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西村あさひのリーガル・アウトルック

情報の選択的開示とフェア・ディスクロージャー

辰巳 郁(たつみ・かおる)

 金融庁の金融審議会に置かれたワーキンググループが、アナリストや報道機関など特定の第三者に対する上場企業の未公表重要情報の提供を規制する「フェア・ディスクロージャー・ルール」の導入を具体的に検討すべき、との報告書をまとめた。昨年、証券会社のアナリストが上場企業の未公表の決算情報を一部顧客に提供して行政処分を受け、また一部報道機関による業績の事前報道について海外の批判があるのを受けたものだ。辰巳郁弁護士が報告書を詳細に読み解き、報道の自由などの阻害につながらないよう導入議論を慎重に見極める必要があると指摘する。

 

情報の選択的開示とフェア・ディスクロージャー
 ―日本版レギュレーションFDの導入に向けた動き―

弁護士・ニューヨーク州弁護士 辰巳 郁

 1 はじめに

拡大辰巳 郁(たつみ・かおる)
 2004年、東京大学法学部第一類卒業。2012年、デューク大学ロースクール卒業(LL.M.)。2012~2013年までシカゴのカークランド・アンド・エリス法律事務所勤務。2013~2015年、法務省民事局(会社法担当、商事課併任)出向。2014年、司法試験考査委員(商法)。2014年、ミャンマー法整備支援プロジェクト会社法アドバイザリーグループ委員。
 企業に関する重要情報を、ある者には教え、それ以外の者には教えない。そのような情報の選択的な開示に一定の規制を及ぼそうという動きがある。金融庁の金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(以下「ディスクロージャーWG」という。)において、企業の投資家に対する情報開示のあり方等について幅広い議論が行われ、情報の選択的開示に対する規制の是非も論点の一つに挙げられていたが、2016年4月18日に公表された報告書「ディスクロージャーワーキング・グループ報告―建設的な対話の促進に向けて―」(以下「WG報告書」という。)には、以下に抜粋する内容が盛り込まれた(WG報告書16頁)。

 企業による公平・公正な情報開示により、株主・投資者との建設的な対話を促進するとともに、市場参加者の信頼を確保するため、我が国においても、フェア・ディスクロージャー・ルールの導入について、具体的に検討する必要があるものと考えられる。

 この検討においては、WG報告書の中でも言及されているとおり(WG報告書15~16頁参照)、主として米国において導入されている「Regulation FD」と呼ばれるルールが参考になるものと考えられる。FDは、Fair Disclosure(公正、公平な開示)の略である。
 本稿では、この米国のRegulation FDの概要を紹介するとともに、我が国における検討状況や情報の選択的開示に対する規制を導入する場合に問題となり得るポイントについても整理する。

 2 米国レギュレーションFDの概要と解釈の進展

 (1) 規制の背景
 1990年代の米国においては、企業の業績の見通し等の重要かつ未公表の情報を、広く世間一般に公表するに先立ち、アナリストや機関投資家に対してのみ知らせるという事例が多く見られた。また、アナリストとの間では、企業の業績の予想に関してガイダンス(guidance)と呼ばれる慣行が存在していた。米国では、訴訟リスクも勘案し、四半期の業績予想を公表する企業は少数であり、アナリストの出す予想数値が株価に強い影響を有する。そのため、企業は株価の乱高下を避ける観点から、予想数値を実態に近付けるための誘導を頻繁に行っていた。このような誘導をガイダンスと呼んでいた。これらの情報の選択的開示を受けた者は、その他の者の犠牲の下に利益を上げ、又は、損失を回避することができた。しかし、その結果として、市場に対する投資家の信頼が損なわれるのではないかという懸念があった。
 このような観点からは、選択的開示の問題は、ティッピング(tipping)と呼ばれる(アナリスト等への)不正な情報開示(チップのように情報を与えるため、そのように呼ばれる。)やインサイダー取引によく類似していたが、規制上は大いに異なる取扱いとされていた。すなわち、米国ではティッピングやインサイダー取引は米国証券法上の詐欺的行為防止規定により厳しく罰せられるのに対し、選択的開示の取扱いは必ずしも明確でなかったのである。
 また、選択的開示は、経営者が、特定のアナリストや投資家に便宜を供与する手段としても用いられるおそれがあるとの指摘があった。選択的開示を受けたアナリストは、企業に好意的なレポートを書く可能性が高い。ネガティブな意見を書くと、次から選択的開示を受けられなくなるおそれがあるためである。
 さらに、過去においては技術的な制約を理由に選択的開示が許容されてきた部分があるが、電話やインターネット等の技術の進展により、このような弁解はもはや通用しないようになってきたと考えられた。
 このような問題意識の下で、2000年8月、米国証券取引委員会(Securities and Exchange Commission。以下「SEC」という。)は、以下に述べるRegulation FDを制定、公表した(17 CFR §§243.100-243.103。以下「レギュレーションFD」という。)。

