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深掘り

臨床研究の不祥事はなぜなくならないのか

選任が難航した鑑定人は規定違反の薬剤投与が死因と判断

愛知県がんセンター「治験プロトコールに違反した抗がん剤投与」(4)

出河 雅彦(いでがわ・まさひこ)

 より有効な病気の治療法を開発するために人の体を使って行う臨床研究は被験者の保護とデータの信頼性確保が欠かせないが、日本では近年明らかになったディオバン事件にみられるように、臨床研究をめぐる不祥事が絶えない。この連載第1部では、生命倫理研究者の橳島次郎氏と朝日新聞の出河雅彦記者の対談を通して、「医療と研究をきちんと区別する」という、現代の医学倫理の根本が日本に根づいていないことを、不祥事続発の背景事情として指摘した。第2部では、患者の人権軽視が問題になった具体的な事例を検証する。第1弾として取り上げるのは、安全性と有効性が確認されていない新規抗がん剤の臨床試験(治験)で、説明を受けないまま被験者にされ、副作用に苦しんだ末に45歳で亡くなった女性の遺族が損害賠償を求めた「愛知県がんセンター抗がん剤治験訴訟」。その第4回では、死因や治験薬投与と死亡との因果関係などに関する鑑定を経て、裁判が結審するまでの経緯をたどる。

拡大患者への説明なしに医師が治験薬を投与した愛知県がんセンター=1994年8月撮影
 前回は、原告側の申請で出廷した福島雅典医師の証人尋問や、被告であるO医師と、原告で、治験薬を投与されて死亡した女性(以下、Y子さんと言う)の夫に対する尋問の模様を紹介した。ほぼ2年に及んだ一連の尋問が終了した後、被告側はY子さんの死因や治験薬投与との因果関係、余命について鑑定を行うよう裁判所に求めた。名古屋地裁はその意見を採用して鑑定の実施を決めたが、鑑定人は容易に見つからなかった。裁判所が鑑定人の推薦を依頼した大学、医療機関は10カ所を超えたが、そのすべての施設に断られたのである。

 鑑定採用決定から約1年が経過した1999年2月26日、原告側は意見書を提出し、「訴訟遅延のそもそもの原因は、不要かつ不能の鑑定を採用していることにある」と、訴訟の早期進行を求めた。

 原告側はこの意見書で、①福島医師は抗がん剤によるがん治療と臨床試験の専門家であり、鑑定人として必要とされる特別な学識経験を十分に有している、②福島医師を証人として申請したのは原告側だが、福島医師は同時に、被告である愛知県が開設した愛知県がんセンターに勤務している医師であり、あえて証言に応じたのは医師としての良心と倫理に基づくものである。形式上は原告側証人だが、実質的には、特別の学識経験を有する第三者であって、鑑定証人としての証拠価値を有する、③福島医師に対しては、被告側にも十分に反対尋問の機会が与えられた。その後にO医師本人の尋問も行われ、福島医師に対する反論も含めて、専門家として意見を述べる機会を得ており、立証は尽くされている、④在京の10カ所を超える医療機関から鑑定を拒否されている理由の一つが、個別具体的ながん患者の余命について科学的に鑑定するという、不能なことを求められているからではないかと推測される、⑤口頭弁論の全趣旨および証拠調べの結果に基づいて裁判所が相当な損害額を認定すべきである――と主張した。

 しかし、鑑定人さがしはこの後も続き、1999年4月16日に行われた、裁判所、原告、被告三者による訴訟の進行協議の後、三つの大学・医療機関に鑑定人推薦を依頼したが、いずれも拒否回答があった。同年6月1日、原告側は再度、意見書を提出し、鑑定決定の取り消しを求めたが、被告側から推薦

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出河 雅彦(いでがわ・まさひこ)

 朝日新聞記者。1960年生まれ。92年朝日新聞社入社。社会部などで医療、介護問題を担当。2002~2013年、編集委員。2013~2016年、青森総局長。医療事故や薬害エイズ事件のほか、有料老人ホームや臨床試験について取材。著書「ルポ 医療事故」(朝日新聞出版)で「科学ジャーナリスト賞2009」受賞。近刊の著書に「混合診療」(医薬経済社)、「ルポ 医療犯罪」(朝日新聞出版)など。

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