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西村あさひのリーガル・アウトルック

「業務提携」にあたっての独占禁止法上の留意点

沼田 知之(ぬまた・ともゆき)

 企業結合や業務提携について、顧客や競争相手から独占禁止法に違反するのではないかといった指摘を受けて公正取引委員会や海外競争当局が調査を実施したり、懸念を表明した旨の報道がなされる事案が増えている。業務提携には、独禁法の企業結合規制の対象にならないものもあるが、提携の内容によっては別の規定に抵触する場合もあり、業務提携を行う際には、独占禁止法上の問題が生じないか事前に検討することが当然とされる時代になったといってよいだろう。沼田知之弁護士が、業務提携について、独禁法上どのような点に留意すべきかについて、詳細に解説する。

 

業務提携における独占禁止法上の留意点

西村あさひ法律事務所 弁護士
沼田 知之

 1  はじめに

拡大沼田 知之(ぬまた・ともゆき)
 2004年東京大学法学部卒業、2006年東京大学法科大学院修了、2007年弁護士登録、西村あさひ法律事務所入所。M&A・業務提携における競争当局対応を含む独占禁止法案件、企業不祥事等の危機管理案件を中心とした企業法務に従事。
 企業が、外部の経営資源を活用することにより競争力を強化するための方法のひとつとして、業務提携の重要性が高まっている。国内市場の成熟化や、グローバル競争の激化に伴って、合併・買収等のM&Aと同様、競争事業者間(同業他社間)で業務提携が行われるケースも多い。業界によっては、急速な技術の進展により研究開発コストや設備投資金額が増大する中で、単独企業ではこれらの投資が困難となり、業務提携が必要とされるケースもある。

 また、競争関係に立たない事業者間で業務提携が行われるケースもある。典型的な例としては、例えば、最終製品を製造するメーカーと部品メーカーなど、取引関係に立つ事業者間で共同研究開発を行うケースが挙げられる。全く異なる分野の事業者間で新たな商品やサービスを生み出すことを目的として業務提携が行われることもある。新聞等のメディアにおいても、米電気自動車(EV)メーカーのテスラ・モーターズとパナソニックがEV向け新型電池の共同生産に向けた協議を行っていること、日本郵政がアフラックとがん保険について業務提携を行うこと、西濃運輸と福山通運が拠点間の幹線輸送について共同運航を実施することなど、日々、業務提携について数多くの報道がなされている。

 業務提携のなかには、資本関係の変動を伴う資本業務提携や、役員兼任・事業譲受け等を伴うものが含まれるが、これらの業務提携は独禁法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)の企業結合規制の対象となる(注1)。そして、企業結合規制の対象となるこれらの行為については、役員兼任を除き、一定の基準を満たす場合には事前届出が必要となる。他方で、企業結合規制の対象とはならない業務提携であっても、不当な取引制限、私的独占、不公正な取引方法といった通常の事業活動にも適用される独禁法上の規制の対象とはなり得る。したがって、業務提携によって市場における競争が制限されたり、他の事業者を市場から排除するような結果をもたらす場合には、これらの規定に抵触する可能性がないかを検討する必要がある。これに対して、企業結合規制の対象とならない業務提携については、企業として独禁法による規制をあまり意識していないケースも見受けられる。そこで、以下では、企業結合規制の対象とならない業務提携について、独禁法上どのような点に留意すべきかについて、説明することとする。

 2  業務提携が競争に及ぼす影響

 「業務提携」という用語には法令上明確な定義がなされているわけではなく、文脈に応じてさまざまな意味で用いられている。もっとも、一般化していえば、業務提携とは企業間の協力関係の一形態であり、複数の企業が事業主体として独立しつつも、継続的な相互協力関係を結ぶ取引であるということができる。

