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事件記者の目

事件記者の目

検察は財務省背任容疑にどう迫ったか、なぜ不起訴にしたか

村山 治(むらやま・おさむ)

森友事件不起訴、求められる新たな国政監視システム

 学校法人森友学園への国有地売却をめぐり財務省幹部らが背任、虚偽公文書作成などの罪で告発された事件に対する検察捜査の結論は不起訴だった。検察は、捜査内容を明かさず、誰が、何のために、どうしたのか、という事実関係は明らかにならなかった。1年以上にわたって疑惑にイライラさせられてきた多くの国民の間に徒労感と検察に対する不満が残った。検察の捜査を検証し、国政がからむ不正に対する新たなチェック&バランスのあり方を考えてみたい。

 ●「異例」の記者会見

拡大大阪地検の入る大阪中之島合同庁舎=大阪市福島区福島1丁目
 5月31日の午後、大阪中之島合同庁舎。大阪地検は、森友学園への国有地の大幅値引き売却に関する背任や虚偽有印公文書作成などで告発されていた全ての容疑について、前理財局長の佐川宣寿氏ら告発された38人全員を不起訴処分とした、と発表した。

 不起訴事件の捜査内容については,関係者の名誉・プライバシーを侵害するおそれがある、として刑事訴訟法47条により原則として公にしてはならないとされている。

 記者会見は「従来、不起訴の場合は(記者)レクは行っていないが、本件は社会の耳目を引いている事案なので…」と畝本毅次席検事が断って始まった。特捜部長の山本真千子検事は36人の記者を前に「真相を解明するため必要かつ十分な捜査をし、証拠に基づいて結論を出した」と胸を張った。しかし、不起訴理由を問う記者の質問には「お答えできません」「これ以上は差し控える」などと繰り返した。

 ●国民の期待は空振り

 森友学園事件は、検察にとっては厄介な事件だった。公文書の改ざんや土地売却の不透明な経緯について新事実が報道されるたびに政界から「検察のリーク」批判が起きた。

 4月13日の毎日新聞朝刊が「森友学園:国有地売却問題 公文書改ざん 佐川氏、立件見送りへ 虚偽作成罪問えず 大阪地検」と報じたのを皮切りに、5月18日の朝刊で読売新聞が「佐川前長官 不起訴へ 大阪地検 森友文書改ざん」と報じ、日経新聞が夕刊で追いかけるなど、報道各社による「不起訴方針」の前打ち報道が出始めると、今度は月刊誌「FACTA」6月号(5月20日発行)が「忖度検察が『森友改竄』不起訴」との記事を掲載した。。

 そういう中での不起訴発表だった。検察は、捜査の中身は言えないにしても、検察として誠心誠意、捜査したことは国民にわかってほしい、との思いを記者会見で伝えたかったのだと思われる。

 山本検事は、記者から「安倍政権に対する遠慮は無かったのか」と問われると、「必要な捜査を尽くし、本日このような判断に至った。政治的な意図というものは全くございません」と断言した。

 しかし、肝心の容疑にかかわる捜査の中身を開示しないのでは、説得力はなかった。

 会見2日後の6月2日の朝日新聞朝刊には次の川柳が掲載された。

 栄転の沙汰待つナニワの特捜部(東京都 新井文夫)

 良識と正義は哀れ蚊帳の外(埼玉県 間篠善一)

 巨悪とともに眠る検察(兵庫県 横山閲治郎)

 ぎりぎりと国中奥歯のきしむ音(山形県 渡部米助)

 これが、不起訴処分にした検察に対する一般国民の気分といってよかった。

 ●安倍マター

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 森友学園事件は、2017年2月、朝日新聞の報道で発覚した。国交省大阪航空局が管理する大阪府豊中市の国有地について、財務省近畿財務局が、当初の鑑定価格9億5300万円から8億2千万円も値引きして森友学園に払い下げていた。

 籠池泰典理事長(当時)の民族主義的教育方針に共鳴した安倍昭恵夫人が、学園が建設予定の小学校の名誉校長を一時務めており、異例の値引き裏で何があったのかとの疑問が浮上した。

 2017年2月17日、国会で、夫人が名誉校長になった事実を知っているかと質問された安倍首相は「私や妻がこの認可あるいは国有地払い下げに、もちろん事務所も含めて、一切かかわっていないということは明確にさせていただきたいと思います。もしかかわっていたのであれば、これはもう私は総理大臣をやめる」と発言。当時の佐川宣寿財務省理財局長(その後、国税庁長官で辞職)は「面会等の記録は廃棄した」と明言し、多くの人を驚かせた。

