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西村あさひのリーガル・アウトルック

金融商品取引法改正案:総合的な取引所、課徴金制度、インサイダー取引規制見直し

有吉 尚哉(ありよし・なおや)

 金融商品取引法の改正案が国会に提出されている。今年の改正のポイントは、市場の国際競争力の強化とオリンパス事件などを受けた金融商品取引の公正性、透明性の確保。そのために「総合的な取引所実現に向けた制度整備」「課徴金制度の見直し」など4つが提案されている。有吉尚哉弁護士がその内容を詳しく解説する。

 

平成24年金融商品取引法改正案の概要とその背景

西村あさひ法律事務所
弁護士 有吉 尚哉

拡大有吉 尚哉(ありよし・なおや)
 2001年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年~2011年金融庁総務企画局企業開示課出向。現在、西村あさひ法律事務所弁護士。金融法委員会委員。資産流動化取引その他の金融取引、信託取引、金融商品取引業その他の金融関連規制への対応等を担当。

 ■ はじめに

 近年、金融商品取引法(以下「金商法」という)の改正に関する国会審議が春から初夏にかけての風物詩となっているが、平成24年通常国会においても、平成24年3月9日に「金融商品取引法等の一部を改正する法律案」(平成24年閣法第67号。以下「金商法等改正案」という)が提出されている。本稿の執筆時点においては、まだ金商法等改正案の国会審議は始まっていないが、今後の政治情勢にもよるものの、例年どおりのスケジュールで国会審議が進めば、5~6月ころには改正法として成立することが予想される。

 金商法等改正案の提出理由は、「資本市場を取り巻く環境の変化を踏まえ、我が国市場の国際競争力の強化並びに金融商品の取引の公正性及び透明性の確保を図るため、一定の商品を金融商品として他の多様な金融商品とともに取り扱うことのできる総合的な取引所の実現に向けた制度の整備を行うとともに、一定の店頭デリバティブ取引についての電子情報処理組織の利用の義務付け、企業の組織再編に係るインサイダー取引規制の見直し、課徴金制度の見直し等の措置を講ずる必要がある」とされている。提出理由にあるとおり、金商法等改正案の主な内容は、(1)「『総合的な取引所』の実現に向けた制度整備」、(2)「店頭デリバティブ取引における電子情報処理組織の使用義務付け」、(3)「課徴金制度の見直し」、(4)「インサイダー取引規制の見直し」の4項目である。

 本稿では、金商法等改正案の各項目が立案された経緯とその概要について解説を行う。

 ■ 「総合的な取引所」の実現に向けた制度整備

 今回の金商法の改正の中で最も大きな改正といえるのが「総合的な取引所」に関する制度整備である。

 近年、デリバティブ市場が急成長をしており、諸外国の取引所では競争力を強化するために取扱商品の多様化が進んでいる。我が国でも、以前より取引所が証券・金融・商品を横断的に取り扱うことにより、投資家にとっての取引の利便性の向上を図ることへの期待が示されてきた。そのような背景の下、金商法に基づく制度についても、既に平成21年の金商法改正により金融商品取引所と商品取引所の相互乗入れを可能とするための制度改正が図られている(平成22年7月1日施行)。しかしながら、取引所に対する監督については縦割り行政が維持されたままであり、相互乗入れにより金融商品取引所と商品取引所の両方を営もうとすると、金融庁・農林水産省・経済産業省の監督に服することが必要となる点などが嫌われ、かかる金商法の改正の後も我が国では「総合的な取引所」の実現に至っていない。

 平成22年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」においては、「21世紀の日本の復活に向けた21の国家戦略プロジェクト」の一つとして、「総合的な取引所(証券・金融・商品)の創設の推進」が掲げられた。その中では、平成25年度までに、証券・金融、商品の垣根を取り払い、全てを横断的に一括して取り扱うことのできる総合的な取引所創設を図る制度・施策を、可能な限り早期実施することが含まれていた。これを受けて、平成22年10月28日に、金融庁・農林水産省・経済産業省は、副大臣と大臣政務官をメンバーとする「総合的な取引所検討チーム」を発足させ、総合的な取引所の実現に向けた制度施策の検討を開始した。そして、同年12月22日に「総合的な取引所検討チーム中間整理」が取りまとめられ、さらに、平成24年2月24日には「総合的な取引所検討チーム取りまとめ」が公表され、制度整備の枠組みが固められた。

