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西村あさひのリーガル・アウトルック

有期雇用契約「無期転換ルール」、労働条件は同一か「別段の定め」

阿部 次郎(あべ・じろう)

有期雇用契約の「無期転換ルール」

西村あさひ法律事務所
弁護士 阿部次郎

 1. 総論

拡大阿部 次郎(あべ・じろう)
 2001年、慶應義塾大学法学部卒業。2011年、ロンドン大学キングスカレッジ卒業(LL.M. in Competition Law)。2011~2012年、ロンドンのスローター・アンド・メイ法律事務所で勤務。2018年1月より、西村あさひ法律事務所パートナー。
 近時、「働き方改革」という言葉がメディア等において頻繁に使用されているところであるが、働き方改革は、少子高齢化に伴う生産年齢人口の急激な減少という、日本が直面する問題に対応するための喫緊の課題となっており、既存法令の運用の強化や、新たな法律の制定、制度の創設等、労働者の働き方や企業の人事管理等のあり方に大きな影響を与える改革が数多く実行・計画されている。
 安倍総理大臣は、平成30年の年頭記者会見において、今年の通常国会は、「働き方改革国会」であり、70年に及ぶ労働基準法の歴史における歴史的な大改革に挑戦する旨を述べ、働き方改革実現への強い決意を示しており、働き方改革は今後さらに加速していくことが予想される。
 本稿では、このような働き方改革に関連する制度のうち、平成25年4月に施行され、労働契約期間が施行後5年を経過する本年より実務上の影響が生じる、有期雇用契約のいわゆる「無期転換ルール」について、その制度内容、留意点のほか、無期転換ルールが今後企業の雇用管理に与え得る影響を概観する。

 2. 制度の趣旨及び概要

 無期転換ルールは、本来は一時的な雇用関係を予定している有期雇用契約において、契約が反復継続して更新され、実質的には無期雇用契約となっているような場合における、有期雇用労働者の雇止めの不安をなくし、有期雇用労働者の雇用の安定を図ること等を目的としている。平成24年8月に成立した改正労働契約法(労働契約法第18条)において定められ、平成25年4月1日に施行された、新たな制度である。

 無期転換ルールでは、有期雇用契約の更新により雇用期間が通算で5年を超える労働者が、使用者に対し、現に締結している有期雇用契約の契約期間が満了する日までの間に、期間の定めのない雇用契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなされる。現に締結している有期雇用契約の契約期間が満了する日の翌日から、期間の定めのない雇用契約に転換される。
 なお、通算される雇用期間は、平成25年4月1日以後に開始する有期雇用契約が対象であり、平成25年3月31日以前に開始した有期雇用契約は通算契約期間に含まれない。また、労働者は、「現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間」に使用者に対し無期転換の申込みをし得るものとされていることから、実際の契約期間が5年を経過していなくても無期転換の申込みをすることは可能である。例えば、契約期間が3年の有期雇用契約を更新した場合等は、通算契約期間が6年になるため、1度目の契約更新後の4年目にはすでに無期転換申込権が発生していることになる点に留意を要する。

 また、無期転換ルールには、有期雇用契約が満了して退職後、同一の使用者との間で有期雇用契約を締結していない期間、いわゆる「無契約期間」が一定の長さ以上にわたる場合、それ以前の契約期間は通算対象から除外されるという、いわゆる「クーリング期間」が定められている。
 例えば、労働者AがX社で3年間の有期雇用契約に基づき勤務した後、期間満了をもって一旦退職し、その後一定の無契約期間を経て再度X社と有期雇用契約を締結したようなケースで、退職から再度有期雇用契約を締結するまでの無契約期間が6か月以上ある場合には、労働者Aが従前X社で勤務した3年の雇用契約期間は通算されず、労働者Aが無期転換権を取得するまでの5年の期間は、X社と再度有期雇用契約を締結した時から改めて計算されることとなる。

 このクーリング期間の具体的な内容は以下のとおりである。

  •  無契約期間前の通算契約期間が1年以上の場合
     無契約期間前の通算契約期間が1年以上の場合、無契約期間が6か月以上あるときは、その期間より前の有期雇用契約は通算契約期間に含まれず、他方、無契約期間が6か月未満の場合には、当該無契約期間の前後の有期雇用契約の期間は通算される。
  •  無契約期間前の通算契約期間が1年未満の場合
     無契約期間前の通算契約期間が1年未満の場合には、その期間に応じて無契約期間は下記表のとおり。
無契約期間の前の通算契約期間無契約期間
2か月以下 1か月以上
2か月超-4か月以下 2か月以上
4か月超-6か月以下 3か月以上
6か月超-8か月以下 4か月以上
8か月超-10か月以下 5か月以上
10か月超~ 6か月以上


