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西村あさひのリーガル・アウトルック

「うっかり選挙違反」を防ぐために 企業法務から見た公選法

有松 晶(ありまつ・あきら)

 公職選挙法は、選挙の公正を期するため、選挙運動を広汎に規制している。そのため、企業の役職員が企業活動の一環のつもりで行った行為が、公職選挙法違反に問われることもある。2年前の公職選挙法改正でインターネットを利用した選挙運動が解禁され、そのリスクは一層、増えたとの指摘もある。有松晶弁護士が、役職員の企業活動で公職選挙法に抵触するリスクが生じ得る場面を想定し、留意点を詳細に解説する。

 

意外と見落としやすい企業法務における公職選挙法上の留意点

西村あさひ法律事務所
弁護士 有松 晶

 1  はじめに

拡大有松 晶(ありまつ・あきら)
 2005年東京大学法学部卒業、2007年東京大学法科大学院修了。司法修習(新62期)を経て、2009年弁護士登録、現在西村あさひ法律事務所弁護士。役職員不祥事、インサイダー取引案件、独禁法違反案件、情報漏洩案件等の危機管理案件や、責任追及訴訟、独禁法関係争訟、その他各種民事訴訟等の争訟案件を中心に、一般企業法務全般に従事する。
 公職選挙法に関しては、平成25年の改正でインターネット等を利用した選挙運動が一部解禁され、また、平成27年6月には、選挙権の付与年齢を20歳から18歳に引き下げる改正法が成立するなど、大きな改正が相次ぎ、注目を集めている。一方、公職選挙法は、選挙の公正を確保するために、選挙運動につき広範に規制するとともに一切の事前運動を禁じており、その規制対象となる行為類型が幅広いだけに、国政選挙や地方選挙が行われる度に、公職選挙法違反のニュースが世間を騒がせている。
 企業法務においては、日常業務の中で公職選挙法違反のリスクが生じることはあまり想定されないというイメージが強いかもしれないが、公職選挙法が規制対象とする行為は広範であるが故に、企業であっても、いざという場面で、意外にも事前運動などの公職選挙法に抵触し得る行為に関与してしまう状況があることに留意が必要である。特に、気軽に利用できるインターネット等を利用した選挙運動が一定の条件下で解禁された今日、公職選挙法上新たに許されることとなった行為に該当するか否かを的確に判断できなければ、それが一律に禁止されていた従前以上に公職選挙法への抵触リスクが想定される場面が増えたとも言える。
 公職選挙法では、違反行為があった場合、個人に対する刑事罰が想定されており、両罰規定等により法人自体が直接処罰の名宛人とされる場面は基本的には想定されない(注1)。しかし、社内で公職選挙法違反を生じさせれば、企業自体が刑事罰の対象とはならなくとも、レピュテーションリスクや社員の法令違反を理由とする監督官庁からの処分等にさらされることは想像に難くない。
 そこで、本稿では、平成25年の改正によるインターネット等を利用した選挙運動解禁の動向も踏まえ、企業の日常業務においても、意外にも公職選挙法に抵触するリスクが生じ得る場面を想定し、いざという際に確認しておいて損はない公職選挙法上の留意点をまとめる。

