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事件記者の目

事件記者の目

政治資金不正に有権者代表訴訟の制度導入を 検察頼みだけでない国民参加を

村山 治(むらやま・おさむ)

 小沢一郎・前民主党幹事長の政治団体の政治資金規正法違反事件で、小沢本人を不起訴にした検察の判断に、有権者から選ばれた検察審査会が「捜査が不十分」とイエローカードを突きつけた。「捜査のプロ」を自認してきた検察は、納得しない「民意」に困惑するばかりだ。小沢事件は、政治家のカネの不正に対する制裁を事実上、検察だけに委ねてきたシステムの限界を示したともいえる。国民参加の新たな制裁システムの導入を考えるべきときがきているのではないか。

 

 ●小沢事件の容疑と捜査結果

村山 治(むらやま・おさむ)拡大村山 治(むらやま・おさむ) 朝日新聞編集委員。徳島県出身。1973年早稲田大学政経学部卒業後、毎日新聞社入社。大阪、東京社会部を経て91年、朝日新聞社入社。金丸脱税事件(93年)、ゼネコン事件(93,94年)、大蔵汚職事件(98年)、日本歯科医師連盟の政治献金事件(2004年)などバブル崩壊以降の政界事件、大型経済事件の報道にかかわった。著書に「特捜検察vs.金融権力」(朝日新聞社)、「市場検察」(文藝春秋)、共著「ルポ内部告発」(朝日新書)。

 東京地検特捜部が野党第1党の民主党党首、小沢の資金管理団体「陸山会」を捜索し会計責任者で小沢の公設第1秘書の大久保隆規を逮捕したのは、2009年3月3日の午後だった。

 容疑は、準大手ゼネコンの西松建設(東京都港区)から4年間で計2100万円の献金を受けながら、政治資金収支報告書には西松建設OBが代表のダミー団体からの寄付とした虚偽記載だった。大久保はその後、約3500万円の虚偽記載で東京地裁に起訴されたが、無罪を主張して係争中。

 政権交代間近と多くの国民が受け止めていた時期。しかも、従来、検察が摘発対象にしてこなかった、献金自体は公表し名義をごまかす「表献金」に踏み込んだことで、検察は、小沢ら民主党側や一部の検察OBらから「恣意的な政治捜査だ」との厳しい批判を受けた。

 10カ月後の今年1月、特捜部は衆院議員の石川知裕、大久保、池田光智ら小沢の秘書経験者3人を逮捕した。陸山会の土地購入をめぐり、購入原資となった小沢からの借入金4億円を2004年分の政治資金収支報告書に収入として記載せず、土地代金約3億5千万円の支出も、実際の04年ではなく05年に支出されたように収支報告書に記載した。また、小沢からの4億円は07年に陸山会から返済したが、収支報告書にはその旨記載しなかった――という容疑だった。

 特捜部は、この陸山会事件では、小沢本人の共犯容疑での立件も視野に入れていた。西松事件で厳しい批判を受けたことに対するリターンマッチの意味もあった。

 特捜部は小沢本人を2回、都内のホテルで取り調べたが、結局、小沢については、虚偽記載への関与を示す証拠が不十分だとして不起訴処分(嫌疑不十分)とし、石川ら3人だけを起訴した。

 ●不起訴の理由

 陸山会事件で、検察が、小沢訴追を見送った理由は、石川らから、小沢との共謀共同正犯を認められるだけの供述を得られなかった、と判断したからだ。  

 小沢は陸山会の代表ではあっても、会計や政治資金収支報告書の記載事務にはタッチしていない。その刑事責任を問うには、虚偽記載の実行行為者である石川らと共謀していた事実が必要だった。

 検察首脳は、刑法の共謀共同正犯の成立について厳密に解釈する立場をとっていた。小沢本人が石川らから虚偽記載のなされた報告書について通り一遍の説明を受けて了承し、報告書を提出したことを知っていただけではだめで、小沢本人に「いわくのあるカネを隠す」との動機があり、虚偽記載について石川らに具体的な指示したり、石川から明確な説明を受けたりしたことの立証が必要、とのハードルを設定したのだ。