 このうち、競争関係に立つ事業者間(現に競争が行われている場合のみならず、潜在的な競争関係を含む)での業務提携においては、元々は各事業者が個別に実施していた事業の一部を、提携事業者が協力して実施する(一方の事業者が他方の事業者に委託する場合を含む)ことが一般的である。このような行為は、独禁法の観点からは、独立した事業主体による事業の一部共同化であると評価することができる。事業の一部共同化が行われる場合には、共同化される部分について提携事業者間での競争が制限されることになるため、これにより、関連する商品役務の市場において、どのような影響が生じるかを検討する必要がある。

 さらに、競争事業者間での業務提携については、上記のような業務提携そのものに起因する問題(事業の一部共同化)とは別に、業務提携に伴って行われる情報交換についても、独禁法の観点から一定の留意が必要である。

 これに対し、競争関係に立たない事業者間での業務提携については、事業の一部共同化による競争制限が問題になることは比較的少ないと考えられるが、業務提携にあたって、一方当事者が他方当事者による第三者との取引について制約を課したり、取引関係上、優越的な地位にある当事者が、他方当事者に対して不合理な内容の提携を強いるなどした場合には、競争への悪影響が生じるおそれがある。

 そこで、以下においては、まず、競争事業者間における業務提携について、事業の一部共同化に起因する問題と業務提携に伴う情報交換の問題に分けて論じた後に、それ以外の業務提携における独禁法上の留意点について論じることとする。

 3  事業の一部共同化に起因する問題

 (1) 概要

 独禁法は、競争事業者と共同して相互にその事業活動を拘束し、市場における競争を実質的に制限することを「不当な取引制限」として禁止している(注2)。不当な取引制限の典型例としては、入札談合、価格カルテルなど、本来競争関係に立つべき事業者が相互に意思を通じて競争を停止又は制限しようとする行為を挙げることができる。業務提携はこれらの典型例とは異なり、競争制限のみを目的とする行為ではないものの、事業の一部を共同化する行為であり、共同化される部分について競争の制限が生じ得ることから、その結果として競争の実質的制限が生じる場合には、不当な取引制限に該当し得る(注3)。そして、業務提携により競争の実質的制限が生じるかを検討するにあたっては、業務提携によって生じる(i)競争制限的効果と、(ii)競争促進的効果その他のメリットの大小を比較検討することになる(注4)

 (2) 競争制限的効果の考慮要素

 ア  事業の共同化の範囲

 商品役務の供給コストに対して大きな割合を占める部分について共同化がなされる場合には、業務提携によって市場における価格等に影響が生じやすい。例えば、一般的にいって商品の生産・販売の全体に係る共同化は、生産のみの共同化よりも価格等に与える影響が大きい。もっとも、生産のみの共同化であっても、価格に占める生産コストの割合が大きい場合には、価格等に与える影響が大きいとされることもある。

 これに対し、共同化がなされる範囲が狭く、価格等に有意な影響を与えない場合には、競争に与える影響は小さい。例えば、物流の共同化、共同研究開発(注5)、共同の販売促進活動、リサイクルの共同実施等について、そのような観点から競争の実質的制限が生じないとした事例が存在している。どのような業務提携が価格に影響を与えないかは、業務提携の対象となる事業の性質やコスト構造によりケースバイケースであり、例えば、商品やサービスの価格に対して研究開発費用が占める割合が非常に高い場合には、共同研究開発であっても価格等に大きな影響を与えるとされる可能性もある。

 イ  市場支配的状態がもたらされるか否か

 業務提携によって、当該商品役務の供給コストに大きな割合を占める部分について共同化が生じた結果、提携事業者らが自らの意思で市場全体の価格・品質・数量等の諸条件を左右できるような状態(市場支配的状態)がもたらされた場合には、競争の実質的制限があるとされることになる。これに対し、事業の重要部分について共同化が生じたとしても、市場において他の競争者等による牽制力が働き得る場合には、そのような共同化が直ちに商品役務の価格等に影響を与えることはなく、市場支配的状態は生じないものと考えられる。

