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西村あさひのリーガル・アウトルック

制裁緩和後のイランへの投資を保護・促進するイラン法と日本・イラン投資協定

中島 和穂(なかじま・かずほ)

 イランに対する日本企業の投資環境整備などを定めた日本、イラン両政府の投資協定が今年の通常国会で承認された。イラン側の批准手続が終われば、日本企業がイランで資源開発などの事業を行う場合、現地の資産は保護されイラン企業並みの扱いを受けられるようになる。中島和穂弁護士が、この投資協定とイランの投資保護制度について詳細に解説する。

 

イラン向け投資の保護制度

弁護士・NY州弁護士
中島和穂

拡大中島 和穂(なかじま・かずほ)
 2001年東京大学法学部卒業、2002年弁護士登録、2009年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)、2009年~2010年、ニューヨークのワイル・ゴッチェル・マンジェス法律事務所勤務、2010年~2011年、三井物産株式会社法務部出向、2010年ニューヨーク州弁護士登録。
 本年1月のイランに対する制裁緩和後、欧州、中国、韓国等の外国企業がイランへの投資に強い関心を示しており、イラン向け投資案件の報道が相次いでいる。イラン政府は、国内の産業成長や雇用確保のため、輸入ではなく、国内生産を望んでいる。イランは、人口7900万人を有し、消費地として魅力的であるのみならず、国民の教育水準が高く、隣接する国への輸出も考えられることから生産拠点としても魅力的である。イランでは、自動車、電化製品を始めとして、日本企業の製品に対する信頼が高く、日本企業の進出を望む声が多く聞かれる。
 この点、イランは、石油、天然ガス、金融等の限られた業種では、外国企業による出資を規制しているが、多くの業種では、外国企業が100%まで出資することを認め、外国企業による投資を保護・促進する制度を設けている。
 また、日本とイランは、本年2月、二国間の投資協定を締結し、発効に向けた批准手続を進めている。同協定が発効すれば、同協定に基づき日本企業のイランでの国内資産は保護されることになる。
 本稿では、イラン法に基づく外国投資保護制度とイラン及び日本間の投資協定について解説する。

 1. イラン法に基づく投資保護制度

 外国投資を保護するイランの法律は、Foreign Investment Promotion and Protection Act(以下「外国投資促進保護法」という)と呼ばれる。外国投資家がイラン政府に申請し、ライセンス(以下「外国投資ライセンス」という)を取得することで、外国投資家が保護される。ここでいう「投資」には、イラン企業への直接的な出資のみならず、Build Operate and Transfer(BOT)、Civil Participation、Buy Back等のインフラ案件の契約手法を用いた投資であって、かつ、イラン政府の保証がないものも含まれる。このライセンスは、イランの経済財務省下にあるイラン投資・経済・技術援助機構(OIETAI)が発行するものとされている。

 外国投資ライセンスの主なメリットは、以下のとおりである。
 ① 国内投資と同等の権利保護を受けること
 ② 外国投資の収用は、次の全ての要件が満たされない限り認められないこと:(a)公共の利益のためであること、(b)法的手続に従うこと、(c)非差別的な方法であること、及び(d)収用直前の実際の価値に基づく適切な対価が支払われること
 ③ 外国投資の元本及び利益は、債務返済、法令上の控除額の支払などの一定の条件を満たせば、海外に移転できること
 ④ 長期滞在かつ複数回入国が可能なビザがイラン政府から発給されること
 ⑤ 許認可等を所管するイランの関係省庁の担当者との協議・交渉をOIETAIがアレンジすること

 この外国投資ライセンスはイラン企業への出資に必須のものではないが、上記のようなメリットを享受したい外国投資家は当該ライセンスを取得することが推奨される。
 後に見るように、日本・イランの投資協定が発効すれば、上記①から③までは同協定によりカバーされるが、上記④や⑤のように、外国企業がイランで事業展開するために必要なサポートを受けられる点が外国投資促進保護法の特色である。イランは、観光、ビジネス等の短期滞在目的の入国でもビザが必要であり、通常、1回当たりの滞在期間も限られている。そのため、長期滞在かつ複数回入国が可能なビザを得られることにより、イラン国内での事業を推進しやすくなる。また、外国企業が、製造、環境、輸入等の各許認可を所管する省庁との面談をアレンジすることは容易ではなく、OIETAIが担当者との協議をアレンジしてくれることは、実際に事業を立ち上げる上では非常に有益である。

 外国投資ライセンスが発行されるためには、以下の要件を満たす必要がある。
 ① 外国投資が経済成長、技術革新、製品の品質強化、雇用機会の増大、輸出の拡大に寄与すること
 ② 国の安全や公共の利益を危険にさらさず、環境を害さず、国家経済を混乱させず、国内投資による製造を阻害しないこと
 ③ 外国投資家を排他的かつ独占的な地位に置くような権利を与えるものではないこと
 ④ 外国投資による製品・サービスの国内市場占有率が、ライセンス発行時に各産業分類では25%を超えず、産業小分類では35%を超えないこと

