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西村あさひのリーガル・アウトルック

デンソー事件最高裁判決で海外子会社の税実務に影響

錦織 康高(にしこり・やすたか)

デンソー事件最高裁判決とその影響

 

西村あさひ法律事務所
弁護士・NY州弁護士
錦織 康高

 1 本判決の概要

拡大錦織 康高(にしこり・やすたか)
 1992年、東京大学法学部第一類卒業。2001年、ハーバード大学ロースクール卒業(LL.M.)。2001~2002年、ニューヨークのサリヴァン・アンド・クロムウェル法律事務所勤務。2010~2013年、東京大学大学院法学政治学研究科 客員准教授。2013年、経済産業省「タックスヘイブン対策税制及び無形資産に関する研究会」委員。2014年から慶應義塾大学法科大学院 非常勤講師。
 さる10月24日、最高裁第三小法廷は、タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)に基づき行われた株式会社デンソー(以下「デンソー」)に対する課税処分(同社のシンガポール子会社をタックスヘイブン対策税制の対象として合算すべきものとして行ったもの)を取消す旨の判決(以下「本判決」)を下した。

 平成22年度税制改正前においては、軽課税国に置かれた本邦法人の子会社が、「株式の保有」をその主たる事業とする場合、タックスヘイブン対策税制の適用除外のための要件の一つである「事業基準」を充たさないものとされ、適用除外が一切認められない建付けとなっていたが、本判決は同税制改正前の事案に関するものである。平成22年度税制改正によって、いわゆる地域統括会社に関してその例外が明示的に認められるに至ったが、デンソーに対する課税処分は、上記のとおり、当該税制改正前の課税年度に関するものであり、また、一審と控訴審で180度異なった判断がなされていたことから、その帰趨が注目されていた。

 この点、本判決の原審にあたる名古屋高裁(名古屋高裁平成28年2月10日判決)においては、平成22年度税制改正の趣旨/背景が強調され、地域統括業務は株式の保有に係る事業に含まれるとの判断がなされ、デンソーの主張を認めた名古屋地裁の判決が覆された。より具体的には、名古屋高裁は、「地域統括業務は、株式保有事業に含まれる一つの業務にすぎず、株式保有業と別個独立の業務とはいえない」とし、かかる解釈は平成22年度税制改正による「法改正によっても裏付けられる」と判示していた。本判決は、かかる判断を否定し、高裁判決を破棄したものである(技術的には、第一審の名古屋地裁では課税処分を取り消す旨の判決がなされていたため、本判決の主文は原審名古屋高裁判決の破棄と控訴の棄却となっている)。なお、高裁判決を破棄するに際し、最高裁は、事業基準に関する判断にあたっては「事業活動によって得られた収入金額又は所得金額、事業活動に要する使用人の数、事務所、店舗、工場その他の固定施設の状況等を総合的に勘案して判定す」べきとの一般的な要件を示した上で、デンソーのシンガポール子会社について地域統括業務がその主たる事業であり、事業基準を満たすものと結論付けている。

 ところで、「地域統括業務は株式の保有に係る事業に含まれる」という考え方が名古屋高裁独自の考え方であったかというと必ずしもそうではなく、この裁判において国は、デンソーが地域統括に係る業務であると主張する機能(傘下の子会社の経営効率化など典型的な地域統括会社の機能)は、持株会社が本来的に有する機能に含まれるものであって「株式保有業における業務の一つにすぎない」との主張を展開しており、平成22年度税制改正もかかる立場を前提に行われたものだとの主張を行っている。したがって、「地域統括業務は株式の保有に係る事業に含まれる」というのは、この裁判前における課税当局の解釈を踏襲したものと考えるのが妥当であろう。

 なお、なぜタックスヘイブン対策税制が適用される可能性があるにもかかわらず平成22年度税制改正前から地域統括会社をシンガポールに置く企業があったか疑問を持つ向きもあろう。勿論、実際のところは不明であるが、シンガポールの法人実効税率は従前は軽課税国の範疇に入るほど低くはなかったものの、近時における累次の法人実効税率の引き下げの結果、軽課税国に含まれるに至ったという事情が影響していることは確かであろう。

 2 本判決の意義・影響力

 上記のとおり、平成22年度税制改正によって地域統括会社についてタックスヘイブン対策税制の適用除外の余地が認められるに至っており、本判決は一見過去の制度に関するものとも考えられなくはない。タックスヘイブン対策税制に関する平成22年度税制改正の位置づけを示したといった歴史的意義はあるにしても、実務的影響は乏しいのではないかとの疑問である。しかしながら、詳細に検討した場合、本判決は少なくとも以下の2点において、現在ないし将来においても重要な意義を有する判決であると考えるべきものと思われる。

 (1) 平成22年度税制改正以前の実務について

 まず考えられるのは、平成22年度税制改正前にデンソー同様に地域統括会社の実態を備えた子会社をシンガポールなどに有していた企業である。平成22年度税制改正までは、地域統括機能を有することに依拠する形では、(中間)持株会社についてタックスヘイブン対策税制の適用除外は認められないという考え方にしたがって自ら合算課税を甘受してきた企業があっても特段不思議ではない。もし、当該企業が最高裁が本判決のような判断を下すことを予め知っていたとすれば、当時の実務的運用ないし理解が地域統括機能を理由として持株会社についてタックスヘイブン対策税制の適用除外を受けることは出来ないというものであったとしても、敢えて合算課税を甘受する選択に踏み切るとは考えられない。こうした企業にとっては、「最高裁がそのような判断を下した以上は合算課税による納税額の増分について取り返すことができて然るべき」と考えるのではないだろうか。

