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事件記者の目

事件記者の目

検察は裏金作りと使途先の全容解明を、徳洲会事件

村山 治(むらやま・おさむ)

 医療法人グループ・徳洲会の組織ぐるみの選挙違反事件を捜査している検察、警察当局は12月24日、グループ創業者の徳田虎雄氏の家族ら7人を公選法違反などの罪で起訴し、年内の捜査を終結した。事件はこれで終わったわけではない。徳洲会グループは不透明な経理操作で裏金を作り、医療で上げた利益を政治につぎ込んできたとされる。今回の捜査が摘発した選挙違反や辞職に追い込まれた猪瀬前都知事の5千万円受け取りなどは、むしろ氷山の一角にすぎないのではないか。

 ■事件の根っこに、医療法人の不正経理による政治資金捻出疑惑

拡大村山 治(むらやま・おさむ)
 1973年、早稲田大学政経学部卒業後、毎日新聞社入社。大阪、東京社会部を経て91年、朝日新聞社入社。金丸脱税事件、ゼネコン事件、大蔵汚職事件、日本歯科医師連盟の政治献金事件などバブル崩壊以降の政界事件、大型経済事件の報道にかかわった。著書に「特捜検察vs.金融権力」(朝日新聞社)、「市場検察」(文藝春秋)、「小沢一郎vs.特捜検察、20年戦争」(朝日新聞出版)、「検察: 破綻した捜査モデル」(新潮新書) 。共著に「ルポ 内部告発」(朝日新書)。
 「現金を運ぶ車がカネの重みで沈んだ」

 徳洲会グループの裏金作りに協力した医療機器販売会社の関係者は国税当局の調査にこう答えたという。徳洲会側から振り込まれた金は、その日かその翌日には、大半が現金で引き出され、都内にある徳洲会グループの医療機器リース業「インターナショナル・メディカル・リース」(IML、東京都千代田区)の事務所に運ばれたという。

 徳洲会の巨額の裏金作りが国税当局の税務調査で判明したのは9年前の2004年春。大阪国税局が前年の税務調査で、徳洲会グループが作成したリース料上乗せリストを発見し、これを不正経理の証拠とみて、東京国税局と合同で全国規模で税務調査した。

 徳洲会グループでは、グループの医療機器販売業「インテグレート・メディカル・システム」(IMS、同。当時の社長は徳洲会グループ事務総長で政治団体「自由連合」の会計責任者の能宗克行氏)が医療機器をメーカーからまとめ買いし、IMLが全国の徳洲会系の病院にリースするシステムを採用していた。

 同グループはその仕組みを利用し、例えばIMSがメーカーから医療機器を格安の1億円で購入し、取引先の赤字会社に同額で売り、赤字会社が2億円を上乗せして3億円で大手リース会社に転売。大手リース会社はIMLに3億円余りで賃貸し、IMLは同会系列病院に1億円余りのリース料で転貸し、赤字の医療機器販売会社に2億円の「差益」を落とすなどの手口で所得を圧縮していた。

 裏金作りにはIML、IMSのほかグループ外の医療機器販売会社など3社もかかわったとされ、申告漏れ総額は1995年12月から2002年12月までの7年間で140億円を超えたという。

 能宗氏は、カネの大半を徳田虎雄理事長(当時)が代表を務める自由連合に貸付けるなど政治活動に使ったと説明したとされる。調査時点でIMLから自由連合に貸し付けられた公表貸付総額は56億円に上っていた。

 調査では、グループの別の会社から数億円が引き出されていたが、徳洲会側は使途の説明をこばんだとされる。国税当局は5社合わせて50億円を超すカネが不正処理された疑いが濃いと認定。IMSとIMLには重加算税を含め10数億円を課税した模様だ。

