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西村あさひのリーガル・アウトルック

司法取引の材料として拡張されてきた米国の共謀罪の威力

米国法令の域外適用の広がりと司法取引 (下)

荒井 喜美(あらい・よしみ)

 犯罪行為をしようと話し合うだけで、実行しなくても罪に問われる共謀罪。日本政府は2000年に国際条約に加入したのを機に、これまでに3回、制定法案を国会に提出したが、世論の強い反発で廃案になっている。荒井喜美弁護士の2回目の報告は、米国の共謀罪についてだ。米国では、共謀罪は普通に使われ、司法取引の「種」として今後、さらに積極適用される可能性があるという。1回目の前稿で詳述した郵便・通信詐欺罪と合わせ、米国司法当局の摘発の対象となった者にとっては、大きな防御の負担が生じるが、逆に、産業スパイの被害企業側にとっては有効な武器になる可能性も秘めているという。

 

米国法令の域外適用の広がりと司法取引(下)
 ~ Mail & Wire Fraud及び共謀罪から考える ~

西村あさひ法律事務所
弁護士 荒井 喜美

 1 日本及び米国の共謀罪

拡大荒井 喜美(あらい・よしみ)
 2004年に慶應義塾大学、2006年に慶應義塾大学法科大学院を卒業。司法修習(新60期)を経て、2007年12月より西村あさひ法律事務所弁護士(第一東京弁護士会所属)。現在、コロンビア大学ロースクール留学中。
 2013年12月の報道によると、政府は、2020年の東京五輪のテロ対策を見据え、共謀罪の創設を含む組織犯罪処罰法改正を進める方針のようであり、谷垣法相は、共謀罪に関する法案を2014年の通常国会に提出する予定はないが、積極的な検討が必要であるとした。

 政府説明によると、共謀罪の創設根拠は、2000年11月15日に国際連合総会で採択された国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約第5条(a)(ii)が、重大犯罪の実行に関する合意を犯罪として立法することを締約国に義務付けていることにある。しかし、国会が2003年5月に同条約の締約を承認し、2004年2月20日、内閣が第159回国会(通常)に共謀罪の創設に関する法律案を提出したものの、改正案の提出や廃案が続き、現時点で共謀罪の創設には至っていない。

 他方で、米国では、一般規定としての共謀罪(18 U.S.C.§371)及び特定の法令が別途定める共謀罪は、定着した犯罪類型となっている。例えば、今月19日、米国司法省は、61398部隊に所属する中国人5名について、ソーラーパネルや原子力発電所を製造するアメリカ企業等のコンピューターに対してサイバー攻撃をしかけ、営業秘密等を含む有益な情報を盗取した上で、中国のライバル企業に渡したことなどを理由に起訴したと発表した(http://www.justice.gov/opa/pr/2014/May/14-ag-528.html)。
起訴状によると、被告人全員が訴追されている31個の訴因には、営業秘密窃盗や産業スパイ罪等の実体犯罪はもちろん、「コンピューターを利用した詐欺等に関する法律」が特別に定める共謀罪(18 U.S.C.§1030(b))が1個含まれており、この共謀罪により、懲役刑の上限が10年引き上げられている。また、前稿で説明したとおり、企業犯罪については、司法取引による解決が主流となっているため、米国司法省等の連邦政府は、共謀罪を積極的に適用して、犯罪行為に適用可能な法定刑の範囲を引き上げ、司法取引の道具として利用している。さらに、共謀罪は、前稿で述べたMail Fraud及びWire Fraud(以下「MWF」)等と同様に、米国法令の域外適用を助長する機能を果たしている。そこで、本稿では、米国の共謀罪について、その内容や判例・裁判例の進展を説明するとともに、現在の共謀罪の機能を紹介することとする。

