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西村あさひのリーガル・アウトルック

アフリカでのビジネスの法務 M&Aでの日本企業参入も

野村 遥(のむら・はるか)

 アフリカでのビジネスが今、経済成長と人口急増、そして豊富な鉱物、農業資源で注目されている。中国、インド勢の進出が目立つ中、ビジネスチャンスを逃すまいと、進出を検討する日本企業も多いとみられる。西村あさひ法律事務所アフリカ・プラクティス・チームの一員として南アフリカとケニアを探訪した野村遥弁護士が、現地特有の事業規制、労務環境などビジネス法務の観点から両国をチェックした現地ルポをお届けする。

 

アフリカビジネスの現況と法的留意点

西村あさひ法律事務所
弁護士 野村 遥

 1. はじめに

拡大野村 遥(のむら・はるか)
 2006年に慶應義塾大学、2008年に東京大学法科大学院を卒業。司法修習(新62期)を経て、2009年12月より西村あさひ法律事務所弁護士(第二東京弁護士会所属)。
 アフリカといえば、何を思い浮かべるであろうか。灼熱・不毛の砂漠、貧困・エイズの蔓延、治安の悪さといったマイナスイメージだけを持たれている方も少なくないかもしれない。しかし、2014年5月に南アフリカ共和国(「南アフリカ」)及びケニア共和国(「ケニア」)を訪問し(注1)、初めてアフリカ大陸の地を踏んだ筆者は、アフリカを「希望の土地」と見ている。南アフリカ・ケープタウンの港町はうっとりするほど美しく、ケニア・ナイロビでは若く活気のある人々が混み合う交差点を携帯電話を片手に颯爽と歩いていた。どちらの都市も気候が温暖で(注2)、イギリス植民地の影響を受けたことも影響するのか、国民の気質は穏やかで真面目という印象である。そこで本稿では、南アフリカとケニアの政府機関や現地企業等の訪問先から聞きとりした実際のアフリカビジネスへの取り組みを踏まえて、今後同地でビジネス展開を行う上でのリーガル面での留意点を紹介する。

 2. 注目のアフリカ経済

 世界銀行による「Doing Business 2014」の「ビジネスのやりやすさ」ランキングでは、ジェノサイド(注3)の歴史を経て奇跡的な成長を続ける東アフリカのルワンダが世界32位となり、中国(96位)やインド(134位)を大きく上回った。ルワンダでは、ルワンダ政府が海外直接投資を引き付けるべく、シンガポールをモデルと位置づけて大統領によるトップダウン型の改革を急速に展開しているという。なお、アフリカ内では、1位がモーリシャスの20位と日本の27位を上回っており、上記ルワンダに次いで南アフリカが41位、ケニアは129位となっている。

 GDP成長率を見ると、上位10か国のうちアフリカ大陸の国が4を占めており、人口で見ても、ナイジェリア1.7億人(世界第7位)、エチオピア8900万人、エジプト8400万人、コンゴ7700万人、南アフリカ5300万人となっている。特にこの30年で人口が倍増しているナイジェリアには今後中間層の広がりと共に消費の高まりが予想される。

 このように、経済成長が大きく見込まれるアフリカ各国でのビジネス機運は近年盛り上がりを見せ、わが国は2013年6月の第5回アフリカ開発会議(TICAD V)アフリカ支援として、ODA約1.4兆円を含む官民による最大3.2兆円の取り組みを表明するとともに、2014年1月には民間企業のインフラ投資支援に向けた円借款を2016年までに20億ドル(約2000億円)に倍増すると表明した。アフリカ市場では中国やインドが既に投資を先行させており、一定のプレゼンスを持っているが、このアフリカ経済成長の波を逃さないよう、アフリカでのビジネスを真剣に検討している日本企業も多いところである。

 3. M&Aによるアフリカビジネスへの参入

 日本企業のアフリカビジネス突破口として、例えば、インフラと生活環境を整備した工業団地を建設して日本企業向けの拠点を作ることによって、日本の強みである製造業進出に弾みをつける試みもある(例えば、モザンビークのモザール・アルミ製錬所など)。

 しかしながら、アフリカにはアジア諸国と異なり基礎インフラが脆弱かつ人材の確保も難しいという現実がある。そのため、多くの日本企業がアジアで実施してきた現地に生産拠点を構築するモデルよりも、アフリカの既存の販売網や人的ネットワークを活用する手法によってアフリカのビジネスを進めることが現実的であり、少なくない日本企業がM&Aによってその歩を進めている。

