters.com/article/2014/09/22/japan-abe-nuclear-idUSL2N0RN2CS20140922
 ▽注4:https://www.nsr.go.jp/data/000068796.pdf#4
 ▽注5:https://www.iaea.org/newscenter/news/iaea-releases-director-general%E2%80%99s-report-fukushima-daiichi-accident
 ▽注6:IAEA Director General’s Report on the Fukushima Daiichi Accident, Technical Volume 2/5, Safery Assessment, pp151、http://www-pub.iaea.org/MTCD/Publications/PDF/AdditionalVolumes/P1710/Pub1710-TV2-Web.pdf#162
 ▽注7:http://judiciary.asahi.com/articles/2012012700002.htmlhttp://pbadupws.nrc.gov/docs/ML0929/ML092990417.pdf
 ▽注8:東京電力、福島原子力事故調査報告書44頁、2012年6月20日、http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu12_j/images/120620j0303.pdf#65
 ▽注9:http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2015/siryo08/siryo3-2.pdf#3
 ▽注10:http://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/101832.html
 ▽注11:http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/183/0014/18305130014016.pdf#3
 ▽注12:http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/189/0018/18903060018015.pdf#27

奥山 俊宏(おくやま・としひろ)

 朝日新聞編集委員。
 1966年、岡山県生まれ。1989年、東京大学工学部卒、朝日新聞入社。水戸支局、福島支局、東京社会部、大阪社会部などを経て特別報道部。『法と経済のジャーナル Asahi Judiciary』の編集も担当。
 著書に『パラダイス文書 連鎖する内部告発、パナマ文書を経て「調査報道」がいま暴く』(朝日新聞出版、2017年11月)、 『内部告発の力 公益通報者保護法は何を守るのか』(現代人文社、2004年4月)、『ルポ 東京電力 原発危機1カ月』(朝日新書、2011年6月)、『秘密解除 ロッキード事件  田中角栄はなぜアメリカに嫌われたのか』(岩波書店、2016年7月)。共著に『偽装請負』(朝日新書、2007年5月)、『ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか』(同、2008年9月)、『検証 東電テレビ会議』(朝日新聞出版、2012年12月)など。
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