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西村あさひのリーガル・アウトルック

多様化するファンドへの投資の契約、交渉、デューディリジェンス

本柳 祐介(もとやなぎ・ゆうすけ)

 低金利を背景に、投資ファンドが人気のようだ。単純な投資目的のものから新規事業への足がかりとしたり研究開発資金の外部調達を目指すものまでその目的も多様化しているとされる。本柳祐介弁護士が、投資ファンドを上手に活用するため、投資に際して検討すべき点について詳細に解説する。

 

ファンド投資家がファンドに投資するに際して留意すべき事項
とファンド契約への反映

西村あさひ法律事務所
弁護士 本柳祐介

 1. はじめに

拡大本柳 祐介(もとやなぎ・ゆうすけ)
 2001年早稲田大学法学部卒業。2003年弁護士登録。2010年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)、2010年~2011年、米ニューヨークのデービス・ポーク・アンド・ウォードウェル法律事務所勤務、2011年~2012年ドイツ証券株式会社出向、2011年ニューヨーク州弁護士登録。現在西村あさひ法律事務所パートナー。
 低金利が長引く中、国内投資家による投資ファンドへの投資は広がりつつある。特に不振企業に投資する企業再生ファンド、新興企業に投資するベンチャーファンド、地方創生のため地元企業に投資する地域活性化ファンド、地域の産業発展を目的とする六次化ファンドなど、国内における近時のファンド組成の広がりは著しい。また、海外のファンドに対する投資も増えてきているが、単純な投資目的のものに加え、新規の地域又は事業分野への進出への足がかりとしてファンドに投資するケースも増えている。ファンド組成に関する動きも多様化を見せており、従来は企業内部でまかなっていた研究開発資金を外部調達するなど、外部投資家の資金を入れることを目的としたファンドの組成例も広がりつつある。

 通常の投資ファンドは、その仕組み上、ファンド運営者に運営が一任されるものであり、投資家はファンドの運営に対する判断権を与えられない。そのため、ファンドに投資する際には、ファンド運営者の能力及びファンドの運営ルールについて十分な確認を行い、必要に応じてファンド契約の交渉を行う必要がある。

 一口にファンドといっても多種多様のものがあり、投資家の投資目的も一つではないため、投資の際に検討すべき事項は具体的事情によって異なってくるが、本当に大切なポイントには共通点が多いため、以下では、ファンド投資家としてファンドへの投資に際して検討すべき主要な事項について、その概略を説明する。

 2. ファンドの運営体制の確保

 ファンドの投資家がファンドの運営に関する意思決定に関与できる場面は限定されている。投資決定及び投資処分といった投資判断はファンド運営者に対して全面的に委ねられるほか、その他の運営事項もファンド運営者がその裁量に基づいて決定するのが原則となる。そのため、ファンドへの投資に際しては、ファンドの運営体制が十分なものであることを確認することが極めて重要となる。

 ファンドの運営体制については、投資案件の発掘、投資先のデューディリジェンス、投資実行のエグゼキューション、投資対象のバリューアップ、投資持分売却のほか、投資家に対するレポーティングや法令遵守に関する体制も十分なものであることを確認する必要がある。

 ファンド運営者にファンド運営の実績がある場合は、その実績・運営状況を確認するとともに、投資対象となるファンドについて運営体制が先行ファンドと違いがないことを確認することとなる。新規のファンドの場合は、過去の実績を検討することはできないため、運営体制を慎重に確認することが必要となる。具体的には、ファンド運営者における役職員の人数及び知識・経験、親会社など関係会社からのサポート態勢、外部専門家の起用予定などを確認することとなる。

 ファンド運営者に対するデューディリジェンスによってファンドの運営体制が十分であることが確認できたとしても、ファンドの存続期間中に体制の変更が生じる可能性があるため、変更が生じた場合の対処を契約書に定めておくことが必要となる。また、ファンド運営にとってきわめて重要な人物がいる場合、いわゆるキーパーソン条項を定めることがある。かかる条項では、重要人物をキーパーソンと位置づけ、キーパーソンがファンドに関与しなくなった場合には新規投資やファンドの解散といった効果が定められる例が多い。また、ファンド運営者の株主やファンドに対するサービス提供者(投資顧問など)がファンド運営にとって重要である場合には、これらの者の変更を理由としてファンドの活動の制限やファンドの解散の効果が定められることがあるが、そのような例は必ずしも多くない。