 金商法等改正案における「総合的な取引所」に関する制度改正の内容は、この取りまとめを踏まえたものとなっており、(1)商品・取引所に関する規制の整備、(2)業者等に関する規制の整備、(3)農林水産大臣・経済産業大臣との連携といった制度整備が図られている。主な改正内容の概要は以下のとおりである。

  商品先物取引法に規定する「商品」のうち一定の要件を満たすものを金商法上の「金融商品」に含めることとし、当該「商品」に係る市場デリバティブ取引(商品関連市場デリバティブ取引)を金融商品市場において行うことができるようにする(なお、「商品」に係る店頭デリバティブ取引および外国市場デリバティブ取引は金商法による規制対象とはされていない)。


  商品関連市場デリバティブ取引の媒介、取次ぎもしくは代理、またはその委託の媒介、取次ぎもしくは代理、および商品関連市場デリバティブ取引の有価証券等清算取次ぎを第一種金融商品取引業に位置付け、いわゆる証券会社がこれらを行うことができるようにする(なお、自己の計算において行う商品関連市場デリバティブ取引については、金融商品取引業から除外される)。


  商品関連市場デリバティブ取引やその付随的な取引に関して顧客から預託を受けた財産および顧客の計算に属する財産について分別管理義務を規定する。


  商品関連市場デリバティブ取引やその付随的な取引に関する顧客資産を投資者保護基金による保護の対象とする。


  商品関連市場デリバティブ取引については、証券会社や登録金融機関以外の者についても、金融商品取引所が取引資格を与えることができるようにする。


  金融商品取引所と商品取引所の合併に関する規定を整備する。


  「金融商品」の定義が改正されることにより、商品関連市場デリバティブ取引についても現行の金商法上の市場デリバティブ取引に係る不公正取引に関する規制が及ぶようになることに伴い、商品関連市場デリバティブ取引に対する不公正取引に関する規定について整備する。


  商品関連市場デリバティブ取引に関する内閣総理大臣(金融庁)による一定の監督権限の行使について、農林水産大臣・経済産業大臣との事前協議等の規定を整備し、相互連携を確保する。


  既存の商品先物取引業者が金融商品取引業者として商品関連市場デリバティブ取引に円滑に参入できるよう一定の経過措置を設ける。

 

 これらの「総合的な取引所」の実現に向けた制度整備に関する規定の施行日は、改正法の公布の日から起算して1年6か月を超えない範囲内において政令で定める日とすることが予定されている。

 金商法等改正案に基づいた改正が実施されると、法制上、幅広い業者が商品に関する市場デリバティブ取引に参加できることになり、また、商品関連市場デリバティブ取引を取り扱う金融商品取引所については、金融庁が(一定の範囲での農林水産大臣・経済産業大臣との相互連携のもと)一元的な監督を行うことになる。もっとも、法改正が実施されたとしても、あくまでも制度的な枠組みが出来上がるだけであり、それだけでは商品取引の活性化や利便性の向上が達成されるものではない。既存の金融商品取引所・商品取引所の再編などにより「総合的な取引所」が実現したり、証券会社などを通じた商品取引が拡大したりすることによって、商品取引の活性化や利便性の向上が図られるかどうかは、制度整備後の実務動向次第といえる。