 2  政党・候補者関連のチラシ・ポスター等の頒布・掲示を行う場合

 (1) 全般的な留意点

 通常の日常業務の中では政党や政治家による政治活動等に直接関与する機会のない企業であっても、例えば、特定の政党や政治家との結びつきの強い取引先等から、その政党・政治家の政治活動に関連するチラシやポスターを社員に頒布したり社内で掲示して欲しいなどと依頼されるケースがあり得る。
 公職選挙法では、選挙運動は、立候補の届出があった日から選挙の期日前日までの選挙運動期間にのみ許されることとされており、この期間以外に選挙運動を行うことは、いわゆる事前運動として全面的に禁止されている(公職選挙法129条)。そして、選挙運動のために使用するチラシ・ポスター等の文書・図画の頒布・掲示については、選挙運動を行う際に最も典型的かつ中心的な手段であることから、公職選挙法上、選挙期間中にのみ頒布・掲示が許され、頒布・掲示できる文書・図画の内容・形状、枚数、頒布・掲示の方法・場所等について細かく規定されている(公職選挙法142条、143条~145条)。
 したがって、企業において、政党・政治家に係る政治的なチラシ・ポスター等の頒布・掲示の是非を検討する上では、まずは、当該チラシ・ポスター等が、公職選挙法上細かな規制の対象とされている「選挙運動のために使用する文書・図画」に該当し得る性質のものでないかを検討し、該当する場合には、社内での頒布・掲示が当該規制を満たし得るかを慎重に検討する必要がある。
 もっとも、ここでの「選挙運動」の概念につき、公職選挙法上明確な定義規定は存在せず、相当幅のある解釈がされている。すなわち、判例上、「選挙運動」とは、①特定の選挙において、②特定の候補者のために、③当選を得若しくは得させる目的でされる、④投票の獲得に直接又は間接に必要かつ有利な行為と解されており(注2)、この「選挙運動」への該当性判断にあたっては、単にその行為の名目により形式的に決定されるべきではなく、未だ選挙の期日が公示されていなくても、社会通念上、今後行われる予定の選挙が具体的・客観的に認識し得る状況下であれば、「特定の選挙」の存在を認定すべきとされ、行為の時期・場所・方法・対象等の態様につき総合的かつ実質的に実態に則した判断がされなければならないとされている(注3)。また、文書・図画の外形・内容から見て選挙運動の目的に使用されると推知されるものであれば、当該目的が付随的であっても、「選挙運動のために使用する文書・図画」に該当するとされている(注4)。このように、具体的にどのような内容の文書・図画がこの「選挙運動」のためのものと認定されるかについては、文書・図画の内容、頒布・掲示がされるタイミング、頒布・掲示の方法等の実態に即して個別具体的に判断していくしかないことに注意が必要である。
 例えば、ある程度具体的に実施が見込まれる選挙の公示日と近いタイミングで、候補者(立候補予定者)の個人名や顔写真が掲載されているチラシ・ポスター等を頒布・掲示すれば、直接的に具体的な選挙名や投票を依頼する文言が記載されていなくても、当該候補者(立候補予定者)の選挙での得票を意図していると推認されるリスクを正面から否定しにくいと思われる。また、文書の標題や内容が、例えば、後援会や演説会開催、選挙事務所開設のお知らせ等であったとしても、頒布・掲示のタイミングが特定の選挙の公示日と近かったり、特定の候補者(立候補予定者)名が記載されている場合には、少なくとも、選挙運動の目的が付随する面を否定し難いであろう。
 なお、公職選挙法が規制対象とする文書・図画の「頒布」行為には、文書・図画を「回覧」する行為も含まれるため(公職選挙法142条12項)、例えば、選挙運動のために使用するチラシを複数枚配布しなくとも、同じチラシを多数人に次々と手渡して見せたり、特定の場所に備え付けて多数人の目に付くようにする場合には、回覧行為として規制対象となる。さらに、「頒布」行為は、その相手方が不特定多数である必要はなく、2名以上であれば「多数」と解されており、現に配布した者が1名であっても、その者を通じて当然、又は、成り行き上、多数の者に配布されることが想定される状況があれば、「頒布」行為に該当するとされている(注5)。したがって、社内の限られた社員に対する配布であっても、「頒布」行為として公職選挙法上の規制対象となり得る点には注意が必要である。

