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西村あさひのリーガル・アウトルック

金融庁、人工知能による市場監視などRegTechを検討

有吉 尚哉(ありよし・なおや)

平成29事務年度金融行政方針のポイント

西村あさひ法律事務所
弁護士 有吉 尚哉

 ■ はじめに

拡大有吉 尚哉(ありよし・なおや)
 2001年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年~2011年金融庁総務企画局企業開示課出向。現在、西村あさひ法律事務所弁護士。金融法委員会委員。資産流動化取引その他の金融取引、信託取引、金融商品取引業その他の金融関連規制への対応等を担当。
 金融庁は、平成29年11月10日に、「平成29事務年度金融行政方針」(以下「平成29年金融行政方針」)を策定し、公表した。金融行政方針は、各事務年度において金融行政が何を目指すかを明確にするとともに、その実現に向けていかなる方針で金融庁が金融行政を行っていくか示すものであり、平成29年金融行政方針は、平成29事務年度(平成29年7月~平成30年6月)における金融行政の方針となる。平成29年10月25日には、金融庁は、前事務年度の金融行政方針の進捗状況や実績等の評価を「平成28事務年度金融レポート」として公表しており、平成29年金融行政方針は、この金融レポートの内容も踏まえて取りまとめられたものである。

 以下では、平成29年金融行政方針の全体像を概観し、そのポイントを解説する。

 ■ 金融行政運営の基本方針

 平成29年金融行政方針では、冒頭、金融庁における基本方針として、(1)金融システムの安定/金融仲介機能の発揮、(2)利用者保護/利用者利便、(3)市場の公正性・透明性/市場の活力のそれぞれを両立させることを通じ、企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大を目指すことを述べている。これらの基本方針は、前事務年度の金融行政方針で掲げられていた内容を基本的に踏襲したものとなっている。

 ■ 金融当局・金融行政運営の改革

 平成29年金融行政方針では、基本方針に続いて、金融行政の改革方針について言及されている。

 この中では、まず、「金融庁の改革」として、(ア)組織文化(カルチャー)の変革、(イ)ガバナンスの改革、(ウ)組織の見直しの3項目が示されている。このうち、ガバナンスの改革については、政策評価有識者会議の運営を改め、政策評価だけでなく金融行政として新たに取り組むべき重要な課題に関する議論を定期的に実施することや、各種有識者会議等を更に活用して外部有識者の意見が継続的に行政に反映される枠組みを確保することなどが述べられている。また、組織の見直しとして、平成30年夏を目途に、現在の総務企画局、検査局、監督局の体制から、総合政策局、企画市場局、監督局の体制に改め、各部局の業務のあり方についても見直しを進めていくことが述べられている。

 次に「検査・監督のあり方の見直し」として、平成29年3月に公表された金融モニタリング有識者会議報告書を踏まえて、金融行政の視野を「形式・過去・部分」から「実質・未来・全体」へと広げて行くことが述べられており、そのためのアプローチとして(ア)ルールとプリンシプルのバランスに配慮すること、(イ)金融機関の行動や取組みの「見える化」を進めていくこと、(ウ)フォワードルッキングな視点での「動的な監督」に取り組んでいくことなどがあげられている。また、今後の取組みとして、金融機関の検査・監督に共通する考え方と進め方を整理した「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」を策定し、パブリックコメントに付すことや、プルーデンス政策、コンプライアンスリスク管理、金融仲介機能、ITガバナンス等の個別の分野について、ディスカッション・ペーパーの形で当局と金融機関との間の対話の材料を提供していくことが示されている。「金融検査・監督の考え方と進め方(検査・監督基本方針)」については、平成29年12月15日に案文が公表され、パブリック・コメントの手続が行われている。

 加えて、許認可等の審査プロセスの効率化・迅速化・透明化を一層進めていくこと、金融庁における中長期的なIT戦略を検討し、より効率的かつ効果的なモニタリングを推進すること、金融庁において各部署が収集している各種情報(インテリジェンス情報)を統合的に管理することなども言及されている。