 さらに籠池氏に対する国会での証人喚問で、夫人付きの政府職員が籠池氏の依頼で財務省に土地購入を前提とした土地の賃借料を安くできないか問い合わせていたことが判明した。

 財務省が取引に関する決裁文書を大量に改ざんしていた前代未聞のスキャンダルを暴いたのも18年3月2日の朝日新聞報道だった。財務省は、佐川氏の国会答弁にあわせて資料を廃棄したり、決裁文書の内容を書き換えて国会に提出したりしていた。報道直後に文書書き換えにかかわったとされる近畿財務局職員が自殺した。

 財務省は、国有地の大幅な値引き売却が明るみに出た2017年2月以降、取引に関する14件の決裁文書を改ざんしたと認め、佐川氏の国会答弁などとの整合性をとることが目的だったと説明した。決裁文書からは、安倍晋三首相の妻昭恵氏や政治家名、「本件の特殊性」などの記述が削除されていたうえ、国会答弁の最中に、大量の公文書が廃棄されていた。

 ●難航捜査

 一方、市民らの告発で、国有地の払い下げを受けた森友学園側が小学校建設費や系列の幼稚園運営費をめぐり国や大阪府から補助金を騙しとった疑いが浮上。大阪地検は7月末に籠池夫妻を逮捕し、学園の小学校建設に対する国の補助金や、大阪市内の幼稚園運営への大阪府と大阪市の補助金計1億7600万円をだまし取ったなどとして、詐欺などの罪で起訴した。

 籠池氏の詐欺容疑の摘発は、大量の資料が残されており、検察にとっては簡単な事件だった。しかし、財務省の背任と公文書改ざん、廃棄については、消極的だった。

 背任容疑については、罪の成立に必要な国の損害や図利加害目的の立証が難しいと考えていた。決裁文書の改ざんについても、作成権限者の了解の下に作成したのであれば偽造・変造罪は成立しないうえ、虚偽公文書作成罪も、交渉経緯などが削除されたことで事実に反する内容の文書になったと認められなければ立件できない、と判断していたからだ。

 しかし、今年になって、土地処分の不透明さ、決裁文書の改変が連日、報道されるようになり、捜査現場の雰囲気が変わった。

 決裁文書の改ざん、廃棄は別にして、国有地売却については、近畿財務局と大阪航空局職員の行為が、行政手続き上、「あまりにも、えげつないもの」であり、起訴できるか担当者の容疑をもう一度見直そう、との声が出てきた。

 ●背任疑惑の真相

 財務省関係者によると、問題の土地は、今回の売却話の前に一時不法占拠されていた、と伝えられており、地中にゴミが投棄されていた。財務局の現場職員らは、そういう事情を知ったうえで「早く処分したい」と思っていたという。

 そこに買い手として登場したのが森友学園だった。折衝が始まると、籠池氏らは首相夫人や複数の政治家の名前を出し、買収前提で土地を賃借することなど次々と難しい要求をつきつけた。さらに、途中でゴミが埋められていることに気づくと、「騙された」と財務局に厳しいクレームをつけ、大幅に値引きして売却するよう求めた。

 弱みを衝かれた財務局職員は、ゴミの撤去は学園側が行うこととし、その撤去費を差し引いた額で売却に応じることにした。

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 航空局が当初見積もっていた国有地の売却額は9億5300万円だった。航空局はゴミの埋設調査をし、撤去費を6億7千万円と算定した。当初売却額からそれを差し引いた2億8千万円の支払いを学園から受け、後日、学園から瑕疵担保責任による損害賠償を求められたら、仮にその額が売却額より大きくなっても、予算措置を講じて学園側に支払うのが通常の行政ルールだった。

 ところが、学園側から「小学校開校が遅れる」と強く責められた財務局の職員は、上司に相談することなく、航空局職員と謀って、建物の下だけを想定していたのをグラウンドまで拡大して撤去費を見積もることにした。ゴミの撤去費を8億2千万円に修正し、瑕疵担保責任を問わないことを条件に売却価格を1億5千万円減額して学園側に売った。

 瑕疵担保責任による賠償額は2億8千万円以上になるとの見方もあり、結果としてこの取引で国が損害を受けたと判断するのは困難だった。しかし、航空局と示し合わせて撤去費を事実上修正し、それが露見しないよう森友学園側と口裏合わせするなど手口は悪質だった。