 国税調査の後、徳洲会グループは、選挙資金などの調達スタイルを変更したとされる。関係者によると、能宗氏が社長を2011年2月まで務め、その後、虎雄氏の娘のスターン美千代氏が社長に就任した「インターナショナル・ホスピタル・サービス」(IHS、大阪市北区)が、医療機械の一括購入でメーカーが価格を大きく割引く商慣行を利用し、各病院の購入額を定価より安く押さえたうえでIHSが手数料をとって収入をプール。社長仮払いの名目で引き出したカネを選挙の際の運動員買収などの違法な用途に充てていたという。

 ■裏金の大半は政治活動に

拡大徳洲会の理事長だった徳田虎雄氏
 徳田虎雄氏が政治家を志したのは、強い政治力を持つ日本医師会に対抗するためだったとされる。徳洲会は「理想の病院」を掲げて全国に病院を展開。開設に際しては常に医師会の強い反対を受け、難航することも少なくなかった。

 自ら政治の世界に進出して政策に影響力を持とうとした理由は理解できなくもない。

 自由連合は、1990年に発足した無所属議員の政策集団が前身。94年に政党となり、徳田虎雄氏が中心となって衆参の4つの選挙でタレント候補ら三百数十人を擁立。しかし、国民の支持は拡大せず、供託金の没収は10数億円に上ったとされる。選挙資金の多くは、事実上、徳洲会グループが負担したとみられる。

 一時、国会の議席を失ったが、1998、2001年の参院選で選挙区の得票率が全国で2%を超え、やっと政党交付金を受けられるようになった。国税当局の調査が入ったのはこの直後だった。

 自由連合はこの調査後の2005年9月に徳田氏が病気で引退。徳田氏から党代表を継いだ次男の徳田毅衆院議員(衆院鹿児島2区)が2006年11月に離党した後、自民党入りし、療養中の虎雄氏が代表に戻ったが、国会議員がいなくなって政党要件を失い、企業献金も政党交付金も受けられなくなった。

 ■崩壊への道

 2008年秋には、自由連合に対する徳洲会グループの融資について朝日新聞が「自由連合、72億円返さず 事実上の献金か 量的制限、骨抜き 徳洲会側貸し付け」と報じたことをきっかけに、徳洲会は貸付金処理に動く。

 徳洲会グループと自由連合の経理実務を取り仕切ってきた能宗氏は、2013年1月末にまとめた「徳洲会の聴聞通知書に対する回答」で、徳洲会グループの自由連合に対する貸付は100億円に上ることを認め、自由連合が借入金を返済できなくなると、IMLの権利を引き継いだ株式会社徳洲会を含む徳洲会関連会社が連鎖倒産し、徳田理事長も100億円の個人債務を負担することになる恐れがあるうえ、政治資金規正法の寄付の量的制限違反や収支報告書の虚偽記載に問われる恐れもあった、と明記している。

 この貸付処理の資金負担をめぐり、徳田ファミリーと能宗氏の間で内紛が起き、告発合戦の末、徳田ファミリーは選挙違反で検察に、能宗氏は業務上横領で警察に摘発された。

 ■能宗氏が明らかにした政界工作疑惑

 虎雄氏や能宗氏の政治活動の「成果」ゆえか、徳洲会グループには、国会議員の応援団ができていた。

 徳洲会グループは、06年に発覚した宇和島徳洲会病院の「病気腎」移植で、11例について、厚労省が義務づけている患者への文書での説明をしないまま保険請求していた。同省は「特殊または新しい療法などについて厚労相の定めるもの以外は保険請求の対象外」と規定。病気腎移植については、当時、原則禁止の方針を打ち出しており、同病院に対する保険医療機関の指定取り消しも検討した。しかし、超党派の議員連盟「修復腎移植を考える超党派の会」が移植を容認する見解をまとめ、指定を取り消さないよう厚労省に求め、処分は立ち消えとなった。厚労省はいまも「検討中」としている。

 不正請求は保健医療機関の指定の停止や取り消しの対象になる。病気腎移植は、腎臓病に苦しむ患者や家族のニーズがあり、医療費は高額だった。徳洲会側の保険請求はやむにやまれるものであり、詐欺的な請求ではなかった。そのため、厚労省内部にも、指定取り消し処分に反対する声もあった。その後も、病気腎移植は、保険適用を受けずに行われている。

