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西村あさひのリーガル・アウトルック

経営者保証ガイドラインで中小企業経営者の悩みは解消されるか

柴原 多(しばはら・まさる)

 法的債務整理手続などで、経営破綻した中小企業の経営者に、生活費や自宅を残すことを認める経営者保証ガイドラインが2月から適用された。中小企業の経営者が会社の借金の保証人になる経営者保証は、私財喪失の懸念から倒産手続の申請が遅れる一因といわれてきた。ガイドラインは中小企業経営者の福音となるのか。柴原多弁護士が、ガイドラインの内容を詳細に解説する。

  

経営者保証ガイドラインについて

西村あさひ法律事務所
弁護士 柴原  多

 1.初めに

柴原多弁護士拡大柴原 多(しばはら・まさる)
 1996年、慶應義塾大学法学部卒業。司法修習を経て99年に弁護士登録(東京弁護士会)。事業再生・倒産事件(民事再生・会社更生・私的整理事件を中心)、第三セクターの再建、国内企業間のM&A等に関する各社へのアドバイス、法廷活動等に従事。西村あさひ法律事務所パートナー。
 日本の中小企業の場合、経営者が企業の借入れにつき保証を行っていることが多く、当該企業につき民事再生等の倒産手続(私的整理を含む)が開始されると、当該経営者は、金融機関から保証人としての責任も追及されることなる。

 その結果、大部分の私財を失いかねないとの懸念が経営者に存在する為、倒産手続の申請が遅くなり、早期の事業再生を阻害する要因となっているとの指摘が存在する。

 そこで、平成25年12月に発表(なお、適用は平成26年2月1日から)されたのが経営者保証ガイドライン(以下「ガイドライン」という)である(また保証人の問題は現在立法作業が進められている民法の債権法改正においても議論になっている)。

 ガイドライン制定に至るまでの経緯は次のとおりである。

  •  平成25年1月、中小企業庁と金融庁が共同で「中小企業における個人保証等の在り方研究会」を設置し、同年5月「中小企業における個人保証等の在り方研究会報告書」が公表
  •  同年8月、本報告書にて示された方向性を具体化することを目的として、行政当局の関与の下、日本商工会議所と全国銀行協会が共同で、有識者を交えた意見交換の場として「経営者保証に関するガイドライン研究会」を設置

 このガイドラインは、中小企業の経営者保証に関する契約時の対応のみならず履行時等における対応について定められたものであるが、ここでは後者の概要について解説を行うこととする(なお、要件等の詳細についてはガイドライン及びQ&A自体を確認されたい)。

 ちなみに、ガイドラインが対象とする保証契約は次の要件を具備することを前提としている。

  1.  保証契約の主債務者が中小企業であること(なおQ&Aにおいては、中小企業者の範囲を超える企業も対象になり得るとの記載が存在する)
  2.  保証人が個人であり、主債務者の経営者であること(特別の事情がある場合又はこれに準じる場合についてはガイドライン参照のこと)
  3.  主債務者及び保証人の双方が弁済について誠実であり、対象債権者の請求に応じ、それぞれの財産状況等について適時適切に開示していること
  4.  主債務者及び保証人が反社会的勢力ではなく、そのおそれもないこと

 2.保証債務の整理

 ガイドラインでは、保証債務の整理にあたって幾つかのポイントを示している。具体的には、(ア)対象となり得る保証人、(イ)保証債務の整理の方法、(ウ)保証債務の整理を図る場合の対象債権者の対応、(エ)保証債務の弁済計画、(オ)残存する保証債務の取扱い(詳細はガイドライン参照のこと)、について規定している。以下個別に解説することとする。

 (1)対象となり得る保証人

 ガイドラインは、対象とする保証契約を限定したうえで、更に保証債務の整理の局面においては対象となりうる保証人を限定しているが、その代わり、当該保証人から保証債務の整理の申し出がなされた場合、対象債権者は「誠実に対応すること」が期待されている。

 また、ここでいう対象となりうる保証人については、(ア)主債務者について合理的な債務整理の方法が採用され、(イ)主たる債務及び保証債務の破産手続による配当よりも多くの回収を得られる見込みがあるなど対象債権者にとって経済的な合理性が期待でき(なお第二会社方式及び主債務者が清算型手続を利用する場合についてはQ&A参照のこと)、(ウ)保証人に破産法上の免責不許可事由が生じておらずそのおそれもないこと、が要求されている。このうち(ウ)は、浪費・賭博等により過大な債務を負担した場合等については、公平の趣旨から、破産手続において免責(債務の削減)が許可されないこととの平仄を考慮したものである。

 なお、(ア)については複雑な規定がされているが、要は「法的債務整理手続の開始申立て又は準則型私的整理手続(中小企業再生支援協議会による再生支援スキーム、事業再生ADR、私的整理ガイドライン、特定調停等)の申立てを、このガイドラインの利用と同時に現に行い、又は、これらの手続が係属し、若しくは既に終結していること」を指す。

