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西村あさひのリーガル・アウトルック

金融庁の今年度行政方針: 「日本型金融排除」実態調査へ

有吉 尚哉(ありよし・なおや)

 金融庁が平成28事務年度の「金融行政方針」を公表した。「銀行のビジネスモデルの転換」をうたい、検査・監督のあり方を「形式から実質へ」「過去から将来へ」と変える、など論点は多岐にわたる。低迷する経済を活性化させ、金融システムの安定を確保する一助となるのか。有吉尚哉弁護士が詳細に解説する。

 

平成28事務年度金融行政方針のポイント

西村あさひ法律事務所
弁護士 有吉 尚哉

 ■ はじめに

拡大有吉 尚哉(ありよし・なおや)
 2001年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年~2011年金融庁総務企画局企業開示課出向。現在、西村あさひ法律事務所弁護士。金融法委員会委員。資産流動化取引その他の金融取引、信託取引、金融商品取引業その他の金融関連規制への対応等を担当。
 金融庁は、平成28年10月21日に、「平成28事務年度金融行政方針」(以下「平成28年金融行政方針」という)を策定し、公表した。金融行政方針は、各事務年度において金融行政が何を目指すかを明確にするとともに、その実現に向けていかなる方針で金融庁が金融行政を行っていくか示すものであり、平成27事務年度より策定・公表されているものである。平成28年金融行政方針は、平成28事務年度(平成28年7月~平成29年6月)における金融行政の方針となる。

 金融行政方針についてはPDCAサイクルを強く意識することが明記されている。そして、平成27事務年度金融行政方針(以下「平成27年金融行政方針」という)の進捗状況や実績等の評価として、平成28年9月15日に「平成27事務年度金融レポート」が公表されていたが、平成28年金融行政方針はこの金融レポートの内容も踏まえてとりまとめられたものである。

 平成28年金融行政方針の構成は、総論的に「金融行政運営の基本方針」を記載した上で、個別の項目について具体的に取り組むべき重点施策等を整理するものとなっている。以下では、特に平成27年金融行政方針では言及されていなかった事項を中心に、平成28年金融行政方針の全体像を概説し、そのポイントを解説する。

 ■ 金融行政運営の基本方針

 平成28年金融行政方針では、まず、冒頭に金融庁における基本方針として、(1)金融システムの安定/金融仲介機能の発揮、(2)利用者保護/利用者利便、(3)市場の公正性・透明性/市場の活力を確保することにより、企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大を目指すことが述べられている。その上で、(a)金融当局・金融行政運営の変革、(b)国民の安定的な資産形成を実現する資金の流れへの転換、(c)「共通価値の創造」を目指した金融機関のビジネスモデルの転換という3項目の変革を進めることが必要とされている。

 (a)金融当局・金融行政運営の変革

 金融当局・金融行政運営の変革として、(ア)検査・監督のあり方を環境変化に適合する形に見直すこと、(イ)金融機関による開示の促進等により、良質な金融商品・サービス提供に向けた金融機関の競争を実現すること、(ウ)金融庁の組織自身を、環境変化に遅れることなく不断に自己改革する組織に変革することという3つの観点から、金融庁及び金融行政運営のあり方を変えていくことが述べられている。

 このうち、(ア)の検査・監督に関する観点については、平成28年8月に設置された「金融モニタリング有識者会議」において、次の3つの考え方・手法について議論・整理の上、とりまとめを行うとされている。

  •  形式から実質へ(規制の形式的な遵守(ミニマム・スタンダード)のチェックより、実質的に良質な金融サービスの提供(ベスト・プラクティス)に重点を置いたモニタリングが重要ではないか)
  •  過去から将来へ(過去の一時点の健全性の確認より、将来に向けたビジネスモデルの持続可能性等に重点を置いたモニタリングが重要ではないか)
  •  部分から全体へ(特定の個別問題への対応に集中するより、真に重要な問題への対応ができているか等に重点を置いたモニタリングが重要ではないか)