 能宗氏は「徳洲会の聴聞通知書に対する回答」の中で、「議連の活動で保健指定医療機関取り消し問題を棚上げにすることができたのも、人間関係のできた参議院議員らの支援があって実現した」と記している。厚労省元幹部は「徳洲会のケースは異例だ。当時、担当者がその参議院議員から詰問されていた」と話す。

 また、能宗氏は「回答」の中で、06年に千葉県の国立国府台病院の払い下げをめぐっても、民主党人脈を使い、私立大学に払い下げられるとされていた状況をひっくり返した、としている。

 ■医療法人の政治活動は禁止

 徳洲会グループの病院は、公益性が高いとして国から毎年補助金を受けているほか、グループ内の特定医療法人は法人税の軽減を受け、社会医療法人は非課税扱いを受けている。

 医療法人が医療業務で上げた利益は患者のために使われるのが筋だ。医療法は54条で医療法人は剰余金の配当をしてはならない、と規定している。

 徳洲会グループは、現場の医師や看護師らの高いモラルと徳田虎雄氏の強いリーダーシップでコストダウンを実現し、巨額の利益を上げた。そのカネは、本来、医療法人の設備投資や医療内容の向上で患者に還元すべきものだったが、徳田氏は政治活動に使った。

 そもそも、国や自治体から補助金を受け、税の優遇措置に浴している団体が政治団体に資金提供すること自体に問題がある。厚労省も「医療法人から直接の献金は認められない」と解釈している。

 IMLやその債権を引き継いだ株式会社徳洲会は、医療法人とは別人格の会社であり、政党に資金提供をしていたとしても問題にならない、まして融資の形であれば、政治資金規正法上の量的制限規制にも抵触しない、とする見方もある。しかし、複雑な裏金工作をして資金を捻出していたこと自体、徳洲会側にやましいことをしているとの認識があったことを示している。

 裏金作りが露見した04年の時点で、能宗氏は、医療法人のナンバー2である事務総長と裏金作りにかかわった関連会社の役員を兼任していた。一連の不正経理処理は、組織ぐるみの工作だった疑いが濃厚と言わざるを得ない。

 マスコミ各社は、国税調査の結果を一斉に報道した。裏金捻出の手口を詳細に記し、自由連合への巨額融資の存在も明らかにした。

 医療法63条は、医療法人の業務や会計に法令違反の疑いがあり、運営が著しく適正があると認めたときは立ち入り検査できる、と定めている。厚労省は同年、徳洲会グループを立ち入り調査し、関連会社などとの不明朗な契約がないかチェックした。医療法にそぐわない点については是正指導したとされるが、業務停止などの処分はしなかった。

 徳洲会グループがその後も裏金作りは続けていたことは、今回の検察の選挙違反捜査で明らかになった。結果として、04年の厚労省の検査は、徳洲会に不透明な資金処理の問題を抜本的に改善させることはできなかった。

 ■お寒い監督体制、抜本的改善の道は

 厚労省によると、全国の医療法人は約4万9千法人。徳洲会のような巨大グループ法人は少なく、大半は家内工業的な小規模の法人だ。医療法人に対する監督は、都道府県が行うが、県をまたぐ法人約1000法人については、国(全国に8つある厚生局)が監督する。

 監督当局は医療法にもとづき毎年、医療法人に対する定期監査を行うが、担当職員は、県で数人。厚生局で2~3人、それも兼務が多く、実質、1人のところもあるという。そのため、監査は、医療法人の事業報告書などの書類審査が中心で、会計資料を収めたパソコンの中身まで調査する余裕はない。関連会社の事業報告書も普通は見ないという。

 法律で禁止されている剰余金の配当が事業報告書に記載されていればまだしも、利益の行き先を意図して隠されたら、把握できないのが実態だ。

 医療法は、性善説で作られている。徳洲会がやってきたような、医療法人の収益を経理操作で関連会社に移し政治活動に使うことを法は想定していなかった。

 厚労省医政局は、検察、警察の捜査が一段落するタイミングで、徳洲会グループに立ち入り調査し、違法行為があれば、業務停止や役員の解任を勧告する方針だが、現在の医療法の枠組みと脆弱なマンパワーで、どこまで不正を解明できるかは疑問だ。

