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西村あさひのリーガル・アウトルック

米国特許訴訟の「クレーム解釈」と証拠開示(ディスカバリ)の手続き

米国連邦地裁のローカルパテントルールと特許訴訟実務(下)

髙木 楓子(たかぎ・かえでこ)

 多くの特許訴訟が争われる米国で、投資家から集めたカネを元手に特許権を買い集め、類似の製品を製造、販売したメーカーなどに損害賠償などを求める「パテント・トロール(特許の怪物)」が深刻な問題となっている。「怪物」側が事実上、勝訴するケースも少なくないからだ。日本企業もその標的となることがあるが、米国の特許訴訟で見落としがちなのが、米国連邦地裁が独自に定めることができる民事手続き規則(ローカルパテントルール)の存在だ。高木楓子弁護士が、2回にわたり、実態を報告する。最終回の今回は、クレーム解釈手続きとともに、米国で進行中の民事訴訟ルールや特許法の改正が「パテント・トロール」の動向にどう影響するか、を検討する。

 

米国連邦地裁のローカルパテントルールと特許訴訟実務(下)

弁護士・ニューヨーク州弁護士 髙木楓子

 本稿(上)では、米国連邦地裁のローカルパテントルールの全体像と、多くのローカルパテントルールが定めるパテントディスクロージャーの手続について概観した。
 本稿(下)の前半では、これに続き、クレーム解釈手続の概要を解説する。そして、本稿(下)の後半では、2015年12月に予定されている連邦民訴規則の改正や、米国議会で現在審議中の特許法の改正法案を巡る最新動向、さらに、これらの法改正の動向が、Patent Assertion Entities(いわゆるパテントトロール)に与える影響等に触れながら、ローカルパテントルールの今後についても検討を加える。

 ▼クレーム解釈手続

 ▽手続の概要(注25)

 陪審制度を採用している米国においては、裁判官が判断すべき法律問題と、陪審員が判断すべき事実問題とを区別することが重要になる。特許訴訟における多くの争点のうち、特許権の権利行使の範囲を定めるクレーム解釈(Claim Construction)に関しては、1996年の最高裁判例(Markman v. Westview Instruments, Inc., 517 U.S. 370(1996))により、裁判官が判断すべき法律問題であるとされた(注26)
 そこで、多くのローカルパテントルールは、裁判所がトライアルの前にクレーム解釈を行うための手続について規定している(注27)。この手続は、上記最高裁判例の名称をとって、しばしばマークマン手続(Markman Procedures)と呼ばれる。
 クレーム解釈に関する手続は、一般に、パテントディスクロージャーが完了してから間もなく開始し、ディスカバリと同時並行的に進行していく。連邦地裁毎に、クレーム解釈手続の流れや実施期限の定めは異なるが、典型的な手続の流れは以下のとおりである。

  1.   両当事者が、それぞれ、クレームのうち争う用語をリストアップし、かつ、それらの用語について予備的な解釈を提案する。
  2.   当事者間の合意により、裁判所の解釈判断を求める用語を、一定数(上限を10個とする例が多い。)に絞り込んだ上で、両当事者が共同で、クレーム解釈チャートを作成して提出する。
  3.   クレーム解釈のためのディスカバリを実施する。このディスカバリでは、専門家証人(Expert Witness)の証言録取(Deposition)等が行われる。
  4.   両当事者が、それぞれ、クレーム解釈に関する主張書面(Claim Construction Brief)を提出する。
  5.   裁判所がクレーム解釈に関する審理(Claim Construction Hearing。いわゆるマークマンヒアリング)を行う。
  6.   裁判所による判断、すなわちクレーム解釈命令(Claim Construction Order)が下される。

 クレーム解釈手続の一例として、下記に、イリノイ州北部地区連邦地裁のローカルパテントルール(http://www.ilnd.uscourts.gov/LocalRules.aspx?rtab=patentrules)の概要をまとめた。同連邦地裁では、原告側ではなく被告側が、クレーム解釈に関する主張書面を先に提出することが求められる。

<イリノイ州北部地区連邦地裁の例>

 手続主体手続内容送達期限または実施期限条文*
原告・被告 用語および解釈をリスト化した書面等の提出 非侵害論に関する最終主張書面の送達から14日以内 LPR4.1(a)
原告・被告 クレーム解釈に関する当事者間の打ち合わせ(争う用語の絞り込み) ①から7日以内 LPR4.1(b)
原告・被告 ディスカバリの終了(ただし再開あり) ①から28日以内 LPR1.3
被告 クレーム解釈に関する主張書面の提出 ①から35日以内 LPR4.2(a)
原告 クレーム解釈に関する反論書面の提出 ④から28日以内 LPR4.2(c)
被告 クレーム解釈に関する反論書面の提出 ⑤から14日以内 LPR4.2(d)
原告・被告 クレーム解釈チャートの共同作成・提出 ⑥から7日以内 LPR4.2(f)
裁判所 クレーム解釈に関する審理
(いわゆるマークマンヒアリング)
⑥から28日以内に開催可能 LPR4.3
裁判所 クレーム解釈命令

