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西村あさひのリーガル・アウトルック

英国上場企業の完全子会社化を達成する「スキーム・オブ・アレンジメント」

欧州M&Aの手引き(1)

木津 嘉之(きず・よしゆき)

 日本企業が英国企業を買収するに際し、株主総会における承認を前提とした裁判所の認可により、完全子会社化を達成する「スキーム・オブ・アレンジメント」が脚光を浴びている。木津嘉之弁護士が、「スキーム・オブ・アレンジメント」の概要、手続き、メリットなどについて詳しく解説する。

 

 欧州M&Aの手引き 其一
 英国上場企業買収について
 - スキームオブアレンジメント -

西村あさひ法律事務所
弁護士 木津嘉之

 1. 日本企業による欧州企業買収案件のトレンド

拡大木津 嘉之(きず・よしゆき)
 弁護士(西村あさひ法律事務所所属)。2015年ユニバーシティカレッジロンドン(LL.M.)、2006年慶應義塾大学法務研究科(J.D.)、2004年慶應義塾大学法学部法律学科(LL.B.)修了。2015年10月よりグライスルッツ法律事務所(フランクフルト)のM&A/ コーポレートチームに出向中。欧州地域を含む、国内外のM&A案件を中心に、独占禁止法案件を含む企業法務全般に従事。
 欧州域内における日本企業の関与する企業買収は近年増加傾向にある。日本企業による企業買収の件数は、2009年の欧州危機において一時的に落ち込んだものの、その後継続的に増加し、近時は恒常的に年間100件を優に超える案件が存在し、2015年においても過去最高件数を更新している。また、案件の規模についても、多くの年において年間総額1兆円を超え、数千億円規模の買収も近年複数件存在する。中でも、英国、ドイツ及びフランスにおける企業買収が最も活発であり、これらの国々の合計件数は欧州全体の内、5割程度のシェアを有し、また、イタリア及びオランダにおける投資も近時増加傾向にある。

 本稿においては、欧州各国における日本企業による企業買収の状況とともに、関連する法制度及びその実務のうち、近時、日本企業の英国企業買収において脚光を浴びているスキームオブアレンジメント(以下「スキーム」)を取り上げたい。

 2. 英国企業の買収手法

 欧州企業に対する企業買収の中でも、英国企業に対するものの件数が最も多い。2015年においても、実に、その2割程度の投資が英国企業に対するものである。

 英国における企業買収の手法としては、日本同様、シェアディール(対象会社の株式取得による買収)及びアセットディール(対象会社の資産・事業の譲受けによる買収)のいずれも存在するが、会社の一部事業の買収の場合はさておき、株式取得によるものが多い。上場企業の株式取得に際しては、100%の株式取得を目指すケースが多い。その理由としては、そもそも、英国においては、事業提携を前提とした株式の持合いは一般的ではないことが大きい。また、英国における買収に関するルールであるテイクオーバーコード(City Code on Takeovers and Mergers)により、原則として、30%以上の議決権に係る株式取得を目指す場合は、他のすべての株主に対して公開買付けのオファーをする必要があり(いわゆる、マンデートリーオファー義務)、かつ、取得株式数に上限を付す形の部分的買収はテイクオーバーコードに基づく厳しい制約が存在するため、事実上これが難しいことも影響しているものと思料される。

 なお、企業買収に際して、100%子会社化を実施し、非上場化することのメリットとしては、意思決定プロセスの迅速化、上場コストの減少といった日本と同様の議論に加え、上場会社によるフィナンシャルアシスタンス(自己の株式の取得に際しての対象会社自身による資金提供)の禁止規制(Companies Act 2006、678条)に起因する、レバレッジドバイアウト取引(対象会社のキャッシュフロー及び資産を買収資金の借入れの担保として利用する買収取引)に対する足枷を取り除くという、コモンロー特有の観点も存在する。

 3. スキームオブアレンジメント

 (i) スキームの利用事例

 日本企業による英国の上場企業の買収において、近年、スキームオブアレンジメントといわれる英国の会社法上の制度を利用する例がまま見受けられる。例えば、協和発酵キリンによるプロストラカングループの買収、電通によるイージスグループの買収、ニコンによるオプトスの買収、ブラザー工業によるドミノプリンティングサイエンシズの買収、三井住友海上火災保険によるアムリンの買収、横河電機株式会社によるKBC社の買収等、枚挙に暇がない。