 上記のとおり、企業結合規制の対象とならない業務提携全般をカバーするような公正取引委員会(以下「公取委」という。)のガイドラインは存在していない(注6)が、基本的には、企業結合行為におけるのと同様の考慮要素を勘案して、市場支配的状態がもたらされるか否かを検討することとなる(注7、注8)。業務提携に即していえば、具体的には、業務提携に参加する事業者の市場シェア、業務提携の性質・目的、業務提携の必要性、業務提携の対象となる業務範囲、継続期間等を考慮することになる。

 なお、独禁法との関係で、常に問われるのが、業務提携の対象となる事業について、どのような市場を検討対象とするかという市場画定の問題である。例えば、バスメーカーである三菱ふそうトラック・バスと日産ディーゼル工業によるエンジン及び完成車の相互OEM供給の事案において、公取委は、「我が国におけるバスの製造販売分野」を一定の取引分野(検討対象市場)とした上で、相互OEM供給の対象となる大型及び中型バスの製造・販売についての影響を検討している。同事案において、公取委は、当事会社らのシェアの合計は約40%であるものの、他にシェア30%超及び約28%を有する競争事業者が存在することなどを理由に、相互OEMによって競争の実質的制限が生じるものとは認められない旨の結論を導いているが、仮に、検討対象市場について、大型と中型では異なる市場が成立する、あるいは観光バスと路線バスでは異なる市場が成立するとしていた場合には、市場における競争に与える影響についても異なった判断がなされていた可能性もある。

 この点、複数の製品群について業務提携を行うことを検討しているような場合において、特定の製品についてのみ市場シェアが高くなるとしても、業務提携それ自体をあきらめるのではなく、業務提携により競争制限的効果が生じないよう担保する形で行ったり、あるいは、市場シェアの高い製品を業務提携の対象から除く等の方法により対応することが考えられる。

 (3)  業務提携のもたらすメリット

 業務提携によって競争促進的効果がもたらされる場合として、例えば共同研究開発、共同生産、規格標準化等の業務提携により、当事会社の効率性が向上し、結果として競争事業者との間での競争が促進される場合が挙げられる。

 また、競争促進的効果以外のメリットも考慮されないわけではない。例えば、安全性の確保、環境基準の達成等の正当な目的を有しており、当該目的の達成のために合理的な内容の業務提携であるといい得る場合には、競争制限的効果に鑑みてもなお競争の実質的制限は生じないとされる可能性がある。

 4  業務提携に伴う情報交換に関する問題

 (1) 競争事業者間における情報交換

 前記「事業の一部共同化に起因する問題」(2)ア記載のとおり、独禁法は競争事業者と共同して相互にその事業活動を拘束し、市場における競争を実質的に制限することを「不当な取引制限」として禁止しているところ、価格やコスト等の機微情報(事業者が保有する非公開の情報であって、当該情報が競争相手に伝わった場合に、その行動に影響を与え得るような性質の情報)について競争事業者間で交換することは、不当な取引制限につながる行為として独禁法上問題となり得る。一般的に、個別・具体的な取引に関わる情報交換、現在又は将来の予測に関わる情報交換、需要者の利益や公益等の合理的な目的を有さず、競争事業者間の利益のためになされる情報交換については、独禁法上問題となりやすいといえる。

 もちろん、単に競争事業者間において情報交換が行われるだけであれば、ただちに「不当な取引制限」に該当するものではない。しかしながら、競争事業者間で価格やコスト等の競争に関する機微情報が交換され、その後、当該事業者らが価格設定等について同一又は同様の行動に出た場合には、価格設定について明示的又は黙示的に何らかの合意があったと推認され、カルテルに該当するとされる可能性が高い。とりわけ、近年、競争事業者間の情報交換については世界的に規制が厳格化される流れにあることから、これまで以上に慎重な対応が求められる。

