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西村あさひのリーガル・アウトルック

SBIとダイナムに見る日本企業の香港上場

仲田 信平(なかだ・しんぺい)

 国内での上場が認められてこなかったパチンコ業界で、最大手のダイナムが今年8月、香港証券取引所で上場を果たした。香港での日本企業の上場は、昨年の金融持ち株会社、SBIホールディングスに続き2件目だ。今後、日本企業の間で一層、香港市場への関心が高まるとみられるが、香港は日本と上場基準などが異なるため、注意が必要だ。この2社の上場に日本法カウンセルとして関与した仲田信平弁護士が、2社のケースをもとに日本企業が香港上場する際の法的問題点を解説する。

日本企業の香港上場における法的な問題点の概要
-SBI及びダイナムの香港上場を踏まえて-

西村あさひ法律事務所
弁護士 仲田 信平

拡大仲田 信平(なかだ・しんぺい)
 弁護士。1994年東京大学教育学部卒業。2002年ノースウェスタン大学(LL.M)修了。1997年弁護士登録。2003年から2006年までゴールドマン・サックス証券会社に勤務。

 ■ はじめに

 2012年8月6日に、株式会社ダイナムジャパンホールディングス(ダイナム)が、日本の未上場企業として初めて香港証券取引所でプライマリー上場を果たした。また、2011年4月14日には、SBIホールディングス株式会社(SBI)が、日本の上場企業として初めて香港証券取引所にセカンダリー上場を果たしている。

 プライマリー上場とは、香港証券取引所を「主要な」(= Primary)証券取引所として上場するケースであり、原則として、全ての香港証券取引所の上場規則等の規制を遵守する義務を負う。日本の未上場企業が、日本の証券取引所で上場することなく、香港証券取引所に上場する場合には、プライマリー上場となる。

 これに対して、セカンダリー上場とは、既に他の証券取引所に上場する企業が、香港証券取引所に「二次的な」(= Secondary)上場をするケースであり、他の証券取引所の上場規則等の規制に服することから、香港証券取引所の判断で、上場規則等の適用に関し、多くの免除が認められる。日本の上場企業が香港証券取引所に上場する場合には、セカンダリー上場となる。

 

 このように、日本企業のプライマリー上場及びセカンダリー上場、それぞれについて前例ができたことにより、これから新たに香港証券取引所での上場を目指す企業にとって、上場のための手続や期間に関して、より確度の高い、綿密な計画をたてることが可能になった。

 筆者は、ダイナム及びSBI、それぞれの日本法カウンセルとして、両社の香港上場に従事する機会を得た。そこで、これらのケースを踏まえ、日本企業の香港上場に関する法律面を中心とした問題点につき、プライマリー上場とセカンダリー上場を対比しながら、概説する。

 ■上場規則に基づく義務の概要

 1 上場に関する義務とこれに関する免除の範囲

 日本においては、会社の設立、組織、運営及び管理等、コーポレート・ガバナンスに関する基本的な事項については、主として、会社法において規定されている。ただし、2008年4月より、金商法に基づき内部統制報告制度が導入され、また、証券取引所の上場規則において、企業行動規範や、コーポレート・ガバナンス報告書の提出義務が導入されるなど、近年、適切な企業情報の開示による投資者保護や市場機能の確保といった観点から、特に上場会社を対象とする、コーポレート・ガバナンスに係る事項に関する規制が強化されている。

 香港証券取引所の上場規則も、こうしたコーポレート・ガバナンスに関する多様な規制を設けており、原則として、上場会社はこうした規制を遵守する義務を負う。そのため、香港証券取引所に上場する日本企業は、コーポレート・ガバナンスに関して、日本の会社法、金商法及び証券取引所の上場規則等と、香港証券取引所の上場規則等の両方の規制に服することとなる。しかし、日本及び香港における規制の導入にあたり、整合性を確保するための調整が行われたわけではなく、互いに重複ないし矛盾する点も数多く存在する。そのため、香港証券取引所からの免除の取得や、定款等の内部規程の整備等により、香港証券取引所の上場規則に基づく規制にどのように対応するかが、香港上場にあたっての実務的な課題となる。この点、ダイナムのケースにおいては、プライマリー上場のため、若干の例外を除き上場規則に関する免除は認められておらず、ほぼ全ての香港証券取引所の上場規則等の規制を遵守する義務を負うこととされた。これに対して、SBIのケースは、東京証券取引所及び大阪証券取引所において既に上場していたため、上場規則等の適用に関し、多くの免除が認められた点が異なっている。

