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西村あさひのリーガル・アウトルック

米国FATCA法実務で留意すべき点

伊藤 剛志(いとう・つよし)

 米国のFATCA法(外国口座税務コンプライアンス法)に対する日本の金融機関の実務対応がいよいよ、2014年7月に始まる。同法は、米課税当局が、米国の富裕層らの税逃れを防止するため、米国外の金融機関に対し、米国の個人、法人の税務調査の一部を担わせるというものだ。金融機関は、その準備作業に余念がないとみられるが、FATCA法に詳しい伊藤剛志弁護士が、日米政府が取り決めた実施要領などを丁寧に解説し、留意すべき点を示す。

 

米国FATCA法への対応を迫られる日本の金融機関

 西村あさひ法律事務所・名古屋事務所
弁護士・NY州弁護士 伊藤 剛志

 1  はじめに

伊藤剛志弁護士拡大伊藤 剛志(いとう・つよし)
 弁護士。1999年東京大学法学部卒。司法修習(第53期)を経て、2000年に弁護士登録。2007年ニューヨーク大学ロースクール(LL.M.)修了(Arthur T. Vanderbilt奨学生)。2008年ニューヨーク州弁護士登録。現在、西村あさひ法律事務所・名古屋事務所代表。金融取引および税務を中心に担当。レポ取引に係る源泉徴収税を巡る税務訴訟を始め、様々な税務調査・税務争訟に関与・助言している。

 米国の連邦法である外国口座税務コンプライアンス法(Foreign Account Tax Compliance Act。以下「米国FATCA法」という)は、一言でいえば、米国外の金融機関に対する一定の支払について源泉徴収の対象とするとともに、米国外金融機関が米国課税当局と米国FATCA法に従った契約(「FFI契約」と呼ばれる)を締結することを条件に、源泉徴収を免除するというものである。FFI契約により、米国外金融機関は、主として、FATCA法上の取扱いを決めるための口座保有者の調査・書類徴求義務(デュー・ディリジェンス手続)、調査・書類徴求に応じない口座保有者やFFI契約を締結していない不参加金融機関への支払いに対する源泉徴収義務、米国人保有口座などの一定の口座についての口座情報を米国課税当局へ報告する義務などを負担することになる。

 米国FATCA法は、源泉徴収とFFI契約を梃子として米国外金融機関が保有する米国納税者の口座情報・取引情報を米国課税当局に提供させ、米国納税者の適正な申告・納税を確保しようとするものである(米国FATCA法の基本的な仕組みについては、拙稿「日本の金融機関に重大な影響を与える米国FATCA法」(西村あさひのリーガルアウトルック2011年9月21日掲載)を参照されたい)。

 米国FATCA法は、2013年1月1日から施行されている。しかしながら、米国FATCA法は、米国外に所在する多くの金融機関に影響を与えるとともに、米国FATCA法が米国外金融機関に求める義務の履行と米国外金融機関が所在する国・地域との法令との抵触、米国外金融機関における事務負担・コスト負担や実施可能性などの多くの問題があることが認識され、その実質的な実施スケジュールは後ろ倒しにされている。具体的には、2013年1月に米国FATCA法に関する最終規則が公表された段階で、米国FATCA法に基づく源泉徴収開始日は2014年1月1日とされており、さらに、外国パススルー支払などの一部の支払に関する源泉徴収開始日は2017年1月1日とされていた。その後、さらに、米国当局は2013年7月に米国FATCA法に基づく源泉徴収開始日を6ヶ月間延期することを公表しており、現在のところ、2014年7月1日以降の一定の支払いについて米国FATCA法上の源泉徴収が開始されるものと考えられる。

 日本当局は、米国FATCA法に関し、2012年6月に、政府間協力の枠組みに関する共同声明を米国当局とともに発表していたが、その後、2013年6月11日、日本当局及び米国財務省が、「米国のFATCA(外国口座税務コンプライアンス法)実施円滑化等のための日米当局の相互協力・理解に関する声明」(以下「FATCA実施声明」という)を発表し、米国のFATCA法実施に関して日米当局が行う協力及び日本国内の金融機関が実施すべき手続の内容等が明確化された。FATCA実施声明はある程度の日本国内の金融機関の負担軽減を図っているが、実質的には日本国内の金融機関に対して米国FATCA法の遵守を求めるものであり、日本国内の金融機関は米国FATCA法への対応を迫られている。