 また、(イ)の金融機関による開示の促進等に関する観点については、顧客から金融機関の行動・取組みがより良く見えるようにする「見える化」を進めていくとし、金融商品・サービスに係る各種手数料等の開示の促進、「金融仲介機能のベンチマーク」(金融機関における金融仲介機能の発揮状況を客観的に評価できる指標として金融庁が平成28年9月に公表したもの。5個の共通ベンチマークと、50個の選択ベンチマークから成る)等を用いた金融機関による顧客本位の取組みの自主的な開示の促進、当局が検査・監督等で得た知見の積極的な公表・問題提起、優良金融機関の表彰制度の創設等を推進するとされている。

 (b)国民の安定的な資産形成を実現する資金の流れへの転換

 国民の安定的な資産形成を実現する資金の流れへの転換という点については、家計、金融機関等、機関投資家の3つの観点からの言及がなされている。そして、(ア)家計については長期・積立・分散投資の促進、(イ)金融機関等(運用機関/販売会社)については顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)の確立・定着、(ウ)機関投資家(年金基金等)については運用の高度化の観点から、それぞれ取組みを推進することが述べられている。

 このうち、金融機関等のフィデューシャリー・デューティーは、平成27年金融行政方針でも強調されていた事項であるが、「顧客本位の業務運営」とも言い換えられていることが注目される。後述のとおり、フィデューシャリー・デューティーについては重点施策の中でも詳しく言及されている。

 (c)「共通価値の創造」を目指した金融機関のビジネスモデルの転換

 金融機関が顧客本位の良質なサービスを提供し、企業の生産性向上・国民の資産形成を助け、結果として、金融機関自身も、安定した顧客基盤と収益を確保するという好循環を目指すことが望まれると述べられている。

 平成28年金融行政方針では、以上のような基本方針を示した上で、個別の項目について金融行政の課題を整理し、具体的に取り組むべき重点施策をまとめている。以下、各項目の概要を紹介した上で、特にポイントとなる事項を中心に解説する。

 ■ 活力ある資本市場と安定的な資産形成の実現、市場の公正性・透明性の確保

 「活力ある資本市場と安定的な資産形成の実現、市場の公正性・透明性の確保」という観点からの課題としては、(1)家計の安定的な資産形成、(2)販売会社の顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)の確立・定着と金融機関の行動・商品の「見える化」、(3)機関投資家の運用の高度化、(4)運用機関による実効的なスチュワードシップ活動などが挙げられている。そして、金融庁としては、これらの課題を解決していくことにより、経済の持続的な成長に資する、より良い資金の流れを促進し、国民の安定的な資産形成の実現を目指すとし、同時にその前提となる市場の公正性・透明性を確保するため、市場監視機能の強化、会計監査の質の向上、開示及び会計基準の質の向上、市場のインフラ・システムの頑健性の確保に積極的に取り組んでいくとしている。その上で、(a)「活力ある資本市場と安定的な資産形成の実現」と(b)「市場の公正性・透明性の確保に向けた取組みの強化」とに分けて、具体的重点施策をまとめている。

 (a)活力ある資本市場と安定的な資産形成の実現

 活力ある資本市場と安定的な資産形成の実現に向けた重点施策としては、家計に対する取組みとして(ア)少額からの長期・積立・分散投資の促進のためのNISAの改善・普及、(イ)投資初心者を主な対象とした実践的な投資教育の促進と情報提供、(ウ)上場投資信託(ETF)等の投資商品の提供が、金融機関等に対する取組みとして(エ)金融機関等による「顧客本位の業務運営」(フィデューシャリー・デューティー)の確立と定着、機関投資家に対する取組みとして(オ)機関投資家による投資先企業との建設的な対話の促進とそれを通じた企業価値の向上、資本市場に対する取組みとして(カ)資本市場の活性化・利便性向上が、それぞれ掲げられている。

 このうち、家計に対する取組みに関しては、現行のNISAよりも年間投資額を少額としつつ、非課税投資期間をより長期とする「積立NISA」の実現に向けた取組みを進めることや、金融審議会においてETFを巡る課題とその改善策について検討することなどが述べられていることが、具体的な政策として注目される。

