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西村あさひのリーガル・アウトルック

グループ親会社の内部通報制度の役割と論点、子会社との関係

伊藤 真弥(いとう・まや)

 組織内で不正を早期発見する内部通報制度。2000年代初めから大企業を中心に導入されたが、東芝の粉飾決算や東洋ゴム工業のデータ不正は、制度が形骸化している例があることを明らかにした。さらに、持ち株会社を使った企業のグループ化が進む中、内部通報制度をめぐって新たな論点が生じている。グループ会社の内部通報制度はどうあるべきか、伊藤真弥弁護士が現状と課題を解説する。

グループ会社における内部通報制度

西村あさひ法律事務所
弁護士 伊藤真弥

 1  はじめに

拡大伊藤 真弥(いとう・まや)
 西村あさひ法律事務所パートナー。1999年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、2002年弁護士登録。2007年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)。国内金融機関への出向経験を有する。
 北南米やアジアのプロジェクト向けのクロスボーダー・ファイナンス案件を中心に、国内外の企業の海外での事業展開における資金調達、金融機関のコンプライアンスや一般法務等の業務、外国企業の日本での事業展開における一般法務等の案件を手がける。
 近時、多くの企業の不祥事が報道されているが、その度に注目されるのが、当該企業の内部通報制度が機能していたかどうかという点である。公益通報者の保護を図るとともに、企業の法令の規定の遵守を図り、もって国民生活の安定及び社会経済の健全な発展に資することを目的として、平成18年4月に公益通報者保護法が施行されてからというもの、内部通報制度も多くの企業で創設され、制度としての運用が確立されてきた。
 企業単体としての内部通報制度の確立や改善についてはある程度議論が進んでいるところであるが、依然として持株会社に移行する企業も少なくない中、グループ会社における内部通報制度がどうあるべきなのかという点については、まだ十分にクローズアップされていないように思われる。
 筆者は、従前から持株会社グループにおける内部通報制度の構築及び運用に従事し、多くの内部通報事案に接してきていることから、まず内部通報制度の概要について確認し、さらにグループ会社における内部通報制度を題材として、現状制度としてどう機能しているのかについて分析してみたいと思う。

 2  内部通報制度とは

 そもそも内部通報制度とは、一般に、事業者の経営者又は役職員の法令違反等のコンプライアンス違反又はそのおそれがある場合に、これを通報できる仕組みのことをいい、組織の自浄作用を機能させ、もって事業者の法令遵守に資せしめようとする制度である。
 会社法上、会社の業務における法令遵守を確保するためのいわゆる内部統制システムの構築が要請されているところ(会社法第362条第4項第6号、同法施行規則第100条第1項第4号)、内部通報制度の設置は、その手段の一つとなっているものと考えられる。また、株式会社東京証券取引所が定めた実効的なコーポレートガバナンスの実現のための主要原則であるコーポレートガバナンス・コードにおいては、内部通報の体制整備が求められており、取締役会は、体制整備の実現の責務を負うとともに、その運用状況を監督すべきとされている(株式会社東京証券取引所「コーポレートガバナンス・コード」原則2-5内部通報)。さらに、金融商品取引法で内部統制報告書の提出が義務付けられているところ(同法第24条の4の4)、企業会計審議会が公表している「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」においても、組織の情報と伝達及びモニタリングの仕組みの一つとして内部通報制度が挙げられている。
 上記のとおり、法令等多方面から内部通報制度の設置が要請されていることから、近時では内部通報制度を設けている事業者が非常に多く、日本企業にも浸透しつつある制度といえよう。ただ、内部通報制度を導入しているからといって必ずしも本来の機能を発揮しているとは限らないことには、留意する必要がある。もちろん、内部通報制度を契機に企業の不祥事が発覚する事例も存在する。しかし、下記の例に見られるとおり、企業の不祥事の多くは、内部通報制度が適切に機能していなかったことが事案の深刻化につながっている。
 例えば、東洋ゴム工業株式会社の免震積層ゴムの認定不具合に関する事案では、同社がリコールについて検討した際の会議にて、「リコールしない場合のリスクとして、内部通報により本件が公になることを挙げつつ、その対応策として、通報者の想定リストを作成し、「事前説明」を行うこと、及び内部通報があった場合の対応シナリオを策定しておくこと」が提案されていたという事実があり、また、「約1年間、上位の幹部及び経営陣への情報の伝達が遅れており、その間、複数の従業員が本件の問題行為の疑いについて把握していたにもかかわらず、内部通報制度を利用した者はいなかった。内部通報制度を利用するか否かは任意であり、技術者の心理としては、技術的な観点から結論が出ていない段階で、内部通報を行うことについては心理的な抵抗があったために、利用を躊躇したものと考えられる」という調査結果が出ている(以上、東洋ゴム工業株式会社「免震積層ゴムの認定不適合」に関する社外調査チーム「調査報告書」(平成27年6月19日))。
 また、一般財団法人化学及血清療法研究所の血液製剤の製造方法の不正に関する事案では、「内部通報制度等の内部統制システムは無力であり、このような誤ったトップダウンが血漿分画部門全体に広がりかつ継続する不整合や隠ぺいの原因とな」っており、「従前から設置されていた「化血研ヘルプライン」に血漿分画部門の本件不整合等についての情報が寄せられなかったことを踏まえ、役職員が通報窓口に対して通報した場合に、秘密が確実に守られ、後に人事上の不利益を被らないという安心感や、迅速かつ的確に対応してもらえるという期待感を抱くことができる通報制度に改善する必要がある」との調査結果が出ている(以上、一般財団法人化学及血清療法研究所第三者委員会「調査結果報告書」(平成27年11月25日))。
 上記の指摘からも分かるとおり、未だに実効性のある内部通報制度の構築及び運用は各事業者の課題として残っているものと思われ、消費者庁もかかる内部通報制度に対する事業者の取組の促進をするため、方策として