 2  FATCA実施声明

 米国当局は、米国FATCA法に関して二つのモデル政府間協定を公表している。一つ目のモデル政府間協定は、米国と政府間協定を締結するパートナー国がその国内法を整備し、当該パートナー国に所在する金融機関に当該パートナー国の政府に対して米国口座情報等を報告させ、当該パートナー国の政府は、自国に所在する金融機関から報告を受けた上記情報を米国政府との間の協定に基づく自動情報交換により、米国政府に提供するものである。一方、二つ目のモデル政府間協定では、米国と政府間協定を締結するパートナー国が、自国に所在する金融機関をして米国当局に登録を行わせ、原則として、米国FATCA法において求められる情報を当該金融機関から米国当局に対して直接報告させるものとされている。当該金融機関が米国当局に対して直接報告することが当該パートナー国の国内法と抵触する場合には、補充的に、当該パートナー国政府が当該金融機関から情報を取得し、政府間の情報交換を通じて当該パートナー国政府から米国当局に対して米国FATCA法において求められる情報を提供する。

 日本当局と米国当局との間のFATCA実施声明は、後者のモデル政府間協定に基づくものである。これによれば、日本国内の金融機関は、概要、次のような行為を求められており、米国課税当局に対して直接に米国FATCA法により要求される情報を報告することが想定されている。

  1.  米国当局に登録してFFI契約に必要とされる事項を実施すること。
  2.  米国口座と特定された既存口座については、口座保有者の米国納税者番号と米国当局への口座情報の報告に関する同意を求め、同意が得られない場合には、不同意とされた米国口座の総数及び総額を米国当局へ報告すること。
  3.  米国FATCA法への不参加金融機関の口座のうち、一定の報告対象支払い(米国源泉であればFDAP所得として源泉徴収の対象となる支払い)を行う口座について、2015年及び2016年に、米国当局への報告についての同意を求め、同意しない不参加金融機関の数及び同意しない不参加金融機関へ支払われた当該支払いの総額を米国当局へ報告すること。
  4.  米国口座と特定された新規口座について、口座開設の条件として、米国当局への口座情報の報告に関する同意を取得すること。
  5.  米国FATCA法への不参加金融機関が開設した新規の口座等で、一定の報告対象支払いを行うものについては、口座開設等の条件として、不参加金融機関から米国当局への報告についての同意を取得すること。

 上記のFATCA実施声明の取扱いでは、米国当局への報告について同意しない米国口座や不参加金融機関の口座については、その総数及び総額のみを米国当局に報告することとなっているが、これらの総数及び総額のみを報告した不同意口座について、日本国内の金融機関が情報提供を求められないというわけではない。FATCA実施声明では、米国課税当局が日本の課税当局に対して、日米租税条約の情報交換規定に基づき、当該口座についての米国FATCA法上報告されるべき情報の提供を要請することが予定されている。また、要請を受けた日本の課税当局は、原則として6ヶ月以内に、租税条約実施特例法により認められた調査権限を行使して、日本国内の金融機関から不同意口座に係る当該情報を入手して、米国課税当局へ提供するものとされている。結局のところ、日本国内の金融機関は、不同意口座についても、米国FATCA法上報告が必要とされる情報を提供できる態勢を整える必要がある。

 一方、FATCA実施声明では、FATCA実施声明に沿って米国課税当局へ登録した日本国内の金融機関は、米国FATCA法を遵守し、米国FATCA法に基づく源泉徴収課税を受けない旨を明確にするとともに、当該金融機関は非協力口座保有者が保有する口座についての源泉徴収及び当該口座の閉鎖をしなくてよいこととされた。また、一部の金融機関や金融商品を米国FATCA法の対象外とするなどの特別な取扱いも合意されている。

 FATCA実施声明は、日本国内の金融機関が米国FATCA法を遵守する場合における、既存の日本の法制度との抵触の懸念を相当程度解消するものと評価することができる。

 例えば、日本国内の金融機関が米国FATCA法に基づき米国口座の情報を米国課税当局に提供する場合には、その口座保有者の同意なく米国課税当局に口座情報を提供すれば、個人情報保護法や金融機関の守秘義務に抵触する惧れがある。この点、FATCA実施声明の取扱いでは、米国当局への報告について同意しない米国口座や不参加金融機関の口座については、その総数及び総額のみを米国当局に報告することとなっており、個別の口座保有者等が特定される形の情報の開示ではないため、口座保有者の同意がないまま情報を提供しても、個人情報保護法や金融機関の守秘義務との抵触を回避し得るものと思われる。また、日本の課税当局が、日本国内の金融機関に対して、税務調査権限を行使して一定の口座情報を求める場合には、日本国内の金融機関は国内法令に基づき日本の課税当局へ当該口座情報等を提供することになるから、個人情報保護法や金融機関の守秘義務に抵触すると解されるリスクはかなり低いであろう。