 以下、日本企業が香港証券取引所に上場するにあたり、上場規則に基づく規制に関して、実務的に問題となる主要な点について概観する。

 2 委員会の設置

 香港証券取引所の上場規則において、上場会社は、監査委員会及び報酬委員会の設置が義務づけられ、また指名委員会の設置が推奨されている。監査委員会、報酬委員会及び指名委員会の権限及び構成は、それぞれ以下の通りである。

 監査委員会: 上場会社の財務報告手続の監督及び適切な内部統制の実施等を行う機関。少なくとも3名の取締役で構成。そのうちの過半数が独立取締役(後述)。独立取締役のうちの1名は財務報告に関する適切な資格や経験を有する者。また、議長は、独立取締役でなければならない。


 報酬委員会: 取締役の報酬に関する方針の策定及び取締役個々の報酬総額の決定を行う機関。上場会社は、報酬委員会の権限と義務を明示した書面による委任事項を作成。報酬委員会は、取締役又はその関係者が当該取締役の報酬額の決定に関与しないようにしなければならない。報酬委員会の構成員の過半数は独立取締役。また、議長は、独立取締役でなければならない。


 指名委員会: 上場会社は、委員会の権限と義務を明示した書面による委任事項を作成。指名委員会の構成員の過半数は独立取締役でなければならない。

 

 日本の未上場会社がプライマリー上場する場合、一般的に、香港証券取引所からこの点に関する免除を取得することは困難であるため、こうした監査委員会、報酬委員会及び指名委員会を設置することが必要となる。この場合、定款の定めにより、日本の会社法に規定される「委員会設置会社」とする方法と、会社法に規定されない任意的な機関として設置する方法とが考えられる。

 日本の証券取引所に上場している企業は、上場規則に基づき、監査の適切性の観点から、会社法上の「委員会設置会社」又は「監査役会設置会社」でなければならないとされている(なお、将来的な会社法改正で監査・監督委員会設置会社制度が導入されれば、監査・監督委員会設置会社も認められることとなろう)。

 このうち、監査役会設置会社の場合、「財務報告手続の監督及び適切な内部統制の実施」について、監査役会が、監査委員会とほぼ同様の機能を有していること等の理由により、香港証券取引所は、SBIの件で、監査委員会の設置義務の免除を認めた。また、報酬委員会及び指名委員会の設置についても、日本の法令上、役員の選任及びこれに対する報酬が株主総会における決議事項とされている他、招集通知や有価証券報告書等において一定の範囲でそれらが開示の対象とされていること等の理由から、香港証券取引所は、SBIの件で、それらの設置義務の免除を認めた。

 このような免除を認めるかどうかの判断に際し、香港証券取引所は、原則として前例を尊重しているようである。そのため、今後も、日本の上場会社がSBIのように香港証券取引所にセカンダリー上場をする場合、この点についての免除が認められる可能性が高い。

 3 独立取締役の選任

 香港証券取引所の上場規則上、上場会社は、少なくとも3名の独立取締役を有しなければならず、さらに、2013年以降は、取締役会の3分の1以上が独立取締役である必要がある。

 なお、独立取締役の独立性の評価に関しては、以下の要素が考慮される。

  その者が上場会社の発行済株主資本の1%を超える株式を保有しているか


  その者が、上場会社の関連者又は上場会社から、贈与その他の財務支援として上場会社の株式等を受け取っているか(取締役の報酬として、又はストックオプション制度に従い、株式等を受け取る場合等を除く)


  その者が、専門的アドバイザーの役員等である場合に、当該専門的アドバイザーが上場会社に対して現在アドバイスを提供し、又は選任予定日直前の1年間においてアドバイスを提供しているか


  その者が、上場会社の主要な事業活動に重大な利害関係を有するか、上場会社又はその関連者との重要な取引に関与しているか


  その者が、その利益が株主全体の利益と同一でない会社の取締役であるか


  その者が、選任予定日直前の2年間において、上場会社の取締役又はその主要株主の関連者であるか


  その者が、選任予定日直前の2年間において、上場会社又はその関連者の役員又は(独立取締役以外の)取締役であるか


  その者が、上場会社又はその関連者から財政的に支援を受けている場合

 

 独立取締役の要件については、SBIも免除を受けていない。そのため、今後、プライマリー上場のケースだけでなく、セカンダリー上場のケースにおいても、この点についての対応が必要となる可能性が高いと思われる。

