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西村あさひのリーガル・アウトルック

不正競争防止法改正でコンテンツ保護回避装置の譲渡に刑罰

 日本の成長産業と位置付けられるデジタルコンテンツビジネス。コンテンツを保護する技術の無効化行為に関する規制を強化した改正不正競争防止法が成立した。海賊版ソフトやスクランブル解除装置の氾濫に悩まされてきたゲーム制作会社や放送・通信会社にとっては朗報だ。一方、改正法には、個人や法人に対する罰則規定が盛り込まれ、従業員が不正にかかわると会社は大きなダメージを受ける恐れもある。大向尚子弁護士が改正法のポイントを詳細に解説する。

平成23年不正競争防止法改正のポイント
―コンテンツ保護のための技術的制限手段の保護強化-

西村あさひ法律事務所
弁護士・NY州弁護士 大向尚子

拡大大向 尚子(おおむかい・なおこ)
 2002年、弁護士登録。2000年、大阪大学法学部卒業。2007年、ニューヨーク大学ロースクール(LL.M.)修了。2008年、ニューヨーク州弁護士登録。米国法律事務所(Davis Wright Tremaine LLP)にて研修。
 知財法務(訴訟・契約全般)を中心として、IT、放送/通信等メディア関連、一般企業法務を主な業務分野とする。

 ■ はじめに 

 インターネット技術の急速な発展とともに、「違法コピー」「不正アップロード」が日常茶飯事の問題となり、毎年のようにインターネット上の不正なコンテンツ流通に対応するための法改正が検討されている。しかしながら、規制強化と技術の進歩による不正行為の高度化はいたちごっこの状態に陥っており、最近では、コピープロテクションの無効化により作成された違法コンテンツ(ゲームソフトやDVDなど)自体の流通に加えて、コンテンツの視聴・実行を制限するアクセスコントロールを不正に回避する装置の氾濫により、コンテンツ事業者の被害が一段と深刻になっている。例えば、ゲーム業界では、正規の記録媒体以外ではゲームを利用することができないようにするアクセスコントロール機能を回避して、ネット上にアップロードされた海賊版ゲームソフトを動作させる装置(「マジコン」や「R4」などと呼ばれるものがある)が問題とされてきた。

 コンテンツの保護に関する技術的手段は、著作権法では「技術的保護手段」、不正競争防止法(以下「不競法」という)では「技術的制限手段」と、それぞれ定義されている(以下、両者を併せて「技術的保護・制限手段」という)。「技術的保護・制限手段」やその「回避装置」規制といわれると、ピンとこない読者も多いかもしれないが、コピーガード付きDVDや放送番組を暗号化したスクランブル放送などで利用されている技術やキャンセラーなどがその代表例であるといわれれば、イメージが湧くであろう。

 情報通信技術の発展を背景に、デジタルコンテンツの制作・流通の形態が多様化するに伴い、コンテンツとその流通の保護のための技術は、ユーザーである私達の日常生活に広く入り込んできている。

 このような「技術的保護・制限手段」は、概念的には、コンテンツのコピー可否や回数を制限する「コピープロテクション」ないし「コピーコントロール」と呼ばれるものと、コンテンツの視聴・実行を制限する「アクセスコントロール」とに一応分類できる。近時では、インターネット配信において、特定のコンテンツを複数機器で利用したりバックアップをとるなどのユーザーの利便性を考慮して、コンテンツの保護手段として、従前のコピーコントロールによる保護に代えて、機器の認証などによりコンテンツの視聴・実行を制限するアクセスコントロールによる保護を用いる方法が広まってきているため、特にアクセスコントロールの重要性が増してきている。

 このような状況を踏まえ、2010年5月に政府の知的財産戦略本部により策定された「知的財産権推進計画2010」では、アクセスコントロール回避規制の強化を図るべきものとされ、更に、経済産業省が設置した「産業構造審議会知的財産政策部会技術的制限手段に係る規制の在り方に関する小委員会」の報告書「技術的制限手段に係る不正競争防止法の見直しの方向性について」(本年2月21日公表)では、回避装置などによる被害の拡大を抑止する観点から、規制対象となる装置などの範囲の拡大や回避装置などの提供行為に対する刑事罰の導入などについて、速やかな措置を講ずべきものと指摘されていた。

 このような状況の中、最近になって、アクセスコントロール回避規制の強化を目的として、個人や法人に対する罰則規定を盛り込んだ改正不競法が成立した。本稿では、その内容について概説することとしたい。