 豊田通商株式会社(「豊田通商」)は、2012年12月、アフリカ市場・自動車分野を中核とするフランス系大手商社CFAO S.A.(「CFAO」)の株式に対する友好的公開買付けを実施し、CFAOの資本金及び株式議決権数の97.81%に相当する株式を取得して同社と提携関係をもった(買収総額は1000億円超)。CFAOは北・西アフリカを中心にビジネスを展開し、豊田通商は東・南アフリカに強みを持っているため、両社の補完的協業によって、現在、自動車販売ではアフリカ54か国中53か国がカバーされているという。

 また、関西ペイント株式会社(「関西ペイント」)は、2011年に南アフリカで約35%と最大のシェアを誇る地場塗料大手フリーワールド・コーティングス(当時ヨハネスブルグ証券取引所に上場)を敵対的公開買付けで買収することに成功した。フリーワールド・コーティングスではマネージメント・バイアウト(MBO)が成立する直前だったが、全株式の27.6%を保有していた関西ペイントはこれに対し新しい経営方針を提示して戦局を開き、事実上の敵対的買収を行った。買付価格は、同社の直近の1株あたり市場価格からプラス約17%と比較的限定的なプレミアムを付けた額とし、買収を無事に成功させた(買収総額は約219億円)。

 筆者が南アフリカの大手法律事務所を訪問した際には、関西ペイントの件は同国において初めて成功した敵対的買収であると聞いた。日本企業が、日本国内において概して敵対的買収に防衛こそすれ自ら乗り出すことには消極的な中、アフリカにおいてこのようなケースが見られることは大変に興味深い。

 4. 南アフリカ

 (1) 南アフリカにおけるビジネスの基礎状況

 南アフリカに進出している日本企業は約120社といわれており、その多くは経済の中心地であるヨハネスブルグに駐在事務所や子会社を構えている。立法府を擁するケープタウンは南アフリカ第2の経済規模を持ち、エネルギー関連と農業が主要産業であるが、現状拠点を有する日本企業は僅かである。

 南アフリカは2011年にBRICS(注4)にも正式加盟し、アフリカ大陸最大の先進国である。日本企業として、この南アフリカをサブサハラビジネスのゲートウェイと位置づけて、アジアでいうところのシンガポールのような広域事業拠点としての役割を持たせる戦略は合理的である。南アフリカは他のアフリカ諸国に比べて道路、電気等のインフラが整備されているため、事業のスムーズな開始・発展が見込まれ、また教育水準も高いため質の高い労働者を確保することも可能である。さらに、航空のハブ機能も有しており、大陸間移動の便が良いことも魅力の一つである。実際に筆者が南アフリカを訪問した際にも、現地の方から「ナイロビへの出張は一日あればOK」「ナイジェリアには去年20回も行った」といった、あたかも国内出張にいくかのような感覚の発言があった。

 南アフリカにおいて外国投資は全経済分野で大いに推奨されており、特定の分野(放送、通信、銀行業、保険、防衛、鉱業など)を除き一般的に投資規制はほとんどない。また、外貨管理規制は徐々に自由化され、ほとんどの取引において、為替管理承認を取得する手続は大きな投資の障壁とはならない。

 南アフリカにおいて外国会社が子会社を設立することも比較的容易である。外国会社が使用する最も一般的な企業体の形式は私的有限責任会社(private limited liability company)である。私的有限責任会社はシンプルで、安価かつ短期間(注5)で設立でき、資本金の最低額・最高額の定めは存在しない。取締役1名だけでも設立でき、取締役が南アフリカの居住者であることも要求されないため、代表取締役のうち1名は日本居住者であることが必要とされる日本よりも、外国企業による設立ハードルは低いともいえる。また私的有限責任会社は、公開会社に比べて会社のガバナンスについての要求も少なく、例えば、年次株主総会の開催が必要とされず、会社の売上高、負債レベル及び労働者数の一定の要件を満たさない限り、監査人を選任する必要もない。

 (2) BEE法への取り組み

 アフリカの中で南アフリカは最もビジネスをしやすい国のひとつではあるが、進出しようとする日本企業にとっていくつかの課題は存在する。その一つとして挙げられるのが、南アフリカに特有の制度であり、アパルトヘイトで不利益を受けた黒人の地位回復に関するBlack Economic Empowerment Act(「BEE法」)である。BEE法により、南アフリカ企業は、黒人による所有・経営支配、黒人の技能開発・事業及びサプライヤー開発、社会経済発展といった各要素についての貢献度をBEEスコアという形で採点される。BEEスコアの高い企業はBEE認識レベルが高いとされ、公共調達にあたって優遇される。また、一定の事業(例えば鉱業)においては許認可を得るために一定のBEE認識レベルの達成が要件とされている。高いBEE認識レベルが直接に必要となるのは、政府機関及び公共事業体と取引を行う企業(例えば建設会社やプラント関係など)であるが、当該企業が高いBEEスコアを獲得するためには、高いBEE認識レベルを有する企業と取引をすることが求められる。このような形で、BEE制度はサプライ・チェーン全体に影響を及ぼしており、南アフリカに進出する日本企業も取引先として高いBEE認識レベルを保持・維持することを求められることは少なくないと思われ、BEE法の規制はやはり日本企業にとってもその影響を避けられないものとなっている。一方で、BEEスコアを追い求めるあまり調達コストが上昇するなどして価格競争力を失うことも許されないために、各社とも、BEE法に上手く対処すべく専門のコンサルタントなどを利用しながら工夫・苦労をしているとのことである。