 ■ 金融上の課題の包括的検討

 平成29年金融行政方針では、個別の課題についての具体的な施策に先立って、金融上の課題の包括的検討の考え方がまとめられている。その中では、国全体として最適な資金フロー(資金供給者と資金需要者のニーズの最適なマッチング)が実現しているか、また、どうすればより良い均衡が実現するかといった観点から、課題の分析と政策手段の提示を行っていく必要があることが述べられている。加えて、平成29事務年度においては、個別課題として、機能別・横断的な法体系への見直し、退職世代等に対する金融業の貢献、企業年金等のアセットオーナーの専門性向上に向けた支援、公的金融と民間金融の望ましい関係のあり方等に関する検討に取り組んでいくことが示されている。

 ■ 国民の安定的な資産形成に資する金融・資本市場の整備

 「国民の安定的な資産形成に資する金融・資本市場の整備」という観点からは、(1)家計の安定的な資産形成の推進と顧客本位の業務運営、(2)ガバナンス改革の更なる推進と機関投資家の役割、(3)企業と投資家をつなぐ適切な情報開示の確保、(4)金融・資本市場の機能向上、インフラの頑健性確保、(5)市場監視機能の強化という項目に分けて具体的な施策を示している。

 (a)家計の安定的な資産形成の推進と顧客本位の業務運営

 家計の安定的な資産形成の推進と顧客本位の業務運営に向けた施策としては、(ア)「顧客本位の業務運営」の確立と定着、(イ)長期・積立・分散投資の推進、(ウ)退職世代等に対する金融サービスのあり方の検討の3項目が掲げられている。

 このうち、「顧客本位の業務運営」の確立と定着に向けては、金融機関の取組みの「見える化」を促進していくことが重要であるとし、(A)民間の第三者的な主体による金融機関の取組みの評価が、客観性・中立性を確保する形で行われていくよう、民間の取組みを促進すること、(B)モニタリングを通じ、金融機関の取組方針が真に顧客本位のものとなっているか確認すること、(C)モニタリングを通じ、金融機関間で比較可能なKPI等の公表による金融機関の取組みの「見える化」を一層進めること(具体的な取組みとして、モニタリングで把握した結果については、対象金融機関にフィードバックするとともに、全体の傾向や取組事例等を取りまとめて公表するとしている)、(D)金融機関が掲げている顧客本位の取組方針について、現行の営業体制等(多くの金融機関は多数の営業担当者を擁し、必ずしも顧客本位ではなく収益を優先して需要を掘り起こすプッシュ型のビジネスモデルとなっているとの指摘があるとしている)を維持しながら実現することが可能かどうか分析・検証することなどが具体的な施策として述べられている。

 また、長期・積立・分散投資の推進に向けた取組みとしては、平成30年1月から開始するつみたてNISAを幅広く普及させるための取組みを行うことや、投資初心者にとって有益な意見・情報を発信している個人ブロガー等との意見交換の場を設けたり、ネットメディアに対して的確に情報発信を行うことなどが述べられている。

 さらに、退職世代等に対する金融サービスのあり方の検討課題として、それぞれの世帯が置かれた状況に適した資産の運用・取崩しを含めた資産の有効活用が計画的に行われることや、フィナンシャル・ジェロントロジー(金融老年学)の進展も踏まえ、よりきめ細やかな高齢投資家の保護について検討する必要があることなどをあげ、金融業の貢献について検討を進めることが述べられている。

 (b)ガバナンス改革の更なる推進と機関投資家の役割

 ガバナンス改革の更なる推進と機関投資家の役割に関する施策としては、「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」において、平成26年のスチュワードシップ・コード策定(平成29年改訂)、平成27年のコーポレートガバナンス・コード策定などのこれまでの取組みによりガバナンス改革がどこまで進捗しているか検証することとされている。その上で、機関投資家と企業の対話において重点的に議論することが期待される事項等についてのガイダンスを策定することや、母体企業が自社の企業年金の専門性を高めるための人事面・運営面での取組みを強化するための方策を検討することなどが述べられている。これらの事項の検討のため、平成29年10月18日よりフォローアップ会議での審議が再開されている。