  1.  事業者が自主的に取り組むことが推奨される事項の具体化・明確化
  2.  事業者の自主的な取組を促進するためのインセンティブの導入
  3.  内部通報制度の更なる導入・取組の促進(法制度上の手当ての検討)
  4.  公益通報者保護制度の意義等についての更なる周知啓発
  5.  通報者保護の徹底

を掲げ(公益通報者保護制度の実効性の向上に関する検討会「第一次報告書」(平成28年3月))、公益通報者保護法の適用要件や効果の見直しについて検討を開始している。

 3 グループ会社の内部通報制度

 1)グループ会社における内部統制

 グループ会社における内部統制については、平成18年5月施行の会社法で、企業集団ベースで内部統制システムの基本方針を決定すべきことが明文化された。さらに、平成27年5月施行の会社法改正で、かかるグループ会社における内部統制を確保するための体制が具体化されている(会社法第362条第4項第6号、同施行規則第100条第1項第5号)。中でも、「当該株式会社の子会社の取締役等及び使用人の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制」が挙げられており(同号ニ)、この内容としてグループ会社全体に適用される内部通報制度が含まれるものと考えられる。
 特に持株会社制に移行する場合、経営の意思決定の迅速化や経営の効率化の他、ガバナンスの強化を目的とすることがほとんどであり、かかるガバナンスの強化の一環として、持株会社がグループ全体に適用される内部通報制度を構築する例が多い。

 2) グループ会社における内部通報制度の役割

 グループ全体のガバナンスの強化を目的として親会社又は持株会社(以下「グループ親会社」)がグループ全体に適用される内部通報制度を構築する場合、通常は、当該グループ内の各企業(以下「グループ内会社」)が独自の内部通報制度を有しているため、グループ内会社独自の内部通報制度(以下「個別内部通報制度」)とグループ全体に適用されるグループ親会社の内部通報制度(以下「グループ内部通報制度」)とが併存することになる。
 筆者の経験上、両方の内部通報制度が併存する場合、グループ内部通報制度には、個別内部通報制度とは異なる役割が期待される場合があると考える。

 ① 1つは、グループ内部通報制度によって、個別内部通報制度における運用及び調査方法そのものを指揮、監督及び再確認することである。通報者が、事案の内容に関係なく、通報者の意向によりグループ内部通報制度と個別内部通報制度双方に当該グループ内会社に関するコンプライアンス関連の通報をしてくる場合は、このような役割が期待されるものと考えられる。
 ② もう1つは、グループ内部通報制度によって、グループ内会社からの独立性・客観性を確保しながら調査を行うことである。通報者が、グループ内会社のマネージメントやコンプライアンス体制そのものに問題があるとして、個別内部通報制度ではなく、グループ内部通報制度に通報してくる場合が、このような役割が期待される典型的な場合である。

 ①の場合、通報があったときには、グループ親会社とグループ内会社の調査部門が協働して、通報内容の調査を進めることにはなるが、当該通報自体がグループ内会社内部の事項であることから、当該グループ内会社の調査部門の方がより通報内容の調査に適している場合が多い。グループ親会社は、通報内容そのものの調査よりも、当該グループ内会社における運用及び調査を指揮・監督し、調査結果を再確認・検証して、調査に不足や不備があり問題と考える場合には、自ら又は外部専門家(弁護士など)に依頼し、再調査を行うことになろう。