 (2) 業務提携における情報交換

 ○ 共同化の範囲に含まれない事項についての情報交換

 前記「事業の一部共同化に起因する問題」のような検討の結果、業務提携それ自体(事業の一部共同化)については独禁法上問題ないとされた場合、共同化がなされた部分について、業務提携に必要な限りにおいて情報交換を行うことは、基本的に独禁法上問題となるものではないと考えられる。

 しかし、本来事業の共同化の範囲に含まれない事項や、業務提携のために必要のない情報について交換を行う場合には、別途独禁法上の問題が生じ得る。例えば、共同研究開発自体は独禁法上問題ないとしても、共同研究開発に本来必要とは思われない、相手方の顧客リストや個別顧客向けの販売価格情報などの競争上の機微情報を交換することは認められない。そのような情報交換には業務提携との関係で合理的な必要性が認められず、競争制限以外の目的・効果を持たない行為であるとして独禁法違反とされるリスクがある。

 もっとも、実務上は情報交換の範囲を事業の共同化がなされた範囲に限定することが容易ではないケースも存在する。例えば、α製品とβ製品の生産について競合しているA社とB社が、α製品についてのみ生産の共同化を実施するケースにおいて、α製品の生産コストの削減のためには、α製品を構成する部品・原料の仕入先・仕入価格等の情報交換が必要となると考えられる。しかし、α製品とβ製品に共通して用いられるγ部品があった場合に、γ部品について仕入先・仕入価格の情報交換を行えば、業務提携の対象外であるβ製品の生産・販売に関する情報交換をも行っていることになってしまうのである。したがって、このような場合であって、かつγ部品がβ製品の生産コストに占める割合が大きいときには、γ部品に関する情報交換は行わないこととするか、少なくとも部品の仕入交渉等に関与しないメンバーのみから構成されるクリーンチームにおいて情報交換を行うなどの対処が必要となってくるものと考えられる。

 5  競争事業者間以外の業務提携

 競争関係に立たない事業者間での業務提携については、事業の一部共同化による競争制限が問題になることは比較的少ないと考えられるが、業務提携により市場における競争が制限されたり、競争者が排除されるようなケースでは、独禁法上の問題が生じ得るケースも考えられる。

 例えば、ある機械製品(α)の製造・販売業者であるA社が、競争事業者であるB社やC社を市場から排除するために、α製品の製造のために必須の部品であるβ部品の製造について非常に大きなシェアを有するX社との間で次世代のβ部品に係る共同研究開発を行うこととし、その際、X社との間で、共同研究開発の成果であるβ部品のみならず、それ以外のβ部品についても、B社やC社には販売しないよう取り決めることは、競争事業者であるB社やC社を排除する行為として、独禁法違反(排除型私的独占、又は間接取引拒絶・排他条件付取引等の不公正な取引方法)となる可能性がある。

 ▽注1:企業結合規制の対象となるのは、株式取得、役員兼任、合併、会社分割、共同株式移転、事業譲受け等の各行為であり、企業結合行為の結果、市場における競争の実質的

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沼田 知之(ぬまた・ともゆき)

 2004年東京大学法学部卒業、2006年東京大学法科大学院修了、2007年弁護士登録、西村あさひ法律事務所入所。M&A・業務提携における競争当局対応を含む独占禁止法案件、企業不祥事等の危機管理案件を中心とした企業法務に従事。
 『インサイダー取引規制の実務』(共著、商事法務、2010年)、『判例 米国・EU競争法』(共著、商事法務、2011年)、『The Public Competition Enforcement Review』(共著、Law Bsuiness Research Ltd、2011年)、「事業者の行為と他事業者の排除との因果関係(JASRAC事件)」ジュリストNo.1445(2012年9月号)、「独禁法70条の15に基づく審判事件記録の閲覧謄写について」ジュリストNo.1462(2014年1月号)等の論稿を執筆。

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