 3. 無期転換後の労働条件等

 1) 無期転換申込権の放棄や制限

 現在、契約社員やパートタイム労働者といった、有期雇用契約に基づき雇用される労働者は様々な企業において幅広く活用されており、その雇用状況によっては、労働者が無期転換を希望していなかったり、企業として無期雇用契約に基づいて雇用することを予定していなかった労働者も存在するものと思われる。
 もっとも、無期転換を希望しない労働者が、無期転換権発生前に無期転換権を放棄することや、企業が有期雇用労働者との間で、事前に、無期転換権が発生した場合であっても、労働者が無期転換権を行使しないことを合意することは、雇い止めによって雇用を失うことを恐れる労働者に対して、使用者が無期転換申込権の放棄を強要する状況を招きかねず、労働契約法第18条の趣旨を没却するものであり、こうした有期雇用労働者の意思表示は、公序良俗に反し、無効と解されるとされており、認められない(平成24年8月10日基発0810第2号)。
 また、有期雇用労働者の無期転換権行使に関し、例えば、会社の定める一定の基準を満たした者についてのみ無期転換権の行使を認めるといった条件を付すことについても、かかる条件の設定は、労働契約法第18条の要件を加重するものであって、上記通達の趣旨に照らしても認められないと解される。
 これに対し、無期転換の申込みを行うか否かは労働者の自由であることから、無期転換権発生後に、無期転換を希望しない労働者が無期転換権を放棄することは認められるものと解される。もっとも、当然のことながら、労働者によるそのような放棄の意思表示は労働者の自由な意思で任意になされる必要があるところ、誤解や後日の無用な争いを避けるため、無期転換権を放棄する際にはその理由を含め書面で確認をしておくことが望ましいものと思料される。

 2) 無期転換後の労働条件に関する「別段の定め」

 有期雇用契約が無期雇用契約へと転換された際の労働条件に関し、労働契約法第18条第1項は、無期転換後の労働条件は、原則として「現に締結している有期労働契約の内容である労働条件(契約期間を除く。)と同一の労働条件」であるとしている。しかしながら、同項は続けて、「当該労働条件(契約期間を除く。)について別段の定めがある部分を除く。」と規定しており、通達によれば、この「別段の定め」については、労働協約、就業規則、個々の労働契約が該当するとされている(前記平成24年8月10日基発0810第2号)。
 そのため、仮に雇用主が何らの対応もせずに有期雇用契約が無期雇用契約に転換された場合には、契約期間の点を除き、有期雇用契約時の労働条件がそのまま適用されることとなるが、他方、例えば、無期雇用契約に転換された後の無期転換社員に適用される無期転換者用の規則を設けた上で、無期転換社員の労働条件については当該規則による旨の「別段の定め」をした場合には、無期雇用契約転換後の労働条件を変更し、かつ明確化することが可能となる。
 無期転換社員の労働条件に関する規定を設けることは、法律上必須とされているものではないものの、「別段の定め」を設けて無期転換後に労働条件を変更する場合はもちろん、労働条件の変更がない場合であっても、無期転換後の労働条件がどのようになるかについては、明確化の観点から就業規則等において明示しておくことが望ましいものと思われる。
 なお、いわゆる正社員について、就業規則上、「当社と期間の定めのない雇用契約を締結した者」といった定義がなされている場合には、無期転換後の労働者も「期間の定めのない雇用契約を締結した者」にあてはまることから、この定義が「別段の定め」に該当し、無期転換後の労働者の労働条件が正社員と同じものになる可能性がある点に留意を要する。
 また、無期転換後に、事後的に「別段の定め」を設ける等により、無期転換社員の労働条件を変更することは、無期転換時に「別段の定め」なく、従前の有期雇用契約と同一の労働条件で無期転換がなされている以上、その変更後の労働条件が従前の労働条件よりも不利になる場合には、いわゆる労働条件の不利益変更の問題が生じる可能性があるものと思料される。この点、労働条件の不利益変更にあたっては、原則として労働者の同意を要し(労働契約法第9条)、ただし例外として、使用者が変更後の就業規則を労働者に周知し、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況、その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときのみ、労働者の個別同意なくして、当該就業規則に基づき労働条件を変更することが可能となる(労働契約法第10条)。このように、無期転換後の労働条件に関する「別段の定め」を事後的に設けることは、当該労働条件が労働者にとって不利益な場合、労働条件の不利益変更に該当するおそれがあることから、無期転換社員に関する労務管理のあり方等を検討の上、事前に無期転換者の労働条件等に関する取扱いを決め、必要な「別段の定め」を事前に設けておくことが望ましい。

 4. 無期転換社員の活用

 無期転換ルールでは、使用者が無期転換ルールに対応した検討を行うことなく漫然と無期転換の時期を迎えた場合、契約社員等の有期雇用労働者は、従前の契約社員としての労働条件のまま、単に契約期間のみが無期になり、無期雇用の契約社員と正社員が混在することとなるが、これは、日本の企業において従来一般的であった、無期雇用労働者は正社員、有期雇用労働者は契約社員といった人事管理の構造に歪みを生じさせ、ひいては、社員の配置、業務内容、賃金、福利厚生等についてその区分に沿った人事管理を行うという従来型の人事管理制度の変更を迫るものといえる。
 具体的には、企業としては、従来の有期雇用・無期雇用(正社員・契約社員)という比較的単純な区分ではなく、無期転換後の有期雇用社員をどのように活用するか(正社員と同じ処遇とするか、期間の定めのない契

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