 (c)企業と投資家をつなぐ適切な情報開示の確保

 企業と投資家をつなぐ適切な情報開示の確保に関する施策については、開示、会計監査、会計基準の3項目に分けて取組みがまとめられている。

 このうちの開示に関しては、企業情報の開示・提供のあり方について、金融審議会において総合的に検討する旨が述べられているが、具体的な制度改正などの方針は示されていない。平成29年12月11日から「ディスクロージャーワーキング・グループ」での審議が始まっており、企業情報の開示・提供のあり方の検討が進められている。

 会計監査に関する取組みとしては、(A)監査報告書の透明化・会計監査に関する情報提供の充実のための検討、(B)監査法人のローテーション制度を含めた監査人の独立性確保等の方策・監査人の交代・引継ぎの手続の検討、(C)監査法人のガバナンス・コードを踏まえて大手監査法人等が構築・強化した態勢の実効性の検証、(D)ITを活用した監査手法の導入状況の把握・グループ監査の状況の検証、(E)監査法人に対する公認会計士・監査審査会のモニタリングと日本公認会計士協会の品質管理レビューの効果的な連携、(F)監査監督機関国際フォーラム(IFIAR)の議論への戦略的な関与と国内への還元、(G)公認会計士受験者の裾野拡大のための取組みの推進といった事項があげられている。

 また、会計基準については、国際会計基準(IFRS)の任意適用企業の拡大促進、IFRSに関する国際的な意見発信の強化、国際的な会計人材の育成に向けた取組みを推進することなどが述べられている。

 (d)金融・資本市場の機能向上、インフラの頑健性確保

 金融・資本市場の機能向上、インフラの頑健性確保に関する施策としては、(A)総合取引所の実現に向けた取組み、(B)決済期間の短縮化(国債の決済については、現行の約定日から2日後(T+2)を平成30年5月からT+1とすること。株式等については、現行のT+3を平成31年4月又は5月からT+2とすること)について市場関係者の取組みを促すこと、(C)決済・清算制度について、店頭FX市場を含め、必要な対応を行うことなどがあげられている。

 (e)市場監視機能の強化

 市場監視機能の強化に向けた具体的な施策としては、(ア)内外環境を踏まえた情報力の強化、(イ)迅速かつ効果的・効率的な検査・調査の実施、(ウ)深度ある分析の実施と市場規律強化に向けた取組み、(エ)ITの活用(RegTech)及び人材の育成、(オ)国内外の自主規制機関等との連携、(カ)高速取引の実施把握等の6項目が掲げられている。

 このうち、内外環境を踏まえた情報力の強化としては、特に日本を代表するグローバル企業の開示規制違反や海外子会社の管理体制の不備等に起因した開示規制違反の発覚を踏まえ、経営環境の変化等に伴う開示規制違反の潜在的リスクに着目した情報収集・分析等を強化するとされていることが注目される。また、金融イノベーションを阻害しないよう留意するとしつつ、新しい商品・取引や監視の目の行き届きにくい商品・取引に投資家保護上問題がある場合には、的確に対応し市場監視の空白を作らない取組みを行うことが表明されている。

 さらに、金融行政方針の中では初めて「規制当局・法執行機関に関する情報技術革新」の意味でRegTechの用語を使い、AIによるデータ分析などITを活用した新しい市場監視システムの導入に向け検討を進めることが述べられている。

 ■ 金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保

 「金融仲介機能の十分な発揮と健全な金融システムの確保」という観点からは、まず、前事務年度の金融レポートで、金融機関の持続可能なビジネスモデルの構築と、世界的な経済・市場動向に不確実性がある中で適切なリスク管理が重要である点を指摘したことが言及されている。