 特捜部は、小沢側が地元のダム工事を受注した西松とは別の中堅ゼネコンから5千万円を受け取って土地購入資金の一部にあてた疑いがあり、それが偽装の動機のひとつの可能性があるとして、石川を追及したが、石川はカネの授受そのものを否定した。さらに小沢からの具体的な虚偽記載の指示の有無についても、明確に裏付ける供述を得られなかった。 

 捜査結果について、現場では「ゼネコン資金の授受は客観的に証明されている。裁判所も認めるだろう」「現段階の石川供述で小沢氏の共犯の立証は可能」とする意見があったが、検察首脳は、これでは不十分」と判断した。

 ●検察審査会の異議

 検察の小沢に対する不起訴処分について異議を唱えたのが、国民の中から選ばれた検察審査会だった。東京の2つの検察審査会が検察の不起訴処分を別々に審査し、ともに「検察の不起訴判断は不当」とし、検察の捜査と判断に疑問を投げかけたのだ。

 2004、05年分の虚偽記載の容疑を審査し「起訴相当」と判定した東京第5検察審査会の議決要旨(4月27日公表)は「2004年分の収支報告書を提出する前に、小沢に報告・相談等した旨の石川の供述、05年分の収支報告書を提出する前に、小沢に説明し、了承を得ている旨の池田の供述(は信用できる。)これらの証拠と状況証拠で小沢の共謀共同正犯が強く推認される」とした。

 一方、07年分の虚偽記載の容疑を審査し「不起訴不当」として検察に再捜査を求めた第1東京検察審査会の議決(7月15日公表)は、さらに詳しく証拠評価を述べた。

 石川が中堅ゼネコンから5千万円を受け取ったとの疑惑について、「小沢事務所に資金提供をした」とのゼネコン関係者の供述は具体的で「本人のみしか知り得ない事情も含まれていて、その信ぴょう性はかなり高い」とした。

 さらに、石川の報告を受けた小沢の応答が「おう、分かった」などというものだった、とする石川の供述を明らかにし、「小沢と石川の上下関係を考えれば、石川としては、小沢が理解していることを確かめながら報告をして了承を求めるはずであり、小沢の返答もそのことを前提にしたものと考えることができる」と判定した。

 また、池田が小沢に「先生に返済しました4億円については収支報告書には載せませんので」と報告したところ、小沢が「そうか、分かった」と答えて了解した、と池田が供述していることを明らかにし、「池田の立場も、前述した石川の立場と全く同じであり、小沢が理解していることを確かめながら報告をして了承を求めているはずである」とした。

 議決は、法律と捜査のプロである検察自身が作成した証拠を吟味し、その判断に疑問を投げかけ、再度の捜査を迫るものだった。

 ●注目集める第5検察審査会の議決の行方

 検察審査会は、くじで選ばれた11人の有権者が、検察官の不起訴処分の妥当性を審査する。

 審査した結果「不起訴相当」(11人中6人以上が不起訴でいいと判断)、「不起訴不当」(6人以上が納得できないと判断)、「起訴相当」(11人のうち8人以上が起訴すべきだと判断)の3類型の議決をする。

 09年5月から、ひとつの事件で「起訴相当」の議決が2回出た場合、容疑者は強制的に起訴されることになった。「不起訴不当」の場合は、検察が再捜査し再び不起訴にすると、そこで事件は終結する。

 小沢については東京第5検察審査会が1回目の「起訴相当」を議決しており、2回目の議決の行方に国民の関心が集まっている。

 小沢事件に対する検察の捜査に対しては、政界の大物である小沢の追い落としを狙い、本来なら軽微な形式犯なのに、あえて強制捜査の手続を使った恣意的捜査だ、との批判があった。2つの検察審査会の議決について検察首脳の1人は「小沢にかけられた検察の容疑が、決して単純な形式犯ではなく、証拠がそろえば起訴に値する犯罪だったことを示している」と評価した。

 ●政治資金規正法の歴史と性格

 政治資金規正法は、米軍占領下の1948年に制定された。モデルは、米国の腐敗行為防止法。「政治資金はガラス張りにし、国民の監視下に置くことで規正効果を上げる」ことを目的とした。

 しかし、ざっくりした規制だったため、法の想定していない政治資金をめぐる腐敗が横行。政治と企業のカネにかかわる事件が摘発されるたびに、カネ集めを規制し、取り締まりを強化する方向で13回にわたり改正を繰り返してきた。  