 (2) レギュレーションFDの概要
 レギュレーションFDは、1999年12月に公表された公開草案に対する6,000件近くのパブリックコメントを踏まえたものであり、上記のとおり2000年8月に制定され、同年10月から施行されている。
 レギュレーションFDは、大要、証券の発行者又は発行者のために行動する者が、その発行者又はその証券に関する重要かつ未公表の情報を一定の情報受領者(例えば、アナリストや当該証券の保有者)に対して開示する場合には、(a)意図的な開示のときは同時に(simultaneously)、(b)意図的でない開示のときは速やかに(promptly)、その情報を一般に開示しなければならないとするルールである。これを主要な項目ごとにまとめると、【表】のとおりである。

 【表】レギュレーションFDの概要

 項目内容備考
(i) 規制の対象 証券の発行者 外国民間発行者は含まれない
(ii) 選択的情報開示の主体 発行者又は発行者のために行動する者 義務違反の行為は含まれない
(iii) 情報受領者 市場のプロ(アナリスト等)又は証券の保有者 報道機関は含まれない
(iv) 対象となる情報 「重要」かつ「未公表」の情報 いずれも解釈に委ねられている
(v) 規制対象となる行為 (a)意図的な開示と(b)意図的でない開示 「意図的」は定義あり
(vi) 一般に対する開示の時期 (a)の場合は同時、(b)の場合は速やかに 「速やかに」は定義あり
(vii) 一般に対する開示の方法 Form 8-Kの提出、その他の方法 ウェブサイトでの開示で充足する場合あり
(viii) 違反の効果 排除措置命令、民事制裁金、差止命令 投資家・株主には責任を負わない


 以下、【表】の各項目に沿って、その内容の詳細について述べる。なお、以下の内容については、制定に際して公開草案から内容が修正された部分や、制定当初から改正又は解釈が変更された部分もあるため、これらの変遷についても必要に応じて言及する。

 (i) 規制の対象
 レギュレーションFDの対象となる「発行者」とは、1934年証券取引所法12条に基づき登録されている証券を発行する者、又は、同法15条(d)に基づき報告書の提出が必要となる者(1940年投資会社法5条(a)(2)に定義されるクローズエンド型投資会社を含む。)である。その他の投資会社、外国政府、外国民間発行者(foreign private issuer)は発行者に含まれない(§243.101(b))。
 外国政府及び外国民間発行者は、公開草案では規制の対象に含められていたが、規制の範囲が広範に過ぎるとの指摘があり、制定に際して明文をもって除外された。

 (ii) 選択的情報開示の主体
 規制の対象となる選択的な情報開示を行う主体は、発行者、又は、発行者のために行動する者とされている。「発行者のために行動する者」は、具体的には、①発行者の上級役職員(senior official。全ての取締役、経営企画担当(executive officer。§240.3b-7)、PR・IR担当、その他これらに類似する機能を担う者。§243.101(f))(クローズエンド型投資会社にあっては、その投資顧問業者(investment adviser)の上級役職員を含む。)、又は、②規制対象とされる情報受領者(後記(iii)参照)と日常的にコミュニケーションを取る役員、従業員若しくは代理人を意味している(§243.101(c))。
 公開草案においては、この主体は、上級役職員、取締役、従業員若しくは代理人であって、自らの権限の範囲内で、重要かつ未公表の情報を開示する者とされていたが、広範に過ぎるとの指摘を受け、制定に際して上記のとおり限定されたものである。
 なお、発行者に対する受託者としての義務又は守秘義務(duty of trust or confidence)に違反して重要かつ未公表の情報を開示した者は、発行者のために行動する者とはみなされない旨が明文で定められている(§243.101(c))。例えば、従業員の不正な情報開示により、発行者が一般に対する開示の義務を負うことにならないように配慮されたものである。