 そして、低金利環境の継続で金融機関の経営環境は厳しさを増している一方で、低金利環境が反転し、金利が上昇する場合には、有価証券運用のリスクの顕在化、レバレッジが拡大している民間非金融部門の債務支払能力の悪化、不動産・ハイイールド債等のリスク性資産の価格変動などのリスクがあり、我が国金融システムは、低金利環境の継続と金利上昇という両方向のリスクに直面した課題を抱えていることを指摘している。また、ITの進化やイノベーションの進展により、顧客情報に根ざした新しい金融サービスの提供を巡る競争が激化する可能性があるなど大きな環境変化に直面しているとしている。金融機関においては、このような構造的な変化や環境変化に対して、遅れずに適切な対応をとることができる、質の高いガバナンスの構築が重要と指摘する。

 同時に、世界の金融システムは様々な新たな課題に直面しており、前回危機の再発防止にとどまらないグローバルな取組みの必要性や国際的な当局間のネットワーク・協力を強化することの重要性を指摘している。

 その上で、金融機関の業態ごとに、次のような施策をまとめている。

 (a)預金取扱金融機関-地域金融機関

 預金取扱金融機関については、地域金融機関と3メガバンクグループに分けて施策がまとめられているが、地域金融機関の項目の方が先に置かれており、かつ、分量も地域金融機関については6頁弱にわたって詳細に記述されている一方で、3メガバンクグループに関する記述は1頁弱に留まっており、形式面だけでも金融庁として地域金融機関に関する取組みに重点を置いていることが読み取れる。

 まず、地域金融機関に関しては、(ア)持続可能なビジネスモデルの構築、(イ)経済・市場環境の変化への対応、(ウ)金融ビジネスの環境変化に対応したガバナンスの発揮という3つの観点から取組みが整理されている。

 このうち、持続可能なビジネスモデルの構築については、現状認識として、顧客向けサービス業務(貸出・手数料ビジネス)から得られる利益がマイナスとなっている金融機関が増加することが予測される中、地域金融機関が付加価値の高いサービスを提供することにより安定した顧客基盤と収益を確保するという取組み(「共通価値の創造」)が、より一層重要性を増していることを指摘している。その上で、地域企業の真の経営課題を的確に把握し、その解決に資する方策の策定・実行に必要なアドバイスや資金使途に応じた適切なファイナンスの提供、必要に応じた経営人材等の確保といった支援を組織的・継続的に実践することが持続可能なビジネスモデルの構築につながる地域金融機関は数多いという見方を提示している。他方で、将来起こり得る課題を認識できていない、あるいは、課題を認識できていながらも具体的な取組みを見い出せていない経営者が存在するなど、ガバナンスの発揮に課題があることを指摘している。このような課題認識の下、地域金融機関の課題解決に向けた自主的な対応の促進、金融仲介機能を客観的に評価できる指標群の設定とそれを活用した深度ある対話・「見える化」の促進等について重点施策として取り組むとしている。具体的な項目としては、(A)持続可能なビジネスモデルの構築に向けた対応(深刻な問題を抱えている地域金融機関には、検査により経営課題を特定した上で、経営陣や社外取締役と深度ある対話を行う。金融機能強化法に基づく資本参加を受けた金融機関には、持続可能なビジネスモデルの構築に向けた取組みや公的資金の返済原資の蓄積の進捗状況等に応じたメリハリのある対話を通じ、地域経済の活性化に資する組織的・継続的な取組みを促す。協同組織金融機関については、中央機関に対して対話を通じてリスク管理や経営分析に関する指導、収益向上や財務基盤強化の支援などの役割を積極的に発揮するよう促す)、(B)金融仲介機能を客観的に評価できる共通の指標群を活用した深度ある対話と「見える化」の促進(「金融仲介機能のベンチマーク」を発展させ、統一された定義に基づく比較可能な共通の指標群(KPI)を策定し、当該KPIも活用しつつ、地域金融機関と深度ある対話を行う。KPIに基づき収集された結果を含めた開示のあり方についても検討を進める。事業性評価に基づく融資や本業支援等の組織的・継続的な取組みについて、優良な取組みを実践している金融機関の表彰・公表を行う)、(C)金融仲介の改善に取り組む地域金融機関の支援(地域経済活性化支援機構(REVIC)・日本人材機構において人材・ノウハウ支援に重点的に取り組むこととし、事業性評価に基づく融資や本業支援に関する専門人材やノウハウが不十分な地域金融機関における両機構の活用を促進する。業務範囲に係る規制緩和を含め環境整備について検討する)、(D)地域企業の立場から見たファイナンス(公的金融と民間金融の競合等の実態を調査し、望ましい関係のあり方について議論を行う。平成29年改正信用保険法等の趣旨や「経営者保証に関するガイドライン」の周知・活用状況等を踏まえ、金融機関との対話を行う。地域活性化ファンドを通じて地域企業に資本性資金を供給する取組み等をサポートする。シンポジウム等を活用し、地域の資本市場・ベンチャー投資を巡る現状・課題について意見交換を行い、成長マネー・ノウハウの供給に係る取組事例の紹介・共有等を図る)、(E)将来にわたる地域金融の健全性と金融仲介機能の発揮(同一地域内における金融機関の経営統合について寡占・独占のリスクの指摘があることも踏まえて、金融行政上の課題について競争のあり方を含め、検討する。金融機関の健全性に関する早期是正のメカニズム、金融機能の維持・退出に関する現行の制度・監督対応の改善について検討する)という5項目が挙げられている。これらの項目には、金融機関の実務に影響を与える重要な施策が多く含まれているが、銀行の業務範囲に係る規制緩和の検討、公的金融と民間金融の関係に関する議論を行うこと、競争のあり方を含めた金融行政上の課題の検討などの取組みは、地域金融機関に限らず預金取扱金融機関一般の経営に大きく関わるものと思われる。

