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村上世彰とダニエル・ローブ:アクティビスト型株主の過去と未来

Stephen Givens(スティーブン・ギブンズ)

村上世彰とダニエル・ローブ:
日本におけるアクティビスト型株主の過去と未来の姿

 

外国法事務弁護士・米NY州弁護士
スティーブン・ギブンズ(Stephen Givens)

拡大Stephen Givens(スティーブン・ギブンズ)
 外国法事務弁護士、米ニューヨーク州弁護士。ギブンズ外国法事務弁護士事務所(東京都港区赤坂)所属。
 東京育ちで、1987年以降は東京を拠点として活動している。京都大学法学部大学院留学後、ハーバード・ロースクール修了。
 日本企業に関わる国際間取引の組成や交渉に長年従事している。

 長らく低迷していた日経平均株価が2007年以来の高値である18,000円台を回復した。そして、2008年のリーマンショック直後に日本から撤退した「もの言う株主」たちも時を同じくして戻ってきた。中でも、次の二者は特に注目を集めている ― ひと昔前、「もの言う株主」を代表した「村上ファンド」の村上世彰氏。そしてアメリカ出身のサード・ポイント・ファンド代表であるダニエル・ローブ氏。この二人の比較は日本におけるアクティビスト型株主の過去と未来の姿を物語っており興味深い。

 ニッポン放送事件を巡るインサイダー取引有罪判決を経て、2014年後半から村上は再び表舞台で活動を始め、経済紙に報道されるようになった。村上が投資先として選んだ企業の特徴とその手法を見てみると、2000年代に村上が投資対象としていた東京スタイルや昭栄といったマイナーリーグ級の会社に仕掛けたときのそれと全く変わっていない。対照的にローブのファンドはもっぱらメジャーリーグ級の大手を相手にしていて、多面的で、かつ興味深い提案をおこなっている。

 村上とローブのファンドの投資対象会社のラインナップの違いは明らかである: 

旧村上ファンド系 ダニエル・ローブ(サード・ポイント・ファンド)
  時価総額     時価総額
アコーディア・ゴルフ 94   ソフトバンク・グループ 7,010
黒田電気 90   ファナック 4,010
日本証券金融 63   ソニー 4,010
ヨロズ 63   スズキ 2,170
三信電気 36   IHI  503
エクセル 14     2015年9月30日時点 単位:10億円


 上の表を見ると、それぞれの投資規模の差がまず際立つ。例えば、村上が最近プロキシーファイト(株主総会での議決権の争奪)を仕掛けながら失敗に終わった黒田電気の時価総額は、ソフトバンクの100分の1、ファナックやソニーの50分の1。村上の投資対象は傾向として将来的に大きな成長を見込めないいわば成熟産業である。対するローブのポートフォリオは将来性に関しては未知数だが、いずれも本格的な技術と競争力を持つグローバルカンパニーである。

 もちろん、地味な会社の投資で稼ぐのは決して悪いことではない。ある意味資金が潤沢でない村上ファンドにとって、小規模の会社を対象にする選択肢しかなかった。しかし、2000年代の実績を見てみると、小さい上場会社から内部留保されたキャッシュを搾り取るという手法ではそれほど儲からなかった。しかも日本の財界やメディアがこの手法の正当性に対して疑いの目を向けた結果、皮肉にもファンドの最終目的であった対象会社の過半数の株主を説得し、強制的にキャッシュを手にすることは、多くのケースにおいて達成できなかったのである。

 その中での数少ない成功例の典型はいわゆる「グリーンメール型」事例だった。これは、ターゲットにされた会社またはその大株主に株を買い取らせるという結末になった。ひときわ大きく報道されたブルドッグソース事件、ニッポン放送事件、TCI-J‐パワー事件(注)は全て「身代金」の支払いで終わった。ファンド側は「企業価値」、「capital efficiency」などと聞こえのよい言葉を並べたが、少なからず胡散臭い印象が残った。そのほかの多くの場合、「身代金」は支払われず、ファンドがその目的を達成することはできなかった。ファンドがターゲットとした会社の株の買い集めを発表した際に、株価は一時的には上がったが、彼らは「身代金」が出ない状況で、株価が元のレベルに下がる前にうまく撤退することに難儀したのである。(注:筆者は本件においてTCI側に関与していた。)

 このように規模の小さな会社の大株主になることには相当なリスクを伴う。経営陣に対する声は大きくなる半面、その声を経営陣に無視されたときは大量の株を処分してうまく手を引くことは困難である。2000年代にアクティビスト・ファンドに狙われた会社の株価の変動を見ると、アクティビストの介入と撤退によって株価は乱高下の様相を呈している。

 一方で潜在価値は低くても、資産を切り売りする可能性が唯一の魅力ともいえる会社を狙う作戦のリスクを示す良い例が、2000年代のスティール・パートナーズ(SP)によるサッポロホールディングスに対する手法である。SPはサッポロの株価が400円台だった2004年から株を買い始め、2007年に発行済株の約20%を買い占めた段階で株価は900円を超えた。その後、主導権を握るための公開買い付け(TOB)が失敗に終わり、リーマンショック後の市場で大量のサッポロ株を清算する羽目になった。SPのサッポロからの撤退が最終的に完了したのは2010年で、その時点の株価は実に367円まで下がっていた。アクティビストの介入による対象会社の株価の激しい値動きは、アクティビストの手法がインチキなマネーゲームだという印象を強めた。