 (iii) 情報受領者
 レギュレーションFDの対象となる情報受領者は、4類型に分けて限定的に列挙されている。
 具体的には、①ブローカー若しくはディーラー又はその関連者(1934年証券取引所法3条(a)に定義される。)、②投資顧問業者(1940年投資顧問法202条(a)(11)に定義される。)若しくは機関投資家の投資マネージャー(institutional investment manager。1934年証券取引所法13条(f)(6)に定義される。)又はその関連者(1940年投資顧問法202条(a)(17)に定義される。)、③投資会社(investment company。1940年投資会社法3条に定義される。いわゆるプライベートファンドとして同法では投資会社とはならない者を含む。)又はその関連者(1940年投資会社法2条(a)(3)(C)~(F)に該当する者のみを意味する。)、④その発行者の証券を保有する者のうち、当該情報に基づいて発行者の証券を売買することが合理的に予測できる者である(§243.100(b)(1))。証券会社のアナリスト(セルサイドアナリスト)は上記①、機関投資家のアナリスト(バイサイドアナリスト)やファンドマネージャーは上記②に含まれることになる。公開草案では、特に情報受領者の限定はされていなかったが、通常のビジネス上のやり取りまで阻害されてしまうといった指摘を踏まえ、SECは、情報の選択的開示の問題の核心部分に対処するため(前記(1)参照)、開示された情報に基づき取引を行い、又は、他者に取引を行うようにアドバイスすることが合理的に予測できる者のみに限定することとし、証券市場の専門家3類型(上記①~③)と証券の保有者(上記④)に対する情報の開示のみが規制の対象とされるに至った。
 なお、(a)弁護士、投資銀行のバンカー、会計士等の受託者としての義務又は守秘義務を発行者に対して負う者に対する開示、(b)開示された情報の秘密保持について明示的に同意した者に対する開示、(c)証券法の下の登録を受けた証券の公募に関して行われる一定の方法による開示については、明示的に規制の対象から除外されている(§243.100(b)(2))。制定当初は信用格付会社に対する開示も適用除外とする規定が設けられていたが、2010年10月、ドッド=フランク法939B条に基づいてこの規定は削除された。
 また、報道機関に対する情報の開示については、明示的な適用除外規定は設けられていない。しかし、報道機関は上記①~③に該当せず、また、仮に上記④に該当する場合であっても、当該情報に基づいて発行者の証券を売買することを発行者が合理的に予測できるとはいえないとして、レギュレーションFDの対象となる情報受領者からは除外されている(Selective Disclosure and Insider Trading, 65 Fed. Reg. 51716 at 51720 n.27 (Aug. 15, 2000))。

 (iv) 対象となる情報
 規制の対象とされている情報は、発行者又は発行者の証券に関する重要(material)かつ未公表(nonpublic)の情報である。「重要」と「未公表」のいずれについても定義は設けられておらず、判例法により確立された解釈に依拠することになる。すなわち、「重要」とは、投資判断に際して「合理的な株主が重要と考えるであろう実質的な見込み(substantial likelihood)」がある場合を指し、ある事実が「利用可能な情報の総体に重大な変化を及ぼすと合理的な株主が考えたであろう」実質的な見込みがあることが必要と考えられている。また、「未公表」とは、その情報が広く投資家一般が利用できるような形で広められていない場合を指すと考えられている。
 なお、SECは、「重要」な情報と考えられる事項について解釈上のガイダンスを示すべきであるとの指摘を踏まえ、「重要」であるか否かを慎重に判断すべき事項として、①損益情報、②M&Aや資産の変動に関する情報、③新製品、顧客・供給者の発見又は変更に関する情報、④支配又は経営の変化、⑤監査人の交替、その不適正意見等、⑥優先証券のデフォルト、償還のための買戻し、自己株取得、株式分割、配当の変更、証券保有者の権利変更、新規発行等の発行証券に関する事実、⑦破産や管財人の任命を例示している。

 (v) 規制対象となる行為
 レギュレーションFDは、情報の選択的開示が、(a)意図的(intentional)なものであるか、(b)意図的なものでないかに分けて規律を設けている。
 「意図的」とは、その開示を行う者が、開示しようとする情報が重要かつ未公表であることを知っているか、又は、知らないことについて過失がある場合を意味する(§243.101(a))。
 なお、規則を遵守するために誠実な努力を払っている場合には、過失が認定される可能性は低いとされている。また、重要性の判断を誤った場合であっても、合理的な者であればその状況において同様の判断をしたとはいえない場合にのみ過失が認定されることから、具体的な開示の状況が重要であると考えられている。

 (vi) 一般に対する開示の時期
 情報の選択的開示が、(a)意図的なものである場合は同時に(simultaneously)、(b)意図的なものでない場合は速やかに(promptly)、発行者はその情報の一般に対する開示(public disclosure)が必要となる。
 「速やかに」とは、発行者の上級役職員(クローズエンド型投資会社にあっては、その投資顧問業者の上級役職員を含む。)が意図的でない情報の選択的開示が行われたことを知り、かつ、その情報が重要かつ未公表であることを知っているか、又は、知らないことについて過失がある場合に、合理的に実行可能な最も早いタイミング(ただし、いかなる場合でも、24時間又は次のニューヨーク証券取引所の取引開始時のいずれか遅い方よりは早いタイミング)を意味する(§243.101(d))。