 また、金融機関等に対する取組みとして強調されているフィデューシャリー・デューティーは、前述のとおり平成27年金融行政方針でも言及されていた考え方であるが、平成27年金融行政方針では金融庁がどのようにフィデューシャリー・デューティー概念を捉えているか必ずしも明確ではなかった。この点、平成28年金融行政方針では、「顧客本位の業務運営」とも換言した上で、「金融機関等が、当局に目を向けるのではなく、顧客と向き合い、各社横並びではない主体的で多様な創意工夫を通じて、顧客に各種の情報を分かりやすく提供するなど、顧客の利益に適う金融商品・サービスを提供するためのベスト・プラクティスを不断に追求することが求められる」と説明されており、フィデューシャリー・デューティーの意味する(と金融庁が考えている)ところが理解しやすくなっている。その上で、金融商品の販売、助言、商品開発、資産管理、運用等のインベストメント・チェーンに含まれる全ての金融機関等において、顧客本位の業務運営を行うべきとのプリンシプルが共有され、実行されていく必要がある旨指摘されている。そして、金融審議会において、顧客本位の業務運営を確保する観点から、どのようなプリンシプルを確立し、それをどのような枠組みで定着させることが適当かについて検討する旨述べられている。

 今後、平成28年5月に設置された「市場ワーキング・グループ」での審議を通じて、フィデューシャリー・デューティーを果たすために求められる対応について、より明確化・具体化が図られるものと思われる。

 機関投資家に対する取組みに関しては、日本版スチュワードシップ・コードの改訂が言及されている。日本版スチュワードシップ・コードには、おおむね3年ごとを目処として定期的な見直しが期待される旨が明記されており、コードが平成26年2月27日に策定・公表されていたことから、平成29年の前半が見直し時期に当たることになる。平成28年金融行政方針の中では、平成27年9月より設置されている「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」において、(A)運用機関とその系列親会社等との関係から生じ得る利益相反の管理や運用機関のガバナンスの強化、(B)議決権行使結果の開示の充実、(C)パッシブ運用におけるエンゲージメント(対話)の促進、(D)運用機関によるスチュワードシップ活動に係る自己評価の充実、(E)資産保有者による運用機関のスチュワードシップ活動強化に向けた実効的な働きかけ・チェックの実施といった点について検討を進め、その結果を踏まえて日本版スチュワードシップ・コードについて必要な改訂を行うとされている。

 このほか、資本市場に対する取組みとして、金融審議会において、市場間競争の意義やあり方、私設取引システム(PTS)における信用取引の解禁等のPTS制度の意義やあり方等について検討を行うことが述べられている。

 (b)市場の公正性・透明性の確保に向けた取組みの強化

 市場の公正性・透明性の確保に向けた取組みの強化に向けた重点施策としては、(ア)金融取引のグローバル化、複雑化、高度化に対応した市場監視機能の強化(具体的には、(A)市場環境のマクロ的な視点での分析等、フォワードルッキングな対応、(B)自主規制機関や海外当局との連携を強化した機動的な市場監視、(C)証券不正事案の大型化・複雑化に対応した多面的・複線的な調査・検査、(D)未然予防・再発防止の観点からの法令違反等の全体像及び根本原因の追究、及び(E)IT技術を活用した監視システムの強化)、(イ)会計監査の質の向上、(ウ)開示及び会計基準の質の向上(具体的には(A)開示の質の向上に向けた取組み、及び(B)会計基準の品質向上に向けた取組み)、(エ)市場のインフラ・システムの頑健性の確保(具体的には、(A)取引所の運営、(B)清算・振替機関の運営、及び(C)店頭デリバティブ取引に係るカウンターパーティ・リスクの低減)という4項目が掲げられている。

 このうち、会計監査の質の向上に向けた具体的な取組みとしては、平成28年3月8日に公表された「会計監査の在り方に関する懇談会」の提言を踏まえ、(A)監査法人の経営陣によるマネジメント改革の取組みをサポートするため、平成28年7月に設置された「監査法人のガバナンス・コードに関する有識者検討会」において監査法人のガバナンス・コードを検討、策定すること、(B)監査法人のローテーション制度について深度ある調査・分析を実施すること、(C)監査報告書の透明化(長文化)を含む監査法人の業務運営・会計監査に関する透明性を向上させるための方策を検討すること、といった取組みを進めることが明記されている。