 (2) インターネット等を利用した頒布をする際の留意点

 従前はインターネット等を利用した選挙運動は全面的に禁止されていたが、インターネット等の利用の普及に伴い、平成25年の改正においてインターネット等を利用した選挙運動が一定程度解禁され(注6)、インターネット等を利用する方法による場合には、選挙期間中であれば(注7)、公職選挙法上の規制(公職選挙法142条1項・4項)にかかわらず、「選挙運動のために使用する文書・図画」を頒布できることとなった。具体的には、①ウェブサイト等(インターネット等を利用する方法のうち電子メールを利用する方法を除いたもの)を利用する方法による文書・図画の頒布が誰でも可能となり(公職選挙法142条の3)、②候補者・政党等であれば、電子メールを利用する方法による文書・図画の頒布もできることとなった(公職選挙法142条の4)。もっとも、②の電子メールを利用する方法による場合には、1対1の直接的な通信で密室性が高く、誹謗中傷やなりすまし等に悪用されやすいことから、選挙運動用の電子メールの送信主体が候補者・政党等に限られ、送信先も、あらかじめ選挙運動用の電子メールの受信に同意して受信用電子メールアドレスを送信者に自ら通知した者等に限られるなどの各種条件下で認められている(公職選挙法142条の4)。
 そこで、企業において、取引先等から、政党・政治家の政治活動に関連するチラシやポスターの社内での頒布・掲示を依頼されたが、そのチラシ・ポスター等が「選挙運動のために使用する文書・図画」に該当すると思われる場合でも、選挙運動期間中に、例えば、社内のイントラネット等の社員が共有しているウェブサイト上にそのチラシ・ポスター等の電子データを掲載して社員が閲覧できるようにすることは、上記①のウェブサイト等を利用する方法による選挙運動用の文書・図画の頒布に該当し、公職選挙法上認められることとなる。一方、上記②のとおり、電子メールでの文書・図画の頒布は、候補者又は政党等に限り認められているので、ウェブサイトに掲載する場合と異なり、候補者でも政党等でもない企業において、社内用電子メール等に当該チラシ・ポスター等の電子データを添付して社内で配信することは、依然として公職選挙法違反となる点に注意が必要である。
 また、平成25年の改正後も、文書・図画を実際に頒布する場合の枚数制限や規格制限等の規制は別途維持されているため(公職選挙法142条)、ウェブサイト上に掲示したチラシ・ポスター等が印刷され、その印刷物が不特定多数に頒布され得る場合には、なお、法定外文書の頒布行為として、公職選挙法142条違反となる。したがって、選挙運動用の文書・図画の電子データを社員共有のウェブサイト等に掲載する場合には、そのデータが印刷され印刷物が不用意に出回ることのないように留意する必要がある。

 (3) 署名を伴う場合の留意点

 一方、配布等を依頼された政治活動に係る文書が閲覧者に対して何らかの署名を求める内容となっている場合には、公職選挙法が署名運動を全面的に禁じている(公職選挙法138条の2)ことから、仮に、当該文書が「選挙運動のために使用する文書・図画」に正面から該当しない場合でも、別途検討を要する。
 すなわち、公職選挙法は、選挙期間中か否かにかかわらず、①選挙に関し、②投票を得若しくは得しめない目的をもって、署名運動をすることを全面的に禁じている。そして、どのような署名運動が当該①②の要件を充足し公職選挙法の規制対象となるかについては、署名の時期・場所・方法などの諸事情に鑑みて実質的に判断される。例えば、署名の名目が、特定の候補者の後援会加入の申込みや、ダム建設の是非など一般的な政策の是非のみを問うものであり、投票依頼等を明示していなかったとしても、その候補者が立候補する予定の選挙が近かったり、当該政策が選挙の候補者同士での争点や特定の候補者のスローガンになっているような場合には、実質的には、上記①②の要件を充足する署名収集活動に該当すると評価され得る(注8)
 したがって、文書の内容が署名を伴う場合には、以上の観点から、公職選挙法上規制される署名運動に該当しないか否かもあわせて個別具体的に判断する必要がある。

 3  より直接的に選挙運動を支援する場合

 企業においても、その目的にかなう事業活動の一環として、特定の候補者の選挙運動を支援する状況はあり得(注9)、例えば、特定の地域との結びつきが強い企業であれば、当該地域の地方議会の議員選挙に立候補する社員の選挙運動を直接に支援するケースなどが想定し得る。
 企業が選挙期間中にいわゆる典型的な選挙運動を支援する場面において、コンプライアンス上のリスク回避をより確実に図る上では、以下のようなポイントを改めて確認しておくとよいと思われる。