 (vii) 一般に対する開示の方法
 発行者に要求される一般に対する開示の方法としては、①その情報を開示したForm 8-K(我が国の臨時報告書に相当)のSECへの提出、又は、②①に代替する広範(broad)かつ排他的でない(non-exclusionary)公衆への情報伝達を行うために合理的に設計された開示方法(若しくは複数の開示方法の組み合わせ)による開示のいずれかを行う必要がある(§243.101(e))。
 この②の開示方法には、例えば、広く普及したニュースサービス、ワイヤーサービスを通じたプレスリリースの配信、公衆の参加が可能な記者会見や電話その他の通信手段を用いた電話会議における公表等が含まれる。
 なお、SECは、レギュレーションFDの制定当初においては、発行者のウェブサイトにおける情報の掲載のみでは一般に対する開示として十分でないとしつつ、複数の開示方法の組み合わせに盛り込むことは考えられるとしていた。しかし、2008年8月、一定の条件の下でのウェブサイトへの掲載は公表に該当し得る旨の解釈を採用するに至った(Commission Guidance on the Use of Company Web Sites, 73 Fed. Reg. 45862 (Aug. 1, 2008)。以下「2008年ガイダンス」という。)。
 具体的には、(a)発行者のウェブサイトが情報の配信チャンネルとして認識されており、(b)発行者のウェブサイトに掲載された情報が、証券市場の参加者が一般に利用できるような形で広められており、かつ、(c)掲載された情報に対して、投資家及び市場が反応するのに合理的な待機期間があったといえる場合には、その情報は当該ウェブサイトへの掲載によって公表されたものといえ、その後に選択的な開示がされても未公表の情報の開示とはならないと整理されている。

 (viii)  違反の効果
 レギュレーションFDに違反した情報の選択的開示がされた場合、発行者は、SECによる排除措置命令や民事制裁金、裁判所の差止命令の対象となる可能性がある。
 なお、レギュレーションFDの違反は、証券取引所法に基づく一般的な詐欺的行為防止規定である規則10b-5の違反とは見なされないことが明文化されている(§243.102)。また、投資家や株主が、レギュレーションFDの違反を理由に発行者の民事上の責任を問うことはできない。さらに、証券法上の簡易書式の利用が妨げられることにならないこと等も明文化されている(§243.103)。
 レギュレーションFDの施行後、SECが一定の措置を講じた旨が公表されている事例は既に10件以上存在している。

 (3) ソーシャルメディアの取扱い
 近時、米国においてレギュレーションFDについて話題になったのは、FacebookやTwitterといったソーシャルメディアにおける重要かつ未公表の情報の開示をどのように規律するか、という問題である。
 2012年7月、映画やテレビ番組のDVDレンタルサービスやストリーミング配信サービスを行うNetflix社のCEOは、同年6月の同社ユーザーによる総ストリーミング時間が初めて10億時間を超えたことについて部下を讃える内容の投稿をFacebook上に行った。その時点では70.45ドルであった同社の株価は、翌取引日の終値時点で81.72ドルまで上昇した。この10億時間を超えたという情報は、特にForm 8-Kやプレスリリース等によって開示されておらず、それまでCEOもNetflix社もFacebook上で企業の指標を公表していなかったため、SECは、このCEOの投稿がレギュレーションFDに違反する疑いがあるとして調査を行った。
 SECは、2013年4月、結論としてはNetflix社に対して特に措置を講じない旨を明記しつつ、ソーシャルメディアの位置付けについては2008年ガイダンスに沿って、発行者が重要かつ未公表の情報を広めるためにいかなる形のコミュニケーション(いずれのソーシャルメディアを用いるか、どのような種類の情報を開示するかを含む。)を利用するつもりがあるかを事前に市場に知らせていることが重要である旨を強調する報告書を公表した。
 これを受けて、Netflix社は、CEOのFacebookページを含め、自社が情報の開示を行う可能性のあるソーシャルメディアを4つ特定し、その後は自社のIRウェブサイト上でリストを更新する旨を記載したForm 8-Kを提出し、現在では、このIRウェブサイト上で7つのソーシャルメディアが列挙されている(http://ir.netflix.com/social-media-disclosure.cfm参照)。