 2 共謀罪の内容と発展

 (1) 共謀罪の内容

 共謀罪は、犯罪組織を中心とした集団的犯罪を抑止することを目的とし、2名以上の者による実体犯罪(「substantive offenses」といい、一般に、犯罪の構成要件が他の犯罪の成立に依拠することなく、それ自体で一つの犯罪として完結する罪のことである)に向けた合意自体を処罰する。また、共謀罪は、未遂罪のように、犯罪が既遂に至らなかった場合を処罰するものではないため、実体犯罪の既遂・未遂を問わず、実体犯罪に向けた合意が存在すれば成立する。例えば、3名の被告人が、MWFに違反する犯罪行為(Mail FraudやWire Fraud)を合意し、その実行行為に及んだ場合は、MWFと共謀罪の2つの罪で訴追されることになる。一般規定としての共謀罪の法定刑は、5年以下の懲役、個人の場合は25万ドル以下の罰金、法人の場合は50万ドル以下の罰金(個人の場合は併科あり)であり、共謀罪により金銭的利益を得た場合、又は金銭的損失を与えた場合は、その利益又は損失の2倍の金額まで罰金額を引き上げられる(18 U.S.C.§3571)。また、重大犯罪に関する法令の中に独自の共謀罪の定めがある場合は、一般規定としての共謀罪よりも高い法定刑が科される。

 米国では、共謀罪は、2つの意味で連邦刑事法の適用範囲を急進的に広げる法律であると評価されている。

 1点目は、上記のとおり、共謀罪は、共謀の対象となった実体犯罪とは別に、実体犯罪に関する合意について本人の責任を問う点である。この機能は、連邦刑事法の領域のみならず、ほぼ全ての州法の領域でも受け入れられており、異論は見られない。

 2点目は、1949年の最高裁判決によって確立された「Pinkerton doctrine」(以下「ピンカートン理論」)による連邦政府の刑罰権の拡大である。ピンカートン理論は、下記にて詳述するとおり、日本の共謀共同正犯に似た考え方であり、共謀に関与した一部の者が実体犯罪を実行した場合、実体犯罪の実行に関与しなかった他の共謀者も、実体犯罪の正犯としての罪責を問う理論である。例えば、A、B、Cが、銀行強盗を共謀し、AとBのみが銀行強盗を行った場合、銀行強盗の実行行為に関与しなかったCが、共謀罪に問われるのはもちろんのこと、強盗罪にも問われることになる。ピンカートン理論は、共謀行為に加担した者に対し、共謀の対象となった実体犯罪の責任を分配する考え方であり、連邦刑事法の領域では確立された理論である。しかし、実体犯罪の実行に関与しなかった者の処罰が拡大することを懸念する見解も多い。そのため、州法の領域では、ピンカートン理論を採用しなかったり、その適用を制限する傾向も見られる。

 (2) 共謀罪の構成要件

 共謀罪は、犯罪組織による集団的犯罪を処罰するために、連邦政府が、犯罪組織の末端の行為者に対し、厳しい刑事罰を科す可能性を示し、より罪の重い仲間を密告するように仕向けることを可能にする犯罪類型である。そのため、その構成要件は、内容、立証方法ともに、連邦政府にとって有利なものになっており、また、ピンカートン理論の誕生にも繋がることになった。

 ア 行為者の客観的行為に関する要件(客観的構成要件)

 共謀罪の客観的構成要件は、①犯罪に向けた合意(agreement)と、②その合意を促進する顕示行為(overt act)である。なお、特定の法令が別途定める共謀罪が、顕示行為の存在を不要としている場合は、②の顕示行為の立証は不要となる。例えば、1913年のNash事件では、シャーマン法に違反する行為の共謀が問題となったところ、シャーマン法は、競争制限的な行為に及ぶ合意のみを構成要件としている以上、シャーマン法に関する共謀罪の成立には、顕示行為の立証は不要であるとされ、その後、他の法領域においてもこの解釈が踏襲されている。

 ただし、②の顕示行為の立証は簡単であるとされており、些細な又は初期的な行為であっても、共謀者の内の誰かが、共謀を推し進める行為に及んだことを立証すれば足りる。例えば、2007年のBertling事件では、第八巡回区控訴裁判所は、共謀に関する合意のもと、その目的を達成するためにさらなる議論をすることは、顕示行為として十分であるとした。つまり、②の顕示行為の立証の要否は、連邦政府の立証活動の足枷となるものではない。

 イ 行為者の認識に関する要件(主観的構成要件)

