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西村あさひのリーガル・アウトルック

動き出した宇宙資源開発ビジネスと法整備制度

水島 淳(みずしま・あつし)

 月や小惑星の水や金属を、拡大する宇宙活動の資源に使う――。SFの世界の話ではない。地球外の資源開発に向け、米国をはじめとする複数の国々が法的枠組み作りに着手した。日本を含む104カ国が批准した1967年発効の宇宙条約は、地球外の天体の領有権を否定しているが、そこから取得した資源については規定しておらず、開発を前提としたルール作りが始まっているのだ。水島淳弁護士が最先端の議論を紹介する。

 

動き出した宇宙資源開発ビジネスと法整備制度

西村あさひ法律事務所
弁護士 水島 淳

 1. 産業化に向けて動き出した宇宙資源開発

拡大水島 淳(みずしま・あつし)
 2012年から2014年まで米国シリコンバレーにてハードウェアベンチャーWHILL, Inc.の設立メンバーを務め、事業運営・2ラウンド約15億円の資金調達を実行。また、米国コロラド州のスタートアップインキュベーターBoomtown Acceleratorにてメンターを、また、宇宙ビジネス促進のための団体Spacetideにて運営委員を務める(現職)。
 「20世紀は石油が世界を定義した。21世紀は水が世界を定義する。」

 筆者はこの夏にルクセンブルクで開催されたカンファレンス「スペースフォーラム2016」に出席した。
 カンファレンスは、政府関係者、宇宙機関、宇宙関連企業、研究者が参加し2日間に渡って行われ、宇宙資源開発はカンファレンスの主要トピック4つのうちの1つとして取り上げられていた。

 冒頭の言葉は、そのカンファレンスでの米国プラネタリー・リソーシズ社のCEOクリス・ルウィッキ氏の発言である。

 今、宇宙資源開発は、ビジネス、技術、そして、法制度整備の各方面で急速に産業化に向けて動き出している。

 2. 加速する宇宙資源開発の法的枠組整備

 昨年11月、オバマ大統領は商業宇宙打上競争力法に署名した。
 同法は、商業宇宙打上げ、商業リモートセンシング、宇宙商務局、宇宙資源探査及び利用のそれぞれの章から成り、商業宇宙資源開発を認めた世界初の法律である。
 同法では、月、小惑星その他の天体及び宇宙空間上の水、ミネラルを含む非生物資源の採取に商業的に従事している米国市民に対し、米国が負う国際的な義務等に抵触せずに獲得された当該資源についての占有、所有、輸送、利用及び販売を認めている。
 その上で、本年に米国政府から同法に基づくいくつかの報告書が提出されており、それらの報告書では、月面探査や小惑星の資源採掘活動等を米国連邦航空局(FAA)が統括すべきとの旨が報告されている。

 また、本年2月には、ルクセンブルクが、自国を宇宙資源探査及び利用の分野での欧州の中心地とする旨の政策を発表し、後述のとおり、すでに宇宙資源開発ビジネスを標榜する複数の企業への資金供与を含む支援を公表している。同国政府においては欧州宇宙機関(ESA)の前長官であるジャン・ジャック・ドーダン氏が上記政策のためのイニシアチブにおける顧問を務める。
 同政府は2013年から米国航空宇宙局(NASA)エイムズ研究センターと宇宙資源開発の法的枠組構築について議論を重ねてきたとのことで、米国を含む他国との共同での法的枠組構築を模索することを表明している。

 さらに、スペースフォーラム2016におけるパネルディスカッションにおいては、ルクセンブルク大学のマフレナ・ホフマン教授から、上記以外の複数の国が宇宙資源開発に関する法制度の検討を開始しているようであるとの発言がなされた。
 アラブ首長国連邦も、宇宙探査及び宇宙資源開発を含む宇宙空間における商業活動についての法制化に着手したことを表明している。

 3. 宇宙資源は宇宙活動におけるエネルギーインフラ

 宇宙資源開発は数兆円を超える市場になるともいわれる。
 宇宙資源開発というと、宇宙空間にある資源を地球に持ち帰って利用するということがまず思い浮かぶ。実際に、宇宙資源開発ビジネスとして月や小惑星などからプラチナなどの希少金属を採取し地球での利用に供するビジネスも検討されている。