 次に、経済・市場環境の変化への対応の観点については、(A)有価証券運用による収益への依存を一段と高めており、金利リスク量が増加している地域金融機関が多いことを踏まえ、経営トップの主体的な関与によるリスクガバナンスを含めた運用態勢の強化、含み損も意識したリスクのモニタリングとコントロール、市場急変時を想定した対応策の事前検討等について、金融機関と改善に向けた対話を行うこと、(B)アパート・マンションや不動産業向け融資が増加傾向にあることから、不動産市況や地域金融機関の融資動向を注視しながらモニタリングを継続すること、(C)外貨建資産の増加に伴い外貨資金調達が増加している金融機関に対して、外貨流動性リスク管理の高度化を促すことを、取組みとして掲げている。前事務年度の金融行政方針においても、国内で活動する金融機関が外貨建資産運用、長期債への投資、不動産向け与信等を増加させる動きが見られることへの警戒感が示されていたが、平成29年金融行政方針では、地域金融機関による有価証券運用、アパート・マンションや不動産業向け融資、外貨建資産運用について、より具体的にリスク管理を促す取組方針が述べられている点が注目される。

 さらに、金融ビジネスの環境変化に対応したガバナンスの発揮の観点については、希望的な観測に頼った経営を行っている金融機関や、現在のビジネスモデルの持続可能性に大きな懸念があるにもかかわらず、必要な経営改革を行わず、社外取締役・株主等外部からの牽制機能も働いていない金融機関が存在するという現状認識が示された上で、ガバナンスの質の向上(優秀な経営者を選ぶ枠組みの策定、相談役・顧問等による不適切な影響力の排除等)を図っていくことの重要性を指摘し、社外取締役をはじめとする様々なステークホルダーによるガバナンスが機動的かつ効果的に発揮されているかといった観点から、実態調査・深度ある対話を行うとしている。

 (b)預金取扱金融機関-3メガバンクグループ

 3メガバンクグループに関しては、(ア)世界経済・市場環境の変化への対応と(イ)金融ビジネスの環境変化に対応したガバナンスの発揮という2つの観点から取組みが整理されている。地域金融機関の項目と比べると、「持続可能なビジネスモデルの構築」が省かれている点と「“世界”経済・市場環境の変化への対応」とグローバルの視点が含まれている点が異なっている。