 例えば、ロッキード事件(76年)、ダグラス・グラマン事件(79年)を受けて政治家個人への献金の収支報告を義務づけ、リクルート事件(89年)、東京佐川急便事件(92年)を受けて寄付の量的制限違反に対する罰則の強化、資金管理団体制度の創設をはかった。

 そして、行き着いた先が、資金管理団体に対する企業・団体の寄付の禁止(99年)と、検察による違反の摘発強化だった。

 同法を主管する総務省は、政治資金収支報告書の形式的審査をするだけで、具体的な違反の認定には踏み込まない。結果として、政治資金の監視は主にメディアの報道や市民団体の調査・告発が担ってきた。

 一方、違反を取り締まる検察は、膨大な数の政治団体を常時監視して違反を摘発するのは物理的に難しく、戦後長い間、たまたま別件での摘発で発覚したり、内部告発が出たりした政治家と献金者だけが摘発されてきたのが実態だった。

 ●政治とカネの不正―制裁のツールは贈収賄罪から政治資金規正法へ

 その間、検察が、政治とカネの疑惑に斬り込む武器として選んだのは、刑法の贈収賄罪だった。贈収賄罪の構成要件の基本形は「公務員(政治家は特別公務員)が職務に関し、金品を受け取った場合、処罰の対象になる」。極めて単純な法律構成で、立証も簡単だった。

 検察が、贈賄側から「職務に関し、賄賂を提供した」との供述を得、賄賂原資の調達や受け渡しについて客観的な裏付けがつけば、収賄側が否定しても裁判所は概ね有罪判決を出してきた。権力を利用して懐を肥やす政治家や高級官僚に掣肘を加える検察は、国民の支持と期待を集めた。

 しかし、贈収賄での摘発は次第に困難になった。密室での取り調べで決定的な自白を得ることを最大の武器とする検察に対し、供述を拒む政治家、企業関係者が増えた。収賄側が贈賄業者側から請託を受けた時期に接近して、かつ直にカネを受け取るという古典的なスタイルはまずなくなり、犯罪の手口は一層巧妙になったとみられる。

 そうした中で政治家を摘発する新たな武器として見直されたのが、カネを受け取った政治家側の情報開示義務違反を咎められる政治資金規正法だった。 

 それと併行して、検察は、90年代後半から経済事件の分野で企業の粉飾決算など投資家と市場を欺く情報開示義務違反を厳しく追及する方向に舵を切った。金融行政が、護送船団方式のシステム運営からルールの事後チェック強化になったことに伴う方針転換だ。

 2つの流れが合流し、2000年ごろを境に、政治資金規正法違反による摘発は飛躍的に増えた。

 他の容疑との抱き合わせも含め、民主党の山本譲司衆院議員(2000年、900万円の虚偽記載)、自民党の鈴木宗男衆院議員(2002年、資金管理団体の1億円の収入の虚偽記載)、自民党の坂井隆憲衆院議員(2003年、1億6800万円の虚偽記載)と土屋義彦埼玉県知事の長女(同、資金管理団体の1億円を越える献金の記載漏れ)が次々と起訴され、有罪判決を受けた(鈴木議員は上告中)。

 虚偽記載の摘発範囲も次第に拡大した。「表献金」で有力政治家の秘書の逮捕に踏み切った西松事件は、この政治資金規正法違反の摘発強化の延長線上にあった。

 ●表献金偽装に対する制裁の難しさー腐敗の温床になる恐れ

 政治資金にからむ違法行為は、記載ミスに近い軽微なものから、献金を受け取りながら表に出さず、多くの場合、領収書も出さずに裏で処理する「裏献金」まで千差万別だ。

 西松建設事件でクローズアップされた「表献金」偽装は、違法行為の相当部分を占め、シロに近い灰色から犯罪につながるクロに近いものまで悪性に大きな幅がある、と検察関係者は見ている。

 表献金偽装の多くは、献金の存在自体は公表し、実質的な献金者の名を伏せたものだ。背景に、隠さなければならない特別な事情がなければ、実質的な献金者の名を出すよう収支報告書の訂正をすれば、法の目的は達成される。違法行為が消えるわけではないが、検察があえて刑罰権を行使するほどのことはない。