 行為者の主観的構成要件は、2003年のSvoboda事件における第二巡回区控訴裁判所の判断をベースとすると、被告人が、①自ら合意に加わることを認識して合意に参加したに違いないこと、②犯罪目的の達成を助けることを意図して、違法な合意に加わったに違いないことの2つに分けて考えられている。前者は、共謀罪を教唆・ほう助と区別する基準として、後者は、共謀罪は過失致死罪については成立しないことを示す基準として機能している。そのため、連邦政府は、被告人が意図的に違法な合意に加わったことを立証しなければならない。しかし、合意内容を記載したメモなど、被告人の内心を直接立証できる証拠が存在することは稀であるため、状況証拠による立証が認められている。さらに、認識の程度についても、長年の裁判例及び2011年のGlobal-Tech Appliances v. SEB事件の最高裁判決(なお、民事の特許侵害事件である)により、直接かつ明確な現実の認識(actual knowledge、以下「現実の認識」)を立証できない場合は、現実の認識の立証は不要であり、「willful blindness」又は「conscious avoidance」を立証すればよいとされ、連邦政府の立証の程度が緩和されている。なお、「willful blindness」と「conscious avoidance」は、ほぼ同じ概念であり、問題となっている事実が存在する高度な可能性に気づきながら、その現実からわざと目を背けたり、その事実を知ることを意図的に避けている心理状態をいう。例えば、上記Svoboda事件において、被告人Roblesは、Svobodaから公開買付けに関する情報を得てインサイダー取引に及んだとして、インサイダー取引の共謀罪で訴追された。これに対し、Roblesは、インサイダー情報を認識せずに取引に及んだ以上、共謀に加わる現実の認識がなかったとして、共謀罪の成立を争った。この点につき、第二巡回区控訴裁判所は、「conscious avoidance」による立証を認め、被告人が、訴追された違法な計画を知っていた、若しくは知ることを意図的に避けていた場合に、この違法な結果を推し進めることを意図していたのであれば、共謀の合意に参加する意思を持っていたと認定できると判断した。その上で、被告人が、Svobodaの職業と役職を認識していたこと、Svobodaが公開買付けに関する秘密情報を保有することを認識していたこと、公開買付けの公表日の僅か1日前に取引を行ったこと、約400%の高い利益を得て取引を成功させたことを理由に、インサイダー取引の共謀を認定した第一審の陪審員の判断を肯定した。

 (3) ピンカートン理論

 ア ピンカートン事件の内容及び判断

 ピンカートン事件は、酒類の密売をしていたWalterとDanielの兄弟が、内国歳入法違反等の実体犯罪に及ぶことを共謀した事案であり、Walterが実体犯罪に関与した証拠は存在したものの、Danielが実体犯罪に関与した証拠は存在しなかった。そこで、Danielについて、内国歳入法違反等の実体犯罪に関する罪が成立するかが論点となった。最高裁は、①共謀者の間で、実体犯罪に向けた協力関係が続いている限り、それぞれのために違法行為に及んでいるのであるから、特定の行為に向けた新しい合意が存在しなければ、一人の共謀者による顕示行為は、他の共謀者全員の顕示行為であるといえ、②顕示行為の範囲は、共謀の成立により認定することができるとした。その上で、一人の共謀者が犯した実体犯罪が、違法な合意の必然的ないし自然な結果として合理的に予見可能な場合には、他の共謀者についても、実体犯罪の正犯が成立すると判断した。

 イ 司法取引におけるピンカートン理論の機能

 ピンカートン理論は、共謀罪に加担した者に対し、犯罪の程度に見合った刑事罰を科すのではなく、意図的に、不均衡に高い刑事罰を科すことにより、他の共謀者に関する情報を捜査当局に密告することを促す機能を持つといわれている。この指摘は、司法取引の文脈で考えるとより鮮明になる。すなわち、比較的軽い罪責の共謀者に対し、共謀罪及びピンカートン理論を媒介とした実体犯罪の罪責によって不均衡に加重した刑事罰を示した上で、捜査当局に情報を提供することを条件とする減刑を提案し、司法取引に応じるインセンティブを引き出す。このような実情については、司法取引による事件解決が増えている現状を踏まえ、裁判所ではなく、連邦政府が刑罰を決定してしまっているとの批判が見られる。