 ②の場合、グループ内会社のマネージメントやコンプライアンス体制そのものが問題になるところ、通常グループ内会社の調査部門にはグループ内会社のマネージメントやコンプライアンス部門が関与していることが多く、調査の独立性・客観性が担保できないため、グループ内会社に調査を進めさせることが困難となる。そのため、グループ親会社の調査部門が主導で調査を行わざるを得ない場合が多くなる。この場合、グループ親会社が当該グループ内会社の役職員等を兼任している場合はまだしも(ただ、この場合には、グループ親会社の調査部隊が当該グループ内会社の調査対象から独立していることが必須である。)、そうでない場合には、グループ親会社の調査部隊がグループ内会社の問題について、直接単独で調査をすることは難しい。よって、多くの場合、調査を進めるにあたりグループ内会社の協力が必要となるのであるが、この場合も協力する当該グループ内会社の人員が、調査対象から独立していることを確保することが必須であると考える。

 3) グループ親会社による個別内部通報制度の監督

 先に述べたグループ会社における内部統制の内容の一つとして、グループ親会社による子会社の内部監査の実施のほかに、内部通報制度との関係では、個別内部通報制度の運用の事後のモニタリングも考えられ、これを実施しているグループ親会社も多い。
 具体的には、当該親会社が、各グループ内会社から、当該グループ内会社における個別内部通報制度の運用の方法や調査体制の報告を受け、それが内部通報制度に係る内部規程に従って適正に運用されているのかを確認することや、実際の個別内部通報制度における通報事案及びその事案がどのように調査され処理されたのかを検証することなどが挙げられる。
 当該グループ親会社が抱えるグループ内会社の数が少なく、かつ、個別内部通報制度の件数も少ない場合には、グループ親会社によるモニタリングの負担はさほど大きくないが、当該グループ親会社の抱えるグループ内会社の数が多い場合や、個別内部通報制度の件数が多い場合は、グループ親会社によるモニタリングの負担は相当大きいものになる。
 筆者の経験上、後者のような場合には、グループ親会社の調査のキャパシティとモニタリングの実効性とのバランスを勘案し、各個別内部通報に通報された事案のうち、通報内容が比較的重大であったもの、通報事案の処理に問題があったもの、各個別内部通報制度の事案からランダムに数件抽出したものなどをモニタリングの対象とし、それらの通報処理の適切性をグループ親会社が検討することが多い。
 なお、グループ親会社によるモニタリングの場合、グループ親会社の調査部隊がグループ内会社の問題について、直接単独で調査をし、改めて事実認定をすることは難しく、また、その結果の処分の適切性についても当該グループ内会社の判断に委ねられることが多いため、グループ親会社の調査の対象は、あくまで運用及び調査の手続に限定されることになろう。

 4) 海外子会社と内部通報制度

 グループ親会社が内部通報制度との関係で抱える問題として、海外子会社の役職員等からの内部通報が挙げられる。多くのグループ親会社は、当該海外子会社の役職員に対し、グループ内部通報制度への通報の道を開いている。当該海外子会社の役職員が日本人又は日本語が堪能な外国人である場合には、通報も日本語で受け入れることができるが、多くの場合は、当該海外子会社の役職員が現地で採用されるなど、必ずしも日本語が堪能でない役職員が存在するため、日本語のみの受け入れでは対応が難しく、少なくとも英語での対応体制を整える必要がある。特にアジアの海外子会社の場合は、英語での対応すら困難な場合があるので、広く中国語、ベトナム語、インドネシア語、タイ語等の現地語での受け入れも可能とし、受け入れた側で翻訳対応するなどの柔軟な体制整備が望ましい。
 上記のような実務上の問題のみならず、当該海外子会社の所在国によっては、情報の国外への持ち出しに一定の規制が存在するなど(例えば、A国の役職員による通報事案を、日本国内の役職員が調査をする際に、関連する資料をA国から持ち出して調査する場合など問題になり得る)、法規制上の問題もあるため、国内のグループ内会社の役職員からの内部通報と同一に取り扱うことができない場合が少なくない。そのため、言語の問題を含めたグループ内部通報制度の構築及び運用に際し弁護士等の外部専門家と共に対応する例が増えている。

 4  おわりに

 グループ親会社によるグループ全体のガバナンスが強く要請される昨今、グループ内会社のコンプライアンス違反を早期に

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伊藤 真弥(いとう・まや)

 西村あさひ法律事務所パートナー。1999年慶應義塾大学法学部法律学科卒業、2002年弁護士登録。2007年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)。国内金融機関への出向経験を有する。
 北南米やアジアのプロジェクト向けのクロスボーダー・ファイナンス案件を中心に、国内外の企業の海外での事業展開における資金調達、金融機関のコンプライアンスや一般法務等の業務、外国企業の日本での事業展開における一般法務等の案件を手がける。
 主な著書に、「貸金業」範囲見直しによるグループ内金融・合弁事業への影響 旬刊商事法務No.2031(2014年4月25日号)、キャッシュ・プーリングに関わる法的論点整理 金融法務事情No.1957(2012年11月10日号)など。

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