 さらに、ファンド運営者、キーパーソンなどがファンドに対して注力しなくなるとファンドのパフォーマンスが落ちることとなるため、ファンドに対する職務専念義務を定める必要はないか、他のファンドの運営を禁止する必要はないかを検討することが望ましい。

 ファンドの運営の適切性については投資家による監視も必要となるため、ファンドから投資家に提供される報告書の種類及び内容、投資家によるファンド運営状況の調査権などを確認し、適切な内容を契約に反映することが必要となる。

 3. 投資戦略・投資手法

 ファンドに対する投資から十分なリターンが得られるかについては、ファンドの運営体制のほかに、投資戦略・投資手法が重要となる。そのため、ファンドが投資対象とする地域、投資対象とする資産の種類・分野、想定するリスクとリターンなどを確認する必要がある。また、投資戦略・投資手法それ自体が魅力的であることに加えて、それがファンド運営者の役職員の特長と合致している必要があるため、この点についても確認することが必要となる。

 また、ファンドが借入れ・保証又はデリバティブ取引を行う場合、これらを行わない場合と比べてハイリスク・ハイリターンとなることから、借入れ・保証又はデリバティブ取引の可否についての確認が必要となる。さらに、投資手取金の再投資を認める場合にも、同じ資金を複数回使用することになるため、1回きりの場合と比べるとハイリスク・ハイリターンの性格が強まることとなるので、再投資の可否についても確認する必要がある。

 このほか、ファンドの投資戦略・投資手法が、ファンド投資家にとって、自らに規制のある法令等に違反しないか、自らの投資ポリシーに違反しないかも確認する必要がある。例えば、反社会的勢力に対する投資の禁止のほか、銀行法、信用金庫、保険会社などは議決権保有規制が特に問題となることが多い。

 具体的な投資先の決定はファンド運営者の裁量に委ねられることになるが、投資手法の基本的な事項については契約に定められるため(多くの場合、投資ガイドラインで定められる)、投資前にこれを確認すべきである。なお、投資方針についてファンド運営者から口頭で説明され、又は勧誘資料で記載されていたとしても、契約書において記載されていない限り、それに反する投資活動について義務違反を問うことは困難であるため、投資手法のうち重要な事項については必ず契約書に記載されていることを確認し、記載されていない場合にはそれを明記するよう交渉する必要がある。

 4. 利益相反取引の制限

 上記のとおり、ファンドの運営はファンド運営者に委ねられる。ファンド運営者はファンド投資家に対する善管注意義務(受託者責任)を負うものの、ファンド運営者とファンドとの間で利害が対立する利益相反取引は、ファンド運営者がファンドを害する可能性が類型的に高いことから、予め厳格な要件を定めておくことが望ましい。

 利益相反取引の制限を検討するに際しては、どのような利益相反取引が想定されるかを考慮することが必要となる。想定される利益相反取引としては、ファンド運営者との取引、ファンド運営者の役員との取引、ファンド運営者が運営するファンドとの取引などが典型であるが、投資顧問が重要な役割を果たす場合などもあり、ファンド運営に関与する者に応じて具体的な検討を行う必要がある。なお、ファンド運営者に対して金融商品取引法の適用がある場合(適格機関投資家等特例業務を行う場合も含む)には、法令によって利益相反取引について一定の制限が課されているが、海外のファンドの場合にはそのような制限が存在するかは明らかではないため、契約書において制限が定められていることを確認し、記載されていない場合にはかかる制限を明記するよう交渉する必要がある。

 直接的な利益相反取引のほか、ファンド運営者が魅力的な投資機会をファンドに提供せずに自ら投資し、又は第三者に提供することによって、ファンドの利益を害するリスクもある。特に、この問題はファンド運営者が自ら投資活動を行う場合やファンド運営者によって他に同種のファンドが運営されている場合には問題となりやすい。そのため、契約書においてそれらについて制限が定められていることを確認し、記載されていない場合には明記するよう交渉することが望ましい。