 ウ ピンカートン理論に対する批判と歯止め

 実体犯罪に関与していない被告人に、他人の実体犯罪の罪責を代位的に問うピンカートン理論に対しては、個人責任の原則の観点からの批判がある。この点については、ピンカートン理論は、被告人の責任の範囲を、合意の際に「合理的に予測可能な範囲」に限ることで、処罰範囲を制限したと説明されることもある。しかし、上記のとおり、連邦政府が容易に共謀罪の成立を立証できる以上、「合理的に予測可能な範囲」も簡単に広がり、共謀罪が対象とする全ての実体犯罪について、全ての共謀者が正犯の罪責を負う可能性も否定できない。そのため、近年では、ピンカートン理論について、米国憲法が定めるデュープロセス違反が主張されるなどして、その有効性が争点となる事案も見られる。さらに、連邦裁判所の量刑の基準を示した「連邦量刑ガイドライン」では、被告人が責任を負う行為の範囲は、共謀罪の射程全てとは限らず、他の共謀者が責任を負う範囲はそれぞれ異なることが明記されるに至っている(連邦量刑ガイドライン1B1・3に関する評釈2(B))。

 次に、被告人の認識を重視して、共謀の範囲を限定的に認定する事例がある。2012年のFranco-Santiago事件では、一人の人物を中心に、2002年7月から9月に行われた5つの強盗を行う合意が形成されたところ、Franco-Santiagoは、2002年8月の強盗については共謀の上、その実行に及んだものの、他の4つの強盗については何も認識していなかった。連邦政府は、5年の時効を回避するため、2007年8月22日に、Franco-Santiagoを5つの強盗の共謀罪で起訴した。これに対し、Franco-Santiagoは、4つの強盗については共謀に参加しておらず、その存在すら認識していない以上、共謀罪は成立しないとして、時効の成立を主張した。第一巡回区控訴裁判所は、Franco-Santiagoの主張を認め、共謀罪の成立には、被告人が他の共謀者と実体犯罪に向けた合意をする必要があり、実体犯罪の存在を認識していない場合は、何も合意をすることができない以上、共謀罪は成立しないとした。また、共謀の中心人物が、全ての犯罪の実行に及び、「Hub of Wheel」の役割を果たしたことを理由に、一部の犯罪にしか参加していない者が、他の罪について責任を問われることはないとも判断した。共謀罪は、独占禁止法(以下「独禁法」)違反事件にも広く適用されており、カルテル事案では、価格操作について中心的な役割を果たした者を「Hub of Wheel」として、「Wheel」となった他の当事者を広く処罰する傾向も見られる。したがって、上記判断は、カルテル事案では重要な意味を持つと思われる。

 また、一定の条件のもとでは、共謀からの離脱も認められている。2013年のSmith事件において、最高裁は、共謀から離脱した者は、①共謀罪による処罰を受けることになるが、共謀から離脱した後に他の共謀者が犯した実体犯罪について責任を問われることはないこと、②共謀から離脱した時点で、捜査当局はその者を訴追することが可能になるため、時効が進行することを指摘した。ただし、最高裁は、共謀からの離脱については、被告が立証責任を負っており、立証の程度は、受動的に共謀に関する行為に参加しなかったことでは足りず、共謀を否定したり、共謀の目的に反する行為に出るなど、積極的な行為が必要であると判断した。

 3 企業犯罪に対する共謀罪の適用

 (1) 実際の適用状況と司法取引

 共謀罪は、犯罪組織が関与する強盗や殺人等の粗暴犯、密輸、密猟、薬物等に関する犯罪、犯罪組織が関与する犯罪、テロ関係の犯罪に関する事案についてはもちろんのこと、一般企業が関与する犯罪分野においても、証券取引法違反、各種詐欺、内国歳入法違反等の租税関係、汚職関係(連邦海外腐敗行為防止法(以下「FCPA」)等)、マネーロンダリング、独禁法違反、情報窃盗、サイバーテロ等の罪に関し、活発に適用されている。さらに、企業犯罪に共謀罪を適用する際には、ピンカートン理論が積極的に利用されており、共謀に関与したが実体犯罪を実行しなかった共謀者はもちろん、共謀に及んだ被用者が所属する会社も共謀罪に問われている。