 ■ 改正不競法の成立

 本年(2011年)5月31日、「不正競争防止法の一部を改正する法律」(以下「改正不競法」という)が成立し、6月8日に公布された(施行は公布から半年以内とされているが、現状では施行日は未定である)。

 改正不競法による主な改正点は、(1)技術的制限手段に対する不正行為についての罰則規定の創設と、(2)営業秘密侵害罪に関連した刑事訴訟手続の改正である。この点、今回の改正不競法の法案提出理由では、「近年の技術革新の著しい進展や我が国産業の国際競争力の強化を図る必要性の増大等に鑑み、技術的制限手段の保護及び事業者が保有する営業秘密の保護を一層強化するため、技術的制限手段の保護の対象範囲を拡大し、技術的制限手段の効果を妨げる装置の譲渡等に係る処罰規定を整備するとともに、営業秘密侵害罪に係る刑事訴訟の審理において、営業秘密の保護を図るための措置を講ずる等の必要がある。」とされているところである。

 本稿では、紙幅の関係上、これらのうち、特に(1)の、罰則規定の創設を含む、技術的制限手段回避装置などの提供行為に関連する改正について、簡単に紹介する。

 ■ 改正のポイント(罰則規定の導入と規制対象の拡大・適正化)

(1)法人・個人に対する刑事罰の導入

 現行の不競法は、2条1項で規定される「不正競争」行為のうち、営業秘密に係る不正行為など一部のものについてのみ罰則規定を設けており、「技術的制限手段に対する不正行為」(2条1項10号・11号)、「ドメイン名に係る不正行為」(同項12号)、「信用毀損行為」(同項14号)、「代理人等の商標冒用行為」(同項15号)に関しては、販売差止請求や損害賠償請求といった民事的救済措置の対象ではあるものの、刑事罰の対象とはされていない。

 これに対し、改正不競法は、処罰対象となる者を定める21条2項に、「四 不正の利益を得る目的で、又は営業上技術的制限手段を用いている者に損害を加える目的で、第二条第一項第十号又は第十一号に掲げる不正競争を行った者」を追加した。これは、技術的制限手段に対する不正競争行為(2条1項10号・11号)に関して、行為者の意図や目的といった主観面での限定を加えた上で、刑事罰を導入するものであり、海外、特に欧米から批判の強かった刑罰規定の不備を一部解消したものである。

 ○ 罰則の適用対象となる提供行為

 今回新設された罰則規定の適用は、不競法2条1項10号又は同11号所定の技術的制限手段に対する不正競争行為を行った者に適用されるので、その適用のためには、回避装置の譲渡や譲渡のための展示、輸出、輸入又は回避プログラムのインターネット回線を通じた提供行為が行われることが必要である。この点、不競法は、ユーザーによる回避行為そのものは不正行為とはしていないので、ユーザーが回避装置・プログラムを使用していること自体は罰則の対象ではない。しかしながら、回避装置・回避プログラムを取得したユーザーが、2条1項10号・11号に該当する提供行為、例えば、回避プログラムをインターネット回線を通じて提供するなどの行為を行えば、罰則の適用対象となり得ることには注意が必要である。

 ○ 行為者に必要とされる目的(図利加害目的)

 技術的制限手段に対する不正競争行為に対して罰則規定が適用されるためには、行為者が「不正の利益を得る目的」又は「営業上技術的制限手段を用いている者に損害を加える目的」を有していたことが要件とされている。但し、これらの「目的」の意義は、読者諸兄諸姉がイメージされるものよりも広いかも知れない。

 具体的には、まず「不正の利益を得る目的」とは、必ずしも自分が利益を得る目的に限られず、第三者に不当な利益を得させる目的も含まれると一般に解されている。この点、法文上同じ文言が用いられている不競法21条1項1号についても、「不正の利益を得る目的」とは、公序良俗又は信義則に反する形での不当な利益を図る目的のことをいい、自ら不正の利益を得る目的のみならず、第三者に不当な利益を得させる目的も含まれると解されているところである。

 また、「営業上技術的制限手段を用いている者に損害を加える目的」における「損害」とは、一般に、財産的損害に限られず、信用を失墜させるための嫌がらせによる無形の損害なども含まれ得るのみならず、実際の損害の発生の有無も問われないものとされている。この点、同じ文言が使われている不競法の他の条文でも、「損害を加える目的」については「財産上の損害、信用の失墜その他有形無形の不当な損害を加える目的のことをいい、現実に損害が生じることは要しない」ものと解されているところである。