LPR5.1(b)
等参照

*Local Patent Rules(“LPR”)

 ▽クレーム解釈命令の重要性

 裁判所によるクレーム解釈命令(Claim Construction Order)は、侵害論および無効論の判断を決定付けるものであることから、特許訴訟において最も重要であるといわれている(注28)
 クレーム解釈命令の内容は、トライアルを経ずに判決を得られるサマリージャッジメント(Summary Judgement)の判断の基礎になる(注29)。また、クレーム解釈命令は、当事者間の和解協議にも大きな影響を与える。さらに、クレーム解釈手続後にトライアルへと進んだ場合、クレーム解釈命令は、陪審に対する説示(Jury Instructions)の基礎になる(注30)
 クレーム解釈命令は、中間的裁判の性質を有し、これに対する個別の上訴(Interlocutory Appeal)は、原則として認められない(注31)。そのため、例えば原告が、連邦地裁の下したクレーム解釈命令に不服があり、かつ、サマリージャッジメントやトライアルを回避して、速やかに控訴審で争うことを望む場合には、非侵害という点に関して合意に基づく最終判決を得ることによって、当該最終判決に対して、直ちに控訴することが考えられる。
 なお、特許訴訟の控訴事件は、ワシントンD.C.の連邦巡回区控訴裁判所(Court of Appeals for the Federal Circuit)が専属管轄権を有する(注32)

 ▼2015年の連邦民訴規則の改正と特許訴訟への影響

 ▽Patent Assertion Entities(いわゆるパテントトロール)による訴訟手続の濫用

 Patent Assertion Entities(以下「PAE」)とは、自らは特許を実施せず、専ら特許権の侵害を主張(assert)してライセンス料等の利益を得ることを事業モデルとする団体を意味する(注33)。米国では、このPAEによる特許訴訟の乱発が深刻な問題となっている。
 ある統計によると、2012年に米国で提起された特許訴訟のうち約60%は、PAEによる提訴である(注34)。そして、これらの訴訟の多くが、原告側に有利といわれるテキサス州東部地区連邦地裁に対し、集中して提起されている(注35)
 米国政府は、2014年8月、連邦取引委員会(FTC)がPAEの活動等に関する調査を開始することを承認しており(注36)、PAEの実態の詳細については、その調査結果が待たれるところである。
 PAEの典型的な手法は、骨子のみの簡単な訴状によって多くのターゲットを提訴し、訴訟に伴うコストを交渉材料にして、訴訟の早期に金銭的な和解合意へと追い込む、というものである(注37)。以下では、このPAEによる訴訟手続の濫用に関して、現行の連邦民訴規則上の問題点と、2015年12月に予定されている同規則の改正のポイントについて、簡潔に説明する。

 ▽訴答基準に関する現行法上の問題点

 いわゆる告知訴答(Notice Pleading)制度を採用する米国では、訴状の段階でどの程度具体的な記載が求められるのか(訴答基準(Pleading Standard))が問題となる。これに関しては、近年の最高裁判例(注38)により、訴状には、請求が「もっともらしい」(“plausible”)といえる程度の十分な事実の記載が必要である、という基準が示されている。
 この点、現行の連邦民訴規則の別表(Appendix)には、訴状の雛形(Form) (注39)が収録されている。その中には、特許侵害事件の訴状の雛形もあり、PAEは、しばしば、この簡素化された法定の雛形を利用して、骨子のみの訴状によって濫用的な提訴に及んでいる(注40)
 このような訴訟への対抗策としては、訴状の記載不備を理由とする訴え却下の申立て(Motion to Dismiss)(連邦民訴規則12(b)(6))を行うことが考えられる。しかしながら、現行の連邦民訴規則の下では、上記最高裁判例が存在するにもかかわらず、特許権の直接侵害を請求原因とする場合には、当該訴状が法定の雛形に従ったものである限り、訴状の記載不備を理由とする訴え却下の申立てを認めることができない、という問題があった(注41)