 5. 投資リターンの分配とファンド運営者の報酬

 ファンドに対する投資に際しては、投資リターンの分配がどのように行われるか、ファンド運営者に対してどのような報酬が支払われるかも重要である。投資家としては、自らへの分配が多額であり、かつ優先的に行われることが望ましいと言えるが、ファンドのパフォーマンスの最大化の観点からは、ファンド運営者に適切なインセンティブを与えることも重要であり、この観点も含めて投資リターンの分配とファンド運営者の報酬の支払いが適切なものとなっているか確認し、交渉する必要がある。

 ファンド運営者に対する報酬としては、ファンド運営者の日々の活動のための原資として管理報酬が設定されるほか、投資のパフォーマンスに対する成功報酬が定められることが多い。但し、海外のファンドにおいては、投資成果の分配を優先的に行うという内容の持分をファンド運営者に与え、成功報酬の代替とすることも多い(キャリード・インタレストと呼ばれる)。

 成功報酬又はキャリード・インタレストについては、支払いのタイミングも重要となる。投資家の出資元本に相当する額が全額分配された後に初めて成功報酬又はキャリード・インタレストが支払われる場合、投資家は優先的に投資元本を回収することができる。より投資家に有利なアレンジとして、投資家に対して一定割合の優先配当まで行った後に初めて成功報酬又はキャリード・インタレストを支払うこととする場合もある。

 これに対して、個別の投資案件ごとに投資がプラスであれば成功報酬又はキャリード・インタレストが支払われるというファンド運営者側に有利なアレンジもあり得る。但し、この方式が採用される場合であっても、後の投資案件で十分なリターンが得られなかった場合には、成功報酬又はキャリード・インタレストは支払われず、支払い済みのものは返金されることが一般的である。このようなファンド運営者による成功報酬又はキャリード・インタレストの返還は「クローバック」と呼ばれる。ファンド運営者によるクローバックについては、その実効性は返還時におけるファンド運営者の資力次第となる点に注意が必要である。この点、担保、保証、デポジットなどの方策によって返還義務の履行を確保することが望ましいものの、現実的にはそのような対処は難しく、投資家としては、分配時期を遅らせることで、そもそもクローバックが生じる可能性自体を減らす方向で交渉することが現実的であろう。

 分配については、現物分配の可否も重要なポイントとなる。無理に現金化して分配するよりも、現物分配をした方が投資家にとってメリットがある場合もあるが、現物分配がなされた場合には受領した投資家側での投資処分が困難な場合や、議決権保有規制などの規制法上の問題を生じさせることもある。現物分配が問題を生じさせる場合には、ファンド投資家としては、金銭で分配がなされるべきことを規定するよう、交渉することが必要となる。

 6. 出資、持分譲渡・払戻し

 ファンド投資に際しては、ファンド投資家としては、自らがどのような出資義務を負うかについて確認する必要がある。この点、ファンド運営者から出資要請がある都度の出資が必要となるキャピタル・コール方式が採用されている場合には、通知後一定期間内における出資が求められることとなるところ、海外のファンドにおいて営業日ベースで期間が定められている場合には、営業日の定義を確認する必要がある。そして、かかる営業日の定義において日本の営業日が考慮されていない場合には、GWやシルバーウィークなど大型連休の時期と重なると期限内の出資に困難を来す可能性があるため、日本の営業日を考慮する又は出資履行までの期間を長めにとるように、ファンド運営者側と交渉する必要がある。

 また、出資義務を怠った場合の制裁は厳しいことが多いため、出資義務を期限内に履行できない可能性がある場合には、その制裁も慎重に確認する必要がある。

 ファンドに対する出資義務が、契約によって合意した出資約束金額を上限とすること(有限責任)が定められているか否かも、ファンド投資家にとっては確認が必要な事項の一つである。また、一度分配を受けた金額について、再出資義務が課されているか否かも確認が必要である。さらに、ファンドによっては、債権者などファンド運営者以外の者から出資要請が出されることがあるため、どのような場合に出資義務を負うかについても、予め確認しておくことが必要である。