 また、開示の質の向上に向けた取組みとしては、平成28年4月18日に公表された金融審議会「ディスクロージャーワーキング・グループ」の報告を踏まえ、証券取引所上場規則(決算短信)、会社法(事業報告・計算書類)、金融商品取引法(有価証券報告書)に基づく3つの開示制度に基づく開示内容を整理・共通化・合理化するための取組みを更に進めることや、フェア・ディスクロージャー・ルール(企業が公表前の内部情報を特定の第三者に提供する場合に、当該情報が他の投資者にも同時に提供されることを確保するルール)の導入に向けた検討を進めることが述べられており、後者については平成28年10月に設置された「フェア・ディスクロージャー・ルール・タスクフォース」で検討が行われている。仮にフェア・ディスクロージャー・ルールが導入されることになると、企業の情報開示の基本的なあり方が変わることとなり、IRや資金調達などの実務に大きな影響を与えることが予想される。

 ■ 金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保等

 「金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保等」という観点からは、金融機関の経営環境が厳しさを増している中、ビジネスモデルの持続可能性の検証について前広に取り組む必要があるという問題意識が示されている。その上で、「金融機関が顧客本位の良質なサービスを提供し、企業の生産性向上や国民の資産形成を助け、結果として、金融機関自身も安定した顧客基盤と収益を確保するという取組み(顧客との「共通価値の創造」の構築)は、持続可能なビジネスモデルの一つの有力な選択肢であるとともに、地域経済の活性化にもつながると考えられる」と述べられている。そして、金融機関の取組みについて、当局としてより包括的に実態把握を行うとともに、「金融仲介機能のベンチマーク」等を活用しつつ、金融機関の自己評価を促すとされている。

 また、金融機関に、海外向け貸出、外貨建て資産運用、長期債への投資、不動産向け与信を増加させる等の動きが見られることを指摘し、このような動きにより、経済・市場環境が変化した際に、金融機関の健全性に悪影響を及ぼさないか検証する旨述べられている。この点、平成27年金融行政方針では投融資の具体的な形態に言及して金融機関の健全性への影響に言及した記述は見られなかったため、注目すべき記述の一つといえよう。

 その上で、金融機関の業態ごとに、次のような具体的重点施策がまとめられている。

 (a)預金取扱金融機関

 預金取扱金融機関については、(ア)金融仲介機能の質の向上と(イ)金融システムの健全性維持という2つの観点から重点施策が整理されている。

 このうち、(ア)金融仲介機能の質の向上のための施策としては、(A)金融機関の取組みについての実態把握、(B)金融仲介の質の向上に向けての金融機関との深度ある対話、(C)開示の促進等を通じた良質な金融サービスの提供に向けた競争の実現、(D)金融仲介の更なる発揮に向けた関係機関との連携促進、という4項目が挙げられている。この中では、(A)の金融機関の取組みの実態把握として、「日本型金融排除」(十分な担保・保証のある先や高い信用力のある先以外に対する金融機関の取組みが十分でないために、企業価値の向上が実現できず、金融機関自身もビジネスチャンスを逃している状況)という表現を用いた上で、金融機関と顧客企業の認識にギャップがあることによりこの「日本型金融排除」が生じていないか実態把握を行うと述べられていることが、新たな視点として注目される。また、ファンドによるエクイティ性資金の活用状況として、各金融機関における地域活性化・事業再生ファンドの経営戦略上の位置付け、ファンド運用の基本スタンス、有効な運用のための能力の確保及びガバナンスの整備状況について実態把握を行うものとされている。さらに、(C)の情報開示・情報提供として、金融機関に、「金融仲介機能のベンチマーク」等の客観的な指標を活用し、その金融仲介機能の発揮状況について、積極的かつ具体的に開示するよう促すことや、「経営者保証に関するガイドライン」及びその活用状況を促すことが挙げられている。

 (イ)金融システムの健全性維持の観点については、(A)マクロプルーデンス、(B)グローバルに活動する金融機関、(C)国内で活動する金融機関、(D)海外金融機関に項目を分けて、それぞれ取組みをまとめている。この中では、(A)マクロプルーデンスの項目の中で、総論的な指摘として、預金取扱金融機関以外の金融機関も含む我が国金融機関が、低金利環境下で、収益確保の観点からよりリスクの高い投資を行っていく可能性があることを踏まえ、特定の資産やリスクへの集中が起こっていないか注視をしていくと述べられていることが注目される。個別の項目の中でも、グローバルに活動する金融機関については海外向け与信を、国内で活動する金融機関については外貨建て資産運用、長期債への投資、不動産向け与信等を、それぞれ増加させる動きが見られることへの警戒感が示されている。