 (1) 施設や社用車等の設備を無償提供する場合の留意点

 企業が特定の候補者の選挙運動を支援する場合、例えば、演説会を開催する際の会場として会社施設を無償提供したり、選挙カーとして社用車を無償提供したりするケースが想定し得る。そして、この場合、候補者においては、無償提供を受けた設備等につき、通常これらを借りた場合に想定される貸与料金を支払わずに済んだという財産上の利益を得たことになる。この点、公職選挙法上、選挙運動に関する「収入」として会計帳簿に記載しなければならないものは、一般的な「収入」の概念よりも広く、物品等を無償で使用した場合の財産上の利益の収受も含まれるとされている(公職選挙法179条1項、185条1項1号)。そのため、企業から設備等の無償提供を受けた場合には、候補者において、選挙運動に係る会計処理上、無償提供を受けた設備等の通常の貸与料に相当する収入を計上する必要があることとなる。候補者がこの点を見落とした場合には、無償貸与した企業の側のコンプライアンスも問題視される可能性が考えられるため、企業側もできる限り留意して対応することが望まれる。
 また、社用車を選挙カーとして提供しつつ通常の業務にも使用する場合には、選挙カーとして使用する際に貼り付けた選挙ポスターを貼ったまま通常業務に使用してしまうと、「選挙運動用の自動車」での掲示に限定して選挙ポスターの掲示を認める公職選挙法に反して(公職選挙法143条1項2号)、選挙運動用でない自動車に選挙ポスターを貼って回覧したこととなるため留意を要する。

 (2) 社員を選挙運動に従事させる場合の留意点

 企業が特定の候補者の選挙運動を支援する際、社員を選挙運動に従事させるケースも想定される。
 この場合、公職選挙法上、選挙運動の労務に従事する者に対しては、限られた人数の者に政令で定められた額の報酬のみ、あらかじめ選挙管理委員会に届け出た上で、支払うことができるとされている(公職選挙法197条の2第2項・5項)。しかし、選挙運動に従事させる社員に対し、それとは別途、社内で残業代を多くつけたり、特別な福利厚生の対象とするなどして事実上の経済的な優遇措置がされてしまうと、選挙運動員に対し報酬規制以上の報酬を与えたと見られかねないため、そういった状況が生じないよう注意する必要がある。また、未成年者の選挙運動及び選挙運動への使用は禁じられているため(公職選挙法137条の2)、未成年の社員がいる場合には、その社員が選挙運動に従事することのないよう留意を要する(注10)

 (3) 社員の協力や積極的な投票を促す場合の留意点

 必ずしも公職選挙法特有の論点ではないが、企業が選挙運動の支援にあたり社員の協力を募ったり、当該選挙での社員の積極的な投票を促す場合には、社員個人の思想・信条の自由(憲法19条)やプライバシー権(選挙での投票行動や特定候補者の選挙運動への関与という会社における業務とは直接関係のない領域の活動についてまで拘束されない権利)(憲法13条)、自由な参政権行使(憲法15条)などとのバランスが問題となり得る。社員個人との紛争リスクを避ける上では、個々の社員に対して、支援活動への協力や特定の候補者への投票につき、あくまでも自発的な協力を促すのみとし、協力や投票について事実上の強制力が働き得る状況は極力排除するよう注意を払うことが肝要である。具体的には、支援活動へ非協力的な社員に対して、そのことを理由としていると受け取られかねない不利益な措置(配置換え・出向命令その他業務上の不利益な措置一般)を行わないようにする、支援活動に協力する社員の人数にノルマを課したり、協力するよう上司から圧力がかかるような運用・対応をしないようにする等につき留意することが望まれる。

 4  おわりに

 「選挙運動」、「署名運動」や「収入」の概念に関して述べたとおり、公職選挙法は、日常的な用語について、通常よりも広い定義・解

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有松 晶(ありまつ・あきら)

 2005年東京大学法学部卒業、2007年東京大学法科大学院修了。司法修習(新62期)を経て、2009年弁護士登録、現在西村あさひ法律事務所弁護士。役職員不祥事、インサイダー取引案件、独禁法違反案件、情報漏洩案件等の危機管理案件や、責任追及訴訟、独禁法関係争訟、その他各種民事訴訟等の争訟案件を中心に、一般企業法務全般に従事する。
 主な執筆として、『インサイダー取引規制の実務[第2版]』(共著、商事法務)、「改正されたインサイダー取引規制の留意点-平成24・25年改正-」ビジネス・ロージャーナル2013年12月号(共著)、「インサイダー取引規制の最新動向と決算情報管理」旬刊経理情報1412号(共著)などがある。

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