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深掘り

臨床研究の不祥事はなぜなくならないのか

計画書では「無作為比較試験」、国は「臨床試験ではない」と主張

金沢大学病院「同意なき臨床試験」(2)

出河 雅彦(いでがわ・まさひこ)

 より有効な病気の治療法を開発するために人の体を使って行う臨床研究は被験者の保護とデータの信頼性確保が欠かせないが、日本では近年明らかになったディオバン事件にみられるように、臨床研究をめぐる不祥事が絶えない。この連載第1部では、生命倫理研究者の橳島次郎氏と朝日新聞の出河雅彦記者の対談を通して、「医療と研究をきちんと区別する」という、現代の医学倫理の根本が日本に根づいていないことを、不祥事続発の背景事情として指摘した。第2部では、患者の人権軽視が問題になった具体的な事例を検証する。愛知県がんセンターの「治験プロトコールに違反した抗がん剤投与」に続くその第2弾として取り上げるのは、金沢大学病院で行われた抗がん剤の臨床試験で説明を受けないまま被験者にされた女性の遺族が国に損害賠償を求めた「同意なき臨床試験訴訟」である。この訴訟では、愛知県がんセンター抗がん剤治験訴訟のように新薬の治験ではなく、薬事承認を受け、保険診療が認められていた薬を用いた臨床試験におけるインフォームド・コンセントのあり方が問われた。第2回では、実施計画書であるプロトコールに「無作為比較試験」と記されているにもかかわらず、「臨床試験ではない」と主張した大学側の論理を見ていく。

拡大金沢大学病院
 無断で抗がん剤の比較臨床試験の被験者にされたことに憤り、金沢大学病院に対する責任追及を決意しながら1998年12月に亡くなった石川県内の女性(以下、Kさんと言う)の遺志を受けた夫(以下、Sさんと言う)らの損害賠償請求に対し、病院の設置者である国はKさんが卵巣がん患者を対象にした比較臨床試験の被験者になっていたこと自体を否定し、Kさんに対しては通常の医療行為として二つの抗がん剤を用いた療法(CP療法)を行ったと主張して、真っ向から争う姿勢をみせた。

 提訴から3カ月後の1999年9月24日付準備書面で国は、「卵巣癌の化学療法として標準療法であるCP療法とCAP療法のうち、Kの腎機能障害が懸念されたためより骨髄抑制の副作用の少ないCP療法を選択して行ったものである。すなわち、本件化学療法は、Kの症状の診断の結果、医師の裁量権の範囲での通常の医療行為として医療水準にある薬剤の中から最良の組合わせ方法が選択されたものであって、右選択は比較臨床試験ではなく、Kを対象とした比較臨床試験は行われていない」「Kに対する本件化学療法は、一般診療として、Kの症状を経過観察し、検討した結果、最も適切な治療方法としてCP療法及びタキソール療法が選択されて行われていたものであり、しかもKは本件化学療法について当科の主治医の説明に同意して右各治療を受けていたものである」と主張した。

 CAP療法とCP療法はともに「標準的な卵巣癌に対する化学療法」であり、その二つを比較する臨床試験は実施する必要がないことについては国も認めていた。その点では、原告側と同じ意見だった。

 これに対し原告側は1999年11月26日付準備書面で、Kさんの入院診療録の1998年1月16日部分に「1/20ごろよりCAP or CP(GOG登録)をお願いします」と記載されていることを指摘したうえで、①「GOG登録」とは、「北陸GOG卵巣癌症例登録」のことであり、北陸GOG卵巣癌症例登

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出河 雅彦(いでがわ・まさひこ)

 朝日新聞記者。1960年生まれ。92年朝日新聞社入社。社会部などで医療、介護問題を担当。2002~2013年、編集委員。2013~2016年、青森総局長。医療事故や薬害エイズ事件のほか、有料老人ホームや臨床試験について取材。著書「ルポ 医療事故」(朝日新聞出版)で「科学ジャーナリスト賞2009」受賞。近刊の著書に「混合診療」(医薬経済社)、「ルポ 医療犯罪」(朝日新聞出版)など。

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