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事件記者の目

事件記者の目

検察は「うそ捜査報告書」の捜査・検証を急げ

村山 治(むらやま・おさむ)

 検察でまた「不都合な真実」が発覚した。政治資金規正法違反(収支報告書の虚偽記載)の罪に問われた小沢一郎衆院議員の公判で判明した、石川知裕衆院議員を取り調べた検事のうその捜査報告書疑惑である。小沢氏側は「起訴の根拠である検察審査会の起訴議決がうそ報告書に基づく」として公訴の取り消しを求め、市民団体は、検察側が審査会への提出証拠を操作して起訴議決を誘導した疑いがあるとして虚偽有印公文書作成などの容疑でこの検事らを最高検に告発し、東京地検が捜査することになった。市民団体側の主張通りなら、検察審査会制度の根幹を揺るがす問題だ。検察は実態解明に全力を挙げることが求められる。

  ▽筆者:村山 治

  ▽この記事は2012年1月28日の朝日新聞朝刊オピニオン面に掲載された原稿に加筆したものです。

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 ■検察審査会の起訴議決と石川氏の隠し録音

村山 治(むらやま・おさむ)拡大村山 治(むらやま・おさむ)
 朝日新聞編集委員。徳島県出身。1973年早稲田大学政経学部卒業後、毎日新聞社入社。大阪、東京社会部を経て91年、朝日新聞社入社。金丸脱税事件(93年)、ゼネコン事件(93,94年)、大蔵汚職事件(98年)、日本歯科医師連盟の政治献金事件(2004年)などバブル崩壊以降の政界事件、大型経済事件の報道にかかわった。著書に「特捜検察vs.金融権力」(朝日新聞社)、「市場検察」(文藝春秋)、共著「ルポ内部告発」(朝日新書)。

 小沢氏は自らの資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる収支報告書の虚偽記載罪で元秘書の石川知裕衆院議員らとともに告発された。検察は2010年2月4日、収支報告書作成の実務にかかわった石川氏ら3人の元秘書を同罪で起訴(いずれも有罪判決を受け控訴中)したが、小沢氏については嫌疑不十分を理由に同日、不起訴処分にした。

 しかし、東京第五検察審査会は同年4月27日に小沢氏について1回目の起訴相当議決(検察審査員11人中8人以上の賛成)をし、さらに9月14日に再度、起訴議決をし、小沢氏は2011年1月31日、検察官役の指定弁護士によって起訴された。

 石川氏は、小沢氏に対する1回目の起訴相当議決の後、検察の再捜査の一環で10年5月17日、東京地検特捜部の田代政弘検事(現新潟地検検事)の取り調べを受け、その一部始終をICレコーダーで「隠し録音」した。

 石川氏は、録音記録を自らの裁判の証拠として申請。翌11年2月7日に始まった公判で証拠採用された。裁判所は、録音の中で「特捜は恐ろしいところ」との田代検事の発言があったことなどから「威迫ともいうべき心理的圧迫と、小沢氏の不起訴見込みという利益誘導があった」と認定。小沢氏や会計責任者の大久保隆規元秘書の関与を認めた石川氏の供述調書を証拠採用しなかった。

 石川氏の隠し録音は、小沢氏の公判でも証拠採用されている。

 ■うそ報告書

 検察側によるうその捜査報告書疑惑が明らかになったのは2011年12月15日、東京地裁で開かれた小沢氏の第9回公判だった。

 石川氏の取り調べを担当した田代検事は、弁護側の尋問に対し、10年5月17日の石川氏に対する取り調べ状況をまとめた捜査報告書に、石川氏が同日の取り調べで口にしていない話を記載したことを認めた。

 田代検事は、石川氏らが起訴される前に「虚偽記載の事実を小沢氏に報告し、了承を得た」との内容の石川氏の供述調書を作成。検察官役の指定弁護士が小沢氏との共謀を支える有力証拠とする一方、小沢氏側は「無理やり取られたものだ」などと主張し、調書の任意性などが争点となっている。

 捜査報告書のうそ部分は、田代検事と石川氏の問答形式で記載されていた。石川氏が勾留中に小沢氏への虚偽記載の報告・了承などを認めた理由について、田代検事が尋ねたのに対し、石川氏が語ったとされる、以下のような生々しい言葉が記載されていた。