 (b)保険会社

 保険会社については、平成27年金融行政方針から引き続く施策として、環境変化が保険ビジネスへ与える影響及び保険会社のビジネスモデルの持続可能性についての分析・把握を行うことや、統合的リスク管理(ERM)態勢の高度化の状況を確認の取組みを進めることが述べられているほか、保険会社のガバナンスの検証・把握や平成28年5月に施行された保険業法の改正も踏まえた各保険会社・保険募集人による顧客本位の取組みの対応状況の確認を行うことが述べられている。

 (c)金融商品取引業者等

 金融商品取引業者等については、(A)証券会社、(B)外国為替証拠金取引業者(FX業者)、(C)適格機関投資家等特例業者、(D)第二種金融商品取引業者及び投資助言・代理業者、(E)信用格付業者の5つの業態に分けて施策が整理されている。

 このうち証券会社については、大手証券会社グループとそれ以外の証券会社に区分されており、前者に関しては、ビジネスモデルの持続可能性を確保するため、自社の強みと弱みを的確に分析した上で、市場・景気変動や経営環境の変化を捉えて重要なビジネス戦略を機動的に見直すことや、それらに対応したリスク管理ができているかについて、深度ある対話を行うとされている。また、後者に関しては、収益構造等の分析を深め、将来の経営状況や投資者保護のための態勢整備の取組みについて対話を行うとし、特に地域証券会社については、必要な投資者保護等に向けた対応も含め、経営者の問題意識を確認・醸成すると強調されている。

 なお、平成28年金融行政方針の内容を受けて、平成28年10月25日には証券取引等監視委員会から「平成28事務年度証券モニタリング基本方針」が公表されており、金融商品取引業者等に対するオンサイト・オフサイトのモニタリングについてのより具体的な取組み方針及び主な検証事項等がまとめられている。

 (d)その他

 ゆうちょ銀行・かんぽ生命保険については、民間金融機関との連携や郵便局ネットワークの活用等を通じ、経済の持続的成長及び国民の資産形成に貢献する取組み、資産規模のコントロール、並びに資産運用の多様化及びそれに応じたリスク管理の高度化の取組みを促すことが言及されている。

 また、貸金業者については、規模・特性に応じた経営実態や、保証業務等の新たなビジネスの展開によって生じる課題の把握のため、ヒアリングを実施するとされている。

 ■ IT技術の進展による金融業・市場の変革への戦略的な対応

 「IT技術の進展による金融業・市場の変革への戦略的な対応」という観点からは、(a)「FinTechへの対応」、(b)「サイバーセキュリティの強化」、(c)「アルゴリズム取引等への対応」の3項目に分けて、具体的重点施策がまとめられている。

 (a)FinTechへの対応

 平成27年金融行政方針においても、同様に「FinTechへの対応」が重点施策の一つとして掲げられていたが、平成28年金融行政方針においては、利用者利便や生産性の向上、コスト削減など、我が国金融・経済の発展につなげていくとともに、利用者保護や不正の防止、システムの安定性等の観点から必要な対応を図っていくという観点に基づき、より詳細にFinTechへの対応に関する施策が掲げられている。

 まず、「FinTechの進展に応じた法制面の対応」として、金融審議会において、オープン・イノベーション(金融機関とIT企業等の協働)、あるいは、利用者保護や不正の防止及びシステムの安全性確保等の観点も踏まえつつ、決済関連法制の整備等について検討することや、顧客と金融機関との間でビジネスを展開する事業者を巡る法制のあり方や金融グループを巡る制度面の整備等について検討するとされている。平成28事務年度においても、これらの観点から、FinTech関連の制度改正・制度整備が進められるものと見込まれる。