 しかし、それと同様に、あるいはさらに重要なのは、宇宙資源の宇宙での利用、特にエネルギー資源としての利用である。
 月や小惑星には主に氷の形態で水が存在しているとみられており、こういった水資源は、電気分解により水素を生成し液体燃料エンジン燃料、燃料電池等の形でエネルギー源として使用することができる。
 宇宙活動を行うためには、衛星の運用、宇宙輸送、宇宙拠点運用その他様々な理由でエネルギーが必要となるところ、近年、国家による活動に加え民間の活動としても宇宙活動が活発化しており、宇宙活動におけるエネルギー需要の高まりが予想されている。
 しかし、このようなエネルギー需要の全てを地球上の資源で賄おうとする場合、燃料などを地球の重力に反して地球から宇宙に運び上げなければならずコストが膨大になる。他方で、宇宙で獲得したエネルギー源を宇宙で使用する場合には、そのようなコストを省略することができる。ある研究では、月からの宇宙内移動及び輸送のための燃料輸送コストは地球からの燃料輸送コストの約100分の1とされている。
 また、宇宙資源開発に必要となる打上ロケット、深宇宙探査機、着陸船、ロボット、センシング等の技術が徐々に確立されつつあり、それがこういった宇宙資源開発の近い将来の現実性を技術的に裏打ちしている。

 冒頭のルウィッキ氏の発言は、このような21世紀における水資源のエネルギー源としての重要性を象徴的に表した言葉なのである。

 4. 国内外の民間のプレイヤーの出現

 上記のような各国政府による宇宙資源開発のための法的枠組整備の動向、特に前述の米国での立法の過程には、宇宙資源開発を目指す民間企業の積極的なロビー活動があるといわれており、宇宙資源開発を目指す企業が現実に出現し始めている。

 たとえば、上記プラネタリー・リソーシズ社は小惑星での資源開発を目指し、すでに数十億円超の資金を調達し、小惑星調査のための超小型衛星の宇宙望遠鏡を運用している。本年6月には、同社は同社のルクセンブルク事業部門の49%の株式を対価にルクセンブルク政府から出資を受ける旨発表した。また、米国ディープ・スペース・インダストリーズ社は複数ラウンドの民間投資家からの資金調達の後、本年3月にルクセンブルク政府との間で基本合意を締結している。同基本合意では、同社が小惑星資源開発に特化した技術の研究開発を行い、ルクセンブルクがその研究開発のための資金を提供する旨が合意されているとのことである。さらに、同じく米国のムーン・エクスプレス社は、月面での資源開発を標榜し、30億円超の調達資金とともに民間による月面探査レースであるグーグル・ルナ・Xプライズにも参加している。同社は、本年4月に、米国連邦航空局に対して、史上初となる月面における商業活動の許可の申請を行った。
 一方、ヨーロッパでは、本年、欧州宇宙局からの支援を受け、アステロイド・ダイレクトという小惑星資源開発のための輸送関連事業を目指す企業が立ち上げられた。

 しかし、宇宙資源開発の会社は海外企業だけではない。
 上記ムーン・エクスプレス社とともにグーグル・ルナ・XプライズのファイナリストであるHAKUTOプロジェクトに取り組むispace社は、宇宙資源探査に欠かせないローバーの技術を長期にわたり開発しており(グーグル・ルナ・Xプライズでも中間賞を獲得している。)、そのビジネスモデルとして月面での資源開発を目指している。

 5. 我が国と宇宙資源開発そして他産業への貢献

 そもそも宇宙資源探査は日本のお家芸であるといえる。
 日本は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所(ISAS)の探査機はやぶさによって2010年6月に世界で初めて天体からのサンプル・リターンを成功させており、海外では、はやぶさは宇宙資源開発の嚆矢と位置付けられている。
 他国の状況をみると、ロシアの探査機フォボス・グルントによる第一回目のサンプル・リターンの試みは失敗に終わり、また、欧州宇宙機関の探査機ロゼッタの着陸機フィラエは2014年11月に彗星への降下を行ったもののサンプル・リターンは行っていない。現在他国も様々な宇宙探査プロジェクトを進行中であるものの、少なくとも現時点では、宇宙資源探査は日本が世界トップの技術を有している領域であるといえる。
 また、我が国の宇宙政策との関係においても、今後の宇宙活動に不可欠な宇宙エネルギー資源の利用を可能とする宇宙資源開発は、宇宙基本計画及び宇宙基本計画工程表にて言及されている宇宙輸送システム、宇宙状況把握(SSA)、宇宙科学及び探査の延長線上にあり、また、ロケット打上げ産業や衛星産業との補完関係があるといえるのではないかと思われる。
 さらに、宇宙産業以外の産業という視点でも、宇宙資源開発は、ローバーや衛星向けの燃料電池産業、燃料輸送船や宇宙空間で利用する燃料タンクなどの重機械産業、資源探査のデータ送受信や探査機の地上からの操作に関する通信産業、月面その他の拠点構築のための建設産業や産業機械産、宇宙活動のためのプロジェクトファイナンスの文脈での金融産業と、様々な他産業の発展にも寄与するものといい得る。