 「(2010年)1月16日土曜日の夜の取り調べでは、収支報告書の不記載などにつき、小沢先生に報告をして了承を得たことや、小沢先生からの4億円を表に出さないために定期預金担保貸付を受けるという説明をして了承を得たことを大まかに話したと思いますが。」

 「私が、『収支報告書記載や定期預金担保貸付については、私自身の判断と責任で行ったことで、小沢先生は一切関係ありません』などと言い張っていたら、検事から、『貴方は11万人以上の選挙民に支持されて国会議員になったんでしょ。そのほとんどは、あなたが小沢一郎の秘書だったという理由で投票したのではなく、石川知裕という候補者個人に期待して国政に送り出したはずですよ。それなのにヤクザの手下が親分を守るために嘘をつくのと同じようなことをしていたら、貴方を支持した選挙民を裏切ることになりますよ』って言われちゃったんですよね。これは結構きいたんですよ。それで堪えきれなくなって、小沢先生に報告しました、定期預金担保貸付もちゃんと説明して了承を得ましたって話したんですよね」

 

 石川氏の「隠し録音」では、石川氏はこれらの言葉を発しておらず、同日作成された石川氏の供述調書にもそういう表現はなかった。

 ■許されない「事実に反する記載」

 捜査報告書はれっきとした公文書だ。田代検事は公文書に事実に反する記載をしたことになる。「故意」の認識があれば、虚偽公文書作成罪に当たる可能性がある。田代検事は法廷で「勘違いでの記載ミス」と弁明したが、複数の検察OBは「検事の取り調べで、3カ月も前の取り調べの記憶や被疑者の著書の記述と混同することはあり得ない。石川氏が、小沢氏との共謀を任意に供述したことを強調するため、意図して挿入したとしか思えない」と「故意」の疑いを指摘する。

 石川氏の再取り調べの内容は、検察が小沢氏について改めて起訴、不起訴の判断をする際に重要な判断材料だった。石川氏は、逮捕・勾留中に小沢氏との共謀を認めた供述調書に署名したが、自らの公判でも供述調書の任意性を争っていた。田代検事が、石川氏が捜査段階で任意に自白したことを強調するためにうそ捜査報告書を作成したとしたら、検察上層部の判断を歪める恐れがあった。

 問題はそれにとどまらなかった。

 ■検察審査会の議決書に同趣旨の表現

 この捜査報告書は、陸山会事件の主任検事、木村匡良東京地検特捜部検事(現東京地検交通部副部長)の指示にもとづき、田代検事が佐久間達哉特捜部長(現法務省国際連合研修協力部長=国連アジア極東犯罪防止研修所長)宛に作成した。東京地検は、捜査報告書を石川氏の供述調書とともに東京第五検察審査会に送った。その後、同審査会は小沢氏について起訴すべきと議決。小沢氏は、裁判所に選任された検事役の指定弁護士によって政治資金規正法違反(収支報告書の虚偽記載)の罪で起訴された。

 その議決書(10年10月4日付)には以下のような記載があった。

 「石川は、再捜査において、小沢への報告・相談等を認める供述をしたことに動揺を示しながらも、検察官から小沢に不利となる報告・相談等を認める理由を聞かれて、石川自身が有権者から選ばれた衆議院議員であることなどその理由を合理的に説明し、小沢への報告・相談等を認めた供述を維持していることなどから、前記石川の供述には信用性が認められる」

 

 同じ文言ではないが、議決書の「有権者から選ばれた衆議院議員であること」などのくだりが、うそ報告書の「選挙民に支持されて国会議員になった」の表現と同趣旨と読み取れる。

 弁護側は、この議決書に「再捜査において」と明記されている一方、5月17日の石川氏の供述調書にはこのくだりはないことから、捜査報告書が検察審査会に提出された、と見るほかないとしている。

 ■「捏造」を疑う小沢弁護団、田代検事は「過失」と弁明

 小沢氏の公判で、弁護側は、議決の中の「有権者から選ばれた衆議院議員であることなど」などのくだりがうその報告書をもとに書かれた可能性がある、ことを前提に、「虚偽の事実を作ったのではないか」「(うそを記載した)報告書が検察審査会に報告されると思っていたのか」「法律家として、証言は真実か」などと田代検事を問い詰めた。