 ファンド持分の払戻し及び譲渡は、投資回収の機会として重要であることから、ファンド投資家としては、これについての制限の有無・内容を確認することも必要である。ファンドからの脱退時における持分の払戻しについては、持分の全額の払戻しを受けることができない旨が定められている例も多く、ファンド投資家としては、脱退することが想定されていないとしても、脱退せざるを得ない場合に、どのような取扱いがなされることになるかを確認しておくことが必要である。

 7. 投資リターン以外の目的の実現

 ファンド投資家がファンドに対して投資する際は、多くの場合、経済的なリターンの獲得が主たる目的であるものの、これ以外の目的も存在する場合がある。この問題は、主として事業会社による投資の際に問題となる。

 例えば、経済的なリターン以外に、戦略的投資家として投資の機会を得ることを目的とする場合がある。このような目的の具体例としては、①ファンドの投資可能金額を超える等の理由によりファンドが共同投資家を募る場合に、共同投資家として参加する機会を得る目的、②ファンドが投資先企業を売却する際の売却先候補として声をかけてもらう目的等が存する。これらの投資機会は、当然のことながら条件が合わない限り実現しないが、参加機会を与えられるだけでも価値がある。このような機会を狙ってファンドに投資する場合、ファンド運営者との間で書面による合意をしておくことが望ましいが、このような投資機会提供の合意は、ファンドのルールに関するものではない(共同投資家の選定や売却先の選定はファンド運営者が裁量によって決定すべき事項である)ため、ファンド契約ではなくサイドレターにおいて定められることが一般的である。

 また、経済的なリターンの獲得以外の目的としては、新規事業分野に関する情報収集や人材育成を目的にファンドへの投資がなされる例もある。ファンドに対して投資を実行することで、ファンド運営者から報告やレクチャーを受け、又はファンド運営者に人を派遣することを通じて、投資対象分野に関する情報を仕入れることや、投資の実務を学ぶことができる。このような情報提供投資機会の提供についても、ファンド運営者との間で書面による合意をしておくことが望ましいが、ファンドのルールに関するものではないため、これについても、やはりファンド契約ではなくサイドレターにおいて定められるのが一般的である。

 8. サイドレターと出資契約

 ファンド契約に関連して、ファンド運営者と投資家との間で個別に合意書が締結されることがあり、一般的にサイドレターと呼ばれる。これは、ファンド契約の内容を変えるものではなく、他の投資家を拘束する効果を持たない。

 サイドレターに定められる事項として、上記7に記載した事項のほか、法令遵守等のために必要となる情報の提供、投資家としての地位譲渡の事前承認、諮問委員会の委員への選任権などが定められる。現物分配を受領できない投資家の場合、ファンド運営者が分配される財産の現金化に協力するという合意がなされることもある。

 サイドレターは投資家全体に直接的な法的拘束力を持つものではないが、これに基づいてファンド運営者が投資家に対して義務を負担することを通じてファンド運営者の権限が制限されるという効果を持つため、結局はファンド全体に影響を及ぼすこととなる。そのため、他の投資家によって締結されたサイドレターの開示や他のサイドレターに定められた権利を自らにも適用できるとする権利(最恵国待遇条項)を求めることが望ましい。但し、かかる権利が得られるかはバーゲニング・パワーの強さ次第となる。

 なお、海外のファンドを中心に、ファンド契約に関連して出資契約も締結されることがある。これにはファンド運営者の法令遵守を目的とした投資家の属性に関する表明保証が含まれていることが多く、ファンド投資家としては、投資の際にはかかる表明保証の内容について確認することが必要となる。

 9. おわりに

 M&Aの世界では、買収対象の企業に対するデューディリジェンスを行い、契約書についても十分に検討・交渉を行うこと

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本柳 祐介(もとやなぎ・ゆうすけ)

 2001年早稲田大学法学部卒業。2003年弁護士登録。2010年コロンビア大学ロースクール卒業(LL.M.)、2010年~2011年、米ニューヨークのデービス・ポーク・アンド・ウォードウェル法律事務所勤務、2011年~2012年ドイツ証券株式会社出向、2011年ニューヨーク州弁護士登録。現在西村あさひ法律事務所パートナー。
 資本市場における資金調達、金融商品市場の取引規制、投資ファンドの組成、アセット・マネジメント、金融業関係規制などを担当。

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