 ▽ディスカバリに関する現行法上の問題点

 本稿(上)で述べたとおり、現行の連邦民訴規則上のディスカバリは、対象範囲が極めて広い。特に近時では、eディスカバリといわれているように、膨大な電子データ(社内文書や電子メール等)を保全し、そこから開示対象となる情報を選別し、データルームを介して互いの情報を開示し合うといった方法が採られるが、これに伴う当事者の負担は、金銭面のコストを含めて甚大である。
 その上、特許訴訟は、高度に専門的で複雑な事項が問題となることが多いため、通常の民事訴訟よりもディスカバリの負担が重くなる傾向がある(注42)
 多くのローカルパテントルールは、本稿(上)で述べたように、連邦民訴規則上の通常のディスカバリの実施と並行して、早いタイミングで主張書面およびそれに伴う文書の提出を義務付けることで、より効率的な開示手続を実現しようとしている。また、多くのローカルパテントルールは、連邦民訴規則上のディスカバリについても一律の実施期限を定めることによって、手続の遅延防止を図っている。
 これに加え、多くの連邦地裁が、eディスカバリの重要性に鑑み、eディスカバリの運用に関するローカルルールその他のガイドラインを整備している(注43)。また、主に電子メールのeディスカバリを適切に制限することを目的として、特許訴訟のeディスカバリに関する裁判所の命令の雛形(Model Order)を用意している連邦地裁も存在する(注44)
 もっとも、現行の連邦民訴規則の下では、広範なディスカバリが訴訟当事者に大きな負担を与えることには変わりがない。そして、特許訴訟との関係では、特に、PAEに訴訟を提起された側が、主にディスカバリに要する高額な費用を回避するために、たとえ不当な条件であっても早い段階で和解に応ぜざるを得ないという問題が、以前より指摘されていた(注45)

 ▽2015年の連邦民訴規則改正について(注46)

 上記のような諸問題等に関連して、改正連邦民訴規則(注47)が、2015年12月1日をもって施行される見通しとなっている。改正される事項は多岐に亘り、当然ながら、民事事件全般に影響を及ぼすものであるが、特許事件との関連で重要となる改正のポイントとして、以下の点を挙げることができる。
 第一に、ディスカバリの対象範囲について、「請求および防御に関連する事項」という従前の要件に加えて、「事案の必要性に均衡した」(“proportional to the needs of the case”)ものであること、という要件が追加される。つまり、改正連邦民訴規則の下では、相手方から開示要求を受けたとしても、その開示要求が「事案の必要性に均衡」していない場合には、それを理由として当該開示要求に対し異議を申し立てることができる。
 この均衡性(Proportionality)という新しい要件は、PAEによるディスカバリの濫用(専ら和解交渉の手段としてディスカバリを利用するような行為)を抑止する機能を果たし得る。
 第二に、現行の連邦民訴規則における、「証拠能力を有する証拠を発見するに至ることが合理的に推測される(“reasonably calculated to lead to…admissible evidence”)」情報を対象とするディスカバリについて定めた規定は、削除される。これにより、ディスカバリの対象範囲が、上記のとおり「請求および防御に関連」し、かつ、「事案の必要性に均衡した」情報に限定されることが、法文上、明確になる。
 第三に、裁判所の命令により、ディスカバリに要する費用を相手方に負担させること(“allocation of expenses”)を開示の条件とすることが可能である旨、法文上、明定される。
 第四に、連邦民訴規則の別表に収録されている、訴状の雛形は全て廃止される。これにより、訴状の記載が、上記最高裁判例が示した訴答基準に該当するか否かは、訴状の形式ではなく、その実質で判断されることになる。
 以上の改正が、PAEによる弊害を防止するためにどの程度実効性を持つようになるかは、連邦地裁による適切な運用にかかっているであろう。