 しかしながら、FATCA実施声明は、結局のところ、日本の国内金融機関が、米国FATCA法の枠組みに沿って米国FATCA法の傘の下に入ることを前提とするものである。FATCA実施声明は、これに依拠する日本国内の金融機関に対して、米国課税当局へ登録し、FFI契約において実施が必要とされる事項を実施することを求めている。日本国内の金融機関は、米国課税当局と個別にFFI契約を締結する必要はないが、FATCA実施声明において変更されている事項以外については、米国FATCA法に従った形の口座保有者の調査・書類徴求義務(デュー・ディリジェンス手続)、米国人口座などの一定の口座についての口座情報を米国課税当局へ報告する義務等を負うのであり、相応の事務負担を覚悟しなければならない。これらの事務負担については、米国FATCA法の詳細が明らかになって以来、わが国政府や各民間業界団体が米国課税当局へ働きかけを行ったことにより、現状では、「一定程度の負担は発生するが対応可能なレベル」と評価されているようであるが、いずれにしても、日本国内の金融機関は、米国FATCA法対応のためのシステム・事務等の整備を行う必要がある。

 3  米国FATCA対応の留意点

 日本の国内金融機関が米国FATCA法への対応を準備するにあたっては様々なポイントを検討する必要があると思われるが、以下では、次の3点を指摘しておきたい。

 第一に、FATCA実施声明では、米国FATCA法上のみなし遵守米国外金融機関又は適用外受益者となり得る金融機関は、必ずしもFATCA実施声明に沿った米国課税当局への登録を求められていない。米国FATCA法は、もともと、米国納税者の租税回避に利用される惧れが少ない金融機関については、FFI契約を締結しなくとも米国FATCA法を遵守していると取り扱うものとしている。これらは、米国FATCA法上、不参加金融機関とは扱われず、米国FATCA法に基づく源泉徴収等を受けない。米国FATCA法上、みなし遵守米国外金融機関とされる類型としては、地域FFI(Local FFI)、適格集団投資ビークル(Qualified collective investment vehicle)、規制ファンド(Restricted funds)、スポンサー付FFI(Sponsored FFI)などがある。特に、小規模金融機関においては、みなし遵守米国外金融機関としての要件を充足することが可能か、検討の余地があろう。

 第二に、米国FATCA法への対応は、原則として企業グループ単位で行わなければならないという点である。FATCA実施声明は日本国内の金融機関について取扱いの明確化を図ったが、例えば、日本の金融機関の海外支店や海外子会社はその対象に含まれていない。一方、米国FATCA法は、原則として、企業グループ単位で対応することが求められている。海外支店や海外子会社が現地の法制等の関係から米国FATCA法の求める義務を履行できない可能性もあり、グローバルに活動する金融機関においては、海外支店や海外子会社を、米国FATCA法上どのようなステータスとして取り扱うか、検討する必要があろう。

 第三に、不参加金融機関への支払いの源泉徴収についてである。米国FATCA法では、FFI契約を締結した米国外金融機関は、非協力口座保有者及び不参加金融機関への源泉徴収対象支払いについて30%の源泉徴収を行うことを求めている。FATCA実施声明では、非協力口座保有者が保有する口座に関して、源泉徴収を求めない旨が明記されたが、不参加金融機関が保有する口座についての源泉徴収に関しては、何らの言及がない。FATCA実施声明において、日本国内の金融機関や、米国FATCA法に関する政府間協定を米国と締結したパートナー国にある金融機関は、原則として不参加金融機関に含まれない旨が明示されており、また、当初の源泉徴収対象支払いは米国源泉の一定の所得に限られるため、現実的には上記の源泉徴収が問題となるケースは多くはないようにも思われるが、注意を要する点である。

 4  おわりに

 FATCA実施声明により、日本国内の金融機関が行うべき対応の方向性が明確になってきたが、米国FATCA法は未だ流動的な部分があり、変更が生じる可能性もある。

 例えば、FATCA実施声明が公表された時点では、米国FATCA法に基づく源泉徴収の開始は2014年1月1日とされており、これを基準としてFATCA実施声明における既存口座・新規口座の区別などがされていた。しかし、その後、米国FAT

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伊藤 剛志(いとう・つよし)

 弁護士。1999年東京大学法学部卒。司法修習(第53期)を経て、2000年に弁護士登録。2007年ニューヨーク大学ロースクール(LL.M.)修了(Arthur T. Vanderbilt奨学生)。2008年ニューヨーク州弁護士登録。現在、西村あさひ法律事務所・名古屋事務所代表。金融取引および税務を中心に担当。レポ取引に係る源泉徴収税を巡る税務訴訟を始め、様々な税務調査・税務争訟に関与・助言している。

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