 ○ 従業員への処罰と使用者である法人への処罰可能性(両罰規定)

 では、そうした違法行為に科される刑罰の重さはどのようなものとされているのであろうか。

 この点、技術的制限手段に対する不正競争行為については、改正不競法により、「5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。」(21条2項)ものとされたので、かかる違法行為を行った個人は、最高で5年間の懲役と500万円の罰金の両方を科され得ることになる。

 更に、ある法人の従業員が、その使用者である法人の業務として技術的制限手段に対する不正競争行為を行った場合には、法人も処罰される可能性がある。即ち、改正不競法22条は、「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前条〔中略〕第2項に掲げる規定の違反行為をしたとき」には、「行為者を罰するほか、その法人又は個人も処罰される」旨を規定し(いわゆる両罰規定)、法人に処罰される場合には3億円以下の罰金が科されるものと定めている。従って、法人の従業員が法人の業務として技術的制限手段に対する不正競争行為を行った場合、当該法人も最高3億円の罰金を科される可能性がある。

 これらの技術的制限手段に対する不正競争行為についての刑罰の水準は、不競法が定める他の不正競争行為(営業秘密侵害罪の場合を除く)に対する刑罰のそれと同一である。

 因みに、著作権法では、回避装置の譲渡や回避サービスの提供行為について刑事罰を定めており、その法定刑は、個人について3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金又はこれらの併科、法人については500万円以下とされているので、回避装置の譲渡などの行為について不競法上の刑罰と著作権法上の刑罰とを比較した場合には、不競法の方が重い。

(2)規制対象装置の拡大/適正化

 改正不競法は、以上のように技術的制限手段に対する不正競争行為について罰則規定を設けただけではなく、従来、規定対象の装置が広くなり過ぎないようにするための要件として課されていた、「機能のみを有する装置」という要件から、「のみ」という限定文言を削除し、そのような「機能を有する装置」であれば、不競法違反の規制対象装置となり得るものとした。

 ○ 「のみ要件」による限定の意義

 現行の不競法は、技術的制限手段に対する不正競争行為に関して規制対象となる装置の範囲を、「技術的制限手段を回避する機能のみを有する装置」としている(いわゆる「のみ要件」)。この「のみ要件」は、平成11年改正で不競法に技術的制限手段に関する規定が導入された時に、機器や装置メーカーの事業活動を過度に抑制することを避けるべく、規制範囲を限定するために課されたものである。この「のみ要件」が仮に存在しないならば、技術的制限手段を回避する以外の機能も有している装置やプログラムが規制対象に含まれることになり、その結果、技術的制限手段を回避する以外の別の目的で製造ないし提供された装置やプログラムが、偶然に技術的制限手段を回避する機能を有していた場合にも、そのような装置の譲渡その他の提供行為が不正競争行為に該当することになる。その結果、装置やプログラムを製造ないし提供する者は、常にそれらが技術的制限手段を回避するような機能を有するか否かを確認し、場合によってはそれらの製造などを取り止めたり、設計変更をすべきことになる。このような事態は、それら装置やプログラムの製造者ないし提供者の事業活動を過度に抑制することにもなりかねないため、平成11年改正では「のみ要件」が課されたのである。

 しかしながら、その後、技術的制限手段を回避する機能の他に、追加的に他の機能が付されている装置が多く出回るようになった。これらの装置は、その付加機能があることによって「のみ要件」を充足せず、その譲渡などの提供行為は不正競争行為に該当しないとして、ネットオークションなどで売買されることも多く、コンテンツ事業者に甚大な被害を与えていた。このような経緯から、かねてこの「のみ要件」については削除すべきではないかとの指摘がなされていたところである。

 ○ マジコン事件―東京地判平成21年2月27日

 この点に関しては、いわゆるマジコン事件でも争点になった。この事件は、いわゆるマジコンと呼ばれる装置を輸入販売した被告らの行為が不競法2条1項10号に違反するとして、任天堂を含む原告らが、当該装置の輸入、販売などの差止め及び在庫品の廃棄処分を求めた事件であり、東京地判平成21年2月27日〔確定〕は、結論的に原告らの請求を認容したが、この事件では、被告は、問題となった装置には、ダウンロードされた違法コピーゲームなどの実行を可能にする機能だけでなく、自主制作ソフトなどの実行を可能にするという経済的・商業的な機能を有しているから、「のみ要件」を満たさず、被告の行為は不競法違反にならないなどと主張していた。しかしながら、東京地裁は、インターネット上のサイトに、ゲームソフトメーカーに無断で多数のプログラムがアップロードされており、誰でも容易にダウンロードして利用することが可能である状況や、被告の装置の使用状況などを認定した上で、「被告装置が専ら自主制作ソフト等の実行を機能とするが、偶然妨げる機能を有しているにすぎないと認めることは到底できない」として、被告の主張を退けていたところである。