 上記のとおり、ピンカートン理論については批判も存在するが、企業犯罪の多くは、司法取引によって解決されるため、ピンカートン理論の有効性が論点となることは稀である。その結果、米国の捜査当局の武器ともいえる共謀罪によって不均衡に引き上げられた刑事罰を出発点とした司法取引が活発に行われることになる。例えば、自動車部品カルテル事件では、ほとんどの事案で共謀罪が適用されているし、2014年2月18日のFCPA(海外腐敗行為防止法)の事例では、FCPA、MWF、マネーロンダリング、共謀罪等が重畳的に適用されており、司法取引のスタート地点となった刑事罰の上限は、相当高かったものと推測される(http://www.justice.gov/opa/pr/2014/February/14-crm-171.html)

 なお、最近の共謀罪の適用事例の中で特に目を引くのは、2014年3月5日、サンフランシスコの連邦陪審員が、初めてEconomic Espionage法(1996年に制定された産業スパイに関する法律)の有罪評決を下した事件である。同事件の概要は、2名の被告人と、そのうちの1名の被告人が所属する企業が、E.I. du Pont de Nemours & Companyの秘密情報を盗み、中国政府がコントロールする中国企業に売り渡したとして、Economic Espionage法、共謀罪等が適用された(http://www.justice.gov/opa/pr/2014/March/14-nsd-232.html)。さらに、冒頭に述べたように、中国人5名によるサイバー攻撃に対する訴追についても、共謀罪が適用され、刑罰の範囲が引き上げられている。今後も、共謀罪が産業スパイ関連事件に積極的に適用される可能性を示すものといえる。

 (2) 共謀罪による米国法令の域外適用の促進と連邦刑罰権の裁量的拡大

 米国法令の域外適用は、独禁法やFCPA(海外腐敗行為防止法)の分野で特に顕著に見られる現象であり、また、前稿で説明したMWF(Mail Fraud及びWire Fraud)も米国法令の域外適用に寄与している。これらに共謀罪が加わると、域外適用された米国法令が定める実体犯罪に関する共謀をした者に共謀罪が成立する上、ピンカートン理論により、実体犯罪に関与しなかった共謀者も、域外適用により成立した実体犯罪の正犯として処罰されることになり、米国法令の適用範囲はさらに拡大する。この意味で、共謀罪は、米国法令の域外適用に一役買っているといえる。例えば、2012年11月のFCPAに関するガイドラインでは、行為者がFCPAの適用対象となる類型(「issuers」ないし「domestic concerns」)に該当しなくても、汚職に関する電話やファクス、メール等が米国を通過するなどして、米国の領域に一定の接触を持てば、その汚職行為にFCPAが適用される旨明記されているが、このような場合に共謀罪が適用されると、米国と接触する通信等の行為すら行っていない共謀者も、共謀罪及び実体犯罪であるFCPA違反で訴追される可能性が生じる。

 また、共謀罪は、実体犯罪に向けた合意を処罰する犯罪類型であり、実体犯罪の既遂未遂は、共謀罪の成否には影響を与えないため、実体犯罪を訴追せずに、共謀罪のみを訴追することが可能である。例えば、一連のLIBOR問題に関する2013年2月6日の米国司法省の公表資料によると、米国司法省は、RBS Japanとの間で司法取引を成立させたが、RBSの犯罪行為として認定されたのは、Wire Fraudのほか、Yen LIBORの不正操作を行うことによって、シャーマン法に違反する価格操作を行うことを共謀した事実であった(http://www.justice.gov/opa/pr/2013/February/13-crm-161.html)。すなわち、実体犯罪であるシャーマン法違反について処罰されておらず、その前段階の共謀のみが処罰対象とされた。この事例は、実体犯罪が既遂に達していない場合や、その立証が困難な場合に、共謀罪による処罰が行われる事例として注意が必要であろう。

