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西村あさひのリーガル・アウトルック

金融庁行政方針、「金融行政モニター」検討、「金融レポート」公表へ

有吉 尚哉(ありよし・なおや)

 金融機関に対する監督・検査の執行方針や資本市場の活性化策などをまとめた金融庁の金融行政方針が9月に公表された。金融庁は毎年この時期にその後1年間の金融機関に対する監督・検査に関する方針を公表してきたが、今年から企画部門も含めた金融行政全体に関する方針を示しており、長官交代で、これまでの監督・検査重視の姿勢からより幅広い分野に対象が拡大した印象がある。従来の方針とどこが変わったのか、また、重点はどこにあるのか、有吉尚哉弁護士が読み解く。

 

平成27事務年度金融行政方針の概要

 

西村あさひ法律事務所
弁護士 有吉 尚哉

 ■ はじめに

拡大有吉 尚哉(ありよし・なおや)
 2001年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年~2011年金融庁総務企画局企業開示課出向。現在、西村あさひ法律事務所弁護士。金融法委員会委員。資産流動化取引その他の金融取引、信託取引、金融商品取引業その他の金融関連規制への対応等を担当。
 金融庁は、平成27年9月18日に、「平成27事務年度金融行政方針」(以下「平成27年金融行政方針」)を策定し、公表した。これは、金融行政が何を目指すかを明確にするとともに、その実現に向け、平成27事務年度(平成27年7月~平成28年6月)においていかなる方針で金融庁が金融行政を行っていくかを示すもので、金融機関や市場参加者等にとっては注目に値するものといえる。
 平成26事務年度において、金融庁は、それまで別々に策定していた金融機関に対する監督方針と検査・モニタリングの基本方針とを統合して「金融モニタリング基本方針(監督・検査基本方針)」を公表していたが、平成27事務年度においては、さらに進んで、監督・検査に止まらず、企画部門も含めた金融行政全体が目指す方向性を明確にするものとして、金融行政方針を策定している。
 さらに、平成27年金融行政方針については、PDCAサイクル(Plan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→ Action(改善)の4段階を繰り返すことによって、業務の継続的な改善を促す手法)を強く意識するとされており、平成28年6月を目途に「金融レポート(仮称)」として平成27年金融行政方針の進捗状況や実績等の評価を公表するとともに、その評価を翌事務年度の金融行政方針に反映させる旨が明記されている。これまでも過年度の実績を踏まえて各事務年度の方針が策定されていたものと推測されるが、策定した金融行政方針の進捗状況や実績の評価をレポートとして公表し、かつ、かかるレポートを次年度の金融行政方針に反映させることを明示的に宣言したことは、金融行政の透明性を高めるものと評価することができよう。
 以下では、特に従来の金融庁の方針では言及されていなかった項目・視点を中心に、平成27年金融行政方針の全体像について概説する。

 ■ 金融行政の目的

 平成27年金融行政方針では、まず、金融行政の目指す目的が示されている。すなわち、金融行政の目指す姿として、金融を取り巻く環境が急激に変化する中においても、

  1.  景気のサイクルに大きく左右されることなく、質の高い金融仲介機能(直接金融・間接金融)が発揮されること、
  2.  こうした金融仲介機能の発揮の前提として、将来にわたり金融機関・金融システムの健全性が維持されるとともに、市場の公正性・透明性が確保されること、

を通じて、企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大がもたらされることが重要であるとしている。
 その上で、金融行政を取り巻く経済・市場の環境の変化として、(a)世界経済・市場の将来についての不確実性が高まっていること、(b)IT技術の進展により金融に変革の動きが生じていること、(c)短期的には、中国経済の減速等により世界的なデフレ圧力が増大し、市場の不透明感が増加していること、(d)わが国においては人口減少と高齢化が更に進展することが予測されていることを指摘している。そして、こうした環境の変化の中でも、金融庁として、金融システムの安定を維持し、金融仲介機能の適切な発揮を促すことにより、デフレからの脱却を目指す取組みを金融面から支援していくことが表明されている。

