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西村あさひのリーガル・アウトルック

取引先・買収相手の贈賄リスクをどこまでどう調べるべきか

山田 将之(やまだ・まさゆき)

反贈賄デューデリジェンスの意義と実践

弁護士・NY州弁護士
山田 将之

拡大山田 将之(やまだ・まさゆき)
 2001年早稲田大学法学部卒業。司法修習(58期)を経て、2005年弁護士登録。2012年米国ノースウェスタン大学ロースクール卒業(LL.M.)、2013年ニューヨーク州弁護士登録。2012年~2013年Pillsbury Winthrop Shaw Pittman法律事務所勤務。危機管理案件、コンプライアンス案件等に従事。
 日本企業が新興国で現地企業とビジネスを行う際に、当該ビジネスの相手方が贈賄を行っていないか等を検証するために調査を行うことが増えてきた。また、逆に、日本企業が外国企業から贈賄リスク把握のための調査を受けることもある。

 本稿では、実務として広まりつつある反贈賄デューデリジェンス(以下、デューデリジェンスのことを「DD」といい、反贈賄デューデリジェンスのことは「反贈賄DD」という。)について、それが一体何のために実施され、なぜ必要なのか、その意義を明らかにするとともに、その実践に当たってのポイントを解説する。

 1. 反贈賄DDの意義

 反贈賄DDとは、ビジネスの相手方について、米国のForeign Corrupt Practices Act(以下「FCPA」という。)や英国のBribery Act 2010(以下「UKBA」という。)などの国際的に適用のある外国公務員贈賄規制や、当該ビジネスの相手方に適用のある現地の贈賄規制等の違反のリスクを調査・検証・評価することをいう。

 反贈賄DDが行われる場面は、大きく分けて2つある。1つは、他の企業を買収・吸収するなどM&Aの場面であり(以下、かかる場面で行われる反贈賄DDを「M&Aに際して行うDD」ということがある。)、もう1つは、他の企業や個人をエージェントやコンサルタントとして起用したり、他の企業とジョイントベンチャーを組成したりする場面である(以下、かかる場面で行われる反贈賄DDを「エージェント起用等に際して行うDD」ということがある。)。
 M&Aに際して行うDDは、主として、M&Aの結果、他の企業の権利義務を承継するのに伴い、当該他の企業がM&A以前に行っていた贈賄行為の責任を承継するおそれがあるため、対象会社がM&A以前に贈賄を行っていないかを把握することを目的に行われる。
 これに対し、エージェント起用等に際して行うDDは、エージェント等が、エージェント起用等の後に当社のために贈賄を行うことになれば、当社も贈賄の共犯等として摘発を受けるおそれがあるため、そのようなリスクの有無の検証のために行われる。
 このような目的の違いから、M&Aに際して行うDDと、エージェント起用等に際して行うDDでは、リスク評価の視点が異なりうる。すなわち、M&Aに際して行うDDでは、すでに行われた贈賄の責任を引き継がないかが問題であるため「対象会社が過去に贈賄をしていないか」が重要であるのに対し、エージェント起用等に際して行うDDでは、今後贈賄が行われると共犯等となるおそれがあるという点が問題であるため「対象会社が今後贈賄をしないか」が重要となる。例えば、ある新興国において以前は贈賄が当たり前のように行われており、対象会社も過去に贈賄をしていたという場合、M&Aの場面では、過去の贈賄の責任を承継するおそれがあるため、M&Aは適当でないという結論になるかもしれない。しかし、エージェント等として起用するだけであれば、過去に贈賄を行っていたとしても、当該新興国の体制の変化(独裁政権の崩壊や反腐敗運動の高まり等)やそれに伴う現地慣習の変化などの事情があれば、エージェント等が今後贈賄に及ぶリスクは低い(又はコントロール可能である)として、当該エージェント等の起用は必ずしも不適当とはいえないという結論となることもありうる。
 もっとも、M&Aに際して行うDDにおいても、今後贈賄が行われるリスクが高いのであれば、ポストマージャーインテグレーションの過程でリスクに応じた手当をすべきであるから、今後贈賄が行われるリスクがどの程度あるのかという視点での調査も必要となる。また、エージェント起用等に際して行うDDにおいても、過去の贈賄の有無は、今後贈賄を行う可能性を評価する事情になるので、過去の贈賄の有無についても調査を行うことになる。そのため、実際の調査事項としては、どちらの場面でもそれほど変わりはない。

 2. 反贈賄DDの根拠

 国によっては企業に反贈賄コンプライアンス体制の整備を求める法令がある場合もあるが、具体的に反贈賄DDを義務付ける法令上の根拠はない。DDの必要性は、各国の外国公務員贈賄規制におけるガイドライン等に示されている。