 スキームは、英国のみならず、オーストラリア、シンガポールその他のコモンウェルズカントリーの多くにおいて存在する会社法上のシステムで、簡単に言えば、裁判所による認可と会社の利害関係者の決議を得ることで、より簡易な要件で、当該会社に関連する当該利害関係者との取決内容を変更することを可能にする会社法上の制度を言う。英国においては、古くは1862年から会社の任意解散等に限定されたものとして存在したが、その後、幾度の法改正を経て、現在のように広範囲な目的に利用できるシステムに変更された(Companies Act 2006, Part 26)。

 (ii) 債務整理への利用

 近時、スキームは、様々な文脈において脚光を浴びている。その一つの例が、債務整理のための利用である。具体的に言えば、スキームを利用することにより、債権者集会において所定の決議を取得し、裁判所の認可を得ることで、通常の法令上の要件よりも簡易に、これに反対する債権者に対しても、債権のヘアカットその他従前の債権内容について変更の効力を生じさせることが可能となる。この点、英国においては、スキームとは別途、Company Voluntary Arrangement(CVA)という任意債務整理手続が倒産法(Insolvency Act 1986)上存在する。CVAは、一定の利害関係者の承認等の手続きを前提として、会社債務の整理を可能とする点においてスキームと類似しているが、当該効果として担保債権者に対する拘束力が存在しないこと等の理由から、利用頻度はスキームに比較して低い。むしろ、債権者との関係で柔軟なアレンジを可能とするスキームを利用し、債権のヘアカット及びデットエクイティスワップを実施することで債務整理することが多い。さらに、スキームは、英国の会社に限らず、主たる利益の中心(COMI)が英国に存在する会社に対して広く適用があるため、柔軟なスキームを会社債務整理に利用する観点から、他の欧州各国の会社がそのCOMIを英国に移転させた上で、スキームを利用する例も見受けられる。

 (iii) 企業買収への利用

 他方で、スキームは、「債権者」との間で実施される債務整理の取決めとは異なり、会社の「株主」との間の取決めという意味で利用されることがある。減資等の資本構成の変更に利用されることもあるが、もう一つの代表的な利用方法が、上場会社の企業買収である。以下においては、当該企業買収手法の一環としての、スキームについて概説する。

 a. 企業買収の手法としてのスキームとそのメリット

 英国法上、上場会社を完全子会社化する方法は主に二つある。一つは英国会社法に規定された公開買付けを実施することで当該上場会社の大部分の株式を取得し、その後必要に応じスクイーズアウト(いわゆる少数株主の締出し)を実施する方法(Companies Act 2006, 974条及び979条)であり、もう一つが前述したスキームを利用する方法である。なお、いずれの手続きについても、テイクオーバーコードにより、少数株主保護の観点等から一定の規制を受けることとなる。

 双方の手続きにつきそれぞれ長所・短所があるが、前者の手続きの実行は、時に難しい。英国法上、原則として、公開買付けにおいて、議決権の90%以上を取得した場合に限り、スクイーズアウトの提案を実施することができることとされている。この点、英国の上場株式市場においては、外国投資家及び機関投資家の持分割合が多いため、合理的なプレミアムを付して公開買付けを実施する場合、90%に達する可能性は相当程度存在する。もっとも、例外も存在し、各社における株主構造を検討した結果、実務上安全策を採る必要がある場合もある。具体的には、例えば、10%以上の株式を保有する大株主が本件買収に反対する可能性があるような場合である。かかる場面においては、上記議決権取得要件を満たさないためスクイーズアウト手続きを実施できない可能性が高いことから、完全子会社化を実施したいときは、スキームの利用が推奨されることとなる。

 また、スキームは、買付者ではなく、買収対象となる会社サイドの自らの計画であるところ、対象会社がオファーを推奨をする場合においては対象会社の合意が存在することを広く指し示すことができるという点でメリットがあると一般的に理解されている。

