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深掘り

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出る杭こそが日本企業の競争力を高める 同調だけでは捕食される

Stephen Givens(スティーブン・ギブンズ)

出る杭こそが日本企業の競争力を高める

 

外国法事務弁護士・米NY州弁護士
スティーブン・ギブンズ(Stephen Givens)

拡大Stephen Givens(スティーブン・ギブンズ)
 外国法事務弁護士、米ニューヨーク州弁護士。ギブンズ外国法事務弁護士事務所(東京都港区赤坂)所属。
 東京育ちで、1987年以降は東京を拠点として活動している。京都大学法学部大学院留学後、ハーバード・ロースクール修了。
 日本企業に関わる国際間取引の組成や交渉に長年従事している。

 またこの季節が来て過ぎ去った。満開の桜、卒業式、入学式や入社式、人事異動の辞令、事業年度末、そして新年度の始まりの時期である。卒業生や新入社員の制服姿、型通りのスピーチ、昔ながらの形式が津々浦々繰り返される春の光景に、改めて日本の独自性を感じずにはいられない。身だしなみに無頓着なアメリカの学生たちが、卒業したとたん一糸乱れぬ制服姿で企業の入社式におとなしく列席する姿は到底想像できない。そう、日本は他の国とは違うのである。その画一性、形式や慣習の固守、集団意識、他と同調しようとする意識が、他の国と明らかに違っている。

 長年日本に住む在留外国人である私は、国民全体が個性を抑制することから生まれる日本の社会的秩序と結束を高く評価している(そして、その恩恵にあずかれることを幸いに思う)。だが、世界を舞台に戦う日本企業に助言を行う立場から言えば、真のボーダーレス市場を目指す日本企業のさまざまな取り組みにあたって、こうした特性は障害にしかならないとの思いが強まる。

 多くの日本企業は、さまざまな業界で苦難に直面している。人口ピラミッドの逆転現象により加速する国内市場の縮小。かつては日本の強みであった製品やテクノロジーのコモディティ化(市場価値低下)と衰退。世界を股にかける巨大多国籍企業の台頭。かつての英国や欧州の自動車産業のように、自国市場のみを視野に入れて事業を展開したいと願う地域拠点企業はその存続を脅かされる。こうした諸問題に対して、どの日本企業も相変わらずありきたりで紋切り型の方法で対処しようとしている。まさにそこが問題なのである。

 この時期、日本企業はこぞって「中期経営戦略」を発表する。これもまた、6月末に控えた定時株主総会に備えて実施する年中行事の一つである。私は仕事柄こうした経営計画をいくつも読むわけだが、結局のところ、業界を問わずどの会社のものもほぼ同じ内容であるというのが率直な感想である。大部分の会社は漠然とした収益目標を設定しているだけで、そうした目標をどのように達成するかについての具体的な説明は何もない。例を挙げると国内の縮小市場に対しては、「新興市場において厳選した企業との提携・吸収合併によりトップライン(売上)を着実に伸ばしていく」という定型文。重電機器や建設機械のメーカー各社は、「AIやIoTでの革新を通じて事業領域を拡大する」と漠然とした主張に加え、「持続可能な開発」「コーポレート・ガバナンス」「多様性と参加」といった崇高な目標を並べている。その内容からスタイルに至るまで、あたかも入学式や卒業式の祝辞のように、どれもが異様なまでに似通っているのだ。

 画一化された日本各社の企業戦略を見ていると、ハーバード・ビジネス・レビューより約20年前に出版されたマイケル・ポーターの代表作「戦略の本質(原題:What is Strategy?)」が思い出される。本書は米国のビジネススクールが学生たちに教え、ボストン・コンサルティング・グループやマッキンゼーといった経営コンサルティング企業が実践する企業の経営戦略理論の考え方を示したもので、成功する経営戦略とは、他社にない「独自性」のある製品を開発することだとしている。単に他社よりも品質や価格の面で優れた製品というだけではなく、直接競合はしないか、あるいは少なくとも競争を避けることのできる、きちんと差別化されたものを意味する。

 本書においてポーターは、すでに20年前に陰りが見えていた日本の競争力の低下について、独自性のある製品を開発せず、同じ製品カテゴリーの中で価格と品質で真っ向勝負を仕掛けるという誤った方向性にその原因があるとした。

 日本企業が戦略的ポジションを明確に確立したことはおおよそなかった。ほとんどの日本企業は互いにまねしあっている。各社とも、ほぼすべての種類の製品、機能、サービスを提供し、またあらゆる流通ルートを採り入れて、どこの工場も同じようにつくられている。

 ポーターの記事から20年後の今、日本の金融や保険、画像処理(カメラやコピー機)からビールにいたる主要産業を調べてみてもやはり同じパターンに遭遇する。同じ分野で3、4社が固まって互いに競い、海外のライバル会社と正面衝突を繰り返している。米国のビジネススクール出身者ならばすぐさま、敗北の方程式だと結論づけるであろう。

