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西村あさひのリーガル・アウトルック

中小企業の事業承継・事業再生をどうするか 債務過多に挑む

柴原 多(しばはら・まさる)

 日本経済を支える中小企業の現場で、事業を後継者に円滑に引き継いでいくのは決してたやすいことではない。その原因の一つに、抱えた債務をどうするか、という問題がある。西村あさひ法律事務所の柴原多弁護士が、その解決の方法を検討し、問題の所在を探った。

中小企業の事業承継・事業再生

西村あさひ法律事務所
弁護士 柴原  多

 ■1.事業承継が進みにくい理由

柴原多弁護士拡大柴原 多(しばはら・まさる)
 1996年、慶應義塾大学法学部卒業。司法修習を経て99年に弁護士登録(東京弁護士会)。事業再生・倒産事件(民事再生・会社更生・私的整理事件を中心)、第三セクターの再建、国内企業間のM&A等に関する各社へのアドバイス、法廷活動等に従事。西村あさひ法律事務所パートナー。
 周知の通り日本に存在する株式会社の大部分は中小企業であるが、その多くが事業の承継方法に悩んでいる。

 事業の承継が進まない理由としては、まず後継者不足が挙げられる。その背景には、かつては子供達に事業を承継させることが多かったであろうが、子供達が大都市圏で生活を始める、親の事業に興味が持てない、少子化等の様々な事情が存在する。

 次に、後継者に事業を承継させようとしても、(ア)承継企業の財務内容が悪化しており、親の苦労を子供達に背負わせることができないといった事情も存在する。すなわち、日本経済・地方経済の衰退に伴い、事業の業績が思わしくなく今後の展望も開けないため、債務過多の状態に陥っているなどの事情が存在する。

 また、仮に後継者に承継させるべき事業・財産があったとしても、(イ)その承継を困難にさせる事情が存在する。典型的に問題となるのは、相続税の問題であったり、後継者と非後継者の間の遺産相続を巡る紛争等である。

 しかしながら、日本経済の土台を支えているのは間違いなくこれらの中小企業であるため、日本経済の維持・発展のためには、これらの障害を解決していく必要がある。

 逆に言えば、これらの中小企業の事業承継を日本の行政・金融機関・事業会社等で支えることができなければ、これらの中小企業を日本の金融機関・事業会社が支えられない限り、これらの企業の事業は清算するか、場合によってはアジア諸国の企業から買収の対象にもなりやすい(そのことが一概に悪いわけではないものの)、等の点に留意が必要である(なお、仮にアジア諸国の企業から買収された場合には、新しい資本家とどのように付き合っていくべきという点も問題になる)。このうち上記(イ)の点に関する、中小企業の経営権をどのようにして後継者に承継するかという問題については別の機会に解説を行っているため(http://www.jurists.co.jp/ja/topics/newsletter_9714.htmlを参照)、ここでは上記(ア)の点に関する、中小企業の債務過多と事業承継の問題を中心に解説を行うこととする。

 ■2.債務過多と事業承継

 (1)法的整理の活用を困難とする事情

 債務過多の状態に陥っている企業の財務内容を解決するには、本来、M&Aや民事再生手続等の利用が検討されて然るべきである。

 しかしながら中小企業の経営者においてはM&Aに対して消極的なイメージを抱いていることがあり、また地方における民事再生事件も必ずしも増加傾向にはない。

 後者の理由の一つとしては、(い)クローズドな関係にある地方経済において取引先の債権をも巻き込むことは、心情的にも事実上も困難な面が少なくないことが挙げられる。また金融機関としても、地域金融機関の種類ごとに中小企業の再生支援に関するスタンスが異なることや、安易に債権放棄に応ずることによる善管注意義務違反やモラル・ハザードの誘発といった問題が少なくないことから、必ずしも民事再生手続の利用に積極的でない。

 また、(ろ)中小企業においては経営者が金融機関に対して個人保証を行っていることが多いため、会社の債務整理を行うことは個人の破産手続等も誘発しかねず、結果として経営者に債務整理に対しての萎縮効果が生じているといった事情も存在する。

 (2)法的整理の代替措置とその限界

 (A)中小企業における代替措置

 このうち上記(い)の問題を解決するために、中小企業としては、金融円滑化法に基づくリスケ(支払方法の変更)の申請、会社分割方式の利用、中小企業再生支援協議会の活用、などを検討することが多いように思える。

