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西村あさひのリーガル・アウトルック

中国からどう撤退する? 清算、破産、売却、ミルク補給…

柴原 多(しばはら・まさる)

 中国経済の冷え込みを反映してか、中国子会社を清算して撤退する日本企業が目立つ。撤退に際し注意しなければならないのは、中国の破産法制や雇用問題解決ルールが日本と異なることだ。柴原多弁護士が、安全、円満に中国子会社から撤退する方法について考察する。

  

中国子会社撤退の方法及び撤退時の留意点

西村あさひ法律事務所
弁護士 柴原  多

 1.はじめに

柴原多弁護士拡大柴原 多(しばはら・まさる)
 1996年、慶應義塾大学法学部卒業。司法修習を経て99年に弁護士登録(東京弁護士会)。事業再生・倒産事件(民事再生・会社更生・私的整理事件を中心)、第三セクターの再建、国内企業間のM&A等に関する各社へのアドバイス、法廷活動等に従事。西村あさひ法律事務所パートナー。
 日本企業は、かねてから、長引くデフレ経済、少子高齢化、円高不況、経済のグローバル化といった経済環境の中で、中国をはじめとするアジア諸外国に子会社を設立して進出することが多かった。
 しかしながら、中国経済の発展に伴う人件費の高騰、アベノミクスによる円安効果、中国経済の先行き不安等を理由に、近時は、2014年のフェリシモによる通販等の子会社2社の清算や、2015年のパナソニックによるTV生産子会社の清算及びシチズンホールディングスによる時計部品製造子会社の解散事例など、中国子会社から撤退するケースもかなり見られるようになってきた。
 そこで以下では、中国子会社からの撤退の方法及び撤退時の留意点について概括的に述べてみることとしたい。

 2.従来有力な方法とその留意点

 (1)従来有力な方法

 従来、中国においては、破産法は存在するものの、その運用について不明な点が多いため、撤退方法としては、中国子会社出資持分の売却又は親会社による増資等(いわゆるミルク補給)による清算が有力な方法であった。

 (2)中国子会社の出資持分売却について

 確かに中国子会社の出資持分売却は、中国子会社の債務に基本的に影響を与えず、また従業員の雇用を確保できる可能性も高いことから、種々の問題の顕在化を回避する有力な方法であり、現実には同業を営む日本企業等に売却されることが多かった(なお、中国におけるM&Aに関する留意点については田中信行他『最新中国ビジネス法の理論と実務』(弘文堂)176頁以下、柴原多「事業再生に伴う海外子会社の処理」季刊事業再生と債権管理134号等参照)。
 しかしながら、近時は財務内容に問題のある中国子会社を購入する企業も減少傾向にあるとされる。

 (3)清算前に増資を行う方法について

 また、中国は「人民の国」であるため、労務問題は深刻な法務上・経営上の問題を引き起こすことで知られている(小杉丈夫=董輝「日中間に跨る親子会社の倒産処理」事業再生と債権管理132号参照)。
 そのため、清算にあたっては、経済補償金の額等の検討(解雇のタイミング・告知方法、法定の経済補償金の額の上乗等の要否を含む)や地元当局への事前相談等を行う必要がある。この点を怠ると、労働者から労働仲裁の申立てや当局への通告、場合によっては労働争議に発展する可能性にも留意が必要である。
 また、中国ローカルの取引債権を毀損することも、取引上の重大な問題を引き起こす可能性がある。
 併せて、清算手続の過程において、税金の未納問題が発覚することも多い。
 そのため、中国子会社を清算する場合にも親会社が増資を行い、清算に必要な資金を確保させた上で清算手続を実施するケースも多い。
 もっとも、株主が海外進出のリスク等に敏感になっている今日では、増資を行う場合と行わない場合の比較・検討等を丁寧に行わないと、万が一損害が発生し、日本の親会社の株主から株主代表訴訟が提起された場合において、経営判断原則が適用されなくなってしまうリスクがあり、また、ステークホルダーから増資の是非について指摘を受ける可能性が高まっている点にも留意が必要である。

 (4)親会社貸付の留意点

 なおミルク補給の方法は、増資以外にも親会社貸付等による場合もあるが、その場合には投注差(外資系企業が外貨借入を行う場合の法定の限度額。藤本豪『中国ビジネス法体系』(日本評論社)179、511頁以下等参照)等の外貨に関する規制にも留意が必要である。

 3.その他の方法について

 (1)破産手続申請上の留意点

 上記のような問題点を踏まえてか、昨今は、中国子会社については破産手続の申請を検討するケースも報道されている。
 確かに、①従来は外国資本企業(外商投資企業)の破産手続申請には事実上の障壁が高いとも言われていたが、最近は申請上の障害が減少しつつあるとも指摘されている。
 しかしながら、②前述した労働問題の発生はいずれにしろ回避する必要があり、この点がクリアされていないと、破産手続の申請が難航するケースが多いとされる点に留意が必要である。
 また、③中国では破産手続の運用につき不透明な点が多く、裁判例においても確立していない点が多いことには留意が必要であるし、④破産申請に伴う種々の制約(福岡真之介他『中国倒産法の概要と実務』(商事法務)144頁参照)や、⑤中国子会社を破産させた「実績」が再度の中国進出に際して事実上の障害となり得る点にも、十分な注意が必要である。

 (2)自主清算進行上の留意点

 さらに、日本においてもそうであるように、破産手続は基本的に破産管財人に中国子会社の処理を委ねることになるので、破産手続の申請後は親会社によるコントロールが効かないといったデメリットが存在する。
 そこで、日本においても破産手続申請前にある程度の前さばき(一時停止やそれに伴う自主清算等)を行うことが多いように、中国においても前さばきとして自主清算等を行うケースも想定される。
 もっとも現実には、自主清算においても留意するべき点が存在する。
 まず、①日系の金融機関は、一時停止に理解を示す可能性はあるが、一時停止という慣習の確立してない中国においては中国系金融機関に理解が得られない可能性がある。
 また、②日系の金融機関といっても、中国に支店等が存在する場合には、中国当局の監督対象となるため、中国当局への報告に関する配慮(例えば無税償却の方法等)が当然に必要となる。
 さらに、③中国子会社が現地において債権回収を行う場合には、中国における債権回収上の慣習にも留意が必要である。
 例えば、中国においては執行難(執行手続を行っても執行が奏功することが難しいとされる現象)と呼ばれる現象が存在し、当局において執行難の解消に関するいくつかの制度が用意されているが、現状において執行難の問題が十分改善されているとはいえない点に留意が必要である。

 (3)子会社の破産自体に関するレピュテーション上の留意点

 なお、中国子会社を破産させる可能性が存在するとしても、実際に破産という選択を行うにあたっては、当然のことながら慎重な判断を要する。
 破産申請にあたっての留意点は(少なくとも)前述の通りであるが、それに加えて子会社を破産させることには親会社のレピュテーション上の問題も存在するからである。
 この点、「近時は親会社が上場会社であっても子会社を破産させるケースはある」との指摘も存在するが、子会社といえども様々(当該子会社の誕生の経緯も異なるであろう)であるし、親会社に対する社会の信用も一律ではない点に、十分留意が必要である。

 4.小括

 以上のように、中国子

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柴原 多(しばはら・まさる)

 1996年、慶應義塾大学法学部卒業。司法修習を経て99年に弁護士登録(東京弁護士会)。
 事業再生・倒産事件(民事再生・会社更生・私的整理事件を中心)、第三セクターの再建、国内企業間のM&A等に関する各社へのアドバイス、法廷活動等に従事。西村あさひ法律事務所パートナー。

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