 3 日本における議論と今後の動向

 (1) 過去の検討状況
 米国においてレギュレーションFDが導入された当時から、我が国においても同様の規制を導入すべきかという議論はされていたが、結論としてその導入は見送られてきた。
 例えば、2005年6月28日付「金融審議会金融分科会第一部会ディスクロージャー・ワーキング・グループ報告―今後の開示制度のあり方について―」においては、①我が国では業績予想等を含め証券取引所における適時開示制度が整備されており、米国におけるレギュレーションFDの導入の契機となった、アナリストをめぐるガイダンスの問題等は、顕著な形で発生していないこと、②こうした状況下で規制を導入すれば、企業は情報を提供することに過度に消極的になり、マイナスの影響が大きいと考えられることを理由として、証券取引所の適時開示や証券取引法上の公正取引規制の徹底等を通じて対応を図っていくべきとの結論が導かれている(同報告12~13頁)。

 (2) ディスクロージャーWGの検討等
 2015年11月に金融庁の金融審議会に置かれたディスクロージャーWGにおいては、企業と投資家の建設的な対話を促進する観点も踏まえつつ、投資家が必要とする情報を効果的かつ効率的に提供するための情報開示のあり方等について幅広く検討を行うこととされ、前記1のとおり、情報の選択的開示に対する規制の是非についても議論された。
 2016年2月19日開催のディスクロージャーWG(第3回)に提出された事務局作成資料では、特に、①証券会社が、上場会社の業績に関する公表前の情報を顧客に提供し株式の売買の勧誘を行ったとして、2015年12月15日に行政処分を受けた事案において、当該上場会社が、当該証券会社のアナリストの取材に応じて、公表前の四半期業績に関する情報を提供していたことが判明した、②一部の報道機関が、決算短信の公表前に、会社が公表する数値に近い業績予想を頻繁に提供していることについて、外国人投資家を中心に、当該情報にアクセスできない投資家に不利益が生じているとの批判があるという問題が取り上げられ(同資料9頁)、また、ディスクロージャーWGのメンバーの多くからは、導入に肯定的な意見が出された(ディスクロージャーWG(第3回)議事録参照。ただし、反対意見も述べられた。)。このような議論を経て、前記1のとおり、フェア・ディスクロージャー・ルールの導入について、具体的に検討する必要がある旨を明記したWG報告書が公表されるに至った。
 なお、2016年4月15日には、ある金融商品取引業者のアナリストが公表前の上場会社の業績に関する情報を営業担当者などに伝えて顧客を勧誘したなどとして、証券取引等監視委員会が内閣総理大臣及び金融庁長官に対して行政処分を行うよう勧告した旨が公表され、金融庁は当該勧告に従い、同月25日に当該金融商品取引業者に対して業務改善命令を発出した。その公表内容からは上場会社による情報の選択的開示が発端となっていることがうかがわれ、仮にフェア・ディスクロージャー・ルールが導入されていれば、その対象となる可能性が高い事案であったと考えられる。

 (3) 検討のポイント
 以上を前提に、我が国において情報の選択的開示に対する規制を導入することとした場合に検討を要する主なポイントとしては、①ルールの位置付け(法令、ガイドライン、上場規則、業界の自主ルール等)、②対象となる情報受領者(とりわけ報道機関を対象に含めるか)、③対象となる情報(インサイダー取引規制における重要事実と同様か、それ以外の情報も含むか)、④企業の情報開示や投資家との対話にネガティブな影響を与えないための具体的な方策、⑤インサイダー取引規制上の情報伝達・取引推奨規制との関係、⑥違反の効果(課徴金、刑事罰等の対象とすべきか)等が挙げられよう。

 4 おわりに

 我が国における情報の選択的開示をめぐっては、総論としてその規制に反対する向きはないものと考えられるが、実際にどの

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辰巳 郁(たつみ・かおる)

 2004年、東京大学法学部第一類卒業。2012年、デューク大学ロースクール卒業(LL.M.)。2012~2013年までシカゴのカークランド・アンド・エリス法律事務所勤務。2013~2015年、法務省民事局(会社法担当、商事課併任)出向。2014年、司法試験考査委員(商法)。2014年、ミャンマー法整備支援プロジェクト会社法アドバイザリーグループ委員。
 主な著作として、『立案担当者による平成26年改正会社法関係法務省令の解説』(2015年7月、別冊商事法務No.397)、『平成26年会社法改正 ― 会社実務における影響と判例の読み方』(有斐閣、2015年5月)、「表明保証と当事者の主観的事情〔上〕・〔下〕」旬刊商事法務1998号(2013年5月)・1999号(同月)などがある。

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