 ■ 重点施策

 平成27年金融行政方針の内容の中心は、金融行政の目指す姿とそのための平成27事務年度における重点施策である。平成27事務年度においては、重点施策として示された項目について特に焦点を充てて、金融機関に対する監督・検査が行われることや、法令改正等によりこれらの項目に関する制度整備が優先的に進められることが予想される。この金融行政の目指す姿やそのための重点施策は、(1)活力ある資本市場と安定的な資産形成の実現、市場の公正性・透明性の確保、(2)金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保、(3)顧客の信頼・安心感の確保、(4)IT技術の進展による金融業・市場の変革への戦略的な対応、(5)国際的な課題への戦略的な対応、(6)その他の重点施策、という6項目に分けてまとめられている。
 以下、それぞれの項目に重点施策として掲げられている内容を紹介する。

 (1)活力ある資本市場と安定的な資産形成の実現、市場の公正性・透明性の確保

 この項目については、さらに、(a)「経済の持続的な成長に資する、より良い資金の流れの実現」と(b)「市場の公正性・透明性の確保に向けた取組みの強化」とに分けて、重点施策がまとめられている。
 このうち、上記(a)に含まれる具体的な重点施策としては、(ア)NISAの更なる普及と制度の発展、(イ)企業統治改革の「形式」から「実質の充実」への向上、(ウ)フィデューシャリー・デューティーの浸透・実践、(エ)金融機関による資産運用の高度化の促進、(オ)成長資金の供給の促進と市場の整備といった項目が挙げられている。これらのうち、上記(イ)は、平成26年に日本版スチュワードシップ・コードが、平成27年にコーポレートガバナンス・コードがそれぞれ策定され、両コードの下における実務が始まっていることを受けたものである。具体的な取組みとして、既に平成27年8月に「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」が設置され、両コードの普及・定着状況をフォローアップするとともに、上場企業全体のコーポレートガバナンスの更なる充実に向けた必要な施策の検討が進められている。また、上記(ウ)で言及されている「フィデューシャリー・デューティー」(fiduciary duty。信認義務と訳されることが多い)は、これまでのわが国の金融規制の文脈では、(特に金融庁では)あまり用いられることがなかった用語であるが、平成27年金融行政方針では、「他者の信任に応えるべく一定の任務を遂行する者が負うべき幅広い様々な役割・責任の総称」と説明されている。そして、フィデューシャリー・デューティーの徹底が求められる場面として、投資信託・貯蓄性保険商品等の商品開発、販売、運用、資産管理に携わる投資運用業者、保険会社、販売会社に求められる顧客の利益のための取組みが例示されている。また、上記(オ)の中では、成長資金の供給に向けた手段として、クラウドファンディング、株主コミュニティ制度、ベンチャーキャピタル、IPO等を通じた資金供給力の充実を図ることが謳われている。さらに、社債市場の活性化に向けた具体的な施策の一つとして、社債の取引情報報告・発表制度の導入等について市場関係者の取組みを促すことが述べられているが、この点に関して、日本証券業協会が「社債の取引情報の報告・発表制度」を設けて、平成27年11月より社債の店頭取引における取引価格の公表を開始している。
 次に、上記(b)に含まれる具体的な重点施策としては、(ア)金融取引のグローバル化、複雑化、高度化に対応した市場監視機能の強化、(イ)会計監査の質の向上、(ウ)IPO及びエクイティ・ファイナンスの適切性の確保、(エ)開示及び会計基準の質の向上、(オ)市場のインフラ・システムの頑健性の確保といった項目が挙げられている。このうち、上記(ア)の中では、(A)IT技術の進展を踏まえ、検査・調査技術としてのデジタルフォレンジック(原因究明等のために必要な電磁的記録等の収集・分析及び証拠保全を行う科学的調査手法・技術の総称)の積極的活用を図ることや、(B)FinTechを活用した動きが、投資アドバイスや資産運用、プログラムによる高速取引等の点で、証券市場や市場仲介者等に与える影響について留意していくこと等が述べられている。また、上記(イ)に関しては、今後の会計監査のあり方についての有識者からの提言を得ることを目的として、平成27年10月より「会計監査の在り方に関する懇談会」が開催されている。さらに、上記(エ)の中では、会社法、金融商品取引法、証券取引所規則に基づく開示の関係の整理等を含めて、企業の情報開示を巡る論点に関して金融審議会において検討の場を設けることが謳われている。これを踏まえて、平成27年10月23日付で「企業と投資家の建設的な対話を促進する観点も踏まえつつ、投資家が必要とする情報を効果的かつ効率的に提供するための情報開示のあり方等について幅広く検討を行うこと」という諮問が金融担当大臣から金融審議会に対してなされており、今後、金融審議会の場で開示制度の整備・見直しに関する審議が進められることが予想される。そして、上記(オ)に関する具体的な取組みとして、非清算店頭デリバティブ取引について、証拠金の授受を求める規制(マージン規制)導入の国際合意を踏まえ、規制の円滑な導入に向けた検討を進める等の対応を行うことが明記されている。