 医療法人の経理不正をなくすためには、医療法人が関連会社を含む外部との契約が適正に行われることが必要だ。

 足立康史衆院議員(日本維新の会)は11月29日の衆院厚生労働委員会の質疑の中で、厚労省の医療経営管理に問題があると指摘。医療法人グループの管理強化をできない場合は、医療法人の外部との契約はすべて競争入札にすべき、と提案した。一理ある。とりあえず、厚労省は、大規模医療法人に限定して、外部との契約を当面、競争入札にさせることを検討してはどうか。

 ■問われる検察捜査―不正経理を全容解明し使途先を明らかにせよ

 徳洲会事件は、大阪地検の不祥事以来、低調が続く検察が久しぶりに取り組んだ本格的な政治がらみの組織犯罪捜査だった。検察は、徳田毅衆院議員の父親で徳洲会グループ総帥の徳田虎雄氏が、選挙違反の首謀者である「総括責任者」であるとの事件の構図を明らかにし、運動員買収に使う裏金や裏事務所の設置費用など選挙などにからむ複雑な裏金の流れも解明した。

 そもそも選挙違反は、都道府県警が捜査本部を置き、多数の捜査員を投入して捜査することが多い。検察は、警察の送致を受け、起訴、不起訴の判断をするにとどまり、独自捜査に乗り出すことはほとんどない。

 警察の捜査では、これまで、組織ぐるみ選挙が摘発されることはそんなに多くはなかった。関係者の数が多いため選挙組織の全体像を把握しにくいうえ、運動員・有権者買収などの端緒をつかんでも、概ね関係者の口が固く、指揮命令系統の解明ができないからだ。

 今回、検察が組織ぐるみ選挙を摘発できたのは、2009年の総選挙まで徳洲会グループで組織ぐるみ選挙を取り仕切ってきた能宗氏が全面協力したからだ。能宗氏は、摘発対象となった2012年の総選挙には関与していないが、徳洲会グループの組織ぐるみ選挙のシステムとノウハウはそのまま徳田ファミリーに継承された。

 検察にとっては「棚ぼた」だったともいえる。ただ、今回の事件で逮捕された被疑者に対する特捜部の取り調べは、原則、録音録画のもとで行われた、とされている。検察部内でも、被疑者、検事がカメラを意識する中で十分な真相解明ができるのか、との危惧があったようだが、特捜部は、公選法違反の指揮命令系統の詳細など骨格部分の解明にはほぼ成功したといえる。

 しかし、ベテランの検察記者らの受けはいまひとつだ。「政界汚職でも出せばともかく、公選法ではね」という声がある。彼らには、検察は、組織的な裏金作りや政官界への贈収賄事件を暴く捜査・訴追機関だ、というイメージが残っており、また、それを期待しているからだろう。

 検察の捜査は終わっていない。猪瀬氏の5千万円問題で市民団体の刑事告発を受け、新年から

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村山 治(むらやま・おさむ)

 徳島県出身。1973年早稲田大学政経学部卒業後、毎日新聞社入社。大阪、東京社会部を経て91年、朝日新聞社入社。金丸脱税事件(93年)、ゼネコン事件(93,94年)、大蔵汚職事件(98年)、日本歯科医師連盟の政治献金事件(2004年)などバブル崩壊以降の政界事件、大型経済事件の報道にかかわった。
 著書に「特捜検察vs.金融権力」(朝日新聞社)、「市場検察」(文藝春秋)、「小沢一郎vs.特捜検察、20年戦争」(朝日新聞出版)、「検察: 破綻した捜査モデル」(新潮新書) 。共著に「ルポ 内部告発」(朝日新書)、「田中角栄を逮捕した男 吉永祐介と 特捜検察『栄光』の裏側」(朝日新聞出版)。

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