 (2)保証債務の整理の手続

 まず、保証債務の整理を実施するに際しては、(ア)主債務と保証債務の一体整理を図るときで、主債務の整理に当たって準則型私的整理手続を利用する場合には、主債務者の弁済計画を策定する際に、保証人による弁済もその内容に含めることが要求されている。

 また、(イ)それ以外の場合には、原則として、保証債務の整理に当たっては、当該整理にとって適切な準則型私的整理手続を利用することが要求されている(但し、合理的な理由に基づき、準則型私的整理手続を利用することなく、支援専門家等の第三者の斡旋による当事者間の協議等に基づき、債務を整理する余地も認められている)。

 (3)保証債務の整理を図る場合の対応

 一方で、対象債権者は合理的な不同意事由がない限り、当該債務整理手続の成立に向けて誠実に対応することが期待されており、具体的には次のことがガイドラインに規定されている。

 (ア)対象債権者は一時停止等の要請に対して誠実かつ柔軟に対応するように努めること。

 (イ)上記(2)(ア)の場合においては、対象債権者は、結果的に私的整理に至った事実のみをもって、一律かつ形式的に経営者の交代を求めないこと。

 (ウ)対象債権者は、保証人の手元に残すことのできる残存資産の範囲について、必要に応じ支援専門家とも連携しつつ、(a)保証人の保証履行能力や従前の履行状況、(b)主債務が不履行に至ったことに対する経営者たる保証人の帰責性、(c)経営者たる保証人の経営資質・信頼性、(d)経営者たる保証人が主債務者の事業再生等に与える影響、(e)破産手続における自由財産の考え方や、民事執行法に定める標準的な世帯の必要生計費の考え方との整合性、を総合的に勘案して決定すること。

 この点、主債務者の運営に関し不適切な経理等の重大な経営責任が存在する場合には、上記(b)の要素を考慮する中で、適切な保証責任とは何かということが議論されるものと想定される。

 また、ガイドラインは、この残存資産の範囲を決定する前提として、次の2つの特徴的な事項を定めている。

 第一は、対象債権者としても、一定の経済合理性が認められる場合には、自由財産の考え方を踏まえつつ、一定期間(雇用保険の給付期間の考え方等を参考)の生計費(1か月当たりの標準的な世帯の必要生計費として民事執行法施行令で定める額を参考)に相当する額や華美でない自宅等を、当該経営者たる保証人の残存資産に含めることを検討する(但し上限額についてはガイドライン参照のこと)こととされている(主債務者の工場等が保証人の所有である場合の処理については、ガイドライン参照のこと)点である。

 ここでいう生活費は、経営者の安定した事業継続、事業清算後の新たな事業の開始等のために一定の残存資産の保有を認めたものである。また、自宅については、保証人の生活の本拠であることから、保証人の事業意欲確保・生活の経済的再建のためにも自宅の保有を許容したものと解される。もっとも、逆に「華美でない」とはいえない自宅は必ず売却又は弁済の対象となるのかとか、そもそも「華美でない」とはどの程度のものを指すのかについては、今後議論が分かれるところであろう。

 第二は、(a)保証人は、資力に関する情報の開示及び開示情報についての表明保証を行うとともに、(b)支援専門家は、対象債権者からの求めに応じて、当該表明保証の適正性についての確認・報告を行うことが前提とされている点である。

 これは、個人資産については、金融機関といえども調査が容易でない場合があることから、保証人等による適切な開示及び表明保証に期待しつつ、その期待が裏切られた場合の措置を講ずるような工夫がなされている。

 具体的には、保証債務の免除を求める計画においては、「保証人が開示し、その内容の正確性について表明保証を行った資力の状況が事実と異なることが判明した場合には、免除した保証債務及び免除期間分の延滞利息も付した上で、追加弁済を行うことについて、保証人と対象債権者が合意し、書面での契約を締結すること」が求められているところである。

 (4)保証債務の弁済計画

 保証債務の弁済計画案については、(ア)原則5年以内としつつ、(イ)対象債権者に対して保証債務の減免を要請する場合には、当該保証人が財産評定基準時(保証債務の整理を申し出た時点)において保有する全ての資産(前述の残存資産を除く)を処分・換価(又はそれに代えて「公正な価額」相当額を弁済すること)して得られた金銭をもって、担保権者等に対する優先弁済の後に、全ての対象債権者に対して、債権額に按分比例した額の弁済を行うことが、想定されている(なお、その他の細部はガイドライン参照のこと)。

 3.終わりに

 このガイドラインはまだ運用が始

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 1996年、慶應義塾大学法学部卒業。司法修習を経て99年に弁護士登録(東京弁護士会)。
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