 例えば、米国司法省(Department of Justice。以下「DOJ」という。)と証券取引委員会(Securities and Exchange Commission。以下「SEC」という。)が共同で公表しているFCPAのガイドライン(A Resource Guide to the U.S. Foreign Corrupt Practices Act)は、第三者を通じて贈賄することを明示的に禁じた上で(21頁)、リスクベースによるDDは、第三者との取引において特に重要であり、DOJやSECは企業が効果的なコンプライアンスプログラムを構築しているかどうかの評価に当たり、このようなDDの有無を考慮するとしている(60頁)。また、M&Aに際して行うDDは、対象会社の企業価値の算定やM&Aにより負担することになるコストについての交渉に役立つとし、DOJやSECは、このようなDDを企業によるコンプライアンス遵守の表れとして評価し、摘発に当たって考慮するとしている(62頁)。さらに、2017年2月にDOJのCriminal DivisionのFraud Sectionが公表した企業コンプライアンス評価に関するドキュメント(Evaluation of Corporate Compliance Programs)でも、企業犯罪一般についてであるが、「Third Party Management」や「Mergers and Acquisitions (M&A)」において、DDによってリスクを正しく把握・評価できる体制になっているかどうかを訴追の際の考慮要素の1つとして挙げている。

 また、UKBAのガイドライン(The Bribery Act 2010, Guidance)も、第三者が贈賄をすることを防止するためDDを実施することを推奨しており(Principle 4)、経済産業省が公表している外国公務員贈賄防止指針も、企業が目標とすべき贈賄防止体制の内容として、「契約前の確認手続(表明保証及び宣誓、DD)」を社内規程に盛り込むことを挙げている(第2章2(3))。
 そのほか、OECDの各種ガイドラインやISO(国際標準化機構)による腐敗防止マネジメントシステム(Anti-Bribery Management System)に関する国際規格であるISO37001等でも反贈賄DDの有用性が謳われている。

 3. 反贈賄DDの実施方法

 反贈賄DDは、リスク・ベース・アプローチで行うべきとされている。すなわち、リスクが高い相手/ビジネスについては慎重な調査が要求されるのに対し、リスクが低い相手/ビジネスについてはそれよりも項目や程度を限定した調査も許容されうる。
 リスクが高い相手/ビジネスか否かは、①ビジネスを行う国・地域(類型的にリスクの高い地域かどうか)、②ビジネスの取引金額(経験則上、少額の取引のために贈賄を行うことは考えにくい)、③相手方の業務の内容(公務員等と接触があるか)などから判断される。

 反贈賄DDにおいてどのような点を調査すべきかは、個々の場面によって異なりうるが、一般的には、(i)報道・風評、(ii)前科・前歴、(iii)公務員とのつながり、(iv)業務遂行能力、(v)業務に対する報酬の妥当性、(vi)報酬の支払先や支払方法、(vii)コンプライアンス体制の整備状況、(viii)反贈賄DDへの協力姿勢などが調査事項となる。

 調査方法としては、対象会社に質問状を送付する、対象会社からコンプライアンス体制を示す資料を提出してもらう、対象会社のコンプライアンス責任者等に対しインタビューを行う、調査会社を起用して背景調査をさせる、などが考えられる。リスクに応じて、これらの方法を組み合わせて実施する。

 反贈賄DDは、取引に入る前に行う必要があるが、取引開始後も一定期間ごとに反贈賄DDを行うのが望ましい場合がある。また、同一の相手方と再度取引を行う場合、前回の反贈賄DDの結果をそのまま流用できるかは慎重に検討する必要がある。同一の相手方であっても、取引ごとにリスクの大きさが異なりうるからである。

 4. 適切な反贈賄DDとして要求される水準

 反贈賄DDを行うとしても、どの程度の調査・検証を行えば十分なのかが問題となる。以下、反贈賄DDが不十分であったと指摘されている事例を参考に検討したい。

 (1) 形式的な質問状の送付だけでは不十分であるとされたケース(Technip S.A.)

 2010年6月、Technip S.A.(以下「Technip」という。)は、ジョイントベンチャーのメンバーであった他社と共に、ナイジェリア公務員に対し贈賄を行ったとして、DOJ及びSECとの間で、罰金約2億4000万ドルを支払うこと等を合意した。
 SECによる訴状の中で、Technipは、贈賄に関与した英国のエージェントについてDDを実施したが不十分であり、また贈賄に関与した日本のエージェントについてDDを実施していなかったとされている。Technipは、エージェント一般に対するDDについて、最低限の情報を確認するための質問状を送付し、書面で回答を得ることしかしておらず、エージェントに対するインタビューや、背景情報のチェック、質問状から更に踏み込んだ情報の確認等はしていなかったとされている。Technipのシニアエグゼクティブも、TechnipにおいてDD手続は、DDをやったという記録を残すための形だけのものであったと認めているとされる。

 (2) 登録書類・定款・議事録を入手しただけでは不十分とされたケース(Embraer S.A.)