 その後に発覚した公用文書毀棄、虚偽公文書作成などについても、法律的には立件が困難だとみていたが、この現場職員にもし背任罪が成立するなら、文書改ざんを「背任の故意を裏付ける要素」と位置付け、併せて虚偽公文書作成などで起訴することの可能性も探った。公用文書毀損などで理財局や近畿財務局の多数の職員が立件の検討対象になり、払い下げを担当し背任の立件対象になった職員もその中に入っていた。

 ●国有地処分をめぐる財務省の二重構造

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 財務局幹部や本省の理財局が、この不透明な取引の詳細な内容を知るのは、売却契約が終わったあとだった。背景には、国有財産の管理や処分をめぐる財務省の特殊な事情があった。

 財務省OB官僚によると、財務省理財局は、財政投融資と国有財産を扱うが、国家の財政政策を担う財投部門はエリートのキャリア官僚が担当し、国有財産の処分の仕事は、ベテラン官僚が担当する、という二重構造になっていた。

 国有財産処分は、時には、暴力団関係者や同和を標榜する団体などとも渡り合わねばならないからだ。キャリア官僚を傷つけないため、そういうめんどうな仕事はベテランに担当させてきたのだ。そういう仕事にたけたベテランは、その部署に長くとどまることになり、職場環境と仕事の中身が閉鎖的になる。

 「今回問題になった規模の土地処分は、通常、理財局の出先である財務局の管財担当幹部の事実上の決裁で決まり、本省にまで報告が上がることはない。ベテランの世界で完結する。政治家の問い合わせは日常茶飯事。問題ある政治家案件は理財局長に耳打ちするが、今回の土地処分も、報道や国会で問題にならなければ、土地取引の不透明な中身は闇に葬られ、文書の改ざんもなく、そこで終わっていただろう」とこのOBはいう。

 検察も、そういう事情は承知していた。法務・検察幹部と財務省の幹部は、予算、法案、国税当局の脱税告発などを通じ交流が深い。検察が現場職員だけを起訴すれば、キャリア官僚をかばって、現場職員をスケープゴートにした、として非難されかねないとの危惧もあった。結局、検察は、「国が損害を受けたと判断するのは困難」として、財務局、航空局の現場職員ら8人を嫌疑不十分で、4人を嫌疑なしで不起訴とした。

 ●改ざんの真相

拡大財務省理財局
 財務省は4日、今回の国有地売却をめぐる決裁文書の廃棄・改ざんについて調査結果を公表し、退職した佐川氏を「停職相当」、改ざん実務の中心的役割を果たした理財局総務課長を「停職」とするなど約20人に対して行政処分を行う方針だ。佐川氏は自らが明確な指示をしたとは認めていないが、複数の財務局職員が「佐川氏から改ざんなどを指示された」と証言。財務省は、それを根拠に佐川氏を「主犯」とした。

 しかし、真相のニュアンスは少し異なるようだ。関係者によると、一連の文書改ざんは、総務課長が震源地だった。国有地の格安売却疑惑が発覚し、部内調査で近畿財務局の現場が独断で不透明な契約をしていたことも判明する中で、国会では野党による理財局幹部に対する厳しいヒアリングが続いた。

 国会対策を担う総務課長は、佐川氏の国会答弁との整合性をとり、国有地処分の正当性を主張するため、財務省側のストーリーに合せて、決裁文書を改ざん、廃棄することを思いつく。総務課長から相談を受けた佐川氏は、行政文書の法的意味合いを深く考えず「外に出すのなら、こんなものは出せないんじゃないか」と発言したという。

 総務課長は、それを口実に

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村山 治(むらやま・おさむ)

 徳島県出身。1973年、早稲田大学政経学部卒業後、毎日新聞社入社。大阪、東京社会部を経て91年、朝日新聞社入社。2017年11月、フリーランスに。この間、一貫して記者。
 金丸脱税事件(93年)、ゼネコン事件(93,94年)、大蔵汚職事件(98年)、日本歯科医師連盟の政治献金事件(2004年)などバブル崩壊以降の政界事件、大型経済事件の報道にかかわった。
 著書に「特捜検察vs.金融権力」(朝日新聞社)、「市場検察」(文藝春秋)、「小沢一郎vs.特捜検察、20年戦争」(朝日新聞出版)、「検察: 破綻した捜査モデル」(新潮新書) 。共著に「ルポ 内部告発」(朝日新書)、「田中角栄を逮捕した男 吉永祐介と 特捜検察『栄光』の裏側」(朝日新聞出版)。

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