 最近の黒田電気に対する村上の手法は10年前を彷彿とさせる。黒田電気は村上の典型的なターゲットだ - 小規模、ローテク、内部留保額のわりに配当率は低い。2014年12月~2015年7月の間に村上は黒田電気の株の16%を買い占め、株価は1,500円から2,500円まで上昇した。村上は同時に臨時株主総会を開催し、村上自身を含む4人を社外取締役にするよう要求し、就任したら利益の全て(100%)を株主に還元すると宣言した。

 しかし、株主の半分以上が黒田電気の経営陣と特別な利害関係のない外国投資家であるにもかかわらず、8月に黒田電気の株主は6対4の割合で村上の提案を否決した。対抗策として黒田電気の経営陣が配当率を上げると約束をしたことは村上の敗因の一つだっただろう。また、村上が黒田電気の経営陣に対しておこなった提言(その多くは村上の27歳の娘を通じて)は説得力に欠けた。配当率を上げる要求以外、黒田電気の生産性・収益性を改善するための具体策は提示されなかった。村上の黒田電気合戦は10年前と違って新聞の一面で報道されることもなく、話題にならなかった。

 村上らがもしも社外取締役になって上記提案を通すことができたら、配当金を搾り取ったり株の買い取りを求めたりして金儲けに成功しただろう。しかし失敗した場合、16%の持ち分を損することなくどのように処分するかは大問題だ。村上の平均取得コストの1,800円に対して、株価は臨時株主総会の直前の時点では2,600円まで上がった。しかし否決を受けてすぐ2,000円に下がった。16%の持ち分を早急に清算するのであれば、株価はさらに下がるだろう。

 村上とローブの投資手法の違いは対象会社の絶対的時価総額だけではなく、持ち分の比率の違いにも表れている。ローブがソフトバンク株に投資した1,000億円は黒田電気の時価総額の10倍だが、ソフトバンク株のたった1%相当だ。ローブは一時的にソニーの持ち分を6%まで上げたが、他の対象会社における持ち分は、大量保有報告書の提出を必要とする5%には至らない。持ち分が小さいがために、対象会社の経営陣を圧迫する力はそもそもないのである。経営陣がローブの提案を拒んだら、ローブはTOBやプロキシーファイトを起こすことなく、ソニーが彼の提案を受け入れなかったときのように、さっさと株を処分して終わらせるだけだ。ローブが対象会社をコントロールする権利を現実的に獲得できる立場にいなければ、彼の提案を受ける経営陣側はより冷静かつ客観的に提案を検討できるメリットを持つ。しかも、比較的小さい持ち分であれば、処分する時が来たときに市場で吸収されやすいのだ。

 ローブは、対象会社の株を取得しても、村上と違って経営陣を批判したり、その会社に対して抜本的な変化を要求したりすることはない。むしろ、静かに株を買い集めた後で、対象会社の見過ごされていた技術力や財力を褒めることで、知られていなかったその会社の能力を知らしめるパターンが多いのである。他の投資家がローブの説が有効だと認めれば、株価は一時的にではなく、長期的に一段と高くなるはずだ。「醜いアヒルの子」を見つけて、それが本当は「白鳥」だと指摘することは効率的な投資作戦なのである。面倒臭くて手間暇のかかるプロキシーファイトや会社の抜本的な改善は不要だ。経営陣も企業価値が市場価値より高い、と投資家に言われることは大歓迎のはずだ。

 ローブが対象会社へ送る手紙からにじみ出る傲慢なトーンは、時として経営陣を腹立たせることもあるだろうが、内容は一面的な増配要求だけではなく、意外な洞察力を示す提案もしばしば含んでいる。経営戦略の焦点をはっきりさせ、勝ち目のない事業を売却せよ、というメッセージを経営陣に送ることがある。例えば、ソニーやIHIの長所を褒めつつ、冷静に優先順位を決めて、将来性のない分野から撤退するよう提言している。苦渋の決断に責任を負いたくない経営陣は、外部からこのようなアドバイスを受けて内心では喜んでいるかもしれない。

 ローブの日本におけるポートフォリオの対象となっている会社の企業価値は、村上がターゲットとするオールド・エコノミーの代表のような会社とは一線を画し、インクリメンタルな成長ではなく、何倍増ものポテンシャルを持っている。これらの企業はメジャー級で、市場と技術の最先端の場で競争できる。ソフトバンク、ファナック、そして自動車大手のスズキなどのこれからのグローバル市場の中での進化と展開は、日本国の将来そのものと繋がっている。これらの企業について深く考える価値は十分にあるだろう。(村上の対象会社はそうでもない。)

 もちろん、これ

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Stephen Givens(スティーブン・ギブンズ)

 外国法事務弁護士、米ニューヨーク州弁護士。ギブンズ外国法事務弁護士事務所(東京都港区赤坂)所属。
 東京育ちで、1987年以降は東京を拠点として活動している。1976年から77年にかけて京都大学大学院に留学した後、1982年にハーバード大学ロースクール修了。現在、上智大学法学部教授。日本企業に関わる国際間取引の組成や交渉に長年従事している。国際間M&Aから、コーポレート・ガバナンス問題、民間・公的融資、戦略的提携、合弁事業などに経験を持つ。

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