 6. 世界的レジーム形成の動きと各国国内法及び政策の重要性

 宇宙条約(「月その他の天体を含む宇宙空間の探査及び利用における国家活動を律する原則に関する条約」)第2条は、月その他の天体を含む宇宙空間は、主権の主張、使用若しくは占拠またはその他のいかなる手段によっても国家による取得の対象とはならない旨規定しており、宇宙空間は、公海、深海底、公空と同様に国際公域として位置付けられている。
 そのため、宇宙空間に存在する資源を対象とする宇宙資源開発のためには国際的枠組みが不可欠といえるが、そのような国際的な法的枠組構築の動きもすでに始まっている。

 本年4月にウィーンで開催された国連宇宙空間平和利用委員会(COPUOS)法律小委員会では、ベルギーの提案により「宇宙資源探査及び利用のために考えられる法的枠組みに関する意見交換」が2017年の議題として採択された。
 また、同月にはオランダライデン大学等によるコンソーシアムの主催によりハーグ宇宙資源ガバナンス・ワーキンググループが発足し、国際機関、各国政府、研究機関、事業会社が参加している。なお、このワーキンググループには、日本の民間からはispaceがメンバーとして、また、弊事務所がオブザーバーとして参加している。

 ただ、国際的枠組みのために常に国際的な協定や条約が先行する必要があるというわけではない。
 特に、宇宙に関しては、現在、国連宇宙空間平和利用委員会が全会一致方式を採用しているため、新たな条約を成立させることは非常に困難である。実際に国連平和利用委員会では1979年署名の月協定(「月その他の天体における国家活動を律する協定」)を最後に新たな条約は成立していない。そのため、宇宙の様々な分野において、条約などのハード・ローに代えて、国連宇宙空間平和利用委員会法律小委員会における議論に基づく国連総会決議や国連宇宙空間平和利用委員会科学技術小委員会作成のガイドライン、宇宙機関間の行動規範などのいわゆるソフト・ローその他の方法によって国際宇宙法の発展は支えられている。

 さらに、各国における国内法整備及び政策策定や二国間/複数国間協定は、デファクトスタンダードの構築という意味で国際的枠組み構築に寄与し、あるいは、国際的議論の喚起のきっかけとして国際的枠組み構築を加速させる効果を持ち得る。また、政策的な意味では、そのような国内法及び政策あるいは国際協定は、当該国に資本や技術者を呼び込むシグナルとしても機能するであろう。
 前述の米国の法整備やルクセンブルクの政策策定はその最たる例であるといえる。上記ハーグワーキンググループにおける議論においても、参加者から国際レジームの構築の前提として各国の国内法の規律を先行させる方向性の提案もなされている。
 もちろん、そのような方策は先行する国に必要以上の先行者利益をもたらしてしまうおそれもあり、慎重な検討が必要であることは間違いないが、上記の宇宙での国際的枠組みの進展の歴史に照らし、現実問題としては、様々な方策が検討されるべきであろう。

 7. 想定される法的論点

 宇宙資源開発はその事業としての構成要素の広範さから幅広い法的論点が想定されるが、以下ではそのうちのまず最初に検討しなければならないであろう論点について簡単に触れる。
 これらのほか、安全保障、輸出管理規制その他法的に検討すべき点は多岐にわたることが想定されるが、それらは具体的な技術や民間事業者の事業(計画)が具体化するのと並行して一つずつ検討されていくべきであろう。