 このような中で、日本企業によるBEEレベルアップのための合理的な取り組みとして検討に値する近時の実例を紹介したい。
 BEEスコアにおいては、株式の25%超を黒人所有とすることを評価する「所有」の要素が一つの重要なポイントとなっている。この要素は、南アフリカの会社法上で特別決議には75%の賛成が必要とされているため、黒人の少数株主に拒否権を持たせることを目的にしたものである。しかし、自己資金を有し、かつ、日本企業にとってビジネス上の支障とならない適切な現地パートナーを見つけることは困難であり、この要件を遵守することは必ずしも容易ではない。このような場合に活用することが見込まれるのが、資本同等プログラム(Equity Equivalent Programme)である。
 資本同等プログラムは、外国企業が所有要件を満たすことが困難であることを踏まえて認められている例外であり、黒人等の地位向上に向けたプログラムへの資金拠出を、BEEスコアにおける直接の資本参加と同等に取り扱おうとするものである。
 資本同等プログラムを利用するためには、所管官庁に対して当該プログラムによる例外の申請を行い、通商産業省(DTI)からの認可を得なくてはならないが、認定手続の不透明性や当局側のリソース不足による認可手続の遅滞により従前は余り利用されてこなかったようである。
 しかしながら、例えばマイクロソフトなどは、このプログラムを実際に活用し、南アフリカで黒人が所有するユニークな小規模ソフトウェア事業者数社に数百万ランドを7年間投資することによって、BEE制度における「所有」の要件を満たすことに成功した(注6)。今後このような資本同等プログラムによる例外の活用事例が増えるという予測もあり、進出を企図する日本企業にとっても一つの検討ポイントとなってくるものと思われる。

 (3) 労務問題への取り組み

 もう一つ、南アフリカで事業を行う日本企業にとって悩ましいのは、労務問題であろう。2012年のLonmin社のプラチナ鉱山におけるストライキでは、暴徒化した労働者に対して警察が発砲するなどして、ストライキに関わる一連の騒動で44名の死者を出すという大惨事に至ってしまった。鉱山以外の産業でも、例えば自動車労連では3年に一度、上部団体による賃上げ交渉が行われるが、その交渉がストライキに至る確率は非常に高い。ストライキの規模の大小こそあるものの、1~4週ほど実施されるストライキの結果、企業がラインの停止等に追い込まれるなどして被るダメージは決して小さくない。交渉決裂前の違法なストライキなどには解雇等の厳正な処分を行うことで毅然と対応をすべきであるが、その後の労働訴訟には長い時間とコストが生じてしまう。
 ストライキへの対応に苦慮し、各企業は、在庫を積み増すこと、マネジメント層も工場に入って作業を行うこと、テンポラリースタッフ(非組合員)を雇うことなどの対策を講じているとのことである。
 インフレ率を超える賃上げ交渉も珍しくないとのことで、元来労働コストが高い南アフリカにおいてこれらのストライキや賃上げは頭の痛い問題であるが、福利厚生に配慮し、日頃からマネジメントと工場従業員との間のコミュニケーションを密にすることで労使間の衝突が起きにくい風土を作ることが遠回りなようで確実な手段である、とある現地の人事担当者から聞き、その言葉には、実際の経験と実感に基づく確かな説得力を感じた。

 5. ケニア

 (1) ケニアにおけるビジネスの基礎状況

 ケニアでは、携帯電話が主要な社会インフラとして活用されているため、ソーシャルビジネスが発達している。モー・イブラヒムがアフリカで最初の携帯オペレーター会社(現airtel)を1998年に始めたことを契機に、ケニアでは広く携帯電話が普及した(携帯電話加入者は全人口の約75%)。2007年にスタートしたSafaricom社のモバイルバンキングシステム「M-pesa」は、携帯のSMS(ショートメッセージサービス)を用いて、それまで銀行が扱わなかった少額の取引を可能にしており、今やケニアのGDPの43%がM-pesaを通じたものといわれている。ケニアの伝統的部族として有名なマサイ族も、最近では牛の群れの前と後ろで携帯電話で連絡をとりながら放牧をしているらしい。一方で固定電話の普及率は1%程度といわれており、インフラの素地がなくても通信が可能となる携帯電話が本来のステップを飛び越えて爆発的に普及したことが分かる。