 かかる発想はもっともであるとしても、相当に過去の事象であることもまた事実であり、また自ら申告納税をしていることも事実であるから、租税法上「取り返す」手段が存在しなければそうした発想を実現することはできない。この点、改めて租税法の規定を見てみると、「申告納税」の誤りを理由に納税者がその是正を求める手続としては更正の請求という制度が存在する。

 この点、更正の請求を定める国税通則法23条は、原則として法定申告期限から5年以内の請求が必要と規定しており、同条2項及びこれを受けた国税通則法施行令による例外的取扱いに該当しなければならない。そこで次に例外的取扱いに関する規定であるが、上記の「最高裁がそうした判断をした以上は合算課税による増額分について取り返すことができて然るべき」という発想にもっとも適合するのは、国税通則法施行令6条1項5号である。具体的には、同号は「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となつた事実に係る国税庁長官が発した通達に示されている法令の解釈その他の国税庁長官の法令の解釈が、更正又は決定に係る審査請求若しくは訴えについての裁決若しくは判決に伴つて変更され、変更後の解釈が国税庁長官により公表されたことにより、当該課税標準等又は税額等が異なることとなる取扱いを受けることとなつたことを知つたこと」[下線筆者]と規定しており、かかる要件を充たす場合、2か月以内に更正の請求を行うことができるものとされている。ところが、地域統括会社については、既に税制改正がなされている。とすれば、この規定にいう「変更後の解釈が国税庁長官により公表され」ることは考え難い。この条文の文理解釈そのものから更正の請求の余地の導き出すのは難しいと言わざるを得ない。しかしながら、この結論が意味するところは、「最高裁判決で正しい解釈論が示され、しかもその判決自体は公表されているのに、その正しい解釈について重ねて課税当局が公表しない限り更正の請求が認められない(=納税者に不利益な結果が生じる)」というものである。これでは課税当局のいわばお手盛りが許されることになってしまい不当である。このように考えると、上記の施行令の規定について限定解釈を行う等の方法によって更正の請求の余地を認めるべきではないかという議論も十分に成り立ち得るように思われる。この他、本判決は、施行令の規定にいう「法令の解釈」を変更したものではなく、あくまで事実認定のレベルで結論を下したに過ぎないという議論もあり得ようが、この問題は非常に興味深い論点であることは間違いない。かかる論点は、可能な限り裁判所の判断によって最終的な決着を付けるのが法治国家の本来の姿であろう。

 (2) 平成22年度税制改正以後について

 本判決は、地域統括業務が「株式の保有に係る事業に包含されその一部を構成すると解するのは相当でない」として、地域統括業務が株式保有業から独立別個の事業となると認めた上で、平成22年度税制改正による地域統括会社に関する改正については、「これによって事業基準を満たすこととなる統括会社は、もともと株式等の保有を主たる事業とするものであって(中略)、それ以外の統括会社はその対象となるものではないから、これらの改正経過を根拠に上記の統括業務が株式の保有に係る事業に包含される関係にあるものということはでき」ないと判示している。

 かかる判示は、平成22年度税制改正前であってもデンソーのように地域統括業務が本邦子会社の主たる事業である場合には事業基準は満たされているという立場を採るもので、平成22年度税制改正はかかる前提を変更するものではないというのであるから、平成22年度税制改正によって、地域統括会社に関する明文の規定が置かれたからといって、上記の判示は特段の影響を受けるものではないと考えられる。そうであるとすれば、平成22年度税制改正によって設けられた統括会社に関する一部の要件、特にその形式的な要件(例えば、地域統括会社とされるためには、単に本邦法人の子会社であるだけではなく、その直接または間接の100%子会社でなければなならないとされている)を充たさない持株会社であっても、「地域統括業務が主たる事業である」という場合には、事業基準を充足し、タックスヘイブン対策税制の適用除外の余地があるという結論に至るものと考えられる(かかる観点からすれば、平成22年度税制改正の当該箇所は、持株会社が事業基準を満たすとされるためのセーフハーバー・ルールを定めたという位置づけになる。)。

 また、平成29年度税制改正によって、これまでその適用除外のための一要件とされてきた事業基準は、その他の適用除外要件同様、タックスヘイブン対策税制の適用のための消極的要件の一つとされ、その位置づけに修正が加えられている。しかしながら、事業基準自体の規定振り自体は実質的に従前と変わりないものとなっている以上、事業基準の充足の有無を判定する上で、統括会社に関する一部の要件を充たさない持株会社であっても、「地域統括業務が主たる事業である」限りにおいては事業基準を満たすはずであるという上記の議論には、特段の影響はないものと考えられる。

 3. 結びにかえて

 本判決に関

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錦織 康高(にしこり・やすたか)

 1992年、東京大学法学部第一類卒業。2001年、ハーバード大学ロースクール卒業(LL.M.)。2001~2002年、ニューヨークのサリヴァン・アンド・クロムウェル法律事務所勤務。2010~2013年、東京大学大学院法学政治学研究科 客員准教授。2013年、経済産業省「タックスヘイブン対策税制及び無形資産に関する研究会」委員。2014年から慶應義塾大学法科大学院 非常勤講師。
 ファイナンス及びタックスを専門分野とし、2010年に確定したファイナイト再保険訴訟、同年の第一生命保険株式会社のGlobal IPO等を担当した。
 『ファイナンス法大全』(共著、商事法務)、『Comparative Income Taxation』(共著、KULVBR LAW INTERNATIONAL)、「株式発行価額の検証」(共著、有斐閣)などの著作がある。

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