 2016年10月、Embraer S.A.(以下「Embraer」という。)は、ドミニカ共和国、サウジアラビア、モザンビークの公務員等への贈賄に関与し、また、インドにおいて帳簿に不実記載をしたとして、DOJとの間で罰金約1億700万ドルを支払うこと等を合意した。
 本件において、Embraerは、モザンビークにおいて複数のエージェントを通じて国営企業の職員に対し賄賂を支払ったとされている。Embraerは、エージェントに対して、最低限のDDしか行っておらず、具体的には、Embraerのエグゼクティブが個人的に契約担当者や法務部門から聞いた情報に依拠してリスク評価がなされており、エージェントの業務について何も客観的な証拠を要求していなかったとされる。同様に、Embraerは、モザンビークの他のエージェントについてのDDも不十分だったとされ、具体的には、エージェントの登録書類、定款、取締役会議事録を入手しただけであり、エージェントの業務について客観的な証拠を要求しなかったとされる。

 (3) レポート取得やネット検索等では不十分とされたケース(Eli Lilly and Company)

 2012年12月、SECは、Eli Lilly and Company(以下「Lilly」という。)の子会社がロシア、ブラジル、中国及びポーランドで外国公務員等に対し不適切な支払いを行ったとしてLillyを訴追した。
 SECによれば、Lillyのロシア子会社は、1994年ころから、ロシア政府が指定した複数の第三者へ支払いを行っていたが、当該第三者については住所と銀行口座以外はほとんど何も知らず、オーナーが誰なのかや実体があるのかも分かっていなかったとされている。当該第三者は、Lillyのロシア子会社のために、通関手続や製品の運送の円滑化や製品のプロモーション、市場調査等を行うこととされていたが、Lillyの子会社は当該第三者の業務の具体的内容を確認しなかったとされている。
 Lillyは、1997年と1999年にロシア子会社のレビューを行い、コンサルタントの業務について書面化すること等を推奨したが、Lillyのロシア子会社は、コンサルタントの業務内容等について十分に確認しないまま、契約及び支払いを続けたとされている。例えば、Lillyのロシア子会社は、キプロスの会社と契約を締結したが、その際に当該キプロスの会社に対して実施したDDでは、米国大手信用調査会社にレポートの作成を依頼し、公表情報についてインターネットで検索を行っただけであったとされる。これらのレポートや検索結果では、キプロスの会社のオーナーをはじめとする情報は何も分からなかったとされる。
 本件については、SECのEnforcement Divisionの Foreign Corrupt Practices Unitのチーフが、「Lilly及びその子会社は、第三者のDDについて、チェックボックス式にとらわれていた。会社は従業員、代理店、顧客等による表層的な自信に安易に頼ってはならない。会社は、公務員等に金銭が渡る可能性があるか適切に評価するため、支払いの周辺状況をしっかり確認する必要がある。」と評している。

 (4) リスクの指摘が見過ごされたケース(Och-Ziff Capital Management Group LLP)

 2016年9月、Och-Ziff Capital Management Group LLP(以下「Och-Ziff」という。)は、コンゴ民主共和国やリビアを含むアフリカ諸国において贈賄に関与したとして、DOJとの間で罰金約2億1300万ドルを支払うこと等を合意した。
 Och-Ziffにおいては、第三者に対するDDを行うことがルールとなっており、2008年2月ころ、Och-Ziffの従業員は、コンゴ民主共和国で現地パートナーと共同出資してファンドを組成するに当たり、調査会社に当該現地パートナーについて背景調査を依頼した。そうしたところ、調査会社は、当該現地パートナーはコンゴ民主共和国のある公務員と親しく、当該公務員に影響力を行使しているとの噂がある等と記載したレポートを作成した。かかるレポートを見たOch-Ziffの従業員の中には、当該現地パートナーとのビジネスに懸念を示す者もおり、シニアマネジメントは当該現地パートナーとのビジネスを行うことは推奨しないとの見解を示した。また、かかるレポートは、外部の弁護士にも共有され、当該弁護士は、当該現地パートナーとのビジネスはリスクは高いものの、当該現地パートナーに裁量を与えないのであれば贈賄の問題は起こらないであろうとの見解を示した。その後、Och-Ziffは、当該現地パートナーと複数の取引を行い、ファンドを組成するなどしたが、その過程で当該現地パートナーが公務員等に金銭を渡していることや公務員等に影響力を行使していることを認識するに至った。
 2008年11月ころ、組成したファンドの監査を行うことになり、ファンドの従業員が監査を行った結果、当該現地パートナーは公務員等とのつながりがあり、この問題は最高の注意を払って調査すべきであって、当該ファンドのコンプライアンス上の問題として認識されるべきである旨を記載した監査レポートのドラフトが作成された。これを読んだOch-Ziffの従業員は、公務員等とのつながりがあるとの指摘を削除することを要求し、結局監査レポートには公務員等への支払いを示す内容は記載されなかった。