 ○ 改正不競法による「のみ要件」の削除

 以上のような経緯を経て、今回の不競法改正では、最終的にこの「のみ要件」が削除された。もっとも、改正不競法では、この「のみ要件」の代わりに、「当該装置又は当該プログラムが当該機能以外の機能を併せて有する場合にあっては、影像の視聴等を当該技術的制限手段の効果を妨げることにより可能とする用途に供するために行うものに限る。」という限定文言が挿入されており、規制対象となる装置・行為の範囲が過度に広汎にならないよう、一定の配慮がなされている。

 ■ ビジネスへの影響

 今回の法改正によって、現行の不競法では刑事罰の対象とはされていなかった回避装置の譲渡その他の提供などの行為が、刑事罰の対象となった。したがって、コンテンツ事業者にとっては、従来の民事手続による救済だけではなく刑事手続による抑止効果も期待できることになり、コンテンツの知的財産としての保護が強化されたといえる。特に、差止めや損害賠償請求といった民事手続による救済は、時間もコストもかかる割に制裁的効果が弱いので、法人への両罰規定が導入されたことと相俟って、技術的制限手段に対する不正競争行為に対する抑止効果は制度上格段に高まったと評価できる(なお、実務上は、関税法の改正によって、不競法2条1項10号・11号所定の技術的制限手段に対する不正行為を組成する物品として、技術的制限手段の回避装置などがいわゆる水際措置の対象になったことも、保護の実効性を高めたといえるであろう)。

 このことは、コンテンツ・ビジネスを展開する事業者の中でも、とりわけ、海賊版ゲームソフトを利用可能にする装置や暗号化した放送番組による契約者向け有料放送のスクランブル解除装置といった各種の技術的制限手段の回避装置の氾濫に悩まされてきたゲーム制作会社や放送・通信会社にとっては朗報であろう。

 更に、今回の不競法改正は、以上のようなコンテンツ提供業者だけでなく、コンテンツ・ビジネスに関わるあらゆる事業者にとっても大きな意義があると思われる。即ち、ソフトな知的財産を保護するための基本法である著作権法では、「技術的保護手段」の回避装置など「提供行為」が処罰対象となっているところ、それらの意義と不競法における「技術的制限手段」及び「提供行為」の意義が微妙にずれていることから、著作権法による処罰対象から漏れている行為についても、不競法の「技術的制限手段に対する不正競争行為」として重く処罰できる可能性が存するからである。例えば、著作権法における「技術的保護手段」は、定義上、「著作権等を侵害する行為の防止又は抑止」をするための手段とされているため、著作権としての保護期間が切れたコンテンツなどに対する侵害を防止するための技術的手段を回避する行為は、著作権法による処罰の対象外とされている。しかしながら、不競法の「技術的制限手段」に対する不正競争行為は、著作権などによって保護されているコンテンツでなくとも成立し得るため、著作権としての保護期間が切れたコンテンツなどについても、理論的には、改正不競法における「技術的制限手段」に対する不正競争行為の禁止規制による保護が及ぶ可能性がある(もっとも、海外でも、パブリック・ドメインとなったコンテンツや性質上そもそも著作物とはならないコンテンツに対する技術的保護手段の回避行為を規制できるかに関しては議論があり、結論は出ていない)。

 一方、会社経営上は、技術的制限手段に対する不正競争行為につき刑罰既定が導入され、それについては法人の両罰規定も存在することから、会社の従業員が会社の業務として技術的制限手段に対する不正競争行為を行なうことがないよう、コンプライアンス体制を十分に整備しておく必要がある。

 ■ まとめ

 デジタル化・ネットワーク化の進展に伴い、デジタルコンテンツの重要性は近年益々高まっており、デジタル・ネットコンテンツビジネスは、日本における成長産業として位置付けられている。それに伴って、コンテンツを保護するための技術的保護・制限手段の重要性は飛躍的に高まっている。

 このような状況に対応して、わが国でも毎年のよう

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