 (2)金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保

 この項目についても、さらに2つの内容に分けられており、(a)「企業の価値向上、経済の持続的成長と地方創生に貢献する金融業の実現」と(b)「金融システムの健全性維持(景気に左右されない金融仲介機能の発揮)」とに分けて重点施策が整理されている。
 このうち、上記(a)は、政府の政策の柱の一つである地方創生にも関わる視点であるが、これに含まれる具体的な重点施策としては、(ア)金融仲介機能の質の改善に向けた取組み(企業ヒアリング等)、(イ)地方創生に向けた金融仲介の取組みに関する評価に係る多様なベンチマークの検討、(ウ)事業性評価及びそれに基づく解決策の提案・実行支援、(エ)公的金融と民間金融の連携・協調、(オ)ゆうちょ銀行・かんぽ生命と民間金融機関との連携といった項目が挙げられている。
 全体に、企業の事業の内容・成長可能性等を適切に評価して金融仲介機能を発揮すべきという従来からの視点に加えて、地方創生の観点を盛り込んだ施策が並べられている点が特徴的であるが、上記(オ)として、ゆうちょ銀行・かんぽ生命と民間金融機関とが連携し、郵便局ネットワークの活用等を通じ、国民への金融サービス向上や地方創生に貢献する取組みを促す旨が明記されていることが注目される。
 また、上記(b)に含まれる具体的な重点施策としては、(ア)マクロプルーデンスと(イ)経営管理態勢・リスク管理等の水準向上が挙げられており、このうち、上記(イ)については、グローバルに活動する金融機関、国内で活動する預金取扱金融機関、国内で活動する金融商品取引業者等、及び保険会社という4つの業態に分けて、金融庁による金融機関との議論や検証の方向性が示されている。

 (3)顧客の信頼・安心感の確保

 この項目についての重点施策としては、(ア)個人顧客への貸出等における説明や審査態勢の整備、(イ)障がい者や高齢者の利便性向上、(ウ)高齢者に対する適切な勧誘販売態勢の整備、(エ)相談・苦情態勢の整備、(オ)金融ADR制度の運用、(カ)多重債務問題への取組み、(キ)インターネット等を利用した非対面取引の安全対策・不正送金への対応、(ク)振り込め詐欺等への対応、(ケ)偽造・盗難キャッシュカード、盗難通帳への対応、(コ)顧客保護等の観点からの各種業者等への対応という10項目が挙げられている。
 このうち、上記(コ)は、金融機関の業態ごとに顧客保護に関する重点施策が述べられているものであるが、(A)平成28年5月に施行される改正保険業法において、顧客に対する情報提供義務、顧客の意向把握・確認義務、保険募集人の体制整備義務が導入されることを踏まえ、保険会社や保険募集人における準備・対応状況を確認すること、(B)平成27年5月に成立した改正金融商品取引法の施行に向けて、政府令及び監督指針を策定するとともに、適格機関投資家等特例業務に関する業者・投資者の双方に対し、新制度等の周知に努めること、(C)平成27年5月に施行された改正金融商品取引法により、第二種金融商品取引業協会未加入の第二種金融商品取引業者に義務づけられた社内規則の整備義務等の遵守状況について検証すること、(D)クラウドファンディング業者に対して、クラウドファンディングの健全な普及・活用に向けて、自主規制機関とも連携しつつ適切なモニタリングを行うこと等、近時の法改正への対応状況に着目した取組みが多く見られる。