 ■ 店頭デリバティブ取引における電子情報処理組織の使用義務付け

 今回の改正の項目の2つ目は、店頭デリバティブ取引における電子情報処理組織の使用義務付けである。

 先般の金融危機に関して提起される問題の一つとして、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)等の店頭デリバティブ取引に関する決済・清算に係る市場インフラの整備が不十分であることが指摘されている。この問題意識に対して、国際的に様々な議論が行われ、2009年9月25日に公表されたG20ピッツバーグ・サミット首脳声明では「遅くとも2012年末までに、標準化されたすべての店頭(OTC)デリバティブ契約は、適当な場合には、取引所または電子取引基盤を通じて取引され、中央清算機関を通じて決済されるべきである。店頭デリバティブ契約は、取引情報蓄積機関に報告されるべきである」との表明がなされた。この声明も踏まえて、欧米では店頭デリバティブ取引の決済・清算に関する制度的な取組みが進められている。

 我が国でも、店頭デリバティブ取引に関する制度整備としては、既に平成22年の金商法の改正により、(1)「標準化された契約の中央清算機関を通じた決済」、および(2)「契約の取引情報蓄積機関への報告」に関する制度整備が図られている(ただし、本稿の執筆時点では未施行であり、施行予定日は平成24年11月1日とされている)。

 金商法等改正案では、前述のG20ピッツバーグ・サミット首脳声明等を踏まえて、店頭デリバティブ取引の取引実態の透明性の向上を図るため、金融商品取引業者等が、取引の概要に関する情報の迅速な開示が必要であると認められる店頭デリバティブ取引を行う場合には、自身や他の金融商品取引業者などが提供する電子情報処理組織を使用することを義務付けることとしている。なお、対象となる店頭デリバティブ取引は、実務上、海外業者との取引が相当の割合を占めていることに鑑みて、外国において店頭デリバティブ取引などを業として行う者が、一定の範囲で国内にある者を相手方として店頭デリバティブ取引などを行う場合に、自身が提供する電子情報処理組織を使用するための許可制度が整備されている。

 店頭デリバティブ取引における電子情報処理組織の使用義務付けに関する規定の施行日は、改正法の公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日とすることが予定されている。

 ■ 課徴金制度の見直し

 改正の項目の3つ目は、課徴金制度の見直しである。金商法等改正案による課徴金制度の見直しは、さらに(1)「虚偽開示書類の提出に加担する行為に対する課徴金の適用」と(2)「不公正取引に関する課徴金の対象拡大」の2つの内容に分けられる。

 平成23年12月16日の会見において、自見庄三郎金融担当大臣は、オリンパスの損失隠し事件のような事案の再発防止策の必要性を表明しており、再発防止策の一つとして「外部協力者としての金融関係者等の不正行為の是正・予防」をあげていた。前者の「虚偽開示書類の提出に加担する行為に対する課徴金の適用」に関する改正は、この自見金融担当大臣の発言に沿った制度改正と考えられる。

 具体的な内容としては、重要な事項につき虚偽の記載があり、または記載すべき重要な事項の記載が欠けている有価証券届出書、有価証券報告書、公開買付届出書などの開示書類や情報を、発行者や公開買付者が提出し、提供しまたは公表した場合において、その提出などを容易にすべき一定の行為または唆す行為(特定関与行為)を行った者に対し、特定関与行為の対価として支払われた額などに相当する額の課徴金を課すこととしている。加えて、当局による課徴金に関する調査対象に、特定関与行為が行われた場面も追加した上で、調査権限として事件関係人または参考人に対して出頭を求める権限も追加することとしている。この改正は、上場会社などによる虚偽記載の手口が、外部協力者の加担行為により複雑化する一方で、外部協力者の加担行為は、刑事罰の共犯にはなり得るが、課徴金の対象外であるという背景を踏まえたものと説明されている。

 外部協力者に対して課徴金による制裁を課すことは、開示書類の意図的な虚偽記載を抑止し、市場一般の公正性・信頼性の確保につながりうるものと思われる一方で、新たな規制が開示書類の作成に関わる者を過度に萎縮させることとならないよう、適切な解釈運用が図られることが期待されよう。