 確かに金融円滑法の利用により同法の本来の目的である中小企業の「事業活動の円滑な遂行」(1条)が達成できる事例も多く存在する。しかしながらその一方で「結果として問題の先送りにすぎない」申請もあるように思われる。また、金融円滑化法においては金融機関同士の協調が前提とされている(4条4項1号)ため、申請を行うとリスケ情報が共有され、事実上金融機関から新規の融資が受けられにくくなるという副作用も存在する。さらに、極めてクローズドな地方経済の場合には、レピュテーションの問題から、金融円滑化法の申請を行うこと自体困難な場合が存在する。

 次に、会社分割は、利用方法によっては取引先の債権を新会社に承継しつつも金融債権を旧会社に残すこともできるため前述の問題点をクリアできるが、安易な活用は濫用的な会社分割と評価され詐害行為取消権の対象とされる可能性がある(裁判上認められた場合には会社分割の効力が相対的に取り消されることになる。詳細については2010年10月20日付記事「濫用的会社分割について」を参照)。

 最後に、中小企業再生支援協議会は、各都道府県に設けられた中小企業の再生を支援する公的機関で、専門家アドバイザーによる再生計画の策定支援や関係金融機関との調整等の機能を利用した債務調整が可能であることから、この調整機能を利用してリスケのほか債権放棄や会社分割等を利用した第二会社方式による事業再生等が行われている。もっとも、各協議会ごとの特質・金融円滑化法との棲み分け・債権放棄スキームについては消極的な傾向にある等課題も多い。

 (B)保証人における代替措置

 上記(ろ)の問題については、会社の負担する主債務につき私的整理手続において金融支援(特に債権放棄)がなされた場合には、経営者の負担する保証債務も併せてその影響を受けるという取扱いがなされる場合もあるが、金融機関が保証債務には影響を及ぼさない処理(相対的免除等)を要望する場合もある(なお、民事再生法においてはその点が明文で確認されている。)。そのため、経営者の保証債務が残存することになる場合には、有償又は無償での保証解除を要求する方法、保証債務履行請求権を時価相当額でサービサーに買ってもらいサービサーと買戻し交渉をする方法等を、保証人側から提案することも考えられる。結局のところ、この個人保証の問題は、金融支援が金融機関に与える影響、金融支援後の再生計画達成の蓋然性、保証人の経営責任、保証人の資力、保証人の年齢等を総合考慮して対処することになろう。

 ■3.その他の実務上の対処方法

 (1)問題の本質

 このように財務的に厳しい状況におかれている中小企業の財務問題を解決するためには、リスケのみならず債務の適正化が必要であり、そのためには債務者・金融機関の「協議により」企業の財務力・収益力の範囲内の負債額を算定し、適正な水準まで債務を圧縮することが必要不可欠である。しかしながら、多くの中小企業は、上記に述べたような諸事情等が原因となって、そのような「協議が(そもそも)行えない」のが現状である。

 (2)対処方法

 そこで、債権放棄という形での債務の適正化が行えない場合の対処方法の一つとしては、DES(債権の株式化)やDDS(債権の劣後化)といった手続を行うことが考えられるが、当該手続については、当該手続のリターンに比して手間・コストが相応に必要となる点がネックとなっている。また別の対処方法としては、金融機関の保有する債権をサービサー等に売却し、債務者がサービサー等との交渉を通じて債務の削減(DPO等)を行う方法が活用されているようである。しかしながら、サービサーには融資機能が備わっていない点、債務者の経営上のコンサーンを解決するコンサル機能も備わってない点には留意が必要である。一方で、一部のファンドは、このような債権買取機能・融資機能・コンサル機能を備えているようである。しかしながら、ファンドといっても、かつてのように資金調達が容易なわけではない点、また、ファンドによる経営関与の方法やEXIT方法等も事業承継に関係してくる点については留意が必要である。

 ■4.まとめ

 金融機関側も債務者側も、

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柴原 多(しばはら・まさる)

 1996年、慶應義塾大学法学部卒業。司法修習を経て99年に弁護士登録(東京弁護士会)。
 事業再生・倒産事件(民事再生・会社更生・私的整理事件を中心)、第三セクターの再建、国内企業間のM&A等に関する各社へのアドバイス、法廷活動等に従事。西村あさひ法律事務所パートナー。

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