 (4)IT技術の進展による金融業・市場の変革への戦略的な対応

 この項目に含まれる重点施策としては、(ア)FinTechへの対応、(イ)サイバーセキュリティの強化、(ウ)アルゴリズム取引等への対応の3項目が示されている。前述のとおり、IT技術の進展により金融に変革の動きが生じていることは、金融行政を取り巻く経済・市場の環境の変化の一つとして指摘されている。そして、平成27年金融行政方針では、FinTechの発展が、従来見られなかったような多様な金融サービスの提供等を通じて顧客利便の向上をもたらすとともに、金融業・市場の将来的な姿を大きく変えていく可能性を有していることや、サイバー攻撃が金融システム全体に対する最大の脅威の一つとなっていること、アルゴリズム取引等のIT技術を駆使した取引が市場に及ぼす影響力が増大していることという点が指摘されている。このような認識を踏まえて、上記(ア)から(ウ)までの3項目が重点施策として掲げられたものである。
 このうち、上記(イ)に関しては、平成27年金融行政方針の策定に先立って、平成27年7月に「金融分野におけるサイバーセキュリティ強化に向けた取組方針」が公表されており、その中では、(A)サイバーセキュリティに係る金融機関との建設的な対話と一斉把握、(B)金融機関同士の情報共有の枠組みの実効性向上、(C)業界横断的演習の継続的な実施、(D)金融分野のサイバーセキュリティ強化に向けた人材育成、(E)金融庁としての態勢構築という5つの方針が示されている。
 なお、上記(ア)で言及されているFinTechに関しては、経済産業省においても平成27年10月より「産業・金融・IT融合に関する研究会(FinTech研究会)」が設置されて、産業・金融・ITを融合したイノベーションや新たな産業、資金の流れが生み出される仕組みについて、政策上の課題や対応策の検討が行われており、金融行政の枠を超えた政策的な検討課題となってきていると評価できよう。

 (5)国際的な課題への戦略的な対応

 この項目に含まれる重点施策としては、(ア)国際的な金融規制改革の取組みに関する戦略的な対応と(イ)国際的なネットワーク・金融協力の強化の2項目が示されている。金融のグローバル化を踏まえ、近時、国際的な監督当局間の議論を踏まえて新たな金融規制が導入されることが多くなってきているが、上記(ア)の中では、規制体系が世界経済全体のために最適なものとなっているか再検証すべきであるとの金融庁の考え方を国際的な場面で積極的に発信していくこと、また、一連の改革が、全体として、経済成長と金融システムの安定との両立を確保できるものとなっているか、規制の複合的な効果によって悪影響が生じていないか等について、国際的な検証の取組みを推進すべく提言・貢献していくこと、といった金融庁の今後の方針が明記されている。外国の監督当局による規制強化の議論をそのまま受け入れるのではなく、金融システムの安定という視点に加えて経済成長の視点からも検証して提言を行っていくという姿勢を金融庁が明らかにしたことは、注目すべき点であろう。上記(イ)で示された国際的なネットワークの強化という点と併せて、わが国金融庁の国際的なプレゼンスが高まることを期待したい。

 (6)その他の重点施策

 最後にその他の重点施策として、(ア)東日本大震災からの本格的な復興の支援、(イ)マネー・ローンダリング、テロ資金供与への対応、(ウ)反社会的勢力との関係遮断、(エ)金融指標の信頼性・透明性の維持・向上、(オ)業務の継続態勢の整備、(カ)システムの安定稼動、(キ)情報セキュリティ管理の徹底の7項目が挙げられている。

 ■ 金融庁の改革

 平成27年金融行政方針の中では、民間に対する金融行政のあり方だけでなく、金融庁自身の改革についても言及されている。そして、金融庁のガバナンスとして、(ア)金融行政に対して外部からの提案や批判等が常に入る「開かれた体制」を構築することと、(イ)金融庁職員が積極的に国益へ貢献するための意識改革を推進していくことが重要であるとしている。
 このうち、上記(ア)に関して、具体的には、外部有識者により構成されるアドバイザリーボードの創設や、金融機関等からの率直な意見や批判等を取り込んでいくために中立的な第三者が意見等を聴く「金融行政モニター(仮称)」の設置等の検討を進めることが表明されている。
 また、金融行政のあり方として、(A)金融機関の創意工夫を引き出す行政を目指すことや、(B)金融行政が求められている役割を適切かつ効率的に果たしているか、金融行政のやり方が時代の要請にあっているのかといった観点から金融行政における基本的なプロセスについて再点検を行うことが表明されている。

 ■ 金融行政方針の評価

 冒頭で紹介したとおり、平成27年金融行政方針については、その進捗状況や実績等を継続的に評価し、平成28年6月を目途に「金融レポート(仮称)」として公表することが予定されている。公表されるレポートについては、民間の側からも

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有吉 尚哉(ありよし・なおや)

 2001年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年~2011年金融庁総務企画局企業開示課出向。現在、西村あさひ法律事務所弁護士。金融法委員会委員。資産流動化取引その他の金融取引、信託取引、金融商品取引業その他の金融関連規制への対応等を担当。

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