 4 株主総会決議事項

 香港証券取引所の上場規則には、上場会社が行う一定のカテゴリーに分類される取引(合併等の組織再編行為だけでなく、資産の取得・処分、証券の引受け、ファイナンスリース・オペレーティングリース、保証の提供等の取引行為も含まれている)について、総資産、利益、売上げ、対価及び株主資本をベースとして、一定の基準を超えた場合に、取引所への通知、開示、株主への通知又は株主総会決議の取得を義務づける規制が定められている。これに対して、日本法ないしわが国証券取引所の上場規則の下では、香港証券取引所の上場規則において株主総会決議が必要とされる取引であっても、必ずしも株主総会決議が必要とされている訳ではなく、また取引所への通知、開示ないし株主への通知が必要とされる場合やその場合の手続についても、香港におけるそれとは異なった規律がなされている。

 特に問題となるのは、香港証券取引所の上場規則上、日本法の下では必要とされていないにも拘らず、株主総会決議が必要とされる場合がある点である。例えば、上場会社が一定の資産を取得・処分するような場合には、香港証券取引所の上場規則上、株主総会を招集して総会決議を得ることが必要とされているが、これでは経営の機動性が損なわれる可能性がある。

 こうした観点から、セカンダリー上場のSBIのケースでは、株主総会決議が必要とされる事項について免除が認められている。しかしながら、プライマリー上場のダイナムのケースでは、免除が認められておらず、今後も、プライマリー上場においては、この点についての対応が必要となると思われる。

 5 関連者間取引

 香港証券取引所の上場規則上、主要株主との取引や取締役との利益相反取引を行う場合には、所要の情報開示を行った上、株主総会決議を取得することが義務づけられている。

 これに対して、日本の会社法上は、関連当事者取引としての開示や、取締役の利益相反取引として取締役会の承認が要求されることはあっても、一般的に、株主総会決議までは要求されていない。

 この点、上述の場合と同様に、利益相反取引を行おうとする場合に株主総会決議まで要求されると、会社運営上の負担が重くなることから、セカンダリー上場のSBIのケースでは、この点について、一定の適用免除が認められた。しかしながら、プライマリー上場のダイナムのケースでは、免除が認められておらず、今後も、プライマリー上場においては、この点についての対応が必要となると思われる。

 ■預託証券

 1 預託証券の利用の要否

 わが国企業が香港証券取引所への上場を検討するにあたっては、発行する株式をそのまま上場するか、それとも、預託銀行が発行する香港預託証券(HDR: Hong Kong Depositary Receipt)を上場するのかを検討する必要がある。預託証券とは、預託銀行が、株式の発行者との間で締結する預託契約に基づき株式の預託を受け、これを原資産として発行する証券である。

 SBIのケースにおいては、日本で上場している企業が香港証券取引所においてセカンダリー上場をする場合、証券の決済に係る以下のような制度上の制約から、香港預託証券を利用することが避けられないと考えられた。

 日本の証券取引所に上場する企業として、(1)上場株式を、証券保管振替機構(ほふり)を振替機関とする振替決済制度の下に置く必要があり、また、(2)株券を発行することができないという制約を受ける。

 これに対して、香港で上場する企業は、(1)香港の決済システムにより決済する必要があり、また、(2)(実質的な)株主からの要求がある場合には権利を表章する証券を発行しなければならないものとされている。

 

 従って、日本の証券取引所に上場する日本企業が、発行する株式そのもの(原株)を上場する場合、こうした問題点を整合的に解決することが不可能なため、香港預託証券を用いて、日本の証券取引所における決済と香港証券取引所における決済とを分けることによって対応する必要があった。

 しかしながら、以上の制約が妥当するのは、「ほふり」の利用が強制されたり、株券を発行することができないという制約に服する日本の証券取引所への上場会社に限られる。従って、日本の証券取引所に上場していないダイナムの場合には、上記の問題は生じないため、株式そのものを上場することが可能であり、実際に、株式そのもの(原株)が香港取引所に上場された。

 2 株主総会決議における議決権の行使及び配当の取扱い

 このように、日本企業が香港証券取引所に上場するにあたっては、香港預託証券を上場する方法と、株式そのもの(原株)を上場する方法とがある。ただし、いずれの場合でも、香港に常任代理人を置いた上で、株主総会における香港の投資家による議決権の行使、及び香港の投資家に対する配当に関する事務を委託しなければならないことに注意する必要がある。

 ■終わりに

 日本企業の中

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仲田 信平(なかだ・しんぺい)

 弁護士。1994年東京大学教育学部卒業。2002年ノースウェスタン大学(LL.M)修了。1997年弁護士登録。2003年から2006年までゴールドマン・サックス証券会社に勤務。

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