 (5) 正しいリスク評価が行われなかったケース(Rolls Royce PLC)

 2017年1月、Rolls Royce PLC(以下「RR」という。)は、複数の国でエージェントを通じるなどして贈賄を行っていたとして、英国重大不正捜査局(Serious Fraud Office)との間で罰金や利益の剥奪のため約5億ポンドを支払うこと等を合意した。
 本件において、RRは、2009年から2013年にかけて、ナイジェリア企業を通じてナイジェリアの公務員等に対し贈賄を行ったとされる。RRは、2011年3月に、プロジェクトを行っていたナイジェリアの州の公務員が横領をしたという報道があったことから、リスクを感じ、調査会社を起用して、同年4月にナイジェリア企業に対してDDを実施した。調査会社のレポートでは、当該ナイジェリア企業が公務員との関係を利用していること、当該州のプロジェクトに関し贈賄が指摘されていること、当該ナイジェリア企業の関係者に政治的なコネクションがある者がおりその役割に懸念があることが報告された。そこで、RRは、当該ナイジェリア企業と面談を行い、反贈賄に関するコンプライアンス体制について議論を行った。翌5月には、別の調査会社によるレポートが作成され、当該レポートでは、疑念もあるがナイジェリアの他の企業に比べれば許容できる程度であり、取引相手として適切である旨の評価がなされていた。この間、RRの従業員からは、当該ナイジェリア企業の関係者が公務員等とつながりがある等のリスクの指摘があった。その後、2012年1月にRRのHigher Risk Committeeにおいて、上記2つのレポートと上記面談の結果を元に検討がなされた。しかし、RRの従業員からのリスクの指摘等は共有されず、また、当該ナイジェリア企業を担当していた責任者が当該Committeeを取り仕切っており独立性を欠くなど、検討は不十分なものであった。かかる検討の後、当該ナイジェリア企業との取引は承認された。

 (6) 検討

 上記(1)や(2)の事例は、そもそもリスクを把握するために必要な調査がなされていなかったケースといえる。
 これに対し、(3)の事例は、一応信用調査会社からレポートを取得しており、場合によっては、これにより反贈賄DDとして十分であると評価できる場合もあると思われる。しかし、ロシアというリスクがそれなりにある国で、契約の相手方の情報がほとんど何も分からないという状況における反贈賄DDとしては不十分であると判断されたものと思われる。SEC関係者のコメントにもあるように、単に決められたDDのステップを形式的に踏めばよいというのではなく、リスクに応じた調査が要求される。
 (4)の事例では調査会社からレポートを取得した上に弁護士にも相談しており、(5)の事例では2社からレポートを取得した上に対象会社のインタビューも実施している。これらの調査は、普通であれば、十分と評価しうるものである。しかし、いずれの事案においても、そのような調査の結果が正しいリスク評価に活かされなかった。このように、調査方法だけでなく、リスクの伝達やその検証・評価のプロセスも反贈賄DDにとって重要であるといえる。

 5. 最後に

 反贈賄DDは、単に形だけ実施すればよいというものではない。贈賄リスクの評価は、定型的に行うことが難しく、事案ごとに個別に効果的な調査方法等を検討する必要がある。効果的な反贈賄DDを行うためには、反贈賄DDが一体何のために実施され、なぜ必要なのかを正しく理解した上で、その

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山田 将之(やまだ・まさゆき)

 2001年早稲田大学法学部卒業。司法修習(58期)を経て、2005年弁護士登録。2012年米国ノースウェスタン大学ロースクール卒業(LL.M.)、2013年ニューヨーク州弁護士登録。2012年~2013年Pillsbury Winthrop Shaw Pittman法律事務所勤務。企業不祥事が発生した際の社内調査・当局対応を始めとする危機管理案件、不祥事の未然防止のためのコンプライアンス体制整備案件等に従事。
 主な著書に、『ここがポイント 事業者の内部通報トラブル』(法律情報出版、2016年) 、『危機管理法大全』(商事法務 、2016年)、「実務家のための海外贈賄リスクマネジメント」リスクマネジメントTODAY 92号(2015年)など。

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