 より大きな現象の縮図としてビール業界を例に取ってみよう。キリン、アサヒ、サントリー、サッポロの4社が、中身も価格も似通った飲料のラインナップを取り揃え、国内市場を取り合っている。国内のビール離れが進む中、4大メーカーは他所に成長の機会を求めたのだが、そのやり方が全社とも同じなのだ。すなわち、(a) 缶チュウハイなど新ジャンルのビール類以外の飲料の提供、(b)医薬品分野への参入、(c)ブラジルやミャンマーなど、経済成長や人口増加が見込まれる国々のビール会社の買収などである。ビール製造各社は同業者と同じ方式を採用することで、一社だけが抜け駆けしたり、逆に落ちこぼれたりしないようにしているのだ。「出る杭は打たれる」社会において、周囲に溶け込み、仲間が大勢いれば怖くないという安心感がある一方で、グローバル競争の場ではこのような安堵感は虚構でしかない。

 日本企業の重役たちが同業他社である仲間との差別化をはかるためにまずすべきことは、縮小する国内市場への対策として、厳選された企業との提携・吸収合併をはかるという旧来の常識、すなわち中途半端なグローバル戦略を捨てることだ。味の素が宣言通りに「真にグローバル」な企業としてネスレと競いたいのであれば、経済的に急成長する中規模企業をいくつか買収したとしても、それではその目的は果たされない。キリンがブラジルで経験したように、市場の80%を持つアンハイザー・ブッシュ・インベブ(「ABインベブ」)の子会社と競合するような小さな現地企業を買収してもダメなのだ。

 現時点でまだ海外進出をしていない企業に対しては、時すでに遅しというのが率直な意見である。中途半端なグローバル戦略は、一時的には国内の売上減少を覆い隠し、万事好調という幻想を抱くだけの収益を生むかもしれないが長続きはしない。いずれにせよキリンがABインベブと、味の素がネスレと世界規模で一騎討ちをするにはもう手遅れだ。

 日本企業の重役たちが自問すべきもっとも難しい問題は、このボーダーレスな製品市場において、結局のところ日本の国内市場が果たして安全なのかどうかという点である。確かに日本は外国企業が参入しづらい市場として悪名高いが、年々グローバルプレイヤー各社が意欲的な日本人スタッフを雇用して、日本独自のテイストや好みにあわせて各社の製品を変えることで、たとえば、アマゾンが楽天からeコマースのシェアを、グーグルがヤフージャパンからサーチエンジンのシェアを奪っている。筆者はバドワイザーよりキリンが好みだが、それでもバドは日本のスーパーやコンビニで着々と陳列スペースを拡大しているのだ。

 日本の経営陣には想像が難しいであろう秘策が一つある。味の素が宣言通りに「真にグローバル」な企業になりたいのであれば、ネスレと合併することが一番の近道だ。しかし合併後は自分よりも強大な外国企業に従属することになりかねないことを考えると、多くの者にとって受け入れがたい案であろう。だが、もう一度よく考えてみよう。日産とルノーのいわゆる「提携」関係は、現地経営陣の自主性とグローバルなシナジーを均衡させたクリエイティブな組織構造の一つのモデルである。いずれにしても、ABインベブの多国籍経営モデルからもわかるように、グローバルな企業をある一国の企業で支配することはもはや不可能なのである。自分よりも大きい海外企業との合併を無条件に拒否するという戦略的なオプションは、やがて(エルピーダ、シャープ、そして近々の東芝のように)より一層不本意な条件で吸収されるという結末を招くかもしれない。

 もう一つの、明らかに容易な道は、マイケル・ポーターのアドバイスに従って、競争優位性の高い核となる、いわばコアを特定・差別化し、その周りに戦略を立て、他は容赦無く切り捨てることだ。世界で時価総額トップの5社、――アップル、アルファベット(グーグル)、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブック――はいずれもポーター戦略論を実践しているようだ。5社とも異なるフロントで、それぞれ独自の、他社と容易に重ならない競争上の強みのあるコアをもって互いに競い合っている。

 日本では、ファナック、シマノ、ファーストリテイリング(ユニクロ)のような他に類を見ない企業の成功が同じ結論を示している。ハイエンドの消費者家電のニッチを作り出そうとするソニーの戦略が吉と出るか凶と出るかはやがて明らかになるが、他との違いを打ち出した戦略を掲げているのは確かであり、その限りでは成功の条件を満たしている。日本の化粧品やポップ音楽も、アジアの若い女性向け市場においてユニークで他の参入を阻止できるニッチを作り出せるかもしれない。

 他と同調する意識は日本の歴史と国民性に深く根ざしている。それは今でも人々の強さの源であり、日本が働きやすく暮らしやすい場所たる所以でもある。だが一方で、群集本能は自滅的でもあり、捕食者たちにとって絶好のターゲットを生み、身を寄せ合う獲物に偽りの安心感をもたらす。外敵の多いグローバルな環境下で日本企業が生き抜いていくためには、本能に反して敢えて他と違うことをすること、出る杭となることこそが鍵となるのではないか。

Stephen Givens(スティーブン・ギブンズ)

 外国法事務弁護士、米ニューヨーク州弁護士。ギブンズ外国法事務弁護士事務所(東京都港区赤坂)所属。
 東京育ちで、1987年以降は東京を拠点として活動している。1976年から77年にかけて京都大学大学院に留学した後、1982年にハーバード大学ロースクール修了。現在、上智大学法学部教授。日本企業に関わる国際間取引の組成や交渉に長年従事している。国際間M&Aから、コーポレート・ガバナンス問題、民間・公的融資、戦略的提携、合弁事業などに経験を持つ。

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