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西村あさひのリーガル・アウトルック

相続法改正:相続人でない者の権利、配偶者の居住権、遺留分制度見直し…

柴原 多(しばはら・まさる)

 法相の諮問機関「法制審議会」がまとめた相続法制見直しの中間試案に対するパブリックコメント(意見公募)の結果が公表された。婚外子の相続分を結婚した男女間の子の半分とする民法の規定は憲法違反とした2013年の最高裁の判断を機に相続法制の抜本改正へ向けて動き出したが、高齢化社会、家族関係も多様化する中で論点は多岐にわたる。柴原多弁護士が中間試案やパブリックコメント結果をもとに、問題点を整理する。 

相続法改正の方法及び実務上の留意点

西村あさひ法律事務所
弁護士 柴原 多

 1.はじめに

拡大柴原 多(しばはら・まさる)
 1996年、慶應義塾大学法学部卒業。司法修習を経て99年に弁護士登録(東京弁護士会)。事業再生・倒産事件(民事再生・会社更生・私的整理事件を中心)、第三セクターの再建、国内企業間のM&A等に関する各社へのアドバイス、法廷活動等に従事。西村あさひ法律事務所パートナー。
 「民法(相続関係)等の改正に関する中間試案」(以下「本件中間試案」という)に関する意見募集(以下「本件意見募集」という)がなされ、2016年9月30日に締め切られた。相続関係の改正は、債権法の改正に比べてさほど注目を浴びていないようにも思われるが、ある面では債権法の改正よりも国民に身近な問題であり、また事業承継問題・家族制度の変容等とも関連する(なお新聞報道によれば当初「早ければ2016年の通常国会に民法改正案が提出される見通し」とのことであったが、本件意見募集終了後のスケジュールや法改正の時期については、現状正式には公表されていない)。

 そこで以下では本件中間試案及び本件意見募集の結果を踏まえつつ、何が問題になっているかを確認したい。

 2. 本件中間試案の概要

 (1) 本件中間試案で挙げられた項目

 本件中間試案で挙げられた項目は、(ア)配偶者の居住権保護、(イ)遺産分割に関する見直し、(ウ)遺言制度に関する見直し、(エ)遺留分制度に関する見直し、(オ)相続人以外の者の貢献を考慮するための方策、である。このうち(イ)の中に含まれる配偶者の相続分の見直し(増加)は新聞報道でも大きく取り上げられたが、本件意見募集の結果によると、立法事実が明らかでない等の理由で反対意見が多数を占めたとされる(部会資料でも国民的なコンセンサスが得られているとは言い難い状況にあるとのコメントがなされている)ので、以下では当該改正以外の点について言及する(但し、全項目にまでは及んでいない点に留意されたい)。

 (2) 遺留分制度に関する見直しについて

 本件中間試案において検討されている遺留分に関する主な事項としては(ア)遺留分減殺請求権の効果の変更(原則として金銭債権とすること及びその例外措置の創設)並びに(イ)遺留分の算定方法の見直し等である。

 このうち、上記(イ)については反対意見も相当数寄せられているようなので、ここでは割愛する。

 これに対して、上記(ア)は相続に係る紛争及び事業承継問題の解決に関して重要な改正である。現行法の遺留分減殺請求権(なお遺留分制度自体の廃止を求める意見もあるようだが、遺産の形成等に貢献した遺族の潜在的持分の清算の観点からは、直ちに廃止することは難しいように思われる)制度によると、当該請求権は物権的効力を有する。そのため、相続財産に工場等の事業用資産や会社の株式等が存在する場合、遺留分減殺請求権が行使されると、それらの資産が事業の後継者と非後継者との間で共有されることとなり、円滑な事業承継が阻害されるおそれがある。

 この点、民法の特例として中小企業経営承継円滑化法に基づく措置も存在するが、その利用件数が低調であることを踏まえると、上記(ア)の立法化(つまり物権的効力ではなく金銭での解決に変容すること)が強く期待されるところである。もっとも、本件中間試案においては、受遺者等が求めた場合には、裁判所が現物返還の内容を決定する案と現行法に戻り現物財産を返還する案とが両論併記となっており、その点の検討もなお必要である。

 (3) 相続人以外の者の貢献を考慮するための方策について

 本件中間試案における検討では、相続人以外の者の金銭支払請求の範囲に係る貢献を考慮するための方策として、被相続人に対し生前療養看護その他の労務の提供等を行い特別の寄与をした場合に、相続開始後、相続人に対して金銭支払請求を認めることが提案されており、その請求権者の範囲については、(ア)二親等以内の親族で相続人でない者という絞りをかけるという方策と(イ)当該絞りを不要とする代わりに無償の労務提供を行った者という絞りをかけるという方策の2つの考え方が挙げられている。

 この制度改正が検討されている背景には、療養看護等を全く行わなかった親族が相続人として遺産の分割を受ける一方で、実際に療養看護等に努めた者が相続人ではないという理由でその分配に与れないことについての不公平感が存在するという事情がある。