 次に、「金融機関による機動的な対応の促進」の観点から、オープン・イノベーションを推進する等、技術革新が金融業・市場にもたらす構造的変化に対応していく必要があると指摘した上で、FinTechの進展が金融業に与える影響について、海外の金融セクターの動向等も調査しつつ、セクターごと及び時間軸の分析を含めた分析を行い、その結果に基づき、金融機関等において、組織・人材・システム等の基本的な部分を含め、変革に向けた果断な意思決定が遅滞なく行われるよう、金融機関等との間で深度ある対話を行っていくとされている。

 また、「IT分野の技術革新の取込み」として、IT分野の進展を金融サービスに取り込んでいくため、平成28年6月に設置された「決済高度化官民推進会議」において、アクション・プランに掲げられた事項を官民連携してフォローし、実行することが述べられている。特に、企業間送金のXML電文への移行については、商流サイドとの連携や電子請求機能の取込みなど、企業における財務・決済プロセス全体の高度化を通じた生産性の大幅な向上につながるよう取り組んでいく旨言及されていることが注目される。

 さらに、「FinTechに係る国際的ネットワーク・エコシステムの形成」として、平成28年5月に設置された「フィンテック・ベンチャーに関する有識者会議」における検討も踏まえ、FinTechに係る国際的ネットワークや、多様な分野の専門家等と連携・協働する中でFinTechベンチャー企業の登場・成長が進んでいく環境(エコシステム)の形成に向けた取組みを継続するとされている。

 このほか、平成27年12月に設置されたFinTechサポートデスクの活用や、事業者に共通する課題の対外的な情報発信にも取り組むとされている。

 (b)サイバーセキュリティの強化

 平成27年金融行政方針でも同旨の内容が言及されていたが、平成27年7月2日に策定・公表された「金融分野におけるサイバーセキュリティ強化に向けた取組方針」に沿って、実態把握を通じた金融機関のサイバーセキュリティ管理態勢の向上、一般社団法人金融ISAC等を通じた情報共有の推進等に取り組むことなどが述べられている。

 (c)アルゴリズム取引等への対応

 近年、日本の証券市場においても、アルゴリズムを用いた高速取引の影響力が増大していることを踏まえ、このような取引の影響力の増大が、市場の公正性、透明性、安定性等に及ぼす影響について議論を進めるとともに、欧米における規制等の動向も踏まえながら、我が国における必要な対応について、金融審議会で検討を行うとしており、これを受けて、平成28年5月に設置された「市場ワーキング・グループ」で検討が進められている。これまで金融規制が適用されていない業態に対して規制の適用を検討する動きであり、アルゴリズム取引を直接ビジネスとしている業者だけでなく、関係当事者や周辺領域の業態を営む業者を含めて、制度改正の議論や実務への影響に注視が必要となろう。

 ■ 国際的な課題への対応

 平成27年金融行政方針でも概ね同趣旨の項目が重点施策とされていたが、金融規制・監督のあり方について国際的な提言を行うことや、金融当局間の国際的なネットワーク・協力を強化することが重点施策として掲げられている。

 それに加えて、平成28年4月に監査監督機関国際フォーラム(IFIAR)の事務局が東京に開設されることが決定し、平成29年4月に事務局開設と東京での本会合開催が予定されていることを踏まえて、その後の円滑な運営に向けて、必要な支援を行っていく旨が述べられている。

 ■ 顧客の信頼・安心感の確保

 「顧客の信頼・安心感の確保」という観点からは、新たに「利益相反管理の強化」、「海外発行カード対応ATMへの対応」、「仮想通貨交換業への対応」といった項目が重点施策に追加されているほか、平成27年金融行政方針から継続されているものとして、「個人顧客への貸出等における説明や審査態勢の整備」、「障がい者や高齢者の利便性向上」、「高齢者に対する適切な勧誘・販売態勢の整備」、「金融ADR制度の運用」、「多重債務問題への取組み」、「インターネット等を利用した非対面取引の安全対策・不正送金への対応」、「振り込め詐欺等への対応」、「金融犯罪・無登録業者への対応」といった項目が、具体的重点施策として掲げられている。

 ■ その他の重点施策

 以上の項目に加え

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有吉 尚哉(ありよし・なおや)

 2001年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年~2011年金融庁総務企画局企業開示課出向。現在、西村あさひ法律事務所弁護士。金融法委員会委員。資産流動化取引その他の金融取引、信託取引、金融商品取引業その他の金融関連規制への対応等を担当。

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