 このうちの世界経済・市場環境の変化への対応の観点については、(A)環境変化に対する機動的なリスク管理の実施を促すこと、(B)より安定的な外貨調達の実現・外貨流動性管理の高度化を促すこと、(C)ハイブリッドファイナンス・不動産業向け貸出等について、規律ある審査・期中管理を促すこと、(D)政策保有株式の削減等、株価変動リスクの適切なコントロールに向けて迅速な対応を促すことが、取組みとして示されている。前事務年度の金融行政方針においては、グローバルに活動する金融機関が海外向け与信を増加させる動きが見られる点が言及されていたが、平成29年金融行政方針では、3メガバンクグループに対して、外貨調達・外貨流動性管理の観点に加えて、ハイブリッドファイナンス、不動産業向け貸出、政策保有株式等についてのリスク管理を促すことが取組みとして掲げられている。

 金融ビジネスの環境変化に対応したガバナンスの発揮の観点については、(A)資本効率を重視した業務の選択と集中を適切に実行できるガバナンスの構築を促すこと、(B)グループ連携ビジネス(銀行、信託、証券等)の拡大により、利益相反管理・優越的地位の濫用防止の重要性が増していることを踏まえた、顧客本位の業務運営という観点からの態勢整備を促すこと、(C)ITの進化やイノベーションを見据えた大胆かつタイムリーな対応に向けた対話を行うこと、(D)情報収集・分析能力の強化や組織改革と人材確保について対話を行うことを、取組みとして掲げている。

 (c)保険会社

 保険会社については、長寿化の進展やITの進化等の環境変化に対応した商品・サービスの提供、地方拠点における採算見通し等を踏まえた販売チャネル戦略などの課題をテーマに、持続可能なビジネスモデルの構築・事業戦略について対話を行うことや、顧客利便とともに商品提供に伴うリスクとそれに対する資本の状況も踏まえた経営戦略についての対話を行う旨が述べられている。他方、金融庁としても、保険会社の新たな商品・サービスの開発に関しては、前向きに対応することを表明している。

 また、生命保険会社の運用会社としての役割に関して、リスク管理と一体となった資産運用の高度化等の取組みに関する対話を行うことや、「スチュワードシップ責任」を適切に果たすよう促す旨が述べられている。

 このほか、①ガバナンスの実効性に懸念がある保険会社に対して深度ある対話を行うこと、②大手保険会社等の経営戦略における海外事業戦略の位置づけ、海外事業に従事する人材の確保・育成など、買収後の海外拠点の管理等の確認をすること、③代理店を通じた販売活動等が適切になされるよう、保険会社、代理店の取組みに関し対話を行っていくことなどが取組みとして示されている。

 (d)金融商品取引業者等

 金融商品取引業者等については、前事務年度の金融行政方針と同様、(A)証券会社、(B)外国為替証拠金取引業者(FX業者)、(C)適格機関投資家等特例業者、(D)第二種金融商品取引業者及び投資助言・代理業者、及び(E)信用格付業者の5つの業態に分けて、施策が整理されている。

 このうち証券会社については、安定的な収益・財務基盤の構築やIT化に伴う顧客ニーズの変化等、経営環境の変化への適切な対応が課題であると指摘している。その上で、大手証券会社に対しては、経営トップ自らの強い関与による顧客の立場に立った業務運営を拡充・定着させていくために必要な取組みや、営業現場における実践等に重点を置いたモニタリングを継続するとし、それ以外の証券会社については、収益構造等の分析を深め、将来の経営方針・経営状況の見通しや投資者保護のための態勢整備の取組みについて対話を実施するとしている。特に地域証券会社の中に、「株主コミュニティ制度」を活用し、地域経済の発展に寄与している事例が見られるとし、同制度の周知と地域企業にリスクマネーを供給する取組みを促すことが明記されている。

 (e)その他金融機関

 外国金融機関については、日本拠点のビジネス動向、リスク管理の状況についてタイムリーに情報を収集・分析するとともに、日本拠点の業務の実態が本国において適切に把握・認識されているか、クロスボーダーの業務展開に見合った法令等遵守態勢等が整備・強化されているか確認すること等が、取組方針として示されている。