 これに対し、田代検事は「検察審査会に報告される可能性はあると思ったが、起訴議決の内容は知らない」「取り調べを一言一句記憶しているわけではない。終了後、思い出して作成した。勾留中に石川さんが話していることなどが記憶にあり、記憶が若干混同してしまった」などと弁明。故意による捏造を否定した。

 小沢氏の弁護団は11年12月27日、「強制起訴を決めた検察審査会の起訴議決は、虚偽の捜査報告書を根拠にしており、無効だ」として、公訴棄却を求める申立書を東京地裁に提出した。

 12年1月13日東京地裁で開かれた裁判所、指定弁護士、弁護側の三者協議で指定弁護士側が採用に同意。裁判所は、弁護団の要請を受けて、検察に「検察審査会への提出文書リスト」の照会をかけた。回答期限は2月6日で、ここで捜査報告書が出されたかどうか、が正式に明らかになるが、問題の捜査報告書は2月17日の公判で証拠採用され、取り調べられる見通しとなった。

 ■市民団体が田代検事らを刑事告発

 一方、市民団体「健全な法治国家のために声をあげる市民の会」(八木啓代代表)が12年1月12日、田代検事と氏名不詳の検察官を偽計業務妨害罪、虚偽有印公文書作成・同行使罪で最高検に告発した。

 告発状によると、田代検事は5月17日の石川氏の取り調べの際に作成した捜査報告書でその日石川氏が供述した事実がないのに、「小沢に虚偽記載を報告し、了承を得た」と石川議員が認めた理由について、「検事から『貴方は11万人以上の選挙民に支持されて国会議員になった…』と言われたのが効いた」と述べた、と記述した。田代検事は署名押印して虚偽有印公文書を作成したうえ、東京第五検察審査会に送付させ、それを行使した、とした。

 また、告発状は、大久保元秘書の取り調べを担当した前田恒彦元検事が11年12月16日の小沢氏の公判で、田代検事が作成した石川氏の勾留中の供述調書に対する石川氏の弁護人からのクレームに関する書面や、ゼネコン関係者の「小沢氏に対して裏献金を供与したことはない」などの供述メモや捜査報告書等を提出記録から除外した、と証言したのをもとに、氏名不詳の検察官が、小沢氏の不起訴の根拠となった証拠や判断材料の一部を検察審査会に対して意図的に提出せず、検察審査会の決定を恣意的にコントロールした、とした。

 告発状は、証拠隠滅を防ぐため、陸山会事件の捜査に関与した検事のパソコンデータや連絡文書を差し押さえる証拠保全を求めた。

 告発状は最高検から東京地検に回された。告訴や告発は通常、特捜部が窓口となるが、今回は被告発人が特捜部に所属した検事であることから、地検は「捜査を公正に進めるため」刑事部に捜査させることにした。

 ■石川氏本人が公判で「有権者…」のやりとりを認める

 もっとも、この「有権者…」のやりとりそのものは全くの捏造というわけではなさそうだ。それを石川氏自身が11年3月2日の自らの裁判の第8回公判で語っている。

 公判検事と石川氏のやりとりを記者の取材メモで再現する。


 公判検事:(勾留中に被疑者が取り調べ内容などを記録しておく)「獄中ノート」に田代検事から、十勝の有権者は小沢ではなく、あなたに期待して投票したんじゃないのか、と言われたことは書いた?

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村山 治(むらやま・おさむ)

 徳島県出身。1973年早稲田大学政経学部卒業後、毎日新聞社入社。大阪、東京社会部を経て91年、朝日新聞社入社。金丸脱税事件(93年)、ゼネコン事件(93,94年)、大蔵汚職事件(98年)、日本歯科医師連盟の政治献金事件(2004年)などバブル崩壊以降の政界事件、大型経済事件の報道にかかわった。
 著書に「特捜検察vs.金融権力」(朝日新聞社)、「市場検察」(文藝春秋)、「小沢一郎vs.特捜検察、20年戦争」(朝日新聞出版)、「検察: 破綻した捜査モデル」(新潮新書) 。共著に「ルポ 内部告発」(朝日新書)、「田中角栄を逮捕した男 吉永祐介と 特捜検察『栄光』の裏側」(朝日新聞出版)。

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