 ▼米国特許法改正に向けた議論とローカルパテントルールの今後

 本稿において解説した、連邦地裁のローカルパテントルールが定める特別な開示手続やクレーム解釈手続は、米国特許権のエンフォースメントに深く関わるものであり、また、民事事件の訴訟運営上の原則を実質的に変更するに等しい内容を含んでいる。それにもかかわらず、これらのルールは、連邦レベルで統一されていないのが現状である。
 このようなルールの不統一に関しては、訴訟当事者が自己に有利な法廷地を恣意的に選択するという、いわゆるフォーラムショッピング(forum shopping)を招く要因の一つになっている、との批判もある(注48)。かかる状況の中、特許訴訟手続に関して、連邦レベルの統一ルールを制定すべきであるという議論が、以前からなされてきた(注49)
 この点米国では、現在、特許法の改正に向けた議論が進んでいる。米国議会で現在審議されている特許法の改正法案は、PAEの活動を抑止することを主眼としたものである。改正法案には、下院法案(H.R.9)および上院法案(S.1137)がある(注50)。本稿では、紙幅の都合上、両改正法案の全てを紹介することはしないが、ローカルパテントルールとの関係で特に注目すべきものとして、以下の点を挙げることができる。
 第一に、訴答基準の引き上げ(訴状による主張開示の義務化)である。本稿(上)で述べたように、侵害論の主張開示に関しては、多くのローカルパテントルールが、ディスカバリの初期段階で、当然に開示することを義務化している。他方で、改正法案では、原告に対して、侵害論に関する主張開示の一部(具体的には、侵害を主張するクレームの特定、被告製品や実施方法の特定、および被告の侵害態様に関する説明等)を、訴答 (Pleading) 段階までさらに前倒しして行うよう義務付けることが提案されている(注51)
 第二に、ディスカバリに関する特則の新設である。これは、連邦民訴規則の特則を設けることにより、特許侵害訴訟に限り、ディスカバリのタイミングや対象範囲を制限しようとするものである。具体的な議論としては、(1)訴え却下の申立てや移送の申立てがなされた場合には、ディスカバリを制限することの是非や、(2)クレーム解釈命令が下されるまでの期間は、クレーム解釈に必要な範囲に限ってディスカバリを認めることの是非等が検討されている。
 これらの主張開示(上記第一)やディスカバリのスケジューリング(上記第二)といった点に関しては、多くの連邦地裁が、すでに、独自のローカルパテントルールにおいて、手続の効率化のための制度を採り入れている。したがって、連邦法である特許法が、上記の点について新しく統一ルールを設ける場合には、各連邦地裁が、その統一ルールにいかにして適応するのかが課題になるものと思われる(注52)。将来的に、ローカルパテントルールの実質的な改訂が必要になる場合もあるだろう。
 米国では、上記の両改正法案(H.R.9およびS.1137)が提出される以前から、PAEの活動を抑止するために特許法を改正すべきであるとの議論がしばらく続いており、過去には、複数の別の改正法案が提出されるなどの動きもあった。しかし、様々な利害が衝突し、相反する立場から激しいロビーイングが行われたため、結果として、法案の成立には至らなかったものである。そのため、現在、上記の両改正法案の行方が大きな注目を集めている。

 ▼まとめ

 以上述べたとおり、多くの連邦地裁のローカルパテントルールは、トライアル前手続の進行に関して、訴訟当事者に予測可能性を与えつつ、特許訴訟における典型的な争点(侵害論、無効論およびクレーム解釈)を効率的に整理することを目指すものである。訴訟当事者は、典型的なローカルパテントルールの下では、連邦民訴規則に従った通常の民事訴訟よりも早い段階で、各争点について自らのポジションを決定することが求められる(注53)
 日本企業が米国の特許訴訟に対応する際には、訴訟の係属する連邦地裁独自の(さらには、担当裁判官独自の)ルールの有無を確認し、その内容を把握した上で、通常の民事訴訟よりも準備を前倒しして臨まなければならない。このことは、日本企業が被告側になった場合に特に重要である。
 米国における特許訴訟実務は、近年のローカルパテントルールの広がりや、PAEによる特許訴訟の乱発を背景とした法改正の動向、さらには、本稿では触れていないが数多くの重要判例が現れる中で、大きな変化の時代を迎えている。日本企業としては、今後も米国での最新動向に十分留意しながら、訴訟対応に当たる必要があるだろう。

 ▽注:筆者は、Kirkland & Ellis法律事務所(シカゴオフィス)での研修中に、本稿を執筆した。本稿に含まれる見解および記述は、筆者個人のものであり、必ずしも、Kirkland & Ellis法律事務所、またはKirkland & Ellis法律事務所の過去、現在もしくは将来の顧客の見解を反映するものではない。また、本稿は法的助言を構成するものではない。

 ▽注:本稿の「上」のリンクはhttp://judiciary.asahi.com/outlook/2015082600001.html

 ▽注25:See Carlson, supra note 3.
 ▽注26:2015年の最高裁

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髙木 楓子(たかぎ・かえでこ)

 東京大学法学部卒業。司法修習(旧61期)を経て、2008年9月より西村あさひ法律事務所弁護士(東京弁護士会所属)。2014年ニューヨーク大学ロースクール卒業(LL.M.)、2014年~2015年、米シカゴのカークランド・アンド・エリス法律事務所勤務。2015年ニューヨーク州弁護士登録。特許訴訟、営業秘密訴訟などの知財訴訟案件その他一般企業法務を手掛ける。

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