 また、ゆうちょ銀行・かんぽ生命保険については、地域金融機関と連携した地域活性化ファンドへの共同出資や郵便局ネットワークを活用した投資信託の販売等の取組みをフォローアップすること、資産規模のコントロールや、資産運用の多様化及びそれに応じたリスク管理の高度化の取組みの進捗状況を確認することが、言及されている。

 (f)国際的な金融規制に関する対応及び当局間のネットワーク・協力の強化

 国際的な金融規制に関する対応及び当局間のネットワーク・協力の強化としては、(A)国際的な金融規制に関する対応(バーゼルⅢの適切な形での最終化、保険会社の「国際資本基準(ICS)」の議論を進めること、高齢化の進展に伴う課題に関する経験・知見の各国との共有など)、(B)国際的な当局間のネットワーク・協力の強化(英国のEU離脱(ブレグジット)に対して日本の金融機関が円滑に対応できるための英国・欧州当局への働きかけ、アジア諸国を含めた二国間協議・監督カレッジ会合などを通じた監督上のネットワークの強化等)、(C)マネー・ローンダリング/テロ資金供与対応(実効的な態勢整備のための金融機関向けのガイダンスの公表、各金融機関・業態におけるマネー・ローンダリング等のリスクに応じたモニタリングなど)といった取組みが示されている。

 ■ IT技術の進展等への対応

 「IT技術の進展等への対応」という観点からは、(a)「業態別の法体系から機能別・横断的な法体系への見直しの検討」、(b)「フィンテックを我が国の経済・金融の発展につなげていくための方策」、(c)「金融機関のITガバナンス」、(d)「サイバーセキュリティ」、(e)「情報セキュリティとシステムの安定稼働」、(f)「仮想通貨」の6項目に分けて、具体的な施策をまとめている。

 (a)業態別の法体系から機能別・横断的な法体系への見直しの検討

 金融システムを取り巻く環境について、(A)金融機関以外の主体が、従来金融機関が担ってきた機能を分解し、個別の機能に特化して提供する動き(アンバンドリング)や、顧客のニーズに即して複数の金融・非金融サービスを組み合わせて提供する動き(リバンドリング)が広がっていること、(B)ITの活用による支店網の機能・役割の見直しなど技術の進化が、金融機関の経営戦略に大きな影響を与えることが予想されること、(C)通貨のデジタル化や顧客同士が金融サービスを直接やりとりする動きなどを通じて、金融システム、金融サービスや金融機関のあり方に抜本的な変革がもたらされる可能性があることを指摘している。そして、現在の業態別の法体系は、こうした変化に対応できず、業態をまたいだビジネス選択の障害となったり、規制が緩い業態への移動・業態間の隙間の利用等を通じて規制を回避する動きが生じるおそれがあることや、ITを活用した合理化等が円滑に実現できない可能性があることを、課題として指摘している。その上で、金融に関する基本的概念・ルールを横断化するとともに、同一の機能・リスクには同一のルールを適用するとの考え方の下、イノベーションの促進と利用者保護のバランスを取りつつ、法体系を機能別・横断的なものにすることについて、金融審議会において検討に着手すると述べている。

 この点、平成29年金融行政方針では検討のタイムフレームが明確になっていないものの、金融分野の業規制のあり方について抜本的な見直しを示唆するものであり、ある程度、時間をかけて検討が行われるのではないかと予想されるが、これは金融機関や金融関連ビジネスに大きな影響を与え得る制度改正に向けた取組みといえる。この論点については、平成29年11月29日より「金融制度スタディ・グループ」で審議が開始されている。