 このように発展を続けるケニアにおいて、日本企業のプレゼンスは主に自動車産業において大きい。ナイロビの街は、自動車の普及に道路の整備が追いつかず、中心地は常に渋滞で多くの車で混雑しているのだが、その大半(実感的には7~8割)は日本車である。そのため、街の自動車修理工場にはTOYOTA、MAZDA、ISUZUといった手書きの看板があちこちに見られた。一方で、それ以外の産業はというとあまり知名度がないようである。携帯電話はサムスン社の広告が街に目立ち、食品はコカコーラなど欧米系企業が有名なようであった。実際、JETROの担当者の方によれば、ケニアに進出している日本企業は30社に満たないという。昨今のケニアの治安状況の悪化に伴い、進出をためらう企業も多いが、東アフリカはその地理的状況も手伝って、インドや中国から多くの参入が既になされているところである。東アフリカには資源の豊かなタンザニアやウガンダなど魅力のある近隣国があることもあり、少なくない日本企業が治安リスクをコントロールしながらケニアに進出する方法を真剣に検討しているという。

 ケニアでは、外国からの投資は、特定の分野(銀行業、保険業、通信業、鉱業、ナイロビ証券取引所に上場される会社、農地を保有・賃借する会社など)を除けば積極的に奨励されている。
 また、現在、ケニアでは外国為替管理は存在しない(金、通貨、支払、証券、借入れ、輸出入及び財産の移転・決済に関する義務と制限を定めた為替管理法は1995年に廃止された)。

 ケニアで外国投資家が利用している最も一般的な事業体の形態は私的有限責任会社(private limited liability company)である。この形態が選択されるのは、事業体として簡明であり設立に費用と時間(注7)がそれほどかからず、かつ株式資本の上下限がないからである。私的有限責任会社は、法的には1名の取締役がいれば足りるが、通常は実務的観点から2名以上の取締役を有している。また、私的有限責任会社には少なくとも2名の株主が存在することが必要である。

 (2) ケニアにおけるビジネス上の留意点

 ケニアにおいては、南アフリカほどの深刻な労働紛争は存在しないとのことだった。この主な理由は日本企業の賃金水準が比較的高いことにあるのかもしれないが、一般にケニア人労働者の定着率は高く、また会社への忠誠度も高いと感じるとの声を複数聞いた。
 もっとも、ビジネスを行う上で留意が必要な事項として、法令の急な変更が挙げられる。例えば、ある日本企業の話では、EAC(注8)域内の現地調達規制の施行がその前日に前触れ無く発表されたという。当然のことながら、調達先の切り替えは、信頼の置けるメーカーを探した上で耐久性の検査等を行うなど少なくとも1年程度時間をかけて行うべき大ごとであることから、すぐにケニア政府に抗議文を書いたところ、2か月後に規制が取り下げられたという。このような場合のリスクをできるだけ回避すべく、信頼できる現地弁護士等にタイムリーな情報提供をもらえるように密なコネクションを持っていることはいざというときの強みとなる。

 6. 終わりに

 実際に南アフリカとケニアを視察して関係各所の話を聞けば、やはり昨年のTICAD V以降、日本企業からの問い合わせや引き合いが増しているという。両地とも、南部アフリカ、東部アフリカの玄関口・ハブとして、アフリカビジネスを行う上で要となる国であり、街の賑わい、人々の表情などから、今後の成長に向けた大きな活力を実感した。今回のアフリカ視察は日本の法律事務所として初めての公式訪問であるとの声を各所から聞いたが、実際に現地で得たこの肌感覚を、アフリカ進出を検討し、またさらに発展させていきたいと考えている日本企業と共有し、今後のリーガルサポートに役立てたいと考えている。

 ▽注1:西村あさひ法律事務所アフリカ・プラクティス・チームから、小野傑弁護士、中山龍太郎弁護士、石田康平弁護士と筆者の4名は、当チームにとって初となるアフリカ訪問を実施した。
 ▽注2:ナイロビは赤

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野村 遥(のむら・はるか)

 2006年に慶應義塾大学、2008年に東京大学法科大学院を卒業。司法修習(新62期)を経て、2009年12月より西村あさひ法律事務所弁護士(第二東京弁護士会所属)。

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