 さらに、この分野の違反を事件化すると、政敵をたたくための告発が殺到する恐れがあり、そうすると、一般の検察業務に支障をきたすのではないかとの心配もあり、従来、検察は、表献金偽装の摘発には消極的だったとされる。

 そういうこともあってか、小沢は「なぜ僕だけなんだ」と検察を批判した。

 西松建設事件で検察が強制捜査に踏み切ったのは、公共事業受注への影響力を背景とした献金で悪質性が高いと判断したこと、小沢秘書の大久保が容疑を否認し、証拠隠滅の恐れがあったためだった。

 公共事業利権は、究極の税金の無駄遣いであり、政官業癒着の温床だ。その利権に政治資金規正法の情報開示義務違反を武器に迫るという、検察のモチーフと捜査手法は、時代の要請であり、国民のニーズにも沿っているといえるものだった。

 公判で、検察側は、小沢事務所が岩手、秋田の両県の公共工事で、大手ゼネコンを仕切り役とする談合組織に介入。大久保が2000年ごろから本命業者を決定する「天の声」を出す役割を担い、岩手県のダム工事でも西松建設の受注を了解していたとするなどして偽装献金の悪質さを強調したが、弁護側は、小沢側に受注業者の決定権などなかったと主張。表献金の名義人をめぐる虚偽記載の摘発例はなく「公訴権の乱用」で無効と主張している。

 ●国民参加の新たな制裁システムの創設を 

 政治献金の偽装は、透明化を求める法の精神に反し、同時に、政治腐敗の温床になっている可能性もある。国民の多くが、政治資金にからむ不正の撲滅を望んでいる。

 政治資金規正法違反に対する法的制裁は、現状では実質的に、検察による訴追=刑事裁判を通じてしかできないが、一方で、検察の政治資金捜査における様々な困難と限界が明らかになっている。その矛盾が露呈したのが小沢事件だったともいえる。

 政治資金の不正に対する制裁を、検察に頼るだけでは済まされなくなっている。政治資金規正法の基本理念に沿って、国民が直接、政治資金不正の制裁に関与できる仕組みが必要ではないか。

 例えば、検察は、悪質と断定できる裏献金を主に捜査することにし、違反の悪性に幅がある表献金についての制裁は、国民が民事訴訟を通じて制裁できる新しい枠組みを創設してはどうだろう。

 報道などで不正の端緒を知った国民が、疑惑の政治家や政治団体を相手取り、裁判所で民事訴訟を起こす。国民側が勝訴すると、判決では、政治家側に国民への謝罪広告を義務づけ、違法献金は「不当利得」として国庫に納めさせる。

 献金元の証人尋問や、法廷での資料調査を通じ、かなり違反の真相に肉迫できるはずだ。偽証があれば、原告らが検察に告発することも可能になる。

 すでに企業や自治体の不正経理事件などで力を発揮している株主代表訴訟や住民訴訟と同様のシステムを想定していだけるとわかりやすいと思う。

 違法献金は、企業側にも責任がある。こちらも株主代表訴訟が威力を発揮する。自民党長崎県連事件ではゼネコンの役員側が和解に応じ、解決金の支払いや政治献金などをやめると宣言した。

 この仕組みを創ると、政治的思惑などを持つ提訴が殺到する恐れがないとはいえない。それを避けるために、消費者団体訴訟の原告適格制のような制度を導入する必要があるかもしれない。

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村山 治(むらやま・おさむ)

 徳島県出身。1973年早稲田大学政経学部卒業後、毎日新聞社入社。大阪、東京社会部を経て91年、朝日新聞社入社。金丸脱税事件(93年)、ゼネコン事件(93,94年)、大蔵汚職事件(98年)、日本歯科医師連盟の政治献金事件(2004年)などバブル崩壊以降の政界事件、大型経済事件の報道にかかわった。
 著書に「特捜検察vs.金融権力」(朝日新聞社)、「市場検察」(文藝春秋)、「小沢一郎vs.特捜検察、20年戦争」(朝日新聞出版)、「検察: 破綻した捜査モデル」(新潮新書) 。共著に「ルポ 内部告発」(朝日新書)、「田中角栄を逮捕した男 吉永祐介と 特捜検察『栄光』の裏側」(朝日新聞出版)。

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