 因みに、本件意見募集の結果によると、上記(イ)に賛成する意見が多かったとのことである。二親等以内の親族かどうかは必ずしも合理的な基準とは思われないので、その意味では上記(イ)の考え方が妥当であるように思われるが、他方で、かかる方策は、家族制度の根幹に関わる問題を含んでおり、その点を捉えた反対論もあり得るであろう。とはいえ、結婚しない家族という形態(LGBTを含む)も今後増加することを重視するのであれば、上記(イ)の方策の立法化を急ぐべしということになるように思われる。

 (4) 配偶者の居住権保護について

 本件中間試案において検討されている新たな居住権保護の制度は、(ア)短期的保護のための制度と(イ)長期的保護のための制度とに分かれる。このうち(ア)は、相続開始時に遺産に属する建物に無償で居住していた配偶者が、遺産分割により権利が確定するまでの期間、建物を無償で使用することができる権利を取得するというものである。また、(イ)は、居住建物を対象として、配偶者に終身又は一定期間についての使用権を付与するというものである。

 これらの制度が議論される背景には、従前の民法理論では、被相続人の死亡により、配偶者の占有権限に疑問が生じるものと解されているところ(なお、最高裁平成8年判決は、特段の事情のない限り、使用貸借契約の成立が推認されるものとしている)、核家族化及び高齢化の進む今日では残された配偶者の居住権を保護する必要性が高いと考えられる、という事情が存する。

 因みに、本件意見募集の結果によると、上記(ア)については賛成意見が大勢を占めた一方で、上記(イ)については、財産評価が困難である、長期居住権の有無や価額・買取請求権等に関して新たな紛争が生ずるおそれがある、不動産流通の阻害の懸念がある等の反対意見が寄せられ、賛否が拮抗していたとのことである。

 一方で、民間市場においてはリバース・モーゲージ(高齢者が居住する住宅を担保として融資を受け、利用者の死亡時に担保不動産を処分等する形の担保制度)も普及しつつあるところであるので、上記の居住権保護制度が立法化された場合には、利用者の死亡時における担保不動産の処分が当該居住権によって制約・影響を受けないかについても検討が必要であるように思われる。

 (5) 遺産分割に関する見直しについて

 本件中間試案において検討されている遺産分割制度の見直しに係る事項は実務上極めて重要な問題であり、具体的には、(ア)可分債権の遺産分割における取扱いと、(イ)一部分割の可否とが見直しの対象となっている。

 このうち上記(ア)については、金融機関にとっては二重払いの回避という点で重要な改正であるが、立法論としては、可分債権を遺産分割の対象とした上で、遺産分割時までの権利行使を認めるか否かで議論が分かれている。また、上記(イ)については、一部分割の必要がある場合に家庭裁判所が相当と認めるときは遺産の一部について分割の審判をすることができる旨の制度を導入する方向となっている。

 これらの制度が議論される背景としては、上記(ア)については、(現行法のように)預金債権のような可分債権が相続人間で当然に分割され、遺産分割の対象から除外されることは、可分債権の調整機能を損なうと考えられる点、上記(イ)については、(相続開始前に)一部の相続人による無断での預金引出等があり、不法行為に基づく損害賠償請求がなされた場合のように、その存否及び金額の確定に長期の時間がかかるようなときに、当該存否及び金額が確定するまで遺産分割が進められないとすることは、必ずしも合理的でない(場合によっては相続人の生活にも関わる)と考えられる点が挙げられる。

 因みに、本件意見募集の結果によると、上記(ア)については賛成意見が多数を占めたとのことである(但し、この点に関する訴訟が現在最高裁に係属中のため、最高裁の判断を踏まえるべきとの意見も多かったようである)。なお部会資料でも最高裁の判断を待つことが相当であるように思われるとのコメントがなされている。

 また、上記(イ)についても賛成意見が多数を占めたとのことであるが、一部分割の判断部分について不服申立てがなされた場合には、却って紛争が長期化する懸念を示す意見も出されている。

 (6) 遺言制度に関する見直しについて

 遺言制度に関する見直しについて、本件中間試案で検討されている事項は多岐に亘る。具体的には、(ア)自筆証書遺言の方式緩和、(イ)遺言事項及び遺言の効力等に関する見直し、(ウ)自筆証書遺言の保管制度の創設、(エ)遺言執行者の権限の明確化等である。

 しかしながら、本件意見募集の結果によると、上記(ア)(ウ)(エ)には多様な意見が寄せられたようで、最終案まではなお紆余曲折が想定される。これに対して、上記(イ)のうち、①遺言による権利変動にも対抗要件主義を採用すること及び②義務の承継に関する規律については賛成意見が多く寄せられたとのことである。このうち①は、相続人の法定相続分を超える部分については対抗要件を備えなければ第三者に対抗しえないとするものであり、②は、(判例法理を前提に)相続債務について遺言において法定相続分と異なる承継割合が定められた場合でも、原則として法定相続分に応じて承継されることを明確化したものである。

 3. 小括

 相続法に関

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柴原 多(しばはら・まさる)

 1996年、慶應義塾大学法学部卒業。司法修習を経て99年に弁護士登録(東京弁護士会)。
 事業再生・倒産事件(民事再生・会社更生・私的整理事件を中心)、第三セクターの再建、国内企業間のM&A等に関する各社へのアドバイス、法廷活動等に従事。西村あさひ法律事務所パートナー。

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