 (b)フィンテックを我が国の経済・金融の発展につなげていくための方策

 フィンテックを我が国の経済・金融の発展につなげていくための方策として、(A)利用者利便の向上や企業の成長力強化に向けたフィンテックの活用促進(XML電文への移行を起点として、手形・小切手の電子化や税・公金収納の効率化など、決済高度化に係る検討を進め、利用者利便の向上や生産性向上の実現を目指すこと、金融機関による商流情報等を活用した新たな融資サービスや本業支援等につなげ、質の高い金融サービスの提供の実現を目指すこと)、(B)金融イノベーションを促進する環境整備(平成29年改正銀行法等の円滑な施行、オープンAPIの促進に向けた環境整備、FinTechサポートデスクやFinTech実証実験ハブを通じた新しい金融事業・サービスの開始に対する支援の強化、非対面取引に係る本人確認方法の見直しや、銀行代理業制度・店舗制度の課題の検討等、フィンテック時代に対応した制度の点検・見直し)、(C)フィンテックに係る国際的ネットワークの強化が挙げられている。

 本人確認方法の見直し、銀行代理業制度・店舗制度の課題の検討といった制度的な取組みは、実務上、フィンテック関連ビジネスにおいて実際に論点となっている事項の解決につながるものであり、適切に方向性が示されれば、フィンテックの利用を大きく促進することが期待される。

 (c)金融機関のITガバナンス

 金融機関においては、経営戦略をITの戦略と一体的に考えていくことの必要性が増していると指摘し、「ITガバナンス」が適切に機能することが金融機関にとって重要であるとの考え方が示されている。そして、金融業界・非金融業界におけるプラクティスその他のITガバナンスの知見の集積を進め、金融機関との対話を通じて、より良いITガバナンスのあり方について検討を進めていくとしている。

 (d)サイバーセキュリティ

 サイバーセキュリティについては、平成27年7月に公表された「金融分野におけるサイバーセキュリティ強化に向けた取組方針」に沿った取組みを引き続き推進していくことが述べられているが、特に中小金融機関のサイバーセキュリティ対策の底上げを課題として指摘している。その上で、サイバーセキュリティ対策の実態把握や平成29年10月に実施した「金融業界横断的なサイバーセキュリティ演習(Delta Wall Ⅱ)」のフィードバックによるインシデント対応能力の向上の促進に取り組むことが述べられている。また、大規模な金融機関に対しては、より高度な評価手法の活用や情報共有の一層の推進を促すとしている。

 (e)情報セキュリティとシステムの安定稼働

 情報セキュリティ管理については、クラウドサービスをはじめとする新たなITの技術やサービスの登場への的確な対応を踏まえたモニタリングのあり方の点検などの取組みが示されている。

 (f)仮想通貨

 仮想通貨については、イノベーション促進と利用者保護等とのバランスに留意しつつ、仮想通貨市場の動向等を注視するとともに、仮想通貨交換業者の業務運営体制が適切に整備されているか否かモニタリングしていく必要があるとし、仮想通貨交換業者において、①利用者に対する適切な説明・情報提供など、利用者保護を図るための態勢が整備されているか、②適切なリスク把握に基づいたシステムリスク管理態勢が整備されているか、③マネー・ローンダリングなどの不正行為を防止するための実効的な対策を検討・実施しているかにつき、検証することが述べられている。

 また、現在ICO(Initial Coin Offering)が増加していることに触れた上で、その実態を十分に把握し、詐欺的なICOに対して関係省庁と連携して対応していくとともに、業界による自主的な対応の促進や利用者及び事業者に対するICOのリスクに係る注意喚起等を通じて、利用者保護を図っていくものとされている。因みに、ICOに関して業界による自主的な対応の促進を図ることが述べられてはいるが、仮想通貨やICOの分野について制度改正を行う方針は、特に示されていない。

 ■ 顧客の信頼・安心感の確保

 「顧客の信頼・安心感の確保」という観点

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有吉 尚哉(ありよし・なおや)

 2001年東京大学法学部卒業。2002年弁護士登録。2010年~2011年金融庁総務企画局企業開示課出向。現在、西村あさひ法律事務所弁護士。金融法委員会委員。資産流動化取引その他の金融取引、信託取引、金融商品取引業その他の金融関連規制への対応等を担当。

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