 さらに、前稿で述べたとおり、連邦政府は、本来的な犯罪を処罰するために、立証の容易な別の犯罪によって刑罰を科すことが許されている。そのため、共謀罪の立証が緩和されている点や、上記のとおり、実体犯罪を訴追せずに共謀罪だけを訴追することが可能である点を勘案すれば、連邦政府は、共謀罪を、裁量的かつ積極的に適用し、その刑罰権を拡大する可能性もある。

 4 今後の注目点

 では、MWF(Mail Fraud及びWire Fraud)及び共謀罪について、今後、いかなる点に注目すべきか。

 第一に、米国連邦政府による司法取引材料の獲得という観点である。MWFは、電子メールや手紙、電子送金といった、誰もが日常的に行っている行為に連邦刑罰権の根拠を見出すものである。さらに、MWFは、メールを送ったり送金をしたりする行為それぞれについて成立するのであり、例えば、同一の詐欺スキームを使って、電子送金の方法で10回金銭を詐取した場合は、10個のWire Fraudが成立し、刑事罰の上限が跳ね上がることとなる。共謀罪では、共謀者は、実体犯罪に向けた合意に関する刑事処罰が加算され、ピンカートン理論によって他人の実体犯罪に関する罪を問われ、不均衡な刑罰を科される可能性に直面する。つまり、MWFは、連邦刑事法が処罰可能な行為の範囲を大幅に広げ、共謀罪は、MWFを含む刑事罰について、連邦政府が科しうる刑事罰を加重する機能を持つ。その結果、連邦政府の刑罰権の範囲と上限は拡大するのであり、連邦政府は、大きな司法取引の材料を手に入れることになる。

 第二に、沿革や判例・裁判例の経過が示すように、MWF(Mail Fraud及びWire Fraud)は当初の立法沿革に比べ、相当広い範囲をカバーする法律になっていった。その上、連邦刑事法の本質と相まって、証拠関係上、インサイダー取引等の証券取引法、FCPA、独禁法等の伝統的な法令による刑事処罰が難しい場合は、その代わりに、MWFにより処罰される場合もあるし、ごく最近ではトヨタ自動車のリコール問題にもWire Fraudが適用された。さらに、近時の適用事例を見ると、違反行為の本質的要素が米国外で行われたとしても、米国に何らかの影響を与える行為であれば、MWFの適用が広く認められている。このようなMWFや他法令の域外適用事例に、共謀罪も同時に適用されると、米国法令の域外適用はさらに拡大するものと思われる。

 第三に、最近は、日本企業が、外国企業による秘密情報の持ち出しに苦慮する事案が見受けられるが、日本の法律では、民法は、情報を財産権として観念することができず、不正競争防止法は、裁判所による「営業秘密」の認定の厳しさが一因となって使い勝手の悪い法律となっているなど、十分な対応ができない。前稿で述べたとおり、MWFは、企業が、ビジネスに関する秘密情報を排他的に利用する権利を侵害する行為を処罰することが可能であり、FBI(連邦捜査局)も、産業スパイ事案にWire Fraudの適用があることを明言している(http://www.fbi.gov/about-us/investigate/counterintelligence/economic-espionage)。さらに、上記のとおり、最近では、Economic Espionage法と共謀罪が同時に適用された有罪評決も出された上、サイバー攻撃に関し、共謀罪を含む訴因によって、中国人5名が起訴されるなどしている。そのため、外国企業による情報の持ち出しに関連した電子送金や電子メール等が、米国に何らかの関連性を持っていれば、それを連邦

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荒井 喜美(あらい・よしみ)

 2004年に慶應義塾大学、2006年に慶應義塾大学法科大学院を卒業。司法修習(新60期)を経て、2007年12月より西村あさひ法律事務所弁護士(第一東京弁護士会所属)。2014年5月、2014年コロンビア大学ロースクールLLM修了。2014年-2015年、ブリュッセルのHerbert Smith Freehills法律事務所で勤務。現在、西村あさひ法律事務所アソシエイト。企業不祥事を中心とした危機管理、競争法、訴訟その他一般企業法務を手掛ける。

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