 金商法等改正案による課徴金制度の見直しのうち、後者の「不公正取引に関する課徴金の対象拡大」に関する改正については、証券取引等監視委員会による平成23年12月20日付の建議(「顧客等の計算において不公正取引を行った者に係る課徴金賦課について」)を踏まえたものと考えられる。当該建議においては、現行制度上、顧客などの計算において不公正取引を行った者は、金融商品取引業者等である場合に限って課徴金を課すことができるとされているところ、不公正取引事案の調査において、金融商品取引業者等に該当しない者が、顧客などの計算において不公正取引を行った疑いがある事例が認められたことを踏まえて、違反行為の抑止の観点から、金融商品取引業者等に該当しない者が、他人の計算において不公正取引を行い、対価を得ている場合においても、課徴金を課すことができるようにする必要があるとされている。

 当該建議を踏まえて、金商法等改正案では、金融商品取引業者等以外の者が自己以外の者の計算において不公正取引をした場合、その報酬などの対価の額の課徴金を課すこととされている。

 これらの課徴金制度の見直しに関する規定の施行日は、改正法の公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日とすることが予定されている。

 ■ インサイダー取引規制の見直し

 金商法等改正案に基づく改正の最後の項目は、インサイダー取引規制の見直しである。

 インサイダー取引規制の見直しについては、平成23年3月7日に開催された第25回金融審議会総会において「インサイダー取引規制における純粋持株会社の取扱い等についての検討」についての諮問がなされたことを受け、金融審議会の下に「インサイダー取引規制に関するワーキング・グループ」(座長:神田秀樹東京大学教授)が設置され、同年7月から12月まで5回にわたって(1)「純粋持株会社等に係る重要事実」、(2)「企業の組織再編に係るインサイダー取引規制の適用関係」および(3)「発行者以外の者が行う公開買付けに関する公表措置」の3項目について審議が行われた。そして、同ワーキング・グループにより同年12月15日に報告書「企業のグループ化に対応したインサイダー取引規制の見直しについて」が取りまとめられ、公表された。

 金商法等改正案では、当該報告書の内容を踏まえて、企業の組織再編に係るインサイダー取引規制の適用関係の見直しが図られている。具体的には、次のような改正を行うこととされている。

  合併または会社分割による上場会社等の特定有価証券等の承継を、原則としてインサイダー取引規制の対象とする。


  インサイダー取引の危険性が類型的に低い場合(合併、会社分割または事業譲渡による特定有価証券等の承継であって当該特定有価証券等の承継資産に占める割合が特に低い場合など)について、インサイダー取引規制を適用しないこととする。


  合併、会社分割、事業譲渡または株式交換の対価として自己株式を交付する場合について、インサイダー取引規制を適用しないこととする。   

 

 以上を整理すると、まず、現行制度上、事業譲渡の対象資産に株式などが含まれるとインサイダー取引規制の適用がある一方で、合併や会社分割によって株式などを承継する場合にはインサイダー取引規制の適用がないと解されていたところ、合併や会社分割による株式の承継についても、原則としてインサイダー取引規制の適用対象とした上で、事業譲渡も含めて対象となる資産に占める特定有価証券等の割合が低い場合(20%未満が想定されているようである)などについては、インサイダー取引の危険性が低いとしてインサイダー取引規制の適用を除外している。したがって、今回の改正により、対象となる資産に占める特定有価証券等の割合が高い合併や会社分割については新たにインサイダー取引規制の適用対象となる一方で、対象となる資産に占める特定有価証券等の割合が低い事業譲渡はインサイダー取引規制の適用対象から除外されることになる。

 また、現行制度上、組織再編の対価として新株発行により株式を交付する場合にはインサイダー取引規制の適用がないとされている一方で、自己株処分により株式を交付する場合にはインサイダー取引規制の適用があるという解釈が有力であったところ、今回の改正により後者についてもインサイダー取引規制の適用対象から除外されることにな

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有吉 尚哉(ありよし・なおや)

 2001年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年~2011年金融庁総務企画局企業開示課出向。現在、西村あさひ法律事務所弁護士。金融法委員会委員。資産流動化取引その他の金融取引、信託取引、金融商品取引業その他の金融関連規制への対応等を担当。

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