 なお、従前は、英国上場企業の買収に際して、株式消却型のスキーム(株式を譲渡するのではなく、株式を消却し再発行するスキーム)を実施することにより、取引額の0.5%に及ぶ株式譲渡税を不要とするアレンジが可能であった。主に企業買収にスキームが利用されていた理由としては、かかる節税の観点が最も大きいと言われていた。この点、2015年3月の法改正により、買収目的の株式消却型のスキームが禁止されることとなったため、税務上のメリットは消失したものの、その後も依然として、日本企業による英国上場企業の買収についてスキームを利用する実例は散見される。

 b. 定  義

 スキームは、英国会社法上、会社と債権者または株主との間に提案される和解(compromise)または取決め(arrangement)として定義されている(895条)。当該和解または取決めは、互譲(give and take)の要素が必要とされ、一定の対価支払いなしに一方的に権利を剥奪するようなものは、スキームとしては認められないこととなる(Re NFU Development Trust LTD [1973] )。

 なお、互譲が存在しない場合のみならず、自己の利益のために行動をする合理的かつ公正な一般人が合理的に承認しないような場合と裁判所が認めたときは、裁判所は、当該スキームの認可を拒否することとなる(Re Dorman, Long and Co Ltd [1934] )。

 c. 手続き概要

 スキームによる企業買収は、一般的に、以下の手続きを経ることとなる。

  1. 買収手続きに関する会社と株主の間の合意及び当該合意の事実の公表
  2. 会社から株主に対する法定の説明文書の送付
  3. 裁判所に対する手続きの認可申請
  4. 株主総会の承認取得
  5. 裁判所の認可取得
  6. 効力発生

 スキームを利用する場合、買収手続き合意のアナウンスメントを実施してから、最短で8週間程度の期間で、取引をクローズすることができる。もっとも、実際には、独禁法を含む各法令上の許認可取得を必要とするケースも存在し、このような場合は、所要期間はより長期に及ぶこととなる。また、他のビッダーによるカウンタープロポーザルが実施されることなどがあり、その提案価格次第では、日本工営によるHyder社買収提案の事案のように、提案したスキームを取り下げざるを得ない状況に陥ることも考えられる点に留意されたい。

 なお、スキームを利用した場合であっても、手続書面にかかる相当程度の準備が必要となる。例えば、上記対象会社からの法定の説明文書については、個別の株主に分かりやすいよう詳細な記載(Q&Aの形式を含む)がなされることとなる。添付書類として、会社としての推奨文書、ファイナンシャルアドバイザーからの説明文書、株主の権利の変更とその法的影響に関する内容の説明文書、裁判所への提出書類、株主の重要な権利についての説明、裁判所の召集通知、総会の招集通知等が併せて株主に提供される。

 d. 決議要件とその留意点について

 対象会社に大量の少数株主が存在する場合には、慎重な検討が必要となる。スキームにおいては、議決に参加した株主のうち、その過半数が賛成し、かつ、当該賛成株主が価値ベースで75%以上を有している場合に限り、裁判所は、スキーム案の認可をすることができるものとされているところ、個々の会社における株主割合が小規模に分散化される傾向にある英国市場においては上場会社において少数株主が多数存在するような場合が考えられ、当該少数株主が買収に反対をしているときは、上記決議要件のうち特に過半数要件を満たない可能性があるため、票読みに際しては留意が必要となる。

 4. 結  語

 近時の日本企業による欧

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木津 嘉之(きず・よしゆき)

 弁護士(西村あさひ法律事務所所属)。2015年ユニバーシティカレッジロンドン(LL.M.)、2006年慶應義塾大学法務研究科(J.D.)、2004年慶應義塾大学法学部法律学科(LL.B.)修了。グライスルッツ法律事務所(フランクフルト)を経て、2016年9月よりジド法律事務所(パリ)のM&A/コーポレートチームに出向中。その後、引続き、キオメンティ法律事務所(ローマ)のM&A/コーポレートチームに6か月程度出向予定。欧州地域を含む、国内外のM&A案件を中心に、独占禁止法案件を含む企業法務全般に従事。

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