 上記④の産業分類及び産業小分類は、外国投資促進保護法の規則に定められており、各分類の範囲が相当広いことから、25%や35%のシェアを超えることは多くないように思われる。
 外国投資家は、OIETAIによるアレンジにより、製造許可、輸入許可等について事前に関係当局と協議し仮合意をした上で、OIETAIへの外国投資ライセンスを申請することとなる。当該申請に際しては、外国投資家は投資の目的、事業計画、投資に関する契約等を申請書に記載して提出し、OIETAIが上記の要件に該当するか否かを審査することになる。
 なお、OIETAIは、外国投資ライセンスの申請を審査するために、外国投資委員会を設置するとされている。この外国投資委員会は、経済財務省の次官が議長となり、外務省次官、管理・計画庁次官次官、イラン中央銀行次官、投資事業に関係する省庁の次官がメンバーとされている。
 上記の申請の審査に関しては、OIETAIが予備的に審査し、外国投資委員会が最終決定をすることとなる。
 外国投資ライセンスの取得は、申請を受けてから約45日から2ヶ月を要するとされているが、外国投資委員会による審査の結果、上記要件の観点から、投資計画の修正を求められることがある。

 2. 日本・イラン投資協定

 日本及びイランの両政府は、2016年2月5日、二国間の投資協定を締結した。日本では、この協定の発効に向けた批准手続は完了しており、現在、イランでの批准手続を待っている状態である。
 この投資協定は、両国政府に対して、次のような相手国投資家の保護を要求するものである。
 ① 内国民待遇や最恵国待遇
 ② 相手国投資家に対する義務遵守義務
 ③ 輸出要求、輸出入均衡及び輸出制限に関する措置を要求することの禁止
 ④ 収用時における補償、及び送金の自由
 ⑤ 紛争解決手段として第三国での仲裁利用

 なお、投資協定が保護する「投資資産」の範囲は、「一方の締約国の投資家が、他方の締約国法令に従って直接又は間接に投資される全ての種類の資産」と幅広く定義されており、外国投資促進保護法のような「投資」の定義を限定したり、投資ライセンスを発行するための要件は特に課されていない。
 投資協定に基づく投資家と投資受入国との紛争は、投資協定に盛り込まれたISDS条項(Investor-State Dispute Settlement Clause:投資家・国家間紛争処理条項)に基づいて解決されるべきものとされることが多いが、日本・イラン投資協定にもISDS条項が存在する。ISDS条項は、投資受入国の仲裁付託の事前の合意として機能するため、同条項に基づいて国際仲裁を申し立てることができるとされている場合には、投資家は、仲裁付託に際して、投資受入国の同意を取得する必要がない(但し、その他の管轄要件は充たす必要がある)。従って、日本・イラン投資協定が発効するまでは、イランの外国投資促進保護法に基づく投資ライセンスを得たとしても、イラン政府との紛争はイランの裁判所でしか解決されないが、当該投資協定が発効すれば、ISDS条項に従った第三国での国際仲裁手続を利用できる。
 もっとも、わが国が締結している投資協定では、ISDS条項に従った紛争処理手続としては、国家と他の国家の国民との間の投資紛争の解決に関する条約(ICSID)に基づく国際仲裁手続が用いられることが多いところ、イランは、現時点では、ICSID条約に加盟していないため、同条約に定められた紛争解決機関である国際投資紛争解決センター(世界銀行傘下の組織である)を利用できない。それ故、現時点では、日本・イラン投資協定が発効した場合でも、同協定上のISDS条項に従った紛争処理手続としては、国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)の規則に基づく仲裁しか利用できないことになる。
 日本企業がイラン政府に対して国際仲裁を申し立てることには相当の躊躇があると予想されるが、投資協定は、そのような紛争を解決する手段として用いるのみならず、イラン政府関係者との協議に際して交渉の梃子として用いることも考えられる。例えば、イラン関係省庁への許認可申請に当たり、許認可を出す条件として輸出を要求される場合には、日本・イラン投資協定に基づき正当な取扱いを要求することができる。従って、イランに対する投資を検討中の日本企業としては、日本・イラン投資協定の内容について、専門の弁護士等から適切な助言を受ける等して、予め十分に理解しておくことが極めて有益である。

 3. まとめ

 日本・イラン投資協定が発効すれば、仮にイラン国内法に基づく外国投資ライセンスがなくとも、同協定に基づき、日本企業が有するイラン国内の投資資産は幅広く保護されることになる。他方、イラン国内法である外国投資促進保護法は、内国民待遇や外国投資が収用される場合の補償のみならず、外国投資を

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中島 和穂(なかじま・かずほ)

 2001年東京大学法学部卒業、2002年弁護士登録、2009年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)、2009年~2010年、ニューヨークのワイル・ゴッチェル・マンジェス法律事務所勤務、2010年~2011年、大手商社法務部出向、2010年ニューヨーク州弁護士登録。現在、西村あさひ法律事務所のパートナー弁護士、2016年12月に開設予定のドバイ駐在員事務所代表に就任予定。
 クロスボーダー案件を含むM&A、独占禁止法(企業結合ファイリング、カルテル)案件、イランなどの中東案件に数多く従事。

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