 (1) 宇宙資源の所有権
 前述のとおり、宇宙条約第2条は月その他の天体の国家による所有等を禁じている。では、月その他の天体そのものではなくそこから取得した資源について、所有権は認められると考えることができるであろうか。この点は宇宙資源開発に関する最も根本的な論点である。
 この点、宇宙条約は、天体の国家による所有等を禁じているものの、天体から取得した資源に関する規律は設けていない。なお、月協定は太陽系の天体にある天然資源は、いかなる国家、非政府団体、自然人等の所有にも帰属しないとしているが、同協定の締約国は16カ国と極めて少なく、日本、米国、ロシア、中国を含む宇宙開発を行っているほとんどの国は締約国ではない。
 また、国際宇宙法学会(IISL)のポジションペーパーは、宇宙条約は天然資源の採掘を明確に否定しておらず、宇宙における天然資源の採掘は認められると解することができるとしている。このように、宇宙条約には天体から採掘された資源の所有の禁止規定はなく、一定の制約を設ける必要があり得るとしても、天体から採掘された資源の所有は宇宙条約上禁止されていないというのが通説的見解である。
 この点はしばしば公海で釣り上げられた魚とのアナロジーによって語られる。すなわち、公海はいかなる国家、政府間国際機関、非政府団体等にも属しないが、公海で釣り上げられた魚自体は、それを釣り上げた釣り人の所有物となり、市場に流通する。
 

 (2) 宇宙環境保護
 宇宙条約上、条約当事国は月その他の天体を含む宇宙空間の有害な汚染を避ける義務を負う(第9条。なお、月協定はさらに厳格な宇宙環境保護の規定を有する。)。さらに一般的な義務として、国家は相当の注意を払って国際公域の環境を害さないように防止する義務を負う(ストックホルム宣言21原則)。
 宇宙の環境保護という場合、有害物質により宇宙または地球の環境を改変しないという観点のみならず、また地球、そして宇宙の起源を探るための歴史的証拠を消失させないという観点からも環境保護が求められる。
 ただ、現時点では、上記の宇宙条約第9条を具体化するような条約は存在せず、スペース・デブリ低減ガイドラインや米国航空宇宙局勧告等のソフト・ローが策定されているに止まる。
 宇宙のような国際公域の環境汚染は特定の被害国が存在しないという点で被害国の汚染国に対する責任追及による問題処理が困難であるため、環境汚染防止の実効化のためには国際的な枠組みが必要であると思われ、そのルールの在り方については今後さらに詳細な検討が必要となるものと思われる。

 (3) 国際公域での資源開発としてのルール設定
 宇宙は、いずれかの国家が領有権を有する領域ではないため、特定の国家の国土における資源開発とは別途のルールが必要となる。そのようなルールの設計次第で各国及び各事業者における宇宙資源開発活動の自由度や内容も変わってくるところであると思われる。
 この点については、国際公域での資源開発という点で類似する南極、深海底、公海などのそれぞれにおける資源開発のルールを参考としつつ、ルール形成を検討していくということが考えられる。

 (4) 監督機関等
 上記米国における2015年の立法に基づく報告書の中でも議論されているが、目標天体への着陸、資源所在領域の占有、資源の掘削方法などの宇宙資源開発活動について、国際的に定められたルールをどういった機関がどのように監督していくのかという点については、国際的枠組みとして、また、それに呼応する国内法の問題として議論されていかなければならない。

 8. 結語

 宇宙資源開発に関する国際的枠組みは今後様々に進展していくと思われる。
 また、これまでの経過をみるに、宇宙資源開発の分野では国際的枠組みと各国の国内法整備が並行して進むことも十分考えられ、また、国内法整備がより進んでいる国に技術者や企業、投資が集中していく可能性も考えられる。その場合、そういった国が自国内での人材、技術や事業実績の蓄積をもって国際的枠組み構築の中でも主導的な役割を担うこととなる可能性もあると思われる。
 前述のとおり宇宙資源探査は日本のお家芸というべきものともいえ、その強みを活かして様々な企業がこの領域及び周辺領域に積極的に参入していくこと、そして同時に、適正な制度設計が進んでいくことが望まれるところである。

 最後に

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水島 淳(みずしま・あつし)

 国内外の企業・スタートアップの戦略的アクションの実行戦略のデザインをサポート(M&A、事業提携、国際展開、資金調達、新規ビジネス構築、IP戦略等)。
 2012年から2014年まで米国シリコンバレーにてハードウェアベンチャーWHILL, Inc.の設立メンバーを務め、事業運営・2ラウンド約15億円の資金調達を実行。また、米国コロラド州のスタートアップインキュベーターBoomtown Acceleratorにてメンターを、また、宇宙ビジネス促進のための団体Spacetideにて運営委員を務める(現職)。
 成蹊大学法科大学院非常勤講師。M&A等に関する執筆多数。
 2004年東京大学法学部第一類卒業(LL.B.)、2